有力店が仕掛ける”ネット連動策”とは?

「O2O」や「オムニチャネル」という言葉を耳にする機会が増えた昨今、店舗とネットなど自社が持つ“売り場”を整備して相互に結び付ける動きが進んでいる。例えば、店頭におけるバーチャル試着サービスをフックにしたECへの送客、あるいは通販サイトを経由して店舗で整備された自転車を受け渡す取り組み、さらには紙の書籍と電子版との連動──。企業の今後の成長にとって、店舗とネットをうまく関連させられるかが重要なポイントになるなか、注目小売企業のEC活用術について探った。

事例① アーバンリサーチの場合

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EC連動の仮想試着端末を商業施設などで展開

セレクトショップを運営するアーバンリサーチは、試着から購入までを1台で完結できるEC連動のバーチャルフィッティング端末「ウェアラブルクロージング バイ アーバンリサーチ」を開発した。6月中旬に期間限定で池袋パルコに設置したが、今後は同社の旗艦店や台湾のショールームなどに設置するほか、省スペースでも出店できるメリットを生かし、自動販売機のような“無人店舗”としての展開や端末自体の販売も目指す。

3D技術を用いて仮想試着が楽しめる「ウェアラブルクロージング」は、60型の大画面液晶を搭載し、電源と無線LANの環境があればどこでも設置できる。端末に搭載したカメラが利用者の体形を読み取り、体のラインに合わせてワンピースやスカートなどを“試着”できる。しかも、利用者の動きに合わせて生地の質感や揺れ方まで再現できるのが特徴だ。

端末は同社の通販サイトと連携しているため、気に入った商品があれば手元の液晶画面上で通販サイトのカートに入れ、発行されるQRコードにスマホからアクセスするとそのまま購入できる仕組みだ。また、試着画像は自身のSNSに投稿することもできるほか、外国人もバーチャル試着を楽しめるよう、日本語以外に英語と中国語にも対応している。

アーバンリサーチでは、同端末を6月17~30日の期間限定で池袋パルコ本館地下1階に設置し、利用状況などを検証した。最初の設置場所に池袋パルコを選んだのは、パルコがデジタル技術やO2O施策に理解があることに加えて、情報発信に慣れている若者や外国人が多いことも池袋を選んだ理由だという。

また、端末を設置した場所は池袋駅の地下通路に面しているため人通りが多く、端末のセンサーが誤作動を起こしやすいなど、あえて厳しい環境下に置くことで端末の精度を検証したほか、今後、端末の設置台数を増やしていく計画のため、各スタッフがトラブルに対処する能力を高める必要もあったという。

「ウェアラブルクロージング」は新しい取り組みとしてメディアへの露出が多かったこともあり、設置期間中、アーバンリサーチの想定以上にバーチャル試着の利用者は多く、1日当たり50人以上が体験したようで、男性や外国人の利用も多かったという。

同社では、バーチャル試着後に通販経由で商品が売れた場合でも売り上げは実店舗に計上するため、店舗の売り上げに応じて決まる商業施設の賃料収入は店舗で売れたときと変わらないという。今回の池袋パルコの場合は、同社がテナントとして入居していないため、スペースを利用したという固定賃料のみの契約だったようだ。

端末の販売や広告媒体にも

現在、2台ある同端末の開発費は1台当たり約1000万円で、端末は順次増やしていく計画だ。池袋パルコに設置した端末にはレディース用のアイテムのみ約40型を試着できるようにしたが、今後は品ぞろえを増やす。

8月には、展開する各ブランドのアイテムを集めた複合店「アーバンリサーチストア」の東京スカイツリータウン・ソラマチ店や、台北のショールームにも同端末を設置するほか、イベントへの貸し出しも行う。

現在、台湾では実店舗を構えていないものの、2014年4月に先行して通販サイトを開設し、レディースブランド「KBF」を販売しているため、台湾版サイトとデータ連携することで、バーチャル試着後にそのままネット購入できるようにする。

同社では、「端末を設置する商業施設の中に当社がテナントとして入っているかどうかで使い方も変わってくる」(齊藤悟・事業支援本部販売促進部販売促進課シニアマネージャー)としており、実店舗の中に端末を設置するケースでは、何着かバーチャル試着して本当に気に入った商品だけ実物を試着するといった“プレ試着”のような使い方が定着すれば、実際の試着は本当に購入したい商品ということになり、「購入される確立も上がるのでは」(同)とする。

一方、池袋パルコのように店舗を出していない館では、通販サイトで人気のアイテムだけを厳選して提案したり、大型画面の中に異業種の商品を表示すれば広告媒体にもなるという。実際、そうした問い合わせもあるようだ。

また、アーバンリサーチでは、「ウェアラブルクロージング」そのものを販売することも視野にあり、実店舗を持たないアパレルメーカーや、リアルの場で消費者との接点を作りたい通販企業などの利用も考えられるなど、使い方次第でさまざまな広がりが出てきそうだ。

アーバンリサーチの齊藤悟シニアマネージャーが語る・バーチャル試着端末開発のきっかけ

2年ほど前、駅ナカなどトラフィックチャネルの可能性を探るために、東京メトロ表参道駅構内に5坪くらいの期間限定店を構えました。雑貨類が売れるのではと思っていましたが、実際には洋服や靴などが本当に良く売れました。しかも、多くの消費者が5~10分で判断して買い物をしていました。恐らく、消費者の頭の中には今のトレンドと欲しい商品のカテゴリーがいくつか入っていて、そこにピッタリくる商品を提案できれば、場所など関係なく買ってもらえるということに気づきました。もちろん、そういう消費行動は、販売チャネルがすごく増えていることや、いろいろな商品を事前にチェックできるネットショップの恩恵が少なからずあると思います。

表参道の期間限定店は本当に小さな売り場でしたので、例えば、そのスペースに自動販売機のような機械を作って設置すれば、もっと売れると思いました。それが、今回の端末を開発したきっかけです。数年前からO2Oという言葉が叫ばれていますが、O2Oの“2”の部分にマーケットがあると考えています。お店とネットの中間地点ということで、ネットさながらの買い物の利便性と、トレンド商品の訴求、リアル店舗での試着。それらをミックスしたのが今回の端末です。

技術はどんどん進化していますので、東京オリンピックが開かれる2020年には広告複合型の狭小スペースで使えるバーチャルフィッティングが流行ると見ています。それまでに一定の成功を収めたいですね。

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