“スカスカ”おせちが招いた波紋、難しい商材と甘い審査が原因?

【2011年2月号】 年明け早々に起こったクーポン共同購入サイトのおせち料理を巡るトラブル。商品の遅配に加え、届いたおせちが事前の説明とはまったく異なる“スカスカ”のものだった。これについてはニュース番組や一般紙などでも大きく報じられ、多くの注目を集めた。

グルーポン・ジャパンの「GROUPON」。問題の「バードカフェ謹製おせち」を500セット販売した

 この“クーポン共同購入”とは、飲食店やエステなどのサービスを通常価格の50~90%程度割り引いたクーポン券を共同購入方式でネット販売する仕組み。2010年にブレークしたサービスで、すでに100サイト以上が存在すると言われている。この急成長するクーポン共同購入サービスで起こった一連の騒動。背景には何があったのか。

大晦日だけで92件の苦情

 問題となったおせちは外食文化研究所が提供していた「バードカフェ謹製おせち」。グルーポン・ジャパンが運営するサイト「GROUPON」を通じて通常価格2万1000円を半額の1万500円で500セット販売した。しかし、配送予定日の12月31日になっても商品が届かず、届いても商品の数量や盛り付けなどが事前の説明と異なるといった苦情が31日だけで92件寄せられたという。

 それを受け、グルーポンは1月1日に自社HP上に謝罪文を掲載。購入者に全額返済するほか、チョコレートやギフト券、グルーポンのチケットなど5000円相当の商品を1点“お詫びの気持ちとして”提供することを発表した。

 外食文化研究所でも1月2日にHP上に謝罪文を掲載。同社の水口賢治社長が1日付けでの辞任を発表した。同社に対しては1月4日から横浜市保健所が衛生管理に問題がなかったかなど立ち入り調査を実施する事態となった。

 さらに法的な問題にも波及しており、「景品表示法」に抵触する疑いがあるとして、消費者庁が関係各社に事実関係の調査に動きだした。消費者庁によると「表示と実際の内容が異なっていたということなので、現在その事実関係を調査している段階」(表示対策課)としており、仮に表示が問題となった場合は「表示主体が(グルーポン・ジャパンなのか外食文化研究所なのか)どこかという問題になってくる」(表示対策課)としている。

浮かび上がる数々の憶測

 ではなぜこうした事態になったのか。それにはグルーポンの急激な売上拡大や、商材特有の問題が関係しているようだ。グルーポン・ジャパンは昨年8月にアメリカのグルーポン社が日本のクーポッドを買収して誕生。資金力を武器に営業網を拡充させる一方、CMなどの広告戦略を積極的に展開して知名度を高めていった。

 クーポン共同購入まとめサイト「グルーポンなう」を運営するセレージャテクノロジーによると、10年12月のクーポンサイト各社の推定売上高でグルーポン・ジャパンが約10億5000万円と2位リクルートの約6億円を突き放して断トツの1位となっている。

 こうした拡大戦略の裏側で真偽は不明だが、「数百人単位で営業マンを増やしているため、とりあげず契約が取れればいいというのが実情ではないか」と業界関係者は話す。別の関係者は「店舗側から担当者に連絡がとれないまま、勝手に販売が始まるケースもあると聞きます。かなり粗い営業をやっているようです」との声もある。

 これに対しグルーポンは「そのような事実は一切ありません」(広報)と真っ向から否定する。同社へクーポン提供元の店舗から苦情が寄せられたことはないという。

 また、契約方法にも問題があったのではという声もあがる。「店舗のキャパシティーを超えた数量のクーポンを販売しているのではないでしょうか」(業界関係者)というものだ。クーポン共同購入サービスでは、全体の売り上げからサイト運営企業が手数料を徴収するという仕組みのため、クーポンを多く販売すればそれだけ収益も増える。そのため店舗との契約時に販売能力以上の数を扱えるようにしているのではとの疑惑が生じている。

 こうした憶測についてグルーポンは「座席数や利用期限を考慮して数量をアドバイスしています。無理な数をお願いすることはありません」(広報)と回答。「互いに納得の上で、先方(外食文化研究所)を信用して500という数量を決めました」(広報)としている。

“経験の無さ”が生んだ誤算

 今回の件は、“おせち”という商材ならではの問題も指摘されている。食品を扱う通販企業によると、おせちは品目数が多く品質管理にも非常に気を配る必要がある。加えて大晦日までに届けなくてはならないという配送面の条件もあり「我々にとっても扱いが非常に難しい商材」(食品通販企業の幹部)であるという。

 もっとも、他のクーポン共同購入サイトでも年末におせちを扱ったケースはあるが、グルーポンのような問題は生じていない。例えばリクルートの「ポンパレ」やディールメートの「キューポン」などでは、おせちを扱う企業が事前の予約販売で売り切れなかった商品を在庫処分のような形で販売したため、事前に数量分が確保されていたため円滑に提供できたようだ。

 一方の外食文化研究所の場合はおせちを扱ったことがなく「今年からやるので、『GROUPON』で売ってもらえないかとお話がありました」(グルーポン・ジャパン広報)という。こうした“経験の無さ”にも関わらず、500セットを販売したことが今回のトラブルを生み出した背景となっているようだ。

 グルーポンもHP上で商品提供元が品質管理や製造・配送面で不適切であったことを見極められなかったとしており、取引先企業の審査がおろそかになっていたことを認めている。つまり事前審査の甘さを露呈した格好だ。

 その上で、今後は提供先企業の「事前審査を厳格化」すると発表。しかし、具体的にどのように審査基準を“厳格化”するかについては、「より厳しく審査していく」(広報)との答えしか得られず詳細な対策は定かではない。

共通ルール策定への動きも

 この事態に同業他社も「業界全体のイメージダウンになりかねない」「マーケットの信頼が落ちた」と一様に危機感を募らせている。こうした状況を受け、国内で最初にクーポン共同購入サービスを展開したピクメディアが1月11日、自社HP上で同社の掲載基準や運用ルールを記した「Pikuルール」を公開した。

ピクメディアが発表した「Pikuルール」

 同社はこれまでも営業部とは別に審査チームを設け、掲載する商品や価格設定などについて審査を行っていた。今回、「消費者の不信感を払拭する」(事業開発マネージャー)狙いから、掲載基準や運用ルールの一部公開に踏み切った。さらに同社は業界団体の設立や共通のガイドライン策定にも動いており「(同業他社の)反応は良い」(事業開発マネージャー)という。

 1年未満で急拡大したクーポン共同購入サービス。おせち問題は“過渡期の混乱”との見方もあるが、こうしたトラブルがネット販売や通販業界のイメージ低下にもつながりかねない。今回の件を契機にクーポンサービスの品質が向上されることを期待したい。

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