楽天と日本郵便は2020年12月24日、物流事業で戦略的提携を結ぶと発表した。日本郵便が持つ全国の物流網や荷物とデータ、楽天が有する仮想モール「楽天市場」での需要予測や物流領域における受注データの運用ノウハウなど、両社のデータを共有化することなどにより、物流のDX(デジタルトランスフォーメーション)化を進める狙いがある。
データやAIを活用
両社はこれまでも、楽天が運営する物流センター「楽天フルフィルメントセンター(RFC)」からの配送に加え、不在再配達削減に向けた取り組みや楽天市場出店店舗への特別運賃提供などの協業を進めてきたが、両社の関係をさらに強化する。
今後はRFCと日本郵便の配送網、地域の郵便局、楽天の配送サービス「楽天エクスプレス」を両社で活用。デジタル化を進めることで、顧客体験向上や業務改善につなげる。具体的には、データや人工知能(AI)を活用し、利便性の高い受け取りサービスと、効率の良い配送システムを構築する。また、ビッグデータやAIのほか、自動倉庫やドローン、自動走行ロボットの活用も進める。
これにより、ユーザーは「欲しい時間に欲しい商品を、欲しい場所で一度に受け取る」ことができるようになるほか、荷主側は出荷キャパシティーの拡大や物流サービス工場による顧客育成と物流コスト削減につなげることができる。また、物流事業者側は、物流のDX化により、業務改善が図れるメリットがある。
楽天市場以外の荷物もまとめて配送
また、両社の資産や知見を活用することで、新たな物流プラットフォームを構築。プラットフォームはオープン化していく予定で、楽天市場の出店店舗が競合となる仮想モールで受注した商品配達に加えて、他の配送事業者や、物流代行事業者との提携も視野に入れる。「より効率的なネットワークにしていくには、オーダーごとの配送ではなくまとめて配送したり、楽天市場以外の店舗の荷物もまとめて配送したりしていきたい」(楽天の三木谷浩史社長)。
物流事業以外でも、金融、モバイルなどの事業でも提携について協議していく。金融では、キャッシュレス決済サービスの連携、モバイルでは、楽天モバイルの拡大向けた全国の郵便局の活用策を検討する。合意した連携については、3月に締結を予定している最終合意書に盛り込むという。
データ活用し効率よく配送
楽天では近年、「ワンデリバリー」構想として自社配送網の構築を進めている。今回の提携を踏まえて同社では「もともと楽天のみでやっていくという構想ではない。今回の取り組みも含めて物流網を構築していきたい」(小森紀昭執行役員)とする。
同日の記者会見で、楽天の三木谷浩史社長は「例えば私が『楽天スーパーセール』でたくさん商品を買うと、翌日から自宅の呼び鈴が鳴り続けるわけだが、すぐに必要な商品ばかりではない。また『鬼滅の刃』の新刊が発売されるとしたら、誰が購入するかはだいたい分かっている。効率の良い物流プラットフォームを作るには、こういったデータが勝負になるだろう。日本郵便との取り組みでさまざまなことができる」と今回の提携の意義を説明した。
また、日本郵便の衣川和秀社長は「コロナ禍を受けたネット販売の拡大で宅配便が増加し、今後は“新しい生活様式”にあわせてもっと増えるだろう。今から手を打たないと、安定的な配送ができないという危機感がある。例えば、楽天市場のユーザーが商品を購入する際にデータ連携できれば、配達する側は準備ができるし、楽天が保有する顧客需要データを活用すれば『この時期には楽天からこれくらいの荷物を引き受ける』ことがあらかじめ分かる」などと述べ、増加の一途をたどる荷物の処理能力向上への期待感を示した。