ヤマダモール、立ち上がり苦戦か 出展店舗からは集客力に失望の声も

【2011年1月号】2010年11月15日にオープンした、家電量販店最大手のヤマダ電機が運営する仮想モール「ヤマダモール」。さっそくテレビ CMの放映を開始したほか、店頭にもチラシを設置し、「今月のオススメ商品!」として、モールで販売する食品などを掲載した。しかし、出店店舗からは早くもモールの集客力に関して失望の声が上がっている。

 ポイント経済圏確立が目的

 2011年2月に開設予定のパソコン版・スマートフォン版に先駆けて、携帯電話向けサイトを開設した。

 楽天市場など既存の仮想モールとの最大の違いとなるのが、ヤマダ電機が仕入れて販売する形を採用したことだ。つまり、同じ商品を複数の事業者が扱うことはない。さらに、販売価格はヤマダ側が決めるのも大きな特徴だ。決済や配送なども同社が請け負うが、生鮮食品などを直送したい場合は、出店者が行うことも可能。また、顧客情報は事業者が直送する場合を除き、同社が管理する形となる。

 出店者にとって最大のメリットと考えられるのが、同社が持つインフラだ。その代表はポイント制度。売上高2兆円超を誇る巨大企業だけに、消費されるポイントも「カルチュア・コンビニエンス・クラブのTポイントを上回るのでは」(業界関係者)とも言われるほど。その資産がネットに流入してくるとなれば、ネットショップにとってヤマダモールは魅力のある存在だと言えるだろう。

 一方、ヤマダの目的はポイントを軸とした“経済圏”の確立とみられる。エコポイント絡みで販売好調な薄型テレビをテコとして売り上げを伸ばす同社だが、だぶつき気味なポイントを「(比較的利益率の高い)食品や雑貨などで消費してもらう」(業界関係者)ための“場”を増やしたわけだ。

 さらには、近年ヤマダの店舗では食品や生活雑貨、医薬品など、家電以外の商品の拡充を進めているが、これまで取り扱いの少なかったジャンルの商品を店舗に置くことで、さらなる集客を図る狙いがある。

 2010年3月期には売上高2兆円を突破し、次の目標となる3兆円達成を視野に入れる同社。しかし、もはや国内には新規出店できるエリアが少なくなってきているのが実情だ。ここ数年は大都市圏への積極的な出店を続けてきたものの、もはや国内には新規出店できるエリアが少なくなってきている。中国進出を果たすなど海外市場の開拓を進めているが、既存店売り上げの底上も重要課題となる。自社では扱いきれないジャンルの商品をネット販売事業者から調達し、店舗への集客へとつなげたい考えだ。

 オープン後5日間の販売実績ゼロ

 オープン時に揃ったのは、食品や衣料品、雑貨を扱う店舗など、約350。ただ、個々の店舗をみると、楽天市場で売り上げ上位に来るような、いわゆる有名店舗は数えるほど。消費者に対するアピール不足の感は否めない。さらに問題なのは、「在庫なし」の商品が非常に目立つこと。商品すべての在庫がなく、画像も表示されていないという店舗が少なくない。

 雑貨などを販売するA店もその一つ。担当者は「ヤマダから話があったのが9月で、審査に合格したのは10月中旬。商品登録が間に合わなかった」と明かす。つまり、直前に出店を決めた店舗が多く、商品がそろわないままオープン日を迎えてしまったというのが真相のようだ。
 モールでは家電関連は原則として扱わない方針としていたが、実際には液晶テレビなどを販売する店舗も出店している。AV関連商品を扱うB店は、商品登録の仕組みについて「事前に担当者に連絡し、許可が出たものは翌日以降に商品コードが発行される」と話す。つまり、ヤマダで販売する商品と重なる場合は、事前チェックの段階で許可がおりないとみられる。B店のオープン後5日間の販売実績はゼロ。担当者は「認知度の高い会社ということもあり契約したが、今のところは期待はずれだ」と話す。

 機能面の不備も目立つ

 1000余りの商品を登録したC店も状況はほぼ同じ。11月19日までの5日間で販売した商品はわずかに1個。その後も売れ行きは芳しくなく、オープンから約1カ月が経過した現在でも、累計の売上高は数万円レベルだという。C店はヤマダモール出店店舗の中でも数少ない有名店だけに、他店舗の販売状況も推して知るべしだろう。
 C店の担当者は「ヤマダはネット販売ではあまり実績がなく、ウェブプロモーションが良く分かっていないのでは」と指摘する。商品の多くが在庫切れという状態では、来訪した消費者も直帰してしまい、二度と訪れない可能性が高い。
 携帯電話向けサイトのみのオープンというのも集客がおぼつかない原因の一つ。ネットショップにとっては「プロモーションはPCサイトの方が仕掛けやすい」(C店)からだ。来年2月にPCサイトも開設予定とはいえ、同時オープンで大々的に仕掛けた方が話題を呼んだのでないか。

 また、機能面でも「楽天市場やYahoo!ショッピングに比べて劣る面が目立つ」(同)という。例えば、注文があった際にモールから送られる受注確認メール。他モールのそれと違い、どんな商品が売れたか記載されていないたね、ログインして確かめなければならないのだという。在庫を複数モールで共有している店舗の場合、不都合が生じかねない。

 集客がままならない現状だが、今後出店店舗にとって期待されるのは、毎週3000万部を発行するチラシからの送客だろう。スペースこそ小さいものの、ヤマダモールコーナーを設けており、比較的安価に商品を掲載することが可能だ。PC版開設以降は、魅力的な集客ツールとなる可能性もある。

 商品価格の設定に懸念

 商品価格の設定も出店店舗の懸念となっている。価格の決定権はヤマダが持つが、現状は「卸販売と同様に、こちらが提示した価格にヤマダが上乗せして販売している」(C店)。B店、C店ともに、今のところ提示した価格で交渉は成立しているようだが、モール内では同じ商品を複数の店舗が販売することはないだけに、今後同じ商品を別の店舗がより安い価格で出してきたらどうなるのか。「モール内での競争が起きないのがメリット」と言えば聞こえは良いが、消費者には見えないところで競争が発生するのでは意味がない。さらには、価格変更による“仕掛け”が打ちづらいのも、店舗にとっては問題といえる。

 ヤマダモールには、他店との価格競争が起きやすい商品は掲載しづらいのが実情だ。そのため、C店では他店と重ならない商品を選んで販売しているという。

 購買意欲が生まれるモール作りを

 こうした現状をヤマダ電機はどう捉えているのか。モール開設後の販売動向について取材を申し込んだものの、「テスト運用中のためお答えできない」(広報室)との回答だった。

 売上高2兆円超を誇る同社は圧倒的なバイイングパワーを持つが、それは店舗があってこそ。店舗でのポイント消費を前提に貯めている会員が大半なのが実情ではないのか。こうした顧客をネットでも囲い込むにはさらなる工夫や宣伝が必要だ。

 ネットショップにとって、現状のヤマダモールは売り場としての魅力は薄い。ヤマダの販売力に頼る家電メーカーを相手にするのと同じ感覚で出店を持ちかけていたのでは、有名店に参加してもらうのは難しいのではないか。「見切り発車」の感も拭えないだけに、まずは利用者が買い物をしたくなるモールを作り上げるのが先決だろう。

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