近年、注目を集めるキュレーションメディア。「目利き」や「専門家」がおすすめ商品を紹介するというものだ。購入への導線を設けているメディアもあれば、あくまで紹介にとどめているメディアもあるが、いずれにしても専門家が「お墨付き」を与えた記事に説得力を持たせなければメディアとして集客を生み出すことはできない。ECサイトにとっては、キュレーションメディアの活用はコンテンツマーケティングの一種ともいえる。今回は、ECにつなげる仕組みを取り入れた4つのキュレーションメディアの取り組みを紹介する。
事例① 楽天の「ROOM」
「部屋」が「店」に、新たな購買動機生み出すツールへ
楽天が展開するキュレーションサービス「ROOM」は、ユーザーが「楽天市場」で購入した商品やお気に入りの商品を、楽天の会員IDで作成可能なユーザー専用ページ「myROOM」上に収集、紹介できるというもの。
myROOM上で商品を収集することを「コレ!」という。「コレ!」した商品には、楽天市場のページに掲載されている画像や説明文のほか、ユーザーが撮影した画像や文章の追加が可能となっており、実際に商品を利用している写真や、お薦めポイントなどを付加することができる。また、「コレ!」して集めた商品のページを閲覧したユーザーが楽天市場に飛び、商品を購入すると、購入金額の1%が楽天スーパーポイントとして還元されるアフィリエイトの仕組みを導入。myROOMはユーザーのセンスで選んだ商品を販売する「店舗」といえるわけだ。
ROOMはどんな狙いで生まれたサービスなのか。同社の楽天市場事業編成第二部ROOMグループの山下純一マネージャーは「モノと人がつながる仕組みが作れないかという、三木谷(社長)の発想から生まれた」と話す。
楽天市場の場合、大量のレビューが資産といえるが、「レビューは購入の最後の後押しというか、ユーザーが買ってもいい商品なのかどうか“確認”するために使う要素が大きい。ROOMは今まで知らなった商品に出会うためのツール」(山下マネージャー)。最近はモデルなど著名人のインスタグラムで紹介された衣料品やアクセサリーなどを探して購入するユーザーが増えているが、インスタグラムはプロフィールページにしかURLを貼れないため、商品を売るには不向き。ROOMはデザイン的にも機能的にもピンタレストを意識したサービスといえる。
店舗も販促に利用可能
ROOMは登録しなくても閲覧は可能だが、投稿するには楽天IDでの登録が必要。ログインするとフィードが表示され、自分がフォローしているユーザーの商品が表示される。表示されるのは「商品」「コレクション」の2種類。コレクションは「秋冬レディース特集」「クリスマス特集」といったように、ユーザーがテーマに合わせて商品をセレクトしたものだ。「コーディネートなど、単品では実現できない世界観が表現できる」(同)。
他のユーザーのmyROOMでは商品ごとに「いいね!」ボタンと「コレ!」ボタンがある。「いいね!」は単純に自分の好みを表明するものだが、「コレ!」を押すと自分のmyROOMに商品が追加される仕組みだ。
ユーザー層は楽天市場のそれにほぼ近く、20~40代の女性が多い。「主婦など、比較的時間に余裕がある人が中心となっているようだ」(同)。楽天側でもコンテンツを用意。例えば「日本酒シーズンを堪能できる晩酌グッズ」では、燗酒を楽しむための酒器や、鏡開きセット、つまみの鮭とばなど、ROOMの編集部がセレクトした商品のほか、ユーザーが「コレ!」した商品も掲載している。
ユーザー数については公表していないものの、「順調に増加している」(同)という。一般ユーザーのほか、楽天が契約した有名人などの「オフィシャルユーザー」がいる。また、店舗もROOMのアカウントを取ることが可能。ただし、商品が売れた際のアフィリエイトを受け取ることはできない。
店舗のROOM活用に関しては「まだ進んでいない」とはいうものの、マキシムが運営する「神戸レタス」のように、アカウントを取って積極的に商品を紹介する店舗も。山下マネージャーは「ROOMまでは手が回らないという店舗がほとんどだと思うが、例えばアパレルの場合、店舗のページでアウターとバッグ、スカートをまとめて紹介するのは難しいが、ROOMを使えばセットで見せることができる。フォロワーがファンとなってくれるので、ロイヤリティーを上げるのに役立つのでは」と話す。
ROOM自体は店舗も無料で使えるため、負担なく販促することができる。いかに効果的に使うか、工夫する必要がありそう。「当社のECコンサルタントの間でもまだまだ知られていないサービスなので、連携しながら活用を促進したい」(同)。
購入率は「思ったよりもいい」
一般ユーザーの中でも、数多くのフォロワーを抱える人はたくさんいる。「自分なりの世界観を表現している人や、シーズンにあわせたもの商品をピックアップしている人などが良くフォローされるようだ」(同)。ユーザーのランクは「星」で示されており、最大は5つ。たくさん「いいね!」が押されるなど、支持されるユーザーは星の数も増えるようだ。
アフィリエイト目的のユーザーもいるとみられるが、購入率については「思ったよりもいい」という。紹介された商品をカゴに入れたあと、関連商品も同時に購入するなど、購買行動を生み出している。山下マネージャーは「テレビCMと同じで、今まで意識してなかったが、ROOMを見ることで欲しかったことに気づくというケースもある。中にはちょっとした店舗レベルの流通額になっているユーザーのROOMもあるようだ」と話す。
ROOMへの導線となっているのは、楽天市場トップのバナーだが、商品ページにも「ROOMに投稿する」というボタンがあるため、そこからの投稿が多いという。現状、投稿するには別途ROOMに登録する必要があるが、よりユーザーを増やし、気軽に利用してもらうためには利用までのステップを減らすことが必要。登録しなくても使えるようにする予定だ。
さらなるユーザー取り込みへ
山下マネージャーは「ユーザーからは『商品を投稿して反応があるのが快感』という声が多く聞かれる」と話す。楽天市場は、市場内の検索かランキングを経由して目当ての商品を探すユーザーが多い。一方、ROOMは「検索やランキングを見ているだけでは出会えなかった商品を知ってもらう」のが目的だ。新たな購買の動機を作り出すという意味で、三木谷社長肝いりのサービスといえる。
現状の課題は、楽天市場からのさらなるユーザー取り込みと、店舗の利用促進だ。アフィリエイト報酬というインセンティブはあるものの、「小遣い稼ぎ」が前面に出ていてはユーザーも好感を持てない。サービスの根本にあるのは「自分のお気に入り商品を集めた部屋を作る」こと。「商品選びのセンスをたくさんの人に見てもらいたい」という人が増えなければ、そこを経由した購買行動も発生しない。そういう意味では、直接的に売り上げにつながる、店舗によるROOM活用を広げることも重要になってくる。