簡易宅配バッグ「OKIPPA」で再配達削減を 内山智晴●Yper 代表取締役

物流系ITスタートアップのYper(イーパー)は、簡易宅配バッグ(ボックス)「OKIPPA(オキッパ)」の100万世帯への普及を進めている。日本郵便をはじめ他社との連携で一般ユーザーへオキッパを配布するなどの取り組みを始めており、近いうち目標の普及数到達を見通している。再配達の削減はもちろん、宅配便運賃の値上げリスクの解消にも有効というオキッパの取り組みとは──。

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再配達対策を一般ユーザーとともに

日本郵便が10万個の配布を

――オキッパのこれまでの経緯について教え下さい。

2017年8月にイーパーを設立し、その年の10月から開発に取り掛かり、翌年4月にクラウドファンディングサービスの「MAKUAKE(マクアケ)」でオキッパを公にしました。6月までの2カ月間で、1860人ほどの方に実際に購入いただきました。そこで注目を浴び話が進展するようになり、日本郵便と18年12月に実証実験を一緒に行いました。そこで大きな効果が出ましたので、日本郵便が今年6月からは10万個を一般に無料配布するという展開になりました。

――オキッパを普及させることで再配達の削減につなげることを狙っていらっしゃいますが、再配達についてはこれまでも駅や商業施設などに宅配便ロッカーを設置するといった取り組みがなされました。

現在、国土交通省などが立ち上げた「置き配検討会」で私も加わり協議が行われていますが、前身の協議会(宅配事業とEC事業の生産性向上連絡会)の場で検討していたのが宅配便ロッカーでした。普及はしているけれども利用率が上っておらず、利用率を上げるにはユーザーを巻き込まないといけないということが課題としてあがり、ロッカーを利用した際にポイントの付与などが行われました。オキッパは一般の方への初公開になったマクアケで、ユーザー自身から再配達問題を解決したいということで3500円ほどを支払って購入いただけました。宅配便ロッカーは使わないが、3500円を出して自宅の玄関前に置けるソリューションが欲しいと考えられたわけです。週1回、通販で購入している方であれば自前で買っても良いと思われるのでしょう。このようなユーザーを巻き込むことができるのがオキッパです。

置き配検討会で何を話しているかというと、我々の主張は置き配が荷物の段ボールを玄関前などにただ置いていくというスタイルが“いわゆる置き配” で、それに対しオキッパでは「簡易宅配ボックス」あるいは「簡易宅配バッグ」というジャンルを作りたいのです。

実証実験で再配達61%削減

――日本郵便と昨年12月に行った実証実験で再配達削減の成果をあげましたが、その成果についてはどのように評価されていますか。

実証実験では61%も再配達率を減らすことができました。大幅な削減率には理由があります。我々が実証実験でターゲットにしたユーザーの6割以上が通販のヘビーユーザーであり、このヘビーユーザーが自宅に宅配ボックス環境がないと再配達を量産する原因となるのです。この通販のヘビーユーザーの人達の受け取り環境を整えると再配達は数字上一気に下がります。そのヘビーユーザーはどれくらいの世帯数かというと、100~200万と見ています。そこでオキッパを100万個普及させればインパクトのある数字になるはずです。半分くらいまで再配達を減らすことができると考えています。

――オートロックのマンションでの利用はどうでしょうか。

日本郵便との実証実験ではオートロックは対象外にしましたが、新たに始めた不動産会社との実験ではオートロックマンションでオキッパの検証を行っています。対象とするマンションには宅配ボックスがありますが、足りていないという状況です。

――置き配では盗難が課題がとなっていますが、オキッパではどのような対策を。

オキッパに関しては、一般的に置き配のツールと思われる方が多いと思いますが、簡易のセキュリティ(玄関などのドアノブなどに取り付けるロック)もありますし、袋に入れるので個人情報も問題ないので、置き配とはまた違ったメリットをユーザーへ提供できます。我々はオキッパの「簡易宅配バッグ」としての受け取り方というのは日本の環境であれば成り立つだろうと考えています。オキッパのバッグはカッターなどで切ることができますが、その切れるということが起こりにくい日本の環境を前提にしているので、3500円ほどの価格のオキッパをばら撒いて、発生率が低い盗難に対しても保険を掛けた方が社会全体としては経済的です。その発生率が日本より高いアメリカでは2~3%と言われていますが、一定の盗難数がありながらもアメリカでは荷物をポンと玄関前に置いて、盗難があった場合にそれを保証するスタルです。2~3%の盗難率でもそのように運用しているアメリカでは、盗難率がもっと高くならないと宅配ボックスを設置するということにはならないのでしょう。日本はまだまだアメリカに比べて盗難率が大幅に低いですし、保険を掛けた方が社会全体のことを考えると良いのではないでしょうか。そのような運用が行えるようにインフラ化した方が良いというのが我々の考えです。

――仮想モール事業者がオキッパを配ることで配送の効率化を図るということも可能ですね。

そうですね。ただ、我々としてはオキッパの可能性が結構あると考えています。なぜ日本郵便が配っているかと言うと、実は理由があります。数字がきちんと出せればその理由が分かります。通販のヘビーユーザーは1世帯当たりに対して、再配達で要している年間労働時間は11.5時間くらいなんです。昨年12月に東京・杉並区で日本郵便と行った実証実験での不在率は51%でした。実証実験に参加したユーザーは年間で購入する点数というのは平均103点になります。通常であれば、再配達のために無駄な労働時間をかけていることになります。実証実験で再配達を61%削減できたわけですが、オキッパ1個で1世帯当たり7時間くらいの再配達削減効果につながりました。配達に要する配達員の時給を仮に1500円、再配達のコストは年間で1世帯当たり1万円を超えてしまいます。3500円ほどの価格のオキッパをお渡しし、オキッパ自体は3~4年使える耐久性があるので、年間1万円が4年間となると4万円のコスト削減を3500円のオキッパで出すことができます。100万の通販ヘビーユーザーへオキッパを普及させるとすると、オキッパの費用30億円で年間100億円以上のコスト削減効果があります。

仮想モールもそうですが、実はEC事業者にとってもオキッパで通販ヘビーユーザーをターゲティングでき、再配達を減らすことができます。実証事件からもうひとつ分かっているのは、受け取り環境が整っていると購買頻度も上がります。購買頻度が上がると、ECで購入する売上のアップが見込めることです。これは日本郵便の事例とは逆で、EC事業者がオキッパを配ると、その顧客が年間に購入する額が平均で1万円上がることになれば、それが4年間続くと非常に大きな購入額の増加になります。ですから配った方が良いわけであり、つまりヘビーユーザー化するためにもオキッパが有効となります。

置き配と宅配ボックスのいいとこ取り

盗難対策は「置き配保険」で

――配送会社やEC事業者以外での取り組みは。

東京電力のグループ会社であるPint( ピント)では電気提供に切り替えで、ひとつのプランとして東京海上日動火災保険と当社で開発した「置き配保険」が無料になるものも用意しています。このプランというのは誰に受け入れられているかと言うと、賃貸物件のオーナーです。オーナーが仮に9世帯のアパート物件を持っていて、賃貸を希望しているお客様から「宅配ボックスはないんですか?」と聞かれます。設置していないため、設置するには2個口のものでも20~30万円かかりますし、そもそも置くスペースもないということもあるので、結構な費用や手前になってしまいます。ただ居住世帯すべてが宅配ボックスを使うわけではないので、先ほど述べたようにヘビーユーザーは全体の16%ほどしかいないので、9世帯であれば1世帯、あるいは2世帯があるかないかとういうことになります。そこに20~30万円かけても、皆が使うどうか分からないのですから、電気供給先を変えてオキッパがもらえるということで賃貸希望者にとってもプラスですし、オーナーは初期費用なし、ランニングコストもなしで宅配ロッカーの環境を整えられます。

――「置き配保険」のコスト吸収はどのように。

例えば保険を20円とします。ここで重要なのは物流費がオキッパで受け取ることで下げることができるということです。現状の500円を何もなしに450円に下げてくださいといっても応じてくれるわけではありません。ただ値上げ率はまだ操作できるはずです。将来のことなので、誰も決めていません。値上げの要素のひとつに再配達があるわけで、そうすると1年後、2年後、今の500円が10%上がったら550円になりますが、これは配送会社次第でしょうが、再配達を何度もするところは10%上げて、オキッパでの配送を指定して、そしてEC事業者側でオキッパへの配達を積極的に行っていくようにする、ということができますね。置き配への配達のポテンシャルは通販荷物の3割くらいあると思うのですが、その3割分は10%の値上げを回避してもらうことにできないでしょうか、という交渉を配送会社と行い、仮に5%に留めることができたら525円になります。そこに保険費用の20円を引いても5円のコストダウンを図ることができます。ということで将来的な値上げリスクを下げることができます。EC事業者はリスクを下げられるのですし、配送会社も配送効率が上がるのでウィンウィンとなりますね。このような流れを期待しています。

ただ、相当な物量がないと難しくなります。システムを組む費用も掛かります。ですからオキッパが100万個普及すれば、数億個の宅配便で利用されるようになりますので、システムも組めます。仮にオキッパで20円の運賃コストを削減できたとしたら、BtoCの宅配便の年間個数が15億個で、そのうちの2割に当たる3億個がオキッパで配達したら60億円の削減になり、そのうち30億円を毎年オキッパのリプレースに要しても30億円は残ることになります。コストをかけずに自分の物件に宅配ボックスの環境を整え続けることができます我々は置き配検討会で、当社のソリューションは置き配ではなくて簡易の宅配ボックス・バッグと述べていますが、置き配と宅配ボックスのいいとこ取りをしたもの、セキュリティは下がりますが、置き配よりは上がるわけです。このジャンルというのがなかったので、新しいジャンルということで簡易宅配ボックス、簡易宅配バックとして普及させていきます。

プロフィール

内山智晴(うちやま・ともはる)氏 1985年生まれ。京都大学大学院修了後、2012年に伊藤忠商事入社し、機械カンパニー航空宇宙部に配属し、航空機の販売・修理。高級機装備品の国際開発案件に従事。17年8月Yper設立、現在に至る。

取材後メモ

Yperはオキッパ100万個の普及をめどとして事業会社化するスピンアウトを計画しています。自社のほか配送会社やEC事業者、システム会社などが株主となり、オキッパ事業を展開させることにしています。EC市場の拡大で宅配便の物量は増加が今後も続く中、再配達問題、そして運賃問題へも対応できるソリューションを提供するビジネスモデルの確立を目指しています。内山氏は「我々の役割は受取りを多様化すること」と述べています。通販で買える商品は以前限られていましたが、今は何でも買えるのに、受け取り方は多様化していかないことはEC市場の成長にも影響を与えることになります。受け取りの多様化を「簡易宅配バック」で早期に可能にする考えです。

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