FASBEE(ファスビー)は7月2日、グローバルファッションECモール「ファスビー」を開始した。同社は越境ECプラットフォームを展開するBEENOS(ビーノス)とアパレル通販サイト「ファッションウォーカー」を運営するファッション・コ・ラボFCL)の共同出資によって今年3月に設立した。両社の知見を活用して、国内300ブランドをそろえ、海外市場の開拓を目指していく。ファスビが仕掛ける海外EC 戦略とは果たして──。
台湾と香港に宣伝費を集中投下
自国のECと同じ体験で購入
――ファスビーはビーノスとFCLとの共同出資で立ち上がりました。設立の背景を教えてください。
ビーノスグループは越境のプラットフォーマーとして実績があります。一方のFCLは運営する「ファッションウォーカー」を通じて日本最大級のブランドを抱えています。UIでも「ファッションウォーカー」は20年の知見があり、顧客にどのようにアプローチするのか、どういった機能があったほうがいいのかといったノウハウを持っており、そうした両社強みを生かそうとして生まれたのがファスビーになります。ファスビーとしてはビーノスとFCL両社の経営資源を使えるのが強みになります。
――「ファスビー」で取り扱うブランド数はどのくらいの規模でしょうか。
開始時点で国内ブランドが300以上にのぼります。FCLと共同で時間をかけてブランドさんを説得しました。
――ブランド開拓という意味ではファッションウォーカーとの連携が効いているのでしょうか。
そうです。「ファッションウォーカー」は長年の実績があり、ブランドさんとのコネクションも深く、そこでの信頼関係も効いていると思います。
ただ、出店ブランドさんは完全に「ファッションウォーカー」と同じというわけではありません。ブランドさんによっては、国別に販売できるところとできないところがありますし、そもそもまったく海外はやらないというブランドさんもあります。「ファスビー」としても独自で開拓していきます。
――「ファスビー」の特徴は。
グローバルファッションECとして日本のブランドだけを扱うのではなく、将来的には海外のブランドも積極的に扱っていきます。
そして、海外のユーザーが自国のECと同じ体験で購入できる。そういう体験ができるのが「ファスビー」の大きな特徴です。どれだけその国の国内ECに近づけられるか、ローカライズできるかがポイントになると考えています。
そうした点を踏まえ「ファスビー」では具体的に4つの課題を解決しました。すべて越境EC特有の課題です。その4つとは①最終的にいくらかかるのかが分かりづらい②いろいろな注意事項やオプションなど買うまでに手間がかかり、煩雑な購入手続きが必要になる③リードタイムが長くなる④広告宣伝費が広く浅く分散する──といったものです。
まず最終的にいくらで買えるのかという課題については、商品代金と定額の国際配送料を支払ってもらうだけ。明確で分かりやすい料金設定です。2つ目の煩雑な手続きについてですが、例えばビーノスグループのtenso(テンソー)が手掛けている代理購入サービスの「Buyee(バイイー)」では最初に商品代金や国内配送料などの一次決済に加え、その後に商品の重量を測って国際配送料を確定して二次決済を行ってから、ユーザーさんに出荷指示をしてもらいます。しかし「ファスビー」は国内ECと同じで、商品代金と国内配送料の支払いだけで完了する仕組みになっています。手続きは非常にシンプルです。
3つ目のリードタイムですが商品の8割程度は倉庫に在庫を抱えています。決済をすると、当社の倉庫からダイレクトに国際配送を行うことが可能です。台湾であれば最短で翌々日には到着します。残りの2割程度は受発注なので、注文が入り次第ブランドさんから仕入れます。その場合は国内配送を行って越境用倉庫に届けるというプロセスが発生します。そして最後の広告宣伝費ですが、「ファスビー」は120カ国に配送対応しますが、まずは戦略国である台湾と香港に宣伝費を集中投下していきます。
――サイト内の言語対応は。
英語・中国語・日本語に対応しています。まずは重点的に台湾と香港を攻めるため、この言語を選択しました。次に強化する国としてアメリカと中国を想定しています。そこを考えても言語はこの3つでカバーできます。
日本語にも対応しているのは現地の日本人の需要もありますし、グローバルECサイトになるとアメリカやヨーロッパのブランドが入ってきたときに日本のマーケットも視野に入れたいので、その意味からも日本語には対応しています。なお、通貨は28通過に対応しています。基本機能としてIPもしくはユーザーの選択で表示する言語と通貨を変えています。
――最初に戦略国として台湾と香港を選んだのはなぜでしょうか。
「バイイー」で連携しているファッションモールをいくつかピックアップして分析すると、日本のアパレルブランドに対する国別の需要としては香港と台湾で半分以上の割合を占めています。そうしたことからこの2地域を攻めていくことにしました。
香港と台湾は送料無料に
――具体的にはどのように仕掛けるのでしょうか。
香港と台湾は配送料を1500円に設定しています。その他の国は4000円です。日本については競合サービスの水準に準じる形にしています。ただ、香港と台湾は開始時点は送料無料としており、しばらくは無料を続ける予定です。
――「ファスビー」のターゲット層は。
日本ファッション誌を購読している人や「バイイー」など代理購入サイトを利用している人、あるいは日本にいる友人に購入を依頼している人、そして海外在住の日本人です。「ファスビー」を使ってもらうと今どこで買うよりも、安くて早いです。台湾と香港であれば送料がかからないので、仮に1万円の価格の商品であればその値段で買えます。
――日本のアパレルブランドは海外で人気あるのでしょうか。
そうだと認識しています。というのも我々が持っているデータによると、実際に買われています。あとは日本のファッション誌も翻訳されて1カ月遅れで現地で売っているのですが、日本語のものも現地で販売されていて、それがどのくらい発行されているかを見ることで現地の需要を推測できます。そうした角度から調べてみると、台湾や香港で日本ブランドの需要があるだろうと見込んでいます。
――なるほど。視点を変えて「ファスビー」への集客プランについても教えてください。
初期段階ではテンソーが行っている「バイイー」と、通販商品の海外転送サービス「転送コム」から送客を図っていきます。テンソーのこれらのサービスとカニバるのではないかという見方もありますが、むしろ「ファスビー」に寄せていきます。
具体的には両サービスのユーザーにメルマガで案内します。実は、テスト段階に一度メルマガを配信したのですが、反応はすごく良かったです。かなり絞って配信したため、流入数はそれほど多くなかったのですが、クリック率が日本の比ではなかったです。メルマガでも送料無料などを打ち出していきます。
「バイイー」と「転送コム」にはもともと日本のファッションを購入するポテンシャルがある人が集まっています。「バイイー」よりも簡単で、早く届き、しかも安い。であれば「ファスビー」で買ったほうがいいという結論になるのではないでしょうか。
そして、恒常的な集客の部分ではSEMをしっかり打っていきます。それについてもまずは台湾と香港で重点的に出稿します。その後のカンフルとしてはウェブではインフルエンサーマーケティングを活用し、リアルでは海外イベントマーケティングを仕掛けていきます。
――サイトのUIのところで工夫した点はありますか。
まずはシンプルなデザインで一度試してみます。海外のECサイトを見ると、台湾や香港では日本式の作り方が多いという印象を受けます。そのためかなり日本っぽい作りにはなっています。これが中国の大陸になるとUI設計は変わってきますが、まずはシンプルにやってみます。
初年度6億円、3年で50 億へ
2年目から欧米ブランドの出店も
――売り上げの計画は。
初年度(~2020年6月末)は6億円で、2年目で20億円、3年目で50億円を計画しています。ベースとなる施策としてはSEMをしっかり打ち、シェア拡大として日本ブランドの追加出店を行います。あと大手を含め15ブランド程度が必要だと思っています。そうしたブランドさんも7月中には出店につなげたいと考えています。
――初年度6億円というのはグローバルファッションECという意味では、ややコンサバティブに感じますが。
海外120カ国対応となると、「日本の規模×120」という認識を持たれてしまっても困りますので、表に出すときは固めの数値にしています。
2年目からはアメリカやヨーロッパといった海外ブランドの出店にも着手したいと考えています。そうした海外ブランドが集まった段階で、アメリカと中国への販売を強化していきたいです。戦略国と位置付けて、4000円だった送料を1500円に下げ、広告宣伝費も投下していきます。
サービス拡大策として、現地のECプラットフォームとも提携していきます。ここの成否が3年後の売り上げ50億円に届くかの鍵になってくると思っています。
――海外ブランドを扱うにあたり、商品の持ち方はどうする予定でしょうか。
海外では受発注形式のほうがつなげやすいです。現地に倉庫を持って展開していくのもいいですが、在庫をあまり抱えたくないという思いもあります。1点買いであれば現地からダイレクトに発送し、そうでなければどこかの拠点に集めて同梱して発送するのか、あるいは別々に出荷するのかといったことは今後決めていきます。
――ファスビーの人員体制は。
私含め5人です。当面この人員を増やす予定はありません。ビーノスとFCL両社の経営資源を使えるのがファスビーの強みですので、固定費を抑えていろいろな施策が可能になります。ビーノスグループは越境のプラットフォーマーとして実績があり、FCLは「ファッションウォーカー」を通じて日本最大級のブランド数を抱えていますし20年間の知見があります。実務的な部分は両社のうち得意なほうに割り振り、ファスビーの5人は主にマネジメント業務を行っていきます。
――ところで、ZOZO(ゾゾ)が秋にも中国に再進出すると発表しています。アパレルの海外ECという点では競合関係になると思われますが、ファスビーの優位性はどのあたりになるのでしょうか。
当社には圧倒的な越境ECのノウハウとデータがあります。例えばテンソーで言うと、台湾のお客様はコンビニ受け取りが多いので、お客様に寄り添った配送方法をいち早く導入したり、現地でのカスタマイズをこれまでやってきました。そうした越境ECノウハウを生かしてやっていくというのは他社さんとの違いだと思います。
◇プロフィール
齋藤由英(さいとう・よしひで)氏 1979年10月14日生まれ。アパレル企業・Eコマース関連事業にてマネジメント経験を積む。コンサルティング業務、事業開発を担当した後、BEENOS傘下のBeeCruiseに参画。2019年3月FASBEE設立、現在に至る。
◇取材後メモ
ファスビーはビーノスが51%、FCLが49%出資し誕生しました。ビーノスは子会社のテンソーやショップエアラインらが海外向けのEC事業を手がけています。FCLはファッションウォーカーを通じて国内の多くのブランドと取引があります。両社の強みを掛け合わせて誕生したのがグローバルECモール「ファスビー」です。海外のブランドも積極的に扱っていくという狙いから、齋藤社長は「越境EC」ではなく「グローバルEC」という言葉を使います。日本企業が海外に売るだけではなく、海外ブランドを別の国に届ける。そうした展開に広がっていくのか。まずは当面の戦略国である香港と台湾での成果が注目されます。