
楽天は5月9日、ドローンを使った配送サービス「そら楽」を開始した。千葉県御宿町のゴルフ場「キャメルゴルフリゾート」において、食料品や飲料、ゴルフボールなどをコース上の利用者まで届けるというもの。2016年3月に同社が出資した自律制御システム研究所(ACSL)のドローンを利用。楽天の「楽天技術研究所」が開発した画像認識技術を搭載、荷物を自動的に離す機能を備えるなど、改良を進めた。同社では、1カ月間の予定でサービスを実施。利用者の反応を見ながら拡大する計画で、将来的には仮想モール「楽天市場」の商品を、ドローンで配送したい考えだ。

シート上の「Rマーク」を自動認識し、着地体制に入る

アプリで注文ステータス確認
楽天によれば、ドローンを使った商用の配送サービスは世界初という。三木谷浩史社長はゴルフ場からサービスを開始する理由について、「広大な開けた空間があり、ユーザーニーズが明確だ。また、安全性を重視するという意味で、非人口密集地で規制対策が比較的容易。さらに、日本には3000以上のゴルフ場があり、市場規模も大きい」と説明する。
ACSLが開発した機体を改良したドローン「天空」には、自動操縦機能が搭載されている。利用者は専用スマートフォンアプリから、プレー中のホールを選択。その後商品を注文する。一度にドローンに積める荷物は2キロまでだが、風速によって許容荷重が変わるため、運搬可能な重量を、都度アプリ下部のゲージで表示する仕組み。受け取り場所は15番ホールのみで、最初に入力してもらったプレー中のホールを参考に、利用者が来ると予想される時間にあわせて、ドローンの到着を調整する。なお、配送料は無料だ。
支払いはクレジットカードか楽天スーパーポイントによる。注文後に商品がドローンに搭載され、飛行、荷降ろし、帰還までがすべて自動で行われる。アプリでは、商品発送準備や飛行開始時に、手持ちのスマートフォンにプッシュ通知される。また、アプリから「配達準備中」、「飛行中」など、注文した商品のステータスを確認することができる。
ドローンはGPS機能を使い、指定した場所まで飛行するが、「誤差が4~5メートル生じる」(ACSLの野波健蔵社長)。ゴルフ場でこれだけの誤差が起きると、池や樹木などが障害となる恐れがある。そのため、楽天技術研究所の画像認識技術を搭載。GPSが途切れた場合でも、目的地に向けて飛行可能だ。着陸点にあるシート上の「Rマーク」を認識し、50センチ程度の誤差で着陸することができる。また、ACSLのドローンは、風に強いフライトコントローラーを実装しているため、湾岸のように風の影響がある地域でも、風速8メートルまでなら飛行できるという。

楽天の三木谷社長㊨とACSLの野波社長

改良し最大荷重を大幅増へ
千葉大学教授でもある、ACSLの野波社長は、今回の取り組みについて「空の産業革命の第一歩が始まった一日だ。新しい歴史が開かれ、イノベーションがいよいよスタートしたという実感がある」とコメント。野波社長によれば、アメリカではアマゾンが13年にドローンによる商品配送構想を公表したものの、実用化のめどは立っていないという。今回の楽天とACSLの取り組みは、ドローンを使った商用の配送サービス開始という点において、ライバルに先んじた形だ。
今後、楽天ではドローン配送をどのように拡大していくのか。まずは1カ月間サービスを展開し、改善すべき点を洗い出す。三木谷社長は「技術とオペレーションを蓄積し、デリバリーも含めた一般的なショッピングにドローンを展開していきたい」と話す。将来的には、楽天市場出店者の商品もドローンで配送する仕組みを作っていく。今回のドローンは最大荷重が2キロだが、「安全性や騒音の問題を解決し、10キロ程度まで運べるようにしたい」(ACSLの野波社長)という。
災害時の活用も
まずは山岳部や過疎地など、車で配送するにはコストがかかる地域への配送手段として確立したい考えだ。都市部については「着陸ポイントなどインフラさえ整えば商用ベースに乗ると思う。ただし、規制の問題があるので、安全性を実証しながら、国や地方自治体に認めてもらえるようにしたい」(三木谷社長)。さらには、今回の熊本地震のような大きな災害が起きた際に、現地へ医薬品などを届ける手段としての活用法も模索する。
楽天では千葉市などと連携し、千葉市美浜区の幕張新都心でドローンの実証実験を行っているが、これは国家戦略特区の規制緩和を活用したものだ。楽天ではネット販売における商品配送の実用化に向けて、実績を重ねていく考えだ。
三木谷浩史会長兼社長に聞くドローン配送の将来性とは
「インフラ整えば商用ベースに」
4月25日の発表会における、三木谷浩史社長と記者との一問一答から抜粋し掲載する。
――今後のサービス展開はどうするのか。
「ドローンを使った実験はこれまでも行われてきたが、このように商品がドローンで届く、しかも完全自動運転というのは世界初の取り組みではないか。これをベースに、どのように本格的なサービスにしていくかということになる。プランはすでにいくつかあるが、早い段階での大規模な展開を進めたい」
――独自開発の画像認識技術があるとのことだが、ハード・ソフト含めてどこが差別化ポイントになるのか。
「基本的には正確に届けること、安全に届けることが一番重要になる。画像認識にしても、GPSだけでは50センチ以内に着陸することはできない。マニュアル操作よりも、コンピューターによる自動制御の方が安定している。安定飛行と安全な着陸・離陸を複合的なテクノロジーで実現していく。災害地への配送や山岳部への配送のように、ユニバーサルにサービスを提供するなど、より日本に特化したサービスの実現が差別化につながる」
――1カ月後をめどに今後のサービス展開を検討するとのことだが、継続を基本線とするのか。
「改善しなければならない点が出てくるほか、ロケーションを考える必要が出てくるかもしれないので、1カ月サービスを実施し、継続するかどうか、改善が必要どうかを検討する。ただ、基本的には改善点の洗い出しをするということだ」
――ACSLに着目した理由は。
「まず、がっちりとタッグを組んでいける会社であるということ。また、ドローンはさまざまな技術の組み合わせが必要になるので、日本の会社であることは重要だ。フライトコントローラーを社内で開発しており、問題があってもすぐに解決してもらえる点が大きい。例えば、画像認識技術をフライトコントローラーに組み込むにはかなりの作業が必要になるので、日本メーカーの方がやりやすい」
――楽天市場での活用に向けて。
「ロケーション的に言うと、都市部よりは、例えばお年寄りがなかなか近くのお店にいけない、というような地域から展開していきたいと考えている。都市部については規制の問題がある。実証実験をしながら、地方自治体や国と相談しながら展開する。最終的には、楽天市場出店者の荷物もドローンで配送できるようにしていく。都市部は人間が運んだほうが効率良い場合もあるだろうが、人口の密集度によっては、ドローンで配送したほうが安全であり、コストも安いということも考えられる。ただ、都市部もインフラさえ整えば商用ベースに乗ると思う。全国で展開するには、専用着陸ポイントなど環境の整備が必要になる」
――出店者の荷物を配送する場合、いったん荷物を拠点に集めてからドローンで配送するのか。
「そこまで行くにはもう少し時間がかかる」
――配送コストについて。
「物流に関する最大のコストは人件費だ。ドローンはこれがゼロなので採算は合うだろう。また、空から直線で届けられることを考えると、将来的には配送のうちかなりの割合がドローンになってもおかしくない」
――事業の収益性について。
「最初から利益を出すことは考えていない。軽量の生活必需品、なおかつ緊急性の高いものついては十分商用ベースに乗るのではないか。将来的には運べる重量・距離・速度を上げていくことになるだろう」
――海外展開は行うのか。
「もちろんやっていきたい。風に強いという特徴があるので、日本で飛べるなら海外でも飛べると思う」
――ドローン量産化のめどは。
「体制を整えているところだ」
――ドローンによる配送が当たり前になるのはいつ頃だと思うか。
「少なくとも10年後には当たり前になっているだろう。安全性については、空は道路と違って三次元の空間。道路のように渋滞がないので、物流における生産効率の爆発的向上の可能性がある。安全性をクリアしながら、ドローンがたくさん飛んでいるという時代が来るのではないか」