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通販業者に組織犯罪処罰法? 神奈川県警が健食通販に強硬姿勢

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通販事業者へ組犯法を初適用

まず、今回の薬事法違反事件についておさらいしたい。  今年5月、健食通販を展開する「東京総合販売」の実質的オーナーである島田則康容疑者らは、「脂肪が燃焼する」などと痩身効果をうたい健食を販売していたため、薬事法第68条(承認前医薬品の広告の禁止)違反で逮捕された。島田容疑者は、過去に興した複数の会社が度重なる行政指導を受けており、「東京総合販売」自体、「グランディア」「ベルケア」などと社名を変えて行政の指導を逃れていた経緯がある。通常ならば、〝ようやく悪質事業者が捕まった〟で終わるところだが、事件はそれだけに留まらなかった。県警が今年6月、薬事法違反によって不法に得た収益を新会社設立の資本金に充てていたという金の流れを解明し、島田容疑者らを組犯法で再逮捕したためだ。  ただ、従来、通販業者が注意すべき法律に「組犯法」の文字はない。なぜ適用されたのか。

違法な販売繰り返す組織実態、問題視

 適用された組犯法第9条は、「不法収益による事業経営の支配」を取り締まる目的で使われるもの。〝暴力団など反社会的な団体が企業の株を買占め、自ら息のかかった役員の選任を迫る〟といった企業乗っ取りを防ぐためのものだ。
 今回のケースでは、島田容疑者が薬事法違反で不法に得た収益を資本金として「健康生活」という新会社を設立。株主の立場で自らの息のかかった役員を選任していたことがこれに当たるとみなされた。自ら興した会社の役員を選任したことが〝企業乗っ取り〟との判断を受けたことに違和感が残るが、これについては実際、起訴事例もあるという。
 ただ、それ以上に神奈川県警が問題視したのは、不法収益を、グループ会社を通じて他の事業活動に充てていたという組織実態。適用条文とは異なるが、「組犯法にはマネーロンダリング(資金洗浄)を取り締まる目的もあり、不法収益による会社設立は一種のマネーロンダリングにあたる」(神奈川県警)として、グループ会社を含む組織実態を重視し、より罰則の重い同法を適用したようだ。

「薬事法違反では不十分」との認識

 摘発を受けた島田容疑者らは幾度となく行政指導を受けた過去を持っている。このことから〝悪質性が極めて高い特異なケース〟と見る向きもあるだろう。
 だが、こうした認識に県警は「(過去の薬事法違反事件も)不法収益を得ていたという意味では同じ。組犯法第10条には『犯罪収益の隠匿』を取り締まる条文もあり、不法収益を他の事業活動に充てていた場合に適用できるかもしれない」と釘を刺している。となれば、全ての通販事業者がこれまで以上のリスクを背負いかねない事態だ。なぜ、県警はこれほどの決断を下すに至ったのか。
 一つには、これまでの犯罪捜査に対する自戒の念が働いているようだ。過去の違反事件について「(金の流れなど)ある程度は、組織実態も捜査してきたが、別会社の存在を知り〝似たようなことをやっているだろうな〟と認識していても見過ごしている部分があったかもしれない」と振り返り、入り口(薬事法違反)で終わらせては不十分との認識を持っているためだ。今後は、〝組織実態〟を重視して取り締まる方針に転換するという。
 もう一つ、県警はこれまでの違反事件に「実際、被害にあわれる方がいる中で忸怩たる思いがあった」との心境ものぞかせている。
 これまで、薬事法違反は警察が動くことで刑事事件に発展するため、最もリスクが高い法律とされてきた。ただ、刑罰は「2年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金」というもの。実際の過去の有罪判決も1年前後の懲役に3~4年の執行猶予判決というのが通例だった。
 この刑罰を厳しいと捉えるか否かは意見が分かれるところだろうが、日夜、違反事業者の摘発に血道を上げる県警のからすれば、一定期間の〝みそぎ〟を終えれば再起が叶うことに不満を抱えていてもおかしくはない。
 対する組犯法は第9条の罰則が「5年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金」というもの。健食通販事業者の摘発で他県を圧倒する神奈川県警だからこそ、薬事法の限界を感じていたのかもしれない。社名変更や新会社設立を抜け道に健食の違法な販売を繰り返す悪質事業者も後を絶たない中、こうした事業者の息の根を絶つために強硬な姿勢をとったようだ。

安易な参入は、ハイリスク

 では、健食通販事業者に対する組犯法の初適用という事態が事業者に示す教訓とは何か。それは、健食通販は〝おいしい商売〟ではないということではないだろうか。
 昨今の健食市場をみると、ネット販売市場のインフラ整備に伴う市場拡大によって健食通販の参入障壁が低下。これにより中小や異業種からの新規参入が増加し、そのすそ野は広がりをみせている。もはや健食はアパレルや家電、化粧品と並び、ネット販売市場をけん引する主要な商品カテゴリーの一つといえるだろう。
 だが一方、健食の表示制度の不整備など市場環境の整備はあまりに遅れている。
 健食は、さまざまな関連法規の規制を受ける反面、許認可制や厳しい広告規定に従う必要がある医薬品のように明確な法規定がない。このため、多くの事業者は、薬事法など関連法規の枠内で広告表現に頭を悩ませることになるが、中には、グレーな表現であることを認識しつつ、用いた経験を持つ事業者もいるのではないだろうか。
 過去に薬事法違反で摘発を受けた事業者が「薬事法を守っていては商品が売れない」「薬として販売したわけではない」といった供述していることなどがその証左といえる。中には、通販事業者の業界団体であるJADMA正会員だった事業者や参入してまもない素人感覚の事業者もおり、一概に悪質事業者とひと括りにできない事例も少なくない。
 だが、今後、そのような甘い認識で健食通販に臨むことは許されないだろう。なぜなら、組犯法の適用は、「経営者の逮捕」に留まらず、「事業の存続」さえ揺るがしかねない事態に発展する可能性のある法律であるためだ。事業者は、自らの広告表現を再度チェックする必要がある。

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