「楽天24」を最も売り上げの取れるチャネルにする【ケンコーコム 後藤玄利 社長×髙原幸一郎 楽天24事業本部副事業本部長】

ケンコーコムは2014年1月、親会社の楽天から継承した「楽天24」事業の運営を開始した。すでにネット販売でも当たり前のように購入されつつある飲料や食品、日用雑貨などの買回り品。今後、ネット販売が日常生活の基盤となっていくことを示唆する動きだが、すでに同カテゴリーではアマゾン、ロハコといったネット専業の強力な競争相手が存在し、一般用医薬品を足掛かりにしたドラッグストアやGMSなど有力小売事業者のネット販売参入で競合はさらに激しくなると予想される。こうした状況下、これまで業績が振るわなかった「楽天24」の展開をどのようにして拡大していくのか、ケンコーコムの後藤玄利代表と、髙原幸一郎楽天24事業本部副本部長に話を聞いた。 (聞き手は本誌・後藤浩)

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楽天も常に安く安心して買える販路が必要だった

売り上げの増加とともに赤字が拡大する構図

――2014年1月からケンコーコムによる「楽天24」の運営が始まりました。すでにいくつか通販サイトを持っていますが、それぞれどのような位置づけになるのでしょう。

後藤 当社としては、楽天の資本を受け入れた時からやりたい事業で、従来のケンコーコムの本サイトとは売り方の異なる新たなチャネルと位置付けています。ケンコーコムの本サイトはロングテールの豊富な品ぞろえが 特 徴ですが、「楽天24」については、より売れ筋商品に絞り込んだ「エブリデイロープライス」(EDLP)特化型のチャネルになります。全体観としては、健康に関する情報提供、薬剤師のカウンセリングなどの機能を一番盛り込めている本サイトが医薬品などの健康関連商品を安全安心に購入できる付加価値の高いチャネル。仮想モールの「楽天支店」は、セールなどのイベント的な要素で売り上げを作っていくチャネル、「楽天24」は売れ筋商品に特化したEDLPのチャネルという切り分けになります。

――ケンコーコムが「楽天24」の運営主体となることで、楽天の中でも同サイトの位置づけが変わってくるのでしょうか。

後藤 もともと楽天には、“ショッピング・イズ・エンタテイメント”という考え方があり、「楽天市場」も掘り出し物やお買い得品を探すショッピングの場になっています。「楽天24」もどちらかというとハイ&ローのポリシーでやっていた面があったと思います。

髙原 つまり、ポイント特典などをつけて一気に売り上げを取りに行くといった傾向があったということですね。

後藤 これから生活の中にネット販売が浸透していくことを考えると、楽天でも日常の買回り品をいつでも安く、安心して購入できるチャネルを持つ必要があり、その役割を担うのが「楽天24」ということになります。

――2013年度の「楽天24」の業績を見ると、流通総額30億円、売上高12億円、営業損失6億4000万円と振るいません。何か課題となっていたことはあるのでしょうか。

後藤 これまで「楽天24」は、少し無理をして拡大させようとしていた面があり、売り上げが拡大すると赤字も増えるという構図になっていました。

――売り上げの拡大ともに赤字が拡大していた要因は。

髙原 最も大きいのは、お祭り的な要素で売り上げを取ろうとしたことです。実際、全ての商品にポイントを10倍つけるなど、いくつかのキャンペーンに無理もありました。また、キャンペーンで波動を作ると、需要の予測が難しくなり、物流を含めたオペレーションに大きな負荷が掛かることにもなります。結局、そうした部分のコストがかさみ、売り上げが増えると赤字も拡大するという状況になっていたわけです。今は、無理に波動を作ろうとしていないため、安定的にオペレーションをコントロールできていますね。

後藤 「楽天24」については、まず収益体質をしっかりと確立させることを重視しています。14年1月度に関して言えば、かなり収益性の改善が進み、巡航速度になりつつあります。今後、「楽天24」の展開を急速に拡大させていくつもりですが、少なくとも赤字を生まない形で取り組みを進めていこうと考えています。

効率化で生んだ原資をキーのサービスに充てる

――スタート初月となる1月は、順調だったようですが、どのような商品の販売動向だったのでしょう。

高原 従来同様、売れ筋は水や酒類などのドリンク系商品ですね。重くてかさばるということでよく出ています。また、送料無料となる購入金額バーの引き下げで購入単価は若干下がりましたが、受注件数が増え、トータルとしては売り上げが伸びています。全体としては悪くはないですね。

――スタート時の取扱商品数は。

髙原 約1万8000SKUになります。13年11月のピーク時で「楽天24」の取扱商品数が3万強だったことを考えると、かなり商品を絞り込んだ形になっていますが、これは、ケンコーコムと楽天24のオペレーション統合作業に伴い、一旦商品を整理しているためです。今後、売れ筋の商品に的を絞って品ぞろえを拡充していく予定です。

――取扱商品数はどの程度まで増やすのですか。

髙原 毎日の生活に必要な売れ筋の商品をいつでも安く買えるようにするというコンセプトに沿って商品を選定していくと、5 ~ 7万SKUというイメージになりますね。

――従来の「楽天24」では、「楽天市場」出店事業者の商品も委託販売の形で扱っていたましたが、現状は。

髙原 現在でも、「楽天市場」出店事業者の商品を扱っており、20社前後と取引があります。酒類や輸入のトマト缶やコンタクトレンズなどピンポイントで強い商品を持つ事業者がありますので、そうしたところの商品をお預かりしています。今後も、売れ筋の商品を対象に、価格や供給の安定性、配送リードタイムなどの様々な評価基準をもとにケンコーコムの取扱商品と委託販売商品を使い分けていくことになるでしょう。

――物流体制はどのような形になっているのですか。

後藤 即納という部分では首都圏が中心になりますが、ケンコーコムは市川市(千葉県)の物流センター、「楽天24」は柏市(同)の物流センターを使っており、現在はそれぞれオペレーションが異なっているのですが、近い将来、物流センターを1カ所に集約し、オペレーションを統合させる予定です。物流センターの集約とオペレーションの統合により、ケンコーコム、「楽天24」双方にメリットが出てくると思いますし、もろもろの効率化によってできる原資を「楽天24」のキーとなるサービスに充てるという流れを作っていこうと考えています。

――物流センターの運営面でのポイントは。

後藤 ケンコーコム本サイトのようなロングテールの品ぞろえの場合、テールに近い商品は1、2個しか在庫を持っていませんので、その商品が売れてしまうと在庫切れが発生してしまいます。これに対し「楽天24」では購入頻度の高い売れ筋商品に絞り込み、同時に欠品を出さないように在庫コントロールをしていくことになります。

数百億、千億円を売るポテンシャルある

無理のない買い物やポイントで利用頻度を高める

――「楽天24」では購入頻度を高めることがカギになるようですが、リピートの促進策は。

高原 すでにいくつか施策を行っています。例えば、今まで3900円だった「楽天24」の送料無料の購入金額を今年1月から1880円に引き下げたのもそのひとつです。今までの「楽天24」は、月に1度まとめて商品を購入して頂くようなイメージの送料無料バーになっていたのですが、今回の送料無料バーは、消費者の1回の購入金額が2000円前後であることを勘案したものです。従来の「楽天24」の購入金額をみると、4000円超がボリュームゾーンとなっており、お客様も送料無料バーに届かせるため無理をされていたのではないかと思います。新たに設定した送料無料バーは、お客様に無理なく買い物をして頂くことを念頭に置いたもので、リピートを促すための大きな施策になります。

――他に取り組まれていることは。

高原 基盤となる価格設定に関して言えば、オペレーションの統合でできた原資をもとに、いつ来ても安心して買い物ができるような形にしていくつもりです。もうひとつは「楽天ポイント」ですね。これもリピートを促すための施策になりますが、セールなどで一気に何倍も付与するのではなく、いつでもポイントがつくという形にしていくつもりです。

――ポイントの活用策は。

髙原 まず、楽天ファンの方の利用頻度を高めていこうということで、すでに「楽天のポイント」会員向けのキャンペーンを行っていますが、「楽天24」では、“ショッピング・イズ・エンタテイメント”の考え方で月1回買い物にきてもらうような手法ではなく、いつでも商品が安く購入できて早く届けられる売場、そして「楽天ポイント」も貯まる場という側面も持たせていこうと考えています。「楽天ポイント」は他のサイトにはない「楽天24」ならではのメリットで違いを打ち出していける部分ですし、「楽天24」で貯めたポイントを「楽天市場」のショップで使うという相乗効果的な流れもできるだろうと思っています。

――初年度の重点施策は何になるのでしょうか。

高原 いつでもお得、早い、そしてポイント付与の3点を基本にサービス設計を進めることが重点施策になります。これだけでかなり売り上げは伸びると思いますが、さらに品ぞろえを現在の1万8000SKUから3~4倍に増やすことで大きくブレイクするでしょう。もうひとつ考えているのは、買物のしやすさを追求したサイトのリニューアル。まだ、検討段階の事案ですが、これも成長の大きなドライバーになるはずです。

――売り上げの計画については。

後藤 「ロハコ」が2年目で、売上高100億円を目指しているということですが、「楽天24」では初年度で100億円の売り上げ(流通総額)を作ろうと考えています。

――「楽天24の」の今後の展望をお聞かせください。

髙原 イベントを作って売ろうというのは、楽天が得意とするところですが、「楽天24」をその流れに乗せてしまうと、「楽天市場」のショップとの違いがなくなってしまいます。「楽天24」については、月に何度も来てもらえるような売場にしていきたいと思います。

後藤 「楽天24」については、ケンコーコム全体の中でも、最も売り上げのボリュームが取れるチャネルにしていこうと考えています。実際に「楽天市場」では、2020年頃には流通総額10兆円規模を想定していると思いますが、その規模感を考えると、「楽天24」には数百億、1000億を売り上げてもおかしくないポテンシャルはあると思っています。「楽天24」は、毎日の買物の場がネット販売になるという時代がくることを見据えたチャネルなのです。

◇プロフィール◇

後藤玄利(ごとう・げんり)氏
1967年大分県生まれ。89年3月に東京大学教養学部基礎科学科卒業後、同年4月にアンダーコンサルティング入社。94年5月に同社を退社し、同年11月にヘルシーネット(現ケンコーコム)を設立、2000年5月に健康関連商品を扱う通販サイト「ケンコーコム」を立ち上げる。2006年7月NPO法人日本オンラインドラッグ協会理事長に就任。12年5月新経済連盟理事に就任。

髙原幸一郎(たかはら・こういちろう)氏
1978年生まれ、シカゴ大学経営大学院卒。2001年にSAPジャパンに入社後、10年以上にわたり業務改革プロジェクトに従事。SAPのグローバル本社組織にて海外プロジェクトなどを経験後、2012年同社を退社。同年、楽天に入社し物流事業の営業プロセスの仕組み化や海外投資案件のプロジェクトをリード。2013年から楽天24事業に参画し、2014年にケンコーコムに出向し、楽天24事業本部副事業本部長に就任。

◇編集後メモ◇

健康関連分野のネット販売でナンバーワンの地位を維持してきたケンコーコム。しかし、同社が主戦場とする健康関連商品や日用品の分野は有力小売業のネット販売参入などで競争が激化しており、2013年度は、半期ベースの売上高で住友商事系の爽快ドラッグに抜かれるなど、その地位は揺らぎつつあるのが実情です。そのなかで新たにスタートした「楽天24」は、ケンコーコムにとって今後を占う重要な新規事業。2014年度の売り上げ目標280億円のうち「楽天24」で100億円を売り上げる計画であることからも期待の高さがうかがえます。これまで展開してきた新規事業が伸び悩んでいるだけに、「楽天24」が新たな事業の柱として一本立ちするかが注目されます。

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