オムニ時代の最重要チャネルに 有力アパレルのEC戦略は?

主力ブランド「ナチュラルビューティーベーシック」 のO2Oサイト

ネットで服を買うことに抵抗がない消費者が増えている中、これまでは「ゾゾタウ
ン」など大型ファッション通販モールをウェブ上の主力売り場として活用していたア
パレル各社は、自社ECを経営戦略上の重点領域に掲げ、実際にこの2~3年で大
手を中心に自社ECを大きく伸ばしている。スマホの浸透も手伝ってリアル店舗と
ECをうまく使い分ける消費者は増えており、オムニチャネル化に向けても自社EC
の重要性は高まるばかりだ。注目すべきアパレル企業のEC戦略とは。

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ブランドのアプリを徹底活用ネイティブECアプリ化も

【事例① TSI ホールディングス】

TSIホールディングスはこの数年、不採算店舗の撤退を加速する一方で、ネット販売チャネルへの投資を強化してECの規模拡大に力を注いできた。2022年2月期までの5カ年計画においても、EC売上高は前期(17年2月期)実績のほぼ倍となる500億円を目標とし、EC化率も前期の16%から25%を掲げている。
現状、グループのECは順調に拡大しており、前期のEC売上高は前年比29.4%増の255億円となった。商品の店頭受け取りや取り寄せ(試着予約)、店舗在庫の確認などができるブランドごとのO2Oサイト(オムニチャネルサイト)が16年2月期までにほぼ出そろって、前期は年間を通じてO2Oサイトが機能し、EC化率が5%程度と低いブランドが軒並み10%を超えるなど、EC売上高が底上げしたことで、「ブランドスタッフの意識が実店舗からECにマインドチェンジした“元年”になった」とグループのEC機能子会社であるTSIECストラテジーの柏木又浩社長は言う。
TSIの場合、グループ内にEC化率が40%を超えるナノ・ユニバースや、30%に近いアルページュといったベンチマーク(指標)があることも奏功している。ECではブランドや商品の情報をウェブ上でいかに伝えるかが大切になるが、ナノ・ユニバースでは商品カテゴリーごとに掲載すべき情報やビジュアルのあり方を独自の視点で持ち、これらをテンプレート化してグループ内で使えるメリットがある。

前期の後半からはスマホファーストに着手しており、17年2~4月にかけて約20ブランドでスマホアプリをスタートした。アプリはメンバーズカードの機能を搭載しており、各ブランドの店舗ごとに競いながらアプリへの切り替えを推進している。

同社によると、リアル店舗とECの併用客はひとつの販売チャネルしか使わない顧客と比べて購入金額が3~4倍になることから、併用客を増やすためにもアプリの果たす役割は大きいという。

「フリーズマート」では店舗スタッフのインスタ画 像をECにも掲載する

カゴ落ちをアプリで通知

今期は“イミディエイト”と“パーソナライズ”“オーセンティック”の3つをキーワードにECを強化する。イミディエイトは“速さ”を意味し、すべてにおいて速度を重視していく。モバイル化するほど決済までのスピードが大事で、導入を進めるアプリについても、決済までアプリ内で完結する“ネイティブECアプリ”とする計画で、17年秋をメドに主要ブランドから切り替えていく。
“パーソナライズ”では、前期からマーケティングオートメーションのツールをテスト導入した。通常は、カゴ落ちやブラウザ落ちしたユーザーに対し、リターゲティングメールを配信して再訪問を促すが、今期はこれをアプリで実行していく予定で、例えば、アプリをダウンロードしたものの1カ月間起動してないユーザーに自動でプッシュ通知を送ったりする。この場合、ツールをアプリに埋め込む技術が必要になるが、プッシュ通知はメールよりも4倍程度開封率が高まると言われていることからも、17年秋のネイティブECアプリ化に合わせて対応することで、アプリでの売り上げ拡大につなげたい考えだ。

“オーセンティック”は本物、信頼性を意味するワードで、商品レビューなど消費者の求めるコンテンツを充実させる。一環として、前期は米ベンチャー企業の画像プラットフォーム「オラピック」をテストした。同ツールを使えば、インスタグラムに投稿した画像を通販サイトにも表示でき、人気ブランドの「フリーズマート」ではショップスタッフのコーディネート画像をすべて商品詳細ページに組み込むことでコンバージョン率が改善したのに加え、顧客からの問い合わせや評価が増えたという。
TSIでは、ECの商品詳細には、置き撮りなどアイテムがよく分かる画像と、モデルの着用画像、店舗スタッフなど身近な人のコーディネートスナップといった3つの画像が必要としており、「フリーズマート」では今期、サイト下部に掲載しているインスタ画像の中に顧客が撮影した写真も入れていく考えで、例えば、リアル店舗で商品を試着した写真を投稿すればポイント付与などのインセンティブを設けることで、常に新しい写真がアップされるサイトを目指す。

また、同社ではユーザーが安心してECを利用できるように“グーグル認定ショップ”の取得を進めており、すでにグループのO2Oサイトの7割程度が取得している。モバイルフレンドリー対応はもちろんのこと、「信頼できるECであることを打ち出していくのは公式サイトとしては重要で、評価の高いサイトが検索上位になっていくのは明らかだ」(柏木TSIECストラテジー社長)と指摘する。

モールとの基幹連携を推進

自社のO2Oサイトだけでなく、EC売上高の60%程度を占めると見られる他社ファッションECモールの活用については、在庫とデータの基幹連携先を徹底的に増やしてきた。前々期に5つのサイトと、前期は9サイトとのつなぎ込みを行い、合計14サイトと連携が完了している。今期はさらに海外のECモールも含めて基幹連携先を拡充する。
海外展開については、巨大市場の中国ではメインの売り場を「タオバオ」と「Tモール国際」に絞る方針だ。「タオバオ」は卸サイトのため、バイヤー向けにオンライン上で卸す仕組みを作った。「Tモール国際」ではアウトレット商材を活用してテスト販売を行ってきたが、今期はプロパー(定価)のアイテムを中心に展開することにしており、すでに基幹連携も完了しているという。今上期は「Tモール国際」にすでに出店している「ジルスチュアート」と「ジルバイジルスチュアート」の2ブランドで再テストを行い、その結果を受けて下期から展開ブランドを増やしていく。
ただ、現状では越境ECに取り組むものの、中国で生産している商品も多いため、最終的にはローカルの「Tモール」での販売に切り替えていきたい考えのようだ。

TSIECストラテジーの柏木又浩社長が語る

スマホ時代の戦い方とは

今期の大きなミッションのひとつがECと実店舗の併用客を増やすことです。スマホファーストに本格的に取り組んでいて、ブランドごとにスマホアプリの立ち上げラッシュが続きます。アプリはメンバーズカードの機能も搭載していますので、ECと実店舗をつなぐ役割も担います。また、LINEも利用者がログアウトしない数少ないメディアですので、LINEから各ブランドのアカウントに入れば、すぐにバーコードの画面を表示できるというメリットがあります。
自社アプリでは、モバイル化が加速すればするほど決済までのスピードが大事になりますので、ウェブアプリからネイティブECアプリにしていくことが不可欠です。秋には主要ブランドから次、切り替えていくことになります。

マーケティングオートメーション(MA)のテストを進めていますが、カゴ落ちユーザーなどをメールベースで追いかけるのではなく、アプリで実行していく予定で、開封率と成約率の改善につなげます。秋のアプリ切り替え時には売り上げの起爆剤になると思います。MAはLINEとも連携させる予定で、グループの主力ブランド「ナノ・ユニバース」などで実装します。

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