車内カタログから脱却、ウェブに舵取り 笹川俊成●ジェイアール東日本商事 取締役営業本部営業部長

東日本旅客鉄道(JR 東日本)グループのジェイアール東日本商事は、2019年よりネット販売の本格展開を図っている。これまで通販事業で長年展開してきた車両内で配布していた通販カタログを2018年末に廃刊。並行してJR東日本が運営する仮想モール「JRE MALL(ジェイアールイー・モール)」に、様々なジャンルの専門店を出店した。通販での主戦場を紙からネットへと移行する大きな過渡期を迎えている。カタログ通販で長年積み上げてきたノウハウやグループの資産を武器に、同社が目指す勝ち残りに向けたEC 戦略に迫る──。

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2018年12月号を持って車内カタログを廃止

スマホの登場で乗客の行動に変化

――まずは、現在行っている通販事業での販路について教えてください。

大きくは2つでECとカタログです。自社サイトのECではなく、JR東日本が2018年3 月に立ち上げた「JREMALL」の出店が今のメイン販路です。ここに8店舗を出しています。ネットでのそのほかの販路としては、楽天市場、ヤフーに規模が小さな形で出店しており、アマゾンにも出品しています。

――カタログ通販のイメージが強くありました。

元々は新幹線や一部の特急電車の車内(JR東日本の車両)で配布していた通販カタログ「Train Shop(トレインショップ)」を中心に展開していました。しかし、2018年にJRE MALLがスタートしたことも契機に、同年の12月号を持って廃刊となりました。当社もECに本格参入すべく、カタログ通販の縮小を進めているところです。過去にカタログ通販で購入されたお客様のご自宅などに配送している「東日本モノがたり」については継続しています。

――カタログからネットへのシフトを進めた背景とは。

トレインショップは売り上げ規模が大きく、これまでメインで展開してきたのですが、ここ3年くらいはスマートフォンの普及もあって新幹線の中でお客様の行動が変化し、紙媒体への関心が徐々に薄まってきました。実際にカタログ通販の利用者数も毎年減少していったので、事業環境が大きく変わったと判断しました。ちょうど、JRE MALLが開業してそこへの出店が決まったこともあり、カタログからECへと転換する判断となりました。

ただ、トレインショップは40万部を発行していて、いきなりそれを全部やめてしまうと既存顧客にも大きな影響が出てしまいます。東日本モノがたりは15万部出していますが、これについては既存顧客に向けてしっかり継続していこうということになりました。トレインショップの要素も少し残しながら東日本モノがたりと一緒にしたようなイメージです。カタログの顧客層としては60~70代が多いので、単純に「ECで買って下さい」ということでもないとは思います。お客様の買いやすいところで買ってもらえれば。

多店舗展開でニーズをつかむ

――JRE MALLには8つもの店舗を出店されています。

ECの世界は競合が多いので、単純にすぐ入って勝負ができるとは思っておらず、しっかりと戦略を考える中で細かく専門店を出そうという話になりました。当社のショップで購入する理由として、まず当社ならではの品ぞろえに注力できる分野にしようということです。具体的には電車グッズや、「Suica」のペンギングッズ、あとは元々、グループで地域の生産者との関係が深く、定期的に産直市みたいなことも駅などでやっていたので地産品も強いです。酒類については当社がメーカーから仕入れてグループに卸しているということもあり、品ぞろえが多いところです。

基本的にJRE MALLは「JRE POINT」が貯まって使えるため、鉄道駅・駅ビル、エキナカなどを使っている人が多いと思うので、各店舗ではそれらの方々をイメージして取り組んでいます。例えば、旅行をするアクティブシニア向けや、忙しいビジネスマンをイメージしたお店、働きながら家庭を支えている女性の方など。それぞれにテーマがあって、商品の軸から当社が強みを発揮できるもの、また、ターゲットや利用シーンをイメージして絞り込んで展開しています。

――主力商品となっているのは。

鉄道グッズ、Suicaのペンギングッズなどは、正直あまり競合がいないと言えるので、今回は商品開発をかなり進めました。Suicaペンギンのパスケース、電車や駅がデザインされたステーショナリー、バッグなどが売れています。また、最近では鉄道古物の販売も開始しました。解体した車両の部品の一部や、駅で昔使われていたものなどです。これまではJRの車両センターの鉄道イベントなどで販売しており、当初はネットを通じて売れるかという疑問もありましたが、予告販売したところかなりの反響があり、短時間ですぐに売り切れました。ネットを通じると全国各地から現地に行かなくても買えるメリットがありますし、我々としても新しい販路ができて良かったです。

――MDで留意していることとは。

鉄道グッズを扱う「TRAINIART(トレニアート)」という店をリアルで4店舗展開しており、元々、そちらの事業でグッズ開発していましたが、EC本格参入に当たりEC向けも意識して開発するようにしています。リアルでは単価が低くて安いものが出たり、一方でECでは送料があるので、比較的少し単価が高かったりサイズの大きいものなどが人気です。そこはうまく両方の特性を生かしながら商品開発をしていきます。

ただ意外だったのが、私もこの事業に関わる前は「鉄道グッズ」というとコアなファンをイメージしてましたが、実はお子様からの需要もすごく大きい。小さいお子様が電車を好きになると、そのご両親もそういった分野に興味を持ってくれる場合もあり、すごく顧客層が広いと感じました。古物などはコアなファンの方が中心ですが、もう少しライトな商品もたくさん作って両方提供できればと思います。

あとは地産品のところですが、そこも力を入れており、売り上げが良いです。例えば地域の生鮮品としては山形のさくらんぼ、福島の桃、新潟のお米など、地域ならではの産物がありますので、予約販売を行っています。生産者と地域商社を通じて調達しており、地域ごとで開催される農業者の方と流通業者とのマッチングイベントにも顔を出しながら、当社で扱えるようなところは積極的に扱っています。

以前のカタログでも食品をやっておりとても売れていたのですが、確実に物量を確保することや生鮮品ならではの扱いの難しさもありました。ECであれば状況に応じて画面上で商品を出し入れできるので、そういった意味では販売しやすいのかなとは思います。

通販含めて組織改正、店舗や卸と共にMDも

リアルイベントからの集客も

――新規顧客の開拓に向けては。

我々の取扱商品を知らないという人もまだまだいると思うので、グループの顧客接点を活用して、連動しながら入口を作っていくことも考えられます。例えば、上野駅で定期的に行っている産直市ではこの6月下旬に山形の生産者が集まって山形の商品を集めたことがあり、そこに連動してネット上にも売り場を作ってその地域のものを売っていきました。また、駅では売れないような消費期限が短くて商品管理の難しいようなもの、6月だけではなく夏からも本格販売できるようなものも集めました。今回、イベント購入者には(ECでも販売していることを案内した)チラシを渡して、JR東日本との共同企画で(モール内の店舗での)購入に対してポイントをプレゼントすることも行いました。これで新規顧客がかなり開拓できました。

同じような取り組みとして、JR東日本で旅行や地域のキャンペーンが行われている機会に合わせて、当社でも売り場を作ってご案内するという内容もあります。例えば、北陸のカニをPRするような旅行キャンペーンの時には、同じようにカニ特集のページを作ったりしています。基本的には「お取り寄せきっぷ」などの中でページにバナーを張ったり、連動した特設コーナーを作ったり、生産者の思いなど顔も見せながらの販売を行っています。リアルイベントは来場できる人も期間も限られています。人気商品については、年間を通しても販売していきます。

――顧客アプローチの方法は、試行錯誤が続いている。

ECだけではなく、リアルも含めての話ですが、興味を持って来店していただけた際に、最後の購入のところで売り場から離脱されてしまうことがあります。やはり、買いたいと思ったときにスムーズに売り場に来てもらえるか、いわゆる衝動買いのようなことを促す取り組みはしたいと思っています。ショップごとで明確に顧客層も違いますので、今は顧客ごとに意識しながらメルマガの配信なども行っています。ジネスマン向けには日中よりも夕方に送ったり、旅行を意識したアクティブシニアに向けては旅行シーズン前などでご案内するなど。今後、もう少し細かく顧をセグメントしてアプローチしていきたいです。

まずは認知拡大が大テーマ

――EC強化に関わることで、何か社内で変わった仕組みなどはありますか。

2018年12月に組織変更を行いました。以前は社内に「通販部」という専門の部署があり、そこで通販商品の仕入れから販売まですべて行っていました。しかしながら例えば酒類の取り扱いは別の組織、リアルショップでのグッズの取り扱いもまた別の組織とそれぞれが分かれていたので、それを一つにしようという話になったのです。

今は営業部の中で、通販も、鉄道グッズの直営店も、お酒の卸もすべて行うようになっています。仕入れやMDを行うチームは横串で一つの組織にしました。これまでは直営店のことだけ考えていたところを、ECも卸売りもすべてを意識してMDを行う体制になっています。まだ始まったばかりですが、少しずつ今まで以上に通販の品ぞろえもよくなりましたし、通販とほかの業態との連携もしやすくなりました。我々が強みを持つ商材はあらゆる媒体で販売しようという発想です。

――業界でも関心の高い昨今の物流事情について、懸念はありますか。

確かに宅配料金はここ数年で上がっています。実際、売価にも反映されており、売り上げにも少なからず影響は出ているかと思います。ただ、配送に限らず、倉庫や在庫管理、システムなど実コストが上がる部分については、我々も色々と勉強しなければいけないと考えています。今は板橋に通販専用の倉庫を持っているのですが、最後の配送は宅配会社さんなので、それまでの倉庫運用などでどれだけコストを抑えていくかということです。配送面でいえばリードタイムであったり、持ち戻りがないように、期日指定をしっかりしてもらえるようにするなど、取り組むことがあるでしょう。

――認知拡大は引き続き、大きなテーマとなりそうですね。

ECに本格参入してからまだ日が浅いので、我々ならではの品ぞろえがあることなど認知を上げる活動は必要です。JRE MALLという売り場は、私自身とても魅力的な売り場だと思っているので、多くの方々に知ってもらいたいと思います。グループで色々な事業をやっていて様々なネットワークがあるので顧客との接点も多いですし、各社と協業して多くの顧客に当社の強みも知ってもらえるように取り組めればと思います。

――そのほか、今後の取り組み予定について。

ECを展開するに当たってインフラを準備できないような会社もあると思います。当社では他社と協業しながらですが、倉庫やシステム、コールセンターなど通販専用のものを持っているので、その機能を外部にも提供するという支援業務も開始しました。すでにJRE MALLの(一部の)出店者さんの業務を請け負っています。

元々当社はカタログ通販を長年やっていたので、機能やノウハウは蓄積されています。やはり新しいモールに出店するとシステム連携やデータ処理などまた別のものになってしまうので、悩まれているケースもあるでしょう。出店したいけれども中々できないという会社さんには我々が協力して一緒に事業を作っていければと思います。

プロフィール

笹川俊成(ささがわ・としなり)氏 1968年生まれ。1992年東日本旅客鉄道入社。入社以来一貫して非鉄道分野を歩み、エキナカの小売流通事業や地域活性化事業に携わる。2017年ジェイアール東日本商事へ出向。通販部長や営業部長を経て、2019年6月より取締役営業部長。通販事業や酒類事業、鉄道グッズ事業を統括する。

取材後メモ

新幹線に座ると必ず目についた「Train Shop」。出張や旅行など移動の合間のひと時に、ふとページをめくっていた人も多かったのではないだろうか。このたび、その長い歴史に終止符を打ったことは寂しくもあり、また、時代の流れを感じさせる。駅、電車という日常の中でも膨大な人の出入りが生じる空間は、顧客接点として非常に大きな魅力を持つ。同社もここを一つのフックとして強く意識した商品を展開。社内組織も刷新して生まれ変わった中、グループの強みも生かしながら今後どのような仕掛けを起こしていくのか、引き続き注目したいところだ。

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