”プチプラ”で急成長
他社ブランドの衣料品を意図的に模倣して販売したとして、レディース衣料の通販サイト「GRL(グレイル)」を運営するGio(ジオ)の代表取締役、塚原大輝容疑者ら2人が6月30日、不正競争防止法の疑いで大阪府警に逮捕された。
Gioを告訴したマッシュスタイルラボによると、同社が手がける人気ブランド「スナイデル」と「リリーブラウン」の商品と同一デザインの模倣品をGioが継続的に販売しているとして、当該商品の販売停止を再三申し入れていたものの、Gio側からは何の応答もなく販売を継続していたため、知的財産を守るためにも刑事告訴に踏み切り、6月30日付けで大阪府警が逮捕したという。
「グレイル」は、10~20代女性向けに低価格(プチプラ)な衣料品やファッション雑貨を販売する通販サイトで、トリンドル玲奈さんや藤井リナさんといった人気モデルをサイトや雑誌、テレビCMなどに起用して急成長。2014年8月期には約69億円を売り上げていたと見られる。
塚原容疑者の逮捕後、「グレイル」の自社通販サイトは営業を続けているが、「楽天市場」の店舗は“改装中”、「ヤフー ! ショッピング」店は“一時休店中”となっているほか、「DeNAショッピング」の店舗では一部の商品は閲覧できるものの、カートには入れられずに「入荷お知らせメール登録」を促すなど、各モールは事実上、販売をストップしている。
再三の申し入れを無視
デザインに関する権利問題は民事訴訟で争われるのが普通で、刑事事件に発展するのは極めて異例だ。というのも、ファッション業界にはシーズントレンドがあり、また、ほとんどの企業で4大コレクションなどをチェックしているため、多くのブランドで展開商品が“似たり寄ったり”ということはよくある。
ECにも詳しいあるアパレル出身者は「(似た商品があることは)業界の暗黙の了解だった」とした上で、「今回の件はアパレル業界で非常に注目を集めているが、その割にSNSなどで積極的に発言する人が少ないのは、多かれ少なかれ身に覚えがあるから」と言う。
他のアパレル出身者も「アパレルで働いている以上、他社からデザイン模倣で警告がくることはある。その際に当該商品を販売中止にするなど真摯な対応をとれば大事にはならない」としている。
ではなぜ、今回の一件は刑事事件にまで発展したのか。一部報道によると、Gioにはデザイナーがおらず、「スナイデル」の商品でサンプルを作って協力工場に発注していたことが証拠となったという。また、通販サイト上に掲載している説明文まで一緒のアイテムもあったといい、これらが事実であれば、模倣を前提とした相当に悪質なケースと言えそうだ。
SNS上では以前から、「グレイル」の一部商品が「スナイデル」などのアイテムに酷似しているといった情報が飛び回っていたようだが、消費者はたとえ模倣品と分かっていても、「グレイル」のように人気モデルが着用して、有名ファッション誌やテレビCMに登場すれば、模倣品を購入することによる罪の意識や抵抗感は薄れそうだ。
一方で、Gioの代表者が逮捕されても、「アパレル業界での模倣合戦は終わらない」と指摘する業界筋もいる。同氏によると、欧米のファストファッションが日本に定着して以降、プチプラのファッション商材を扱う企業では、企画から商品化まで1週間程度というスピード感が普通となり、デザインに時間やお金をかける余裕がなくなっているという。また、そうした企業に向けてOEM先から模倣品を提案してくるケースもあるようだ。
今回の問題の根は深く、アパレル業界全体にかかわる事例ではあるが、急成長してコンプライアンスなど経営の基礎が追いついていないネット販売事業者は少なくないと見られることから、いま一度、社内体制の点検、見直しは必要と言えそうだ。