消費増税後のEC各社の現状は?

画像は千趣会の通販サイト「ベルメゾンネット」

4月1日に17年ぶりに実施された消費税の増税――。増税前は多くのEC実施企業で「駆け込み」が発生するなどの特需が見られたが増税後は一転、反動を受けて苦戦を強いられている事業者も多いようだ。有力な通販実施企業を中心に消費増税の影響と今後の見通しについてヒアリングを行い、消費増税後の各社の現状をまとめた。

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“駆け込み”の反動強く4月以降は概ね苦戦続く

主要なネット販売実施企業各社の増税実施前後の状況はどうなのか。本誌の聞き取り調査によると、3月は駆け込み需要で売り上げが急増したところが多かったようだが、4月以降はその反動で概ねどの企業も前年実績を下回っている。

大手有力通販各社の状況は?

まず大手プレーヤーの状況から見ていこう。千趣会では3月度単月では対前年同月比24.9%増と高伸。1~3月累計でも前年同期比8%増となった。高単価の家具・インテリアや靴、アクセサリーなどのファッショングッズなど全般的に高単価商品の動きが良かったという。

増税後の4月度の売り上げ実績は前年同月比5.4%減とマイナス。5月も中旬頃まではマイナス基調で推移していたという。だが、気温が上昇した下旬からは回復傾向が見られ、特に消費増税後の反動減が全般的に大きい衣料品は、「夏物の出足が良くなってきている」。また、増税後の反動減を見越して行ったクーポンやポイントプレゼントによる需要喚起、早期のバーゲンなども下支えをしているようだ。

ディノス・セシールも増税前の1~3月は「予想を上回る消費増税の駆け込み需要で好調」だったという。特に引越しシーズンと重なり、配送サービス強化を打ち出したテレビCM効果などにより、ディノス事業の家具・収納カテゴリーは「記録的な売り上げとなった」という。4月以降は前年を下回って推移している模様。ただ、テレビ通販など駆け込み需要の影響があまりなかった一部
のカテゴリーついては反動は見られず、影響があったカテゴリーも5月に入り徐々に回復しているようで「消費税の反動減を見込んだ予算はクリアした」としており、想定範囲の落ち込み幅だった模様だ。

4月以降の施策としてはディノス事業では、例年6~7月に実施する割引クーポン発行を前年より対象者を増やして実施予定。セシール事業では5月17日から1カ月間、テレビCMの放映を行い、後半から「50人のうち1人に当たる全額ポイントバックキャンペーン」を告知し需要喚起を図っている。

ベルーナは3月までは各事業で計画を上回る売り上げとなり、総合通販事業ではインテリアを中心に、専門通販事業ではまとめ買いや定期購入商品がけん引したようだ。増税後の4月は1~2週目は落ち込んだが、4月後半から徐々に回復傾向にあり、「春物の回復は鈍いが、4月以降に発行した夏物はほぼ計画通りに推移している」としている。今後は新商品の開発、投入を進めていくという。

スクロールは3月はインテリア全般が好調で特にベッドのような高単価商材の売れ行きがよく全体で前年比2割増程度で推移したが、4月度は前年同月比約3割減となり、5月度も同様のトレンドで推移しているようだ。駆け込み需要の反動もあるようだが、「昨年はセール販売で大きく成長したが、本年度はセールは未実施」という原因もあるようだ。いずれにせよ、「想定内の数値であり、市場のトレンド並み」と見ているようだ。今後は「無理に値下げや販促費の投下は行わない」としており、販促費の適正なコントロールに注力。その後は状況を見ながら販促施策を再開していくとしている。

カタログハウスでも1~3月は前年実績を大きく上回ったとする。増税後は例年、4月上旬に発行しているカタログを2週間程度遅らせ、増税直後の発刊を避けるなどの施策を行ったものの、4月は前年を大きく下回り、5月に入っても前年を下回っているという。「駆け込みの反動ももちろんあるが、増税プラス物価上昇による購買欲の冷え込みが大きな要因だと思う」と分析している。

高島屋では3月下旬からの駆け込み需要が大きく、目標値を2ケタ上回った。4月は衣料品を中心に反動が大きく、目標を下回ったが、3~4月の累計では目標値を上回った。5月は4月同様の厳しい状況で推移している。増税前の駆け込み需要と増税後の反動が一定のバランスを保っているリビング、食料品に対し、不要不急の商材がメーンのファッションカテゴリーがとくに買い控えのマイナス影響を強く受けているようだ。

4月以降の取り組みとしては、通販カタログでは精緻なセグメントに基づいたDM発信やアウトバウンドコールの実施など潜在需要顧客に対するピンポイントでの販促策を積極的に行っている。ネット販売事業では、増税後の影響を受けにくいギフトマーケットでの商品提案強化と、きめ細かい販促施策を展開しているという。

ファンケルでは3月に想定以上の駆け込み需要があり、月次売上高は、計画比を20%以上上回った。前期決算で売上高にして18億円、営業利益で10億円の影響があったと試算。増税に伴う反動に備え、通常、会報誌の発送に合わせて3月20日から行うキャンペーンは、会報誌の発送時期を遅らせ、4月1日から開始した。また、4月から使える500円の割引クーポンを配布。リニューアルしたベースメークの投入時期も増税後の4月1日に合わせた。また、4月から大手ドラッグストアにおいて化粧品の主力商品の展開を開始。ローソンでも展開するアイテム数を増やすなど流通戦略を強化している。

こうした施策で化粧品は、4月以降もマイルドクレンジングオイルや洗顔パウダー、ベースメーク類が好調に推移。海外売上高を含む4月の月次売上高は前年同期比0.4%増、国内売上高に限っても前年同期比、計画比を共に上回るという。5月にはマイルドクレンジングオイルのテレビCMを始めるなどプロモーション強化で反動の影響を抑える。

健食の4月の月次売上高は前年同期比29.5%減となった。昨年は4月にカロリミットのキャンペーンを実施、5月にHTCコラーゲンのテレビCMを展開していたが、今年は目立ったプロモーションを実施しなかったことが影響している。

ジャパネットたかたは1~3月まではエアコン、冷蔵庫、デジモノを含む家電全般が好調で「予想以上の売り上げを上げた」ようだ。増税後の4月は高額商品で増税の反動があり、「さすがに前年よりも落ち込んだ」とするが、「提案によっては少子高齢化、健康、教育に通ずる商品、中でもウォーキングシューズや比較的低価格の商品が継続的に動いている」としており、5月からは回復傾向にあるようだ。

らでぃっしゅぼーやの3月度売上高は、買いだめ需要が高まり、食品・エコグッズの売上高は前年を上回った。好調だったものは貯蔵ができるアイテムで、ドリンクや米、調味料、化粧品、日
用品などが伸長した。4月度は駆け込み需要の反動を受けて、買いだめの傾向が見られたドリンクや米、調味料、化粧品、日用品などが苦戦した。このため、反動対策として、賞味期限が短い乳製品やパンなどの日配品のセールを実施。加えて、6月までポイント還元セールを行い購買意欲の喚起につなげている。

大地を守る会の3月期売上高は宅配が166億円で微減となった一方で、ネット販売は前期比12%増で推移。全体で前期比2%増の134億円だった。3月中は、米や調味料、飲料、乾物などの買いだめ需要が見られた。4月度の売上高は3月の買いだめ需要の反動を受けて前年同月を下回った。また、生活用品の高額アイテムが伸び悩んだ。一方で、「徳用」や「切り落とし」系商品のほか、規格外の「もったいナイ魚」などは好調に推移。3月4月の合計売上高を比較すると前年同期を上回った。5月以降は増税後の影響は薄れてきているという。今後、調味料などは買いだめ商品の消費のタイミングに合わせて販促を予定。季節感のある販促企画を強化する
ことで売り上げを確保していく考え。

有力EC各社の動きは?

ネット通販専業はどうか。ケンコーコムでは3月中旬まで、ほぼ例年通りの販売動向だったが、後半2週間で消費税増税前の駆け込み需要により受注が急増。日用品や健康関連商品ネット販売のリテール事業の3月度売上高は前年同月比229.8%増の19億5300万円となり、単月で過去最高を更新した。増税を前に消耗品のまとめ買いなども多かったようだ。

増税後の4月度のリテール事業売上高は、13億5400万円。前月比で30.7%減と反動減の傾向が顕著に表れた。前年同月比では、2.0%増と前年をクリアするなど順調のようにも見えるが、これは1月に親会社の楽天から事業運営を継承した「 楽 天24」を含んだ数値であるため。リテール事業だけで見ると数%のダウンとなり、同社としても「少し悪い」という見方だ。

反動減対策としては今期の重点施策となる「楽天24」事業の拡大。現在、その準備作業を進めており、第3四半期には、従来からのリテール事業と楽天24事業の在庫およびオペレーションの統合を予定。リテール事業の売れ筋商品のほぼ全てを「楽天24」でも扱えるようにすることで売り上げの増加につなげる考えだ。

ゴルフダイジェスト・オンラインの1~3月の合計売上高は前年同期比15%増で、月次では1月が前年同月比3%減、2月が同1%減、3月が同48%増だった。外部要因として2月は降雪の影響、3月は増税前の駆け込み受注などがあったと見ている。4月の売上高は同6.1%減で売上構成比率の高いゴルフクラブの売上低下が足を引っ張った。5月以降は徐々に回復基調となり、月末時点で増税後の影響はほぼ無くなった。要因としてはゴルフシーズンがスタートしたことによる全体底上げの兆候があり、特にウェア系の販売が堅調だった。

ブックオフの子会社でネット販売を手掛けるブックオフオンラインでは、3月は増税前の駆け込み需要の影響で、過去最高の注文件数を記録した。一方で4月は顧客数が前年同月比約20%減、徐々に回復はしているものの5月以降も顧客数が約10%減に。特に女性の離反が目立っているという。

中古書籍は単価の低い商材のため、同社の柳重光社長は「そこまで大きな影響はないのでは」と予想していたという。しかし、フタを開けてみれば、実店舗よりも落ち込みが大きくなっている。そのため、現在は「離れた顧客の呼び戻しに奔走している」(柳社長)。同社では以前、リスティング広告の出稿を止めることで大幅な増益につなげた経緯がある。当時は保有する在庫に対して顧客を過剰に呼び過ぎていたことから広告出稿を停止したわけだが、現在は逆に顧客が足りない状況となっている。

そこで、リスティング広告を再開したほか、グーグルとヤフーのディスプレー広告を利用したバナー広告の配信も行っているという。ターゲットは主に女性。売り上げが目立って落ちているのも女性が好きなカテゴリーのため、セールも展開しているが「安くなった商品は売れるものの、ついで買いや衝動買いは生まれず、注文1件あたりの購入点数が減っている」(同)。そこで、6月には女性の利用が多い代引き手数料を無料とするキャンペーンを実施。購入単価の引き上げにつなげる狙いだ。

夏をメドに徐々に回復か?

増税後の駆け込み需要の反動はいつまで続くのか。各社の見方では概ね夏までと見るところが多い。「6月までは増税後の反動減の傾向が続き、夏本番となる7月度以降に本格的な回復基調に入る」(千趣会)、「4~6月は前年度を下回る固めの計画としているが、7~9月あたりからは前年度を超えてくる事業カテゴリーも出てくると思われる」(ディノス・セシール)、「すでに、ほぼ影響がないものもありますが、影響の長いものでも6月いっぱいで戻るのでは」(ベルーナ)、「6月いっぱいまでは現状が続くとベンダーからの情報を得ている」(スクロール)、「増税に伴う反動は6月末まで続く見通し」(ファンケル)、「増税前需要の反動は4月が底。現段階では、まだ完全な回復にはいたっていないものの、影響は長くても6月まで」(ケンコーコム)、「97年の経験値から消費税増税の影響は緩和されると見ているが、上半期(~8月)は一定の影響が残る」(高島屋)、「アベノミクス効果もあり、比較的早い時期に消費は回復すると考える」(ジャパネットたかた)との声が多かった。

一方で「日本は人口減少・高齢化に直面しており、小売業は現状でも完全にオーバーストアである。『駆け込み』は世間のムードによる一時的需要増で、今後回復を期待することは無理であると考えるべき」(カタログハウス)との声もあった。

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