健康食品通販を行うだいにち堂が2018 年8月、景品表示法に基づく「措置命令(行政処分)」の取り消しを求めて消費者庁を提訴した。だいにち堂をめぐって17年3月、消費者庁がアイケア関連の健食の表示が「優良誤認」にあたるとして処分を下していた。ただ、処分以降、命令に従い通常であれば行われるはずの日刊紙等への「謝罪社告」の掲載が行われておらず音沙汰なし。消費者庁が「個別案件に答えられない」と沈黙すれば、だいにち堂も「答えられない」と黙し、その動向が注目されていた。だいにち堂は、昨今、健食のネット販売企業で取扱いが増えている「アイケア」関連で初の処分でもあり、係争の行方が注目される。
アイケア訴求の健食で処分
だいにち堂は、販売するアイケア関連の健食「アスタキサンチン アイ&アイ」について朝日新聞に出稿した広告で「ボンヤリ・にごった感じに」「ようやく出会えたクリアでスッキリ」などと表示。また、眼鏡をかけて読み物をしている中高年男性の写真とともに「新聞・読書 楽しみたい方に」「読書に集中できない」「パソコンや携帯の画面が…」「『アスタキサンチン アイ&アイ』でくもりの気にならない、鮮明な毎日へ」などと表示していた。
消費者庁は、「不実証広告規制」(「優良誤認」が疑われる表示に絡み、表示の合理的根拠を要求し、その資料から表示と不当とみなすことができる規制)に基づき根拠を要求。だいにち堂からは動物試験やヒト臨床試験の結果が提出された。
ただ、「ヒト試験の論文に書いてある摂取量より、商品に含まれる成分量が少なかった」(消費者庁食品表示対策室)として表示の裏付けとなる根拠と認めず、「あたかも摂取することで目の症状を改善する効果が得られるかのように表示している」と、措置命令を下した。
処分当時、だいにち堂はホームページで「表示は社会通念を逸脱したものではなく、優良誤認にあたらない」との認識を意見表明。措置命令が商品に対する顧客の理解を歪め「業界全体を萎縮さえる恐れがある」として法的措置にでることも検討するとしていた。
ただ、その後、音沙汰なく、消費者に処分を受けた事実の周知に向け求められる新聞への「謝罪社告」の出稿も行われず時間が経過していたことからその動向が注目されていた。提訴までの間、だいにち堂では、消費者庁に処分取り消しを求める審査(異議申し立て)を請求。だが、18 年2月、この請求が棄却されたことから提訴に踏み切ったとみられる。
「一定の誇張は許容されるべき」
訴状では、だいにち堂は「ボンヤリ・にごった感じ」など、消費者庁の指摘を受けた表現が「優良誤認」にあたらないと主張している。というのもこれら表現はいずれも「抽象的なものであり、主観的な感情表現、印象に過ぎない」ためだ。通常の広告が持つ顧客誘引力を超える効果を表現するものではないとしている。
また、「そもそも商品である以上、何らかの効果を表現するのは当然であり、それが違法にならない範囲で商品特性の理解を(消費者に)求めることが広告技術」としている。要は、表現は、広告に許容されるべき誇張の程度を超えるものではなく、健食の〝イメージ訴求〟も一定の範囲で許されるべきと主張するものだ。
消費者庁の法運用は「違法」
この点、表現が「誇大」の範囲を超えるか否か、主観的要素も強いため判断は難しい。ただ、興味深いのは、消費者庁による「不実証広告規制」の運用の面から、処分が不当と主張していることだ。
「不実証広告規制」は、「優良誤認」が疑われる場合、行政が活用できる規制手法として05年に導入された。以前は、行政に不当表示の立証責任があったが、導入により立証責任は根拠を提出する事業者側に移り、その根拠を持って不当か否か判断できる〝みなし規定(提出がなければ不当とみなすことができる)〟として処分件数を飛躍的に伸ばすきっかけになった。
だが、だいにち堂が問題視するのは、この規定の運用にあたり、消費者庁が「ボンヤリ」といった表示に「不実証広告規制」を使える、と判断するに至った前提条件の「優良性」の理由を説明していないこと。理由が説明されなければ、企業はそもそもこれを不当処分として争うことができないとしている。つまり、〝なぜダメなのか〟の説明なく「あたかも目の症状を改善する表示」と一方的に断じられたことが〝おかしい〟と言っているわけだ。明確な説明なく「不実証広告規制」を使ったのは違法な手続きであり、よって処分も取り消されるべき、という主張を行っている。
裁判は、まだこれからでその行方は分からない。ただ、複数の法曹関係者の意見を総合すると、だいにち堂の分が悪いという意見が多数を占める。窓ガラス用断熱フィルムの製造販売を行う翠光トップラインと子会社のジェイトップラインに対する措置命令をめぐり、2社が消費者庁を相手取り、処分取り消しを求め提訴した際も「同様の主張がされた経緯があり、結果として『措置命令は妥当』と判断されたため」(景表法に詳しい弁護士)とするためだ。
転換期迎えた健食の「広告表現」
いずれにしても、今回の処分で印象づけられたのは、健食をめぐる規制環境が転換期を迎えているということだ。
だいにち堂の処分当時、業界関係者からは「昔は自治体に相談に行くと〝朝毎読売の審査が通るような広告にしてください〟と言われ、正直、新聞考査を盾にしていた」「もっとひどいものはある。これがダメなら全部ダメ」といった声が寄せられていた。読み物をする中高年男性など生活シーンをイメージさせる写真やイラストとともに、間接的な表現によって消費者に連想させる広告は、多くの企業が行うところでもある。
例えば、目や耳の健康のイメージにつながる「目からウロコ」「耳より情報」はお得情報の意味、血液を連想させる「サラサラ」は顆粒の状態、関節を想起させる「ふしぶし」は季節の変わり目、といった具合に、直球的な表現を避け、言い換え可能な表現で抗弁し、てきた。だが、今回の処分はこうした〝言葉び〟が通用しないという消費者庁の強いメッセージを感じるものでもある。
背景に機能性表示食品制度の導入も
機能性表示食品制度の導入も影響しているとみられる。これまで、健食では明確に「目の健康」や関節、ダイエットなどの機能を表現することが禁じられてきた。だが、制度の導入以降は、これら表現を機能性表示食品として届け出て、表示することが可能になっている。その範囲は、目や関節、肝臓、脳機能、便通改善、尿酸値の改善などトクホでも認められなかった範疇を含め広がっている。
一方、これら機能性表示食品で表示が可能になった分野と同様の表示を〝健食〟で行おうとすれば注意が必要といえそうだ。事前に明確なヒト臨床試験の評価結果など根拠提出が必要な機能性表示食品に対し、健食は保有が義務づけられているわけではなく、保有の有無があいまいな中で事業展開することが可能であるためだ。
17年3月のだいにち堂に対する処分と前後して、消費者庁は処分に至らないものの関節ケアをうたう健食を販売するある中堅の健食通販企業に対する行政指導を行っている。
指導の内容は、階段を上り下りする高齢女性の写真とともに「きしみが聞こえない」「軟骨成分を補充」などと表示していたことに対し、「あたかも関節の曲げ伸ばしによって生じる身体の痛みが緩和・解消されるかのような表示」と指摘するものだ。これも機能性表示食品で可能な「関節ケア」に関するものになる。
また、機能性表示食品で認められていないものの、医薬品で可能な表現の規制を進めているきらいもある。昨年末あたりから〝「ジージー」「キーン」といった音の悩みに〟など、難聴に悩む層への訴求をイメージさせる健食を扱う複数のネット販売企業に対する調査も行われているためだ。
調査が指導で終わるか処分に至るかはまだ不明だが、これまで健食といえば痩身効果(ダイエット)をうたうものに対する処分が一般的だった。だが、「アイケア」の健康食品に対する初の処分しかり。制度の導入し、これを国が推進する中、機能性表示食品で活用が進む分野に対する監視の目が厳しくなっていることを意識する必要がありそうだ。