子供服のひもに起因する事故の未然防止を主眼としたJIS(L-4129)が2015年12月に制定公示されることが、6月23日開催の日本工業標準調査会消費者技術専門委員会で決まった。
消費者団体や小売事業者団体、メーカー団体などを交え、12年秋から検討してきたもので、16年春夏シーズン商品からの運用を想定。同日に経済産業省が公表したJIS案では、身体部位ごとにひもの有無や長さなどの要求事項を明記する。経産省や消費者団体では今回のJIS案を通じ、安全性が子供服の新たな選択基準となる流れを作りたい考えのようだ。
子供服を扱うネット販売事業者としても、同JISへの対応が他社商品との差別化につながる可能性もあるが、現状、顧客の商品選択基準として大きなウェイトを占めるデザイン性の制約や、製造段階でのコストアップなどにつながる可能性もあるだけに、十分な検討が必要と言えそうだ。
事業者側の安全性確認条件に“結び目”を容認
今回のJIS案では、年少の子供(出生から7才未満)と年長の子供(7才以上13才未満)に分け、頭部および頸部、胸部および腰部など各身体部位に付されるひもの要求事項を規定する。
ひもが何かに引っ掛かり重篤な事故になる可能性が高い頭部・頸部についてみると、年少用の子供服で「ひもがついた衣料をデザイン、製造又は供給をしてはならない」とするほか、年長用の子供服に引きひもの自由端があってはならないとするなど、かなり細かな内容だ。
また、JIS原案の検討段階で問題となった、ひものほつれを防止するための結び目については、条件つきで容認する形となった。
検討段階の原案では、ひも本体よりも太くなり何かに引っ掛かる恐れがある結び目は「あってはならない」という表記となっており、これにメーカー団体委員が反発。安全性が第一とする消費者団体委員などと激しい意見のやり取りが見られたが、今回のJIS案では、「あってはならない」の記載を踏襲しつつ、事業者側が独自に安全性を確認し、リスクが許容可能な範囲であることの根拠となる資料・データを持つ場合には、その限りではないとする但し書きを加えている。
このほかに、消費者団体委員から要望のあったフードの安全確保策については、推奨事項として力が加わった場合にフードが本体から外れるホック仕様などの活用が望ましいとする内容が盛り込まれた。
第三者認証難しく、JISマークつかない規格に
事業者側に配慮した部分も見られるが、子供服に付されるひもの取り扱いについて細かな要求事項を盛り込む同JISはメーカーや流通など事業者側にとって厳しい内容と言える。ただ、JIS自体には強制力はなく、対応するかどうかは事業者側の判断になる。
JISが強制力を持つのは、関連する法律に引用された場合だが、今のところ、子供服のひもの安全性に関するJISが法に引用される可能性は小さい。国内で子供服のひもに起因した重篤な事故事例の公的な報告がなく、「強制法規にはできない」(経産省環境生活標準化推進室)ためだ。
また、同JISは、ひもの結び目について事業者側の自己認証を認めるなど、第三者による認証が難しいため、JISマークのつかない規格の位置づけ。事業者側が同JISに対応した場合、規格に準拠していることを顧客に伝える手段が必要になるが、これについては、すでに別途ワーキンググループで販促物などに表示する説明文の表現や文言などを検討している。経産省側では、年内中にも検討結果を公表したいとしている。
“安全性”を商品選択基準にできるかがカギ
来年12月の子供服に付属するひもの安全性に関するJISの制定公示時期については、商品の企画、製造、販売までの期間、中小のメーカーや輸入事業者が多く対応に時間が掛かると判断したもの。経産省では今後、事業者および消費者に対する当該JISの周知活動を進めていく意向で、事業者については、説明会などを通じJIISの内容理解を図り、消費者対応では、パンフレットや教材の作成などで消費者関連団体と連携しながら周知に取り組んでいく考えだ。
すでに、安全性を意識した子供服の展開に取り組んでいる通販・ネット販売事業者もあるが、今回のひもの安全性に関するJIS案に対応しようとした場合、商品企画・開発の見直しや製造コストの問題など、新たな負担が生じることも考えられる。そのハードルを乗り越えて同JISを普及させるためには、安全性という商品選択基準を消費者に定着させることが不可欠になる。一部のメーカー団体では、同JISに対応した子供服のひもに関する独自ガイドラインの策定を検討しているところもあるが、今後、経産省と消費者団体の連携による取り組みで、どこまで消費者に周知できるかがカギになる。