開発や改善に時間を充てる工夫を 村田高宗●waja 代表取締役CEO

海外ファッションのネット販売を手がけるwaja(ワジャ)は、この2~3年の低迷期を脱し、今期(2017年9月期)の業績は計画を上ブレする見込みとなるなど好調のようだ。「あんしん保証」サービス導入に伴う100%当日発送へのチャンレンジや、働き方改革などに着手しているほか、今期中には同社独自の“ささげ”サービスを外販する計画もあるという。村田高宗CEOが語る足もとの取り組み課題と事業戦略とは。

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2年間もがき苦しんだことがエネルギーになった

今期は単月黒字を維持

――社長就任後は厳しい時期が続いたようですね。

3年半前に就任しましたが、2期連続の赤字や、2003年の創業以来初の減収も経験しました。ただ、今期は好調で、上期(2016年10月~17年3月)は2年間もがいて苦しんだ分がエネルギーになり、果実として実っています。社長になって最初に、ファッションアイテムの寄付とお買い物で社会貢献できる通販サイト「ファッションチャリティープロジェクト(FCP)」を立ち上げました。その後、リブセンスとの資本提携や、アウトレットECではビービーエフが運営する「プレミアムブランドアベニュー」を当社の「リーズンアウトレット」に統合しましたが、想定したスピード感でシナジーを出せませんでした。ただ、PDCAがしっかり回り始めた2016年10月から業績が好転し、単月黒字を維持しています。上期は通期の経常利益目標に届きそうなくらい好調です。

――結果が出ないときにスタッフの士気を保つ工夫はありますか。

施策が結果的に実になるかどうかは外部環境などさまざまなことに影響されます。その中で、打った手の効果測定に少し時間を割いて、良かった部分、悪かった部分をそれぞれ現場にしっか伝えていくことに気をつかいました。改善している部分を共有し、見える化することが大事です。

――役職も変更されました。

2016年10月に役職変更を行い、初めて管掌をやめました。創業以来、COOの小安とふたりの役割を縦割りで決めていましたが、すべての業務にふたり同時にかかわることにしました。その時に同じ役割では現場が混乱しますので、私が意思決定や方向付けを行い、小安は現場に深くかかわりながら決めたことの執行に専念します。こうした役割分担が上期好調の要因のひとつだと思います。

――サイトにも手を加えました。

サイトの常時SLL化やインフラの増強に加えて、ネーミング変更も行いました。「waja」のキャッチコピーを“世界のファッションが買えるマーケットモール”から“全品検品、共通サイズ表記のマーケットモール”にしましたし、海外に住むバイヤーさんが出品するマーケット名を「バイヤーセレクト」から「ワールドローブ」に変更しました。バイヤーさんが買い付けた日本未入荷のインポート商品や未上陸のレアブランドといった品ぞろえと仕組みの強みを再確認して、打ち出すものの整理整頓をしました。

保証サービスを充実

――16年11月に「あんしん保証」を導入しました。

「あんしん保証」は、当社が商品を検品し、お預かりし、消費者にお届けするための裏側の部分をしっかり伝えたいというのが出発点です。これまでも「返品保証」や「ブランド保証」など顧客の不安払拭につながる保証サービスを行ってきましたが、当日発送を正式な保証内容に加えることで、利用者から商品価格の2.16%を、1万円以下の商品は一律216円を保証料として頂くことにしました。すぐに届くという「当日発送保証」は一番コストのかかる部分です。

――以前から当日発送に取り組んでいました。

元々、平日午後1時までの注文分の9割程度は当日発送できていましたが、「これくらいできていれば」という甘えがありました。残りの1割にも対応するために業務フローを見直し、現状は99%くらいまできていて、未対応分はクーポンでお返ししています。「あんしん保証」を導入する怖さはありました。すでに大半の商品はすぐに届いていますので、単純に値上げと思われてしまう可能性がありましたが、蓋を開けてみると顧客の離脱にはつながりませんでした。始める2~3週間くらい前に告知を行い、説明ページも用意しました。「あんしん保障」の導入は利益面にも貢献しています。

――上期は米大統領選での特需がありました。

ドナルド・トランプ米大統領の娘さんが立ち上げたファッションブランド「イヴァンカ・トランプ」が非常に売れました。米大統領選で一躍有名になりましたが、日本での取り扱いが非常に少ないブランドです。ただ、当社はバイヤーさんが買い付けた日本未入荷のインポート品などを販売しているのが強みで、「イヴァンカ・トランプ」の商品も2012年から取り扱いがあり、話題になったブランドをすぐ販売できたことが売り上げに直結しました。

――テレビでも御社サイトが紹介されました。

大統領選挙の前後で「イヴァンカ・トランプ」がクローズアップされたときに、「waja」のページが検索上位にあったことでサイト訪問者が増えましたし、国内の倉庫に在庫を保管していたことで、テレビを中心としたマスメディアの取材にもスピーディーに対応でき、通販サイトがとり上げられる機会も増えるなど好循環が生まれました。その後、米国で「イヴァンカ・トランプ」の非買運動が始まると、「日本ではなぜそんなに売れているのか」という関心を持った米国や英国のメディアからの取材もきました。「イヴァンカ・トランプ」の知名度が急激に高まる中で、バイヤーさんが商品確保に動き、また、インフラ面の増強も間に合ったことでアクセスが増えてもシステムのスローダウンは起きず、しっかりと売り上げにつながるなど、あらゆる歯車が噛み合って、本当に今期を象徴する出来事となりました。

――具体的な数字はいかがですか。

選挙戦直後となる16年11月の「イヴァンカ・トランプ」の注文金額は207万9340円で前年同月比約16倍となりました。大統領就任後の17年2月は567万2750円と約109倍になりました。通常であればアパレルの閑散期である2月に販売量が伸びたことも大きいです。会社全体の2月の売り上げは「イヴァンカ・トランプ」効果もあって過去最高に、3月も引き続き好調に推移して単月で過去最高となり、利益面にも貢献しました。「イヴァンカ・トランプ」は今も売れています。

働き方改革などに取り組む

――今期、力を注いでいることを教えてください。

今期はとくに、「大型化」と「サイズ」、働き方に関する標語「622」の3つに取り組んでいます。「大型化」とは、世界中の法人と個人のバイヤーさんに対して売れるコンサルティングにしっかり取り組むことでバイヤーさんの大型化を目指します。そのためにも、社内にMD担当を置き、情報を収集した上でコンサルティングに生かします。今期は、大型のバイヤーさんをさらに大きくというところから、中型のバイヤーさんやストアさんへのコンサルティングに力を注いでいます。

――とくに強化しているエリアやブランドなどはありますか。

当社のコンサルタントが米国に出張することはありましたが、今年初めて欧州にも出張して何人かのバイヤーさんと会ってきました。米国と欧州では、商材も価格帯も税制もまったく異なるのに、これまでは同じようにサポートしていましたが、これを改めたことで成果が出始めています。当社では、プチプラのブランドが集まっていたり、アウトレットが充実している米国に大型のバイヤーさんが集中していますが、「ワールドローブ」とうたっている以上、北米に片寄った状況を改善する必要があります。サイト上で世界の旅気分が味わえるように、欧州やアジアなどのバイヤーさんに対するコンサルとサポート体制を強化していきます。

――「サイズ」については。

当社は全品検品、共通サイズを標語に掲げていて、これらは強みのひとつです。世界中のファッションアイテムを扱う中で、サイズ感は国によって異なりますが、当社が検品・採寸することで利用者に安心を提供します。せっかく持っている武器を有効活用するためにも、各アイテムには当社独自の基準で振り分けた全ブランド共通のサイズとして「wajaサイズ」を表記しています。

――働き方に関する「622」とはどんな意味ですか。

「622」は時間配分のことで、6割を開発・企画に、2割を改善活動に、残りの2割を運用する時間に使おうと言っています。前期は運用面に多くの時間を費やしていました。例えば、何かを修正するときにプログラムを変更してテストし、リリースするという一連の作業を3人くらいのスタッフで取り組んでいたときに、修正したい人が直接、画面を編集できる機能があれば運用時間は大幅に短縮できます。サイトへの反映を現場の担当者が実施できる状況を作るなど、運用時間を一度、ギュッと絞りました。現場では多少の混乱はあったと思いますが、今はうまく回り始めています。時間の使い方を変えたことが上期の成果につながっていると思います。

――時間配分は大事ですよね。

そうですね。「622」の取り組みと連動して「ロケットスタート」という言葉も掲げています。これは、締め切りまでのタイムリミットのうち、最初の2割の期間に全体の8割を終わらせて、残り8割の期間に2割を仕上げることを目指します。仮に最初の2割の期間で全体の6割しかできなかった場合は、その時点で再度マイルストーンを置いてチェックするようにします。

“イヴァンカ特需”は好調な今期を象徴する出来事だった

“ささげ”サービスを外販

――懸案の「FCP」についてはいかがですか。

「FCP」はこれまで、既存顧客に対して紹介してきましたが、新しいマーケットのため、新しい顧客の開拓が必要です。NPOさんと一緒に社会貢献とファッションを組み合わせて新しい客層を開拓していきます。NPOさんのマネタイズができる水準に事業を育てたいですね。

――スマホファーストの時代となりましたが、スマホ対応で気を付けていることなどはありますか。

スマホ対応というのは、昔は画面対応のことで、パソコンで見やすいものをスマホ用に置き換えただけでした。そこは一巡して、顧客の行動が大きく変わりました。パソコンでは平均10分くらい滞在していましたが、スマホでは滞在時間は半分になり、閲覧できるアイテム数はパソコンの10分の1くらいになっています。ただ、スマホでの訪問頻度は高まっていて、消費者の行動の変化にEC側の機能が追いついていません。お気に入り商品の上方はメールで教えてくれて当たり前という感覚になっています。いろいろなアラートを送ってくれることに麻痺しているのだと思います。訪問するきっかけを適切なタイミングで伝えることが大事で、タイミングと内容が一致しないとダメです。

――上期好調で下期の計画に影響は出てきますか。

今期の着地が上ブレする見通しとなったことで、期初計画にはなかった“ささげ”サービスの外販に取り組みます。古着市場の盛り上がりもあり、当社の1点物や多品種小ロットに対応できる“ささげ”のニーズが高まっていて、この仕組みをクラウドサービスとして提供します。また、改善プラットフォームのツールも一緒に提供すことになります。今夏のサービス化を目指します。2~3年は国内に注力しますが、4~5年先にはグローバルでのニーズにも応えていきたいです。ささげ業務はあまり言語を必要としない仕組みですので、対象となるマーケットは大きいと思います。

◇プロフィール

村田高宗(むらた・たかひろ)氏 早稲田大学教育学部理学科生物専修卒業、1996年松井証券株式会社入社、2004年waja取締役就任、07年代表取締役副社長就任、13年代表取締役社長兼COO就任、16年から現職。

◇取材後メモ

wajaは世界中のバイヤーが買い付けたファッションアイテムを販売しているため、日本未入荷のブランドやアイテムも手に入れることができます。ファッション通販サイトがあふれる中、品ぞろえで差別化できることは強みで、価格競争にもさらされにくいビジネスです。この数年は新しい事業やアライアンスの成果を十分に発揮できず、業績は低迷していましたが、働き方改革や、100%当日発送に挑戦することで従来はなかった保証料を徴収するなど、新たな取り組みが業績回復のエンジンとなったようです。今期は米大統領選で知名度が急上昇した未上陸ブランドを日本に居ながら購入できるという同社のビジネスモデルにスポットが当たり、“特需”の恩恵も受けました。ようやく訪れた追い風の中、村田CEOが繰り出す攻めの一手にも注目です。

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