楽天市場の出店料金、実質値上げへ 課金は税込みベースに統一、メルマガ有料

楽天は9月8日、仮想モール「楽天市場」の出店料金体系を変更することを全店舗に対して書面とメールで通知した。楽天では「安心・安全なモールを実現するための改定」と説明するが、値上げ色の濃い内容となるため、店舗からは不満の声が挙がっている。

「安心・安全」名目の課金も

値上げとなる要素は大きく分けて3つ。①システム利用料・ポイント付与対象・アフィリエイト成果報酬請求額について、それぞれ消費税を含めた金額で計算する②週1回まで無料だったメールマガジン配信を有料化③取引の安全性・利便性向上のためのシステム利用料導入──となる。

最も大きな影響が出そうなのは、消費税関連の改定(すべて2015年1月1日から)。まず、システム利用料の課金対象を税込みに変更。従来は税別・税込みを選択できる仕組みだったが「税別との併記も含めると、すでに8割の店舗が税込みで表記している」(河野奈保執行役員)ことから税込みに統一。店舗によって課金対象額が異なる状況を解消するのが目的だ。同様に、楽天スーパーポイントの付与対象を税込みに統一。さらには、楽天スーパーアフィリエイト成果報酬も消費税を加算して請求する。

これまで税別表示をしていた店舗にとってはかなり負担が重い改定となる。スポーツ用品関連の出店者は「消費税はユーザーから一時的に預かっているだけなのに、なぜそれに対して課金されたり、ポイントを付けたりしなければならないのかと不満を漏らす

。2つ目はメールマガジン配信の有料化(15年4月1日から)だ。これまでは週1回まで無料の「R-Mail」と、有料で配信制限のない「R-Mailエクスプレス」の2プランがあったが、これを統一。料金は基本利用料なしで、1件あたり0.75円となる。河野執行役員は「メールの効果が下がっている中、メルマガの質を高めることに焦点を当てた」と説明する。会員ランクなど詳細なセグメントや、売り上げへの効果測定が可能になるため、1通あたりのメール効果が上がる可能性がある。

とはいえ、これまで無料でメルマガを配信していた店舗にとっては「セグメント配信で変わってくるかもしれないが、値段に見合った効果があるかどうかは分からない」(家電関連の出店者A)というのが偽らざる心境だろう。また、無料版の配信制限は、11年の東日本大震災後に設けられたもので、この時にも出店者から不満の声が出ていたことを考えると、完全有料化には反発する声が大きそう。

また、「エクスプレス」の通常版は、基本利用料が月額10万円、配信料は1件あたり0.3円だったため、従来の利用者にとっても値上げとなる可能性が高い。毎日7万通のメルマガを配信しているという、スポーツ用品関連の出店者は「基本料を差し引いても経費はほぼ倍になる。配信回数を2~3割減らすことも考えている」と話す。

3つ目は、新たに発生するシステム利用料(14年11月1日から)。これは、「取引の安全性・利便性向上」を名目としたもので、売上高の0.1%を徴収する形だ。具体的には、ユーザーへの補償制度「楽天あんしんショッピングサービス」を拡充。補償範囲を「商品未着」のみから「遅延」「破損」「表示と異なる商品が届いた」「返金されない」ケースも含める。ユーザーと店舗の間でトラブルが解消できなかったものが補償の対象で、楽天が支払った補償金額は、原則として店舗に請求する。

また、商品ページには発送予定日を表示することを義務付けるほか、購入履歴のページには、商品の配送状況が確認できるサービスボタンを設ける(両方とも15年1月13日から)。

さらに、14年11月13日からは、銀行振込決済について、振込先を楽天が用意する楽天銀行の口座に統一。これは詐欺などの防止を目的としたもので、一度楽天を経由した後に各店舗の口座に振り込まれる形だ。これに伴い、ゆうちょ振替は利用できなくなる。特に銀行の少ない地方などではニーズが高いとみられ、出店者からは「ゆうちょからの入金は多く、利用者からクレームが来るのではないか」(家具関連の出店者)との声も出ている。

オプションは一部値下げ

店舗によって値上げになる場合と値下げになる場合があるのが、モバイル経由のシステム利用料改定だ(左ページの図参照)。基本料金の安い「がんばれ!プラン」は大きな値上げとなる
が、「メガショッププラン」「スタンダードプラン」の利用店舗はモバイル経由の売上高によって変わってくる。

これまでは月間売上高100万円以上の場合、システム利用料が3%だったが、メガ・スタンダードの新しい料金体系では、100万円以上でも2.5%~3.5%の間で利用料率が細分化される。ただし、3%以下となる条件は厳しく、売り上げの大きい店舗以外は値上げとなる公算が高い。

一方、値下げとなるのがオプションサービスの料金改定だ。「配送先関連データCSVダウンロード」、「送り状ダウンロード」、サーバースペース「楽天GOLD」「受注WEB API」をそれぞれ無料とする。楽天では「オペレーション軽減につながる機能。使っていただくことで、接客に時間をかけてほしい」(河野執行役員)とする。

「ヤフーの巻き返し」はあるか

家電関連の出店者Bは「税込みでの課金などはかなり影響があると思う。メルマガも本当に必要な時だけしか使えなくなる。メリットもあるという説明だったが、負担増と比べたら少ししかない」と話す。家具関連の出店者も「消費税分の課金だけで月15万円は上がる。モバイルについても、月1000万円以上の売上高はあるが、月4~5万円は上がる計算だ」とため息をつく。モバイル比率の高い上位出店者などは値下げになるようだが、楽天市場に詳しい業界関係者は「大半の店舗が値上げになるのではないか」と推測する。

実質値上げを契機に、出店料が無料となったヤフー!ショッピングなどに注力する可能性はないのか。「ヤフーに力を入れたいが、もう少し売れてくれないと困る」(家電関連の出店者C)、
「ヤフー店は無料化以降、売り上げが落ちている」(家具関連の出店者)など、店舗への聞き取り調査では「現段階では楽天の集客力には頼らざるを得ない」との見方が支配的だった。

楽天側も、これを見越すかのように「他社の戦略が変わったことによる売り上げへの影響は出ていない」(河野執行役員)と強気の姿勢を崩していない。両方に出店する店舗が、楽天店よりヤフー店の価格を安くするといった施策を講じる可能性はあるものの、現段階では「第2勢力」巻き返しの兆しはみられないようだ。

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楽天の河野奈保執行役員に聞く 料金体系改定の意図は?

購買行動の変化に対応

――料金体系改定の意図を説明してください。

ネット販売をより安心・安全なものへと発展させていくための取り組みです。それを進めないことにはユーザーに楽天市場に来てもらえないし、店舗の売り上げ増にもつながらない。『安心・安全』なモールを目指し、不断の努力を続けていきます。改定の趣旨については、外的環境やユーザーの購買行動の変化に対応したもので、具体的には、モバイルへのシフトが進んでいること、メールへの反応が落ちていることなどに対応しています。

また、店舗のオペレーションを効率化するため、一部サービスを無料化しました。空いた時間を接客に回すことができれば、売り上げ増にもつながるはず。システムを使い倒すことでプラスにしてほしい。

――メールマガジンの一律有料化についても反発は大きいのでは。

昨今のユーザーはソーシャルメディアで家族や友人とやりとりするようになっており、今まで通りの運用ではメールの効果は下がる一方。メルマガがユーザーとのコミュニケーションツールとして有用だからこそ、質を高めるために舵を切りました。

――モバイルの利用料率を変えた理由は。

パソコン経由の利用料率はプランごとに差があるのに対し、モバイル経由は同一でした。モバイルはPC向けよりもページ最適化やシステムメンテンナンスなどが必要になるため、プラスアルファの料金をいただくことで、投資に活かしたい。がんばれは値上げが大きくなるが、当社は3年ほど前から、メガ・スタンダードの両プランを推進しており、両プランの出店店舗数が伸びています。

――「安心・安全」を名目としたシステム利用料について、どの部分に投資するのですか。

さまざまな部分に使う予定で、売上高の0.1%という額は決して高いものではないと思っていま
す。決済システムの強化や、モニタリングやオペレーションの部分など、ユーザー補償サービスを充実させるための資金にする予定です。

――ゆうちょ振替がなくなることについて、ユーザーの利便性が落ちるという店舗からの指摘もあります。

そうした声は把握しています。ただ、安全性を担保するために決済手段を絞りました。店によってはセンシティブな問題になりうるのは分かっていますが、それにより1件でも詐欺などの被害者が出た場合、楽天市場全体に影響を及ぼす可能性があります。ただ、今後もこうしたご意見をいただくようであれば、ニーズも踏まえて検討は可能だと思います。

――実質値上げになる店舗が、楽天市場店よりもヤフー店に注力することもあるのでは。

出店店舗数や商品数にネガティブなインパクトが出るとは思っていません。ユーザーにもっと来てもらうための施策で、それが店舗の売り上げ増につながるはずです。

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