両チャネル購入者が伸びている 村田昭彦● ベイクルーズ 上席取締役

「ジャーナルスタンダード」や「イエナ」など複数のセレクトショップを展開するベイクルーズのEC 事業が好調に推移している。数年前から店舗とネットを連携したオムニチャネル化を推進。その成果として自社通販サイト「ベイクルーズストア」経由の売り上げを大きく伸ばしている。自社ECを軸に購買体験の向上に取り組んでいるベイクルーズだが、同社のネット販売を統括する村田氏が描く戦略とは─。

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店とECを使う人は買う回数も増える

3年後に自社ECで7割のシェアを

――前期(2017年8月期)の売り上げについて教えてください。

EC全体で275億円、前年比27%増です。そのうち自社EC(自社通販サイトの売り上げ)は137億円で前年比44%増になり、ちょうど50%程度を占めます。

─じわじわと自社ECの比率を伸ばしています。

もともと自社ECの比率が5年前には23%程度でした。そこから自社EC強化という目標を決めてやっと半分になりました。そこは予定通りです。直近ですと自社ECの割合は54%くらいになっており、だんだん増えています。今年も含めて3年後に自社ECで7割のシェアをとるという計画です。

――自社ECを含めた売り場の構成比はどうなっていますか。

前期ですと自社ECで50%、ゾゾタウンさんが39%、残りが11%です。

――「残り」というのは?

アイルミネさん、マガシークさん、マルイウェブチャネルさんの3つです。

――ECの成長は自社ECがけん引しているのですか。

ここ4、5年は完全にそうです。

――自社ECが伸びている背景としてはオムニチャネルの動きが大きいのでしょうか。

オムニ系の施策が売り上げ成長の最大の要因です。そこ以外ももちろんありますが。

─特に前期で言うと?

前期は物流倉庫の一元化をして、そのタイミングでEC用の在庫とそれ以外の在庫を1つの倉庫に集約しました。物理的に1か所に集まり、かつ、データ的にも統合された状態です。すべての在庫が1つのデータベースに集まっていて引き当て可能です。店舗在庫については10秒単位で最新の在庫に更新されているため、ほぼタイムラグがない状態です。

――昨年11月にはECサイトも刷新しました。

はい。昨年は先ほどの物流倉庫の一元化と在庫データが完全に統合されたというのが1点目で、2点目はサイトのリニューアルです。サイト名も「ベイクルーズストア」に変更しました。一部店舗在庫の取り置きができるようになるなどサービスが拡充されています。

――それに先行して昨年3月には会員データが店舗とECで統合されました。直近の会員数はどのくらいですか。

190万人です。伸び率としては圧倒的にECサイト経由の会員登録が高いです。

――その際に会員プログラムも一元化されましたが、その影響はありますか。

一番大きく変わったのは、当社で「クロスユース比率」と呼んでいるのですが、店舗とECの両チャネルで購入している方の割合が非常に伸びています。当社の場合、売り上げの55%が「ベイクルーズメンバーズ」という会員制度に登録されている方の売り上げです。そのうち「店舗だけを利用している人」「自社ECだけを利用している人」「両チャネルを併用している人」の3つに分けた場合、「両チャネルを併用している人」の売り上げが一番伸びており、この1年間で32%から40%にまでシェアが増加しています。1人あたりの購入金額で見ると、店舗だけを利用している人の約3倍ありますので、当然両チャネル利用してもらったほうがよいです。我々としてはオンライン・オフライン、店舗・ECに関わらずなるべく接触していただいて、両チャネルをお客様の置かれた状況によって使い分けていただく方を増やすと、結果的に1人あたりの売り上げも高くなります。

両チャネルで買っている人の売り上げが増えるのは当たり前と思われがちですが、両チャネルを利用する人が店舗で買っている売り上げは、店舗だけを利用する人の2倍になります。つまり店舗と自社ECの両チャネルを使う人は店舗で買う回数も増えるということです。情報接触頻度を高めると、店舗に行きたいと思う回数が増えるのです。これはECでも同じで、自社ECだけで買う人と両チャネルで買う人を比べると、両チャネルを使う人のECの購入額はECだけで購入する人の1.7倍になります。店舗でのブランド体験を経ている人はECで買う回数が増えるのです。つまり、両チャネルを使ってもらったほうがいいのです。

――先ほどの3分類のうち、「店舗だけ」と「自社ECだけ」の割合はどのくらいでしょうか。

「店舗だけ」は46%で、「自社ECだけ」だと14%です。あくまで会員売り上げとして見た時ですが。

――現時点では、「店舗だけ」の売り上げが大きいということですか?

46%ですので、一番大きいです。それ以外に会員以外の売り上げや自社EC以外の売り上げもあります。ただ、我々としてはお客様にファンでいただきたいと思っていますので、会員の売り上げは増やしていきたいです。だんだん増えて55%になりました。実際はオンラインで見て店舗でしか買わないといった人もいらっしゃいます。購入だけでこれだけいらっしゃる。サイトを閲覧して店舗で買うことも考えると、自社ECの影響力はかなり大きくなっていると思います。

――55%が会員売り上げで、そのうち両チャネル利用が4割というのはオムニ化の動きが順調であるという1つの指標になるとお考えですか。

はい。1年間でなかなかこんなに増えないので。さらにその前だともっと少なかった。やはり会員統合して、会員プログラムを共通化して、その認知を図って、そういうことを続けていって少しずつ右肩上がりになっています。今後も上がると思います。

リアルタイムでパーソナライズを

――1年前、ベイクルーズのオムニ戦略として4つの統合という説明がありました。まず「会員」と「在庫」があり、そこはメドがついたと。それから「サービス」と「コミュニケーション」で、これは仕掛り中ということでした。

「サービス」は会員プログラムが統合されたり、店舗とECを行き来するようなサービスとして店舗取り置きを導入したり、今後はネットで買って店舗で返品を受け付けるなども含めてとにかく両チャネルをシームレスに行き来できるような体験を提供していくための細かな施策をどんどん行っていきます。例えばイベントを共通で行うなどもその1つです。今までは会員向けセールを店舗とECでバラバラに実施していたのを共通で行うなどですが、サービスの共通化や統合はクロスユースをより促す施策になります。

――「コミュニケーション」の統合についてはいかがですか。

これは今期の注力施策の1つです。いわゆるCRMも含め、当社で言う「リアルタイムパーソナライゼーション」です。リアルタイムにパーソナライズしていくということを進めていく予定で、来春くらいにはその仕組みを作ります。

――具体的なイメージは?

サイトを閲覧したり購入したお客様にその瞬間瞬間で個別に最適な情報を配信していきます。一斉に何かの情報を発信することは原則やめていて、お客様が受け取りたい情報を受け取りたいチャネルで、受け取りたい時間や頻度で送るといったことです。ですからメールやLINE、アプリのプッシュ通知があった場合、そのお客様がよく利用するチャネルで自動的に情報発信を行い、配信する中身は当然パーソナライズされたものになります。配信する時間も、メールであれば、昼や夕方などそのお客さんがいつもメールを開く時間に送ります。

――それはMA(マーケティングオートメーション)ツールなどを使って最適化するのでしょうか。

そうです。リアルタイムではなかなかできないのですが、それができるような仕組みでやります。例えば通販サイトであるブランドのコートを見ていて、かつ、渋谷にいるというようなタイミングに、渋谷の当社の店舗にそのコートの在庫があれば、その瞬間を捉えてメッセージを送るということはリアルタイムでないとできません。店舗の在庫情報をリアルタイムでつかんで、直近の閲覧情報を同時につかんで、なおかつ位置情報も知っていることが必要になります。

――準備中のアプリは今どういう状況ですか。

来年3月ごろにリリース予定です。基本的にEコマース用のアプリで、アプリならではの操作性で快適に使え、なるべくビジュアル中心な見せ方を意識しています。

――そのアプリが来春に出ると、メール、LINE、アプリが重要な配信ツールになるわけですね。

そうです。今は物理的なメンバーズカードがありますが、なるべくアプリに切り替えていきたいので、アプリリリース後はカードを持っている方にはアプリへの切り替えを促します。

送料は当分無料でいい

今期計画は自社ECで35%増185億円

――来春にコミュニケーション面を整備すると、オムニチャネル化という意味ではどの程度進んだことになりますか。

そこまでいくと7割はできたかなと思います。いろいろブラッシュアップしたり、違う仕掛けをしていく必要はありますが、基本的にやらなきゃいけないことは7、8割終わったと思います。あとは細かい微調整やより精度を上げていくことです。お客様からすると「店舗で買ったけどオンラインでこういうことできたらいいよね」とか、「ネットで買ったけど店舗でこういうことできたほうがいいよね」というのが、返品やお直しなども含めてあるかもしれません。店舗在庫を取り寄せるにしても、いかに早くするか。今まで3日かかったことを2日にするなど、1つずつのサービスの体験価値をより良くしていく。そしてそれをどう積み重ねるか。細かいことはいっぱいあります。

――今期の数値の目標は。

EC全体は前年比2割増の330億円です。自社ECはそのうち185億円で、35%増です。前期はEC全体が27%増で、自社ECが44%増なので、その意味では抑えています。直近2カ月の9、10月でもEC全体は前年同期比で32%増、うち自社ECは2カ月で48%増で推移しています。35%増の計画に対して48%増です。計画以上の推移ができていますので、目標値は達成できるだろうと思っています。ただ、他社さんも伸ばされているので、保守的な目標だけを達成できればいいわけではなく、市場の伸びや競合他社以上に伸ばしていくことが求められています。

――今期終わった段階で自社ECの構成比の予想はどのくらいですか。

計画ですと55から56%です。今まで毎年5~6%ずつ伸ばしてきました。

─自社ECサイトは今、送料無料ですが、今後についてはどう考えてますか。

送料は当分無料でいいかなと思っています。

――上げる予定は?まったくないです。

必要性がないです。

――物流会社から運賃値上げの要請はないのですか。

それは吸収できるコストですので。簡単に言うと。

――「ゾゾタウン」が11月から送料を一律200円にしたので、そのへんは差別化要素になりそうですね。

やはり一番の違いは、モールさんは手数料ビジネスで、もともと利幅が少ない中でやっています。我々は製造から小売りまでやっており、その意味で直営ECは圧倒的に販管費が低いので吸収できます。客単価も高いです。

◇プロフィール

村田昭彦(むらた・あきひこ)氏 総合アパレル企業を経て、2000 年よりネットベンチャー企業に入社。EC事業、WEBメディア事業、WEBプロデュース事業等に従事した後、2007年に株式会社ベイクルーズに入社。グループ全体のEC 事業、情報システム、CRM、オムニチャネルの推進など、IT領域の全般を統括。


◇取材後メモ

店とECそれぞれに長所があります。例えば買い物を楽しみたい人にとっては、店頭でのスタッフによるパーソナルな接客は魅力です。一方、空き時間でなるべく効率的に買い物をしたいという人には、ECは非常に便利な売り場と言えます。消費者のニーズが多様化する中で顧客ごとに一番都合の良いチャネルでストレスなく服を買えるようにする仕組みを構築しているのがベイクルーズです。会員や在庫の連携によって両チャネルを持っている強みを最大化し、確実に成長を遂げています。来年にはアパレルだけでなくカフェなどグループの飲食事業との連携も予定しているとのことで、同社のオムニ化の取り組みが一層注目さます。

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