AIでECを伸ばす方法は? - 最新技術で効率化、売り上げアップへ –

 AI(人工知能)を用いた様々な最新技術がネット販売を支えている。では、ネット販売実施各社はどのようにAI技術を活用して業務の効率化や売り上げアップにつなげているのだろうか。注目すべき各社の事例を見ていく。

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事例1:ZOZOテクノロジーズ

識別系と予測系 AI に照準 グループのビッグデータ活用

 ZOZOテクノロジーズは、ZOZOグループが持つビッグデータを使ったAI活用を推進している。現在、ファッション通販サイト「ゾゾタウン」の年間購入者数は860万人超、取り扱いブランドは約8000で、商品情報や購買履歴、閲覧履歴、顧客情報など国内有数のデータを持つ。加えて、ファッションコーディネートアプリ「ウェア」には着こなしのデータや各コーディネートに対するユーザーの反応といったトレンドを判断する材料も大量にある。また、ゾゾスーツやゾゾマットを介して得た体型データもあり、これらのデータを使って売り上げ拡大や顧客体験価値の向上につながるAI活用を進める考え。

 AI活用の優先順位はふたつのアプローチで決定している。ひとつは、東京・青山と福岡に構えるZOZO研究所で基礎研究を行い、応用できそうな分野についてプロダクト化するという、種から育てて芽が出てくるケース。もうひとつは、売り上げや顧客満足度を高めるためにAIができることをビジネス、マーケティングの側面で発案し、研究を進めるパターンだ。

 人間の脳の機能のように、AIも機能別に「識別系」「予測系」「会話系」「実行系」の4タイプに分類でき、ZOZOグループの“データ×AI”の取り組みは、「識別系」と「予測系」のAIにフォーカスしている。

 「識別系」では、ゾゾスーツやゾゾマットといったスキャンデータに対する解釈を機械に任せる部分や、「ゾゾタウン」と「ウェア」に導入済みの「類似アイテム検索」もそうだ。これは、ファッションアイテムの形や質感、色柄などをもとにAIが似ている商品を検出して一覧で表示する機能で、ユーザーが新たなアイテムと出会う機会を増やしている。当該領域は、さまざまなブランドがAI画像認識のクラウドサービスを使って通販サイトに導入し始めているが、ZOZOグループでは完全にオリジナルのアルゴリズムを組んでいるためカスタマイズできるのが強み。

 「予測系」については、大きくは顧客予測のAIで、例えばユーザーが30日以内にどういった買い物をするかなどを分析してマーケティングに生かす。ベーシックな部分では30日以内の購入予測のスコアを出し、スコアに応じたマーケティングを実行するといった具合だ。購入するかどうかのフラットな予測に加え、ラグジュアリーアイテムを購入する確率のスコアを出したり、靴やコスメなどカテゴリー別の購入確率を予測したり、特定ブランドの購入予測など、さまざまな購入予測をマーケティングのトリガーとして活用している。

 予測系ではさらに、コールセンターにどれくらいの電話やメールがくるかといった呼量を予測して人員の最適配置につなげたり、古着の最適買い取り価格予測や欠品予測など幅広い領域でAIを活用している。

野口竜司氏はグループのビジネス職に AI の基礎教育も行う

ハイブランドと共同マーケ

「類似アイテム検索」については、9年8月に「ゾゾタウン」に導入したが、数万人のユーザーを対象に行った機能の先行テスト結果として、利用者は非利用者と比べて滞在時間が4倍以上となり、利用率の向上につながった。また、従来のカテゴリー検索やレコメンド経由では出会わなかったアイテムを見つけることができるなど、新しい検索の仕方を提供したことで購入の機会も増え、「予想を超えて売り上げに貢献している」(野口竜司ZOZOテクノロジーズVPofAIdrivenbusi-ness)としており、「ゾゾタウン」においても欠かせない機能となっているようだ。こうした成果もあって「ウェア」のウェブ版や、最近では「ウェア」のアプリにも同機能を追加している。

 予測系の取り組みとしては、ハイブランドの購入予測AIを使った顧客アプローチでは、ラグジュアリーブランドの「ロエベ」と組み、「ゾゾタウン」内で「ロエベ」の購入確率が高いユーザーに効率的にアプローチする実験を共同で実施。「ロエベ」の購入予測だけでなく、ラグジュアリーブランドの購入意思や趣向、かつ直近の購入意欲なども含めてスコア化し、「今この瞬間に購入しそうなユーザーをAIによって予測している」(野口氏)という。

 ZOZOグループでは、スコアの上位ユーザーに対してメール配信と「ゾゾタウン」内のウェブ接客、アプリを介したプッシュ通知を行って需要喚起を図った。また、今回の共同マーケティングでは、購入意欲の高いユーザーに絞り込んだ濃いコミュニケーションが可能なだけでなく、ブランドの長期的なファン育成につながるコミュニケーションも狙っている。「ゾゾタウン」ではMAのシステムが常時動いているため、すぐに購入しなかったユーザーでもAI配信を経由して「ロエベ」のブランドページを閲覧したり、お気に入り登録をしてもらうことで、長期的なブランドとユーザーの関係構築につなげる。

古着の値付けもAIで

 また、予測系では「ゾゾタウン」内で展開する「ゾゾユーズド」の古着買い取りでもAI活用が進んでいる。古着の買い取りは、「ゾゾタウン」で新品を購入する際に古着の下取り額を事前に割り引くサービス「買い替え割」の下取りと、「買い替え割」利用時に同梱される古着の2パターンがあり、「買い替え割」の下取り価格提示はAIが決定。古着の販売価格をAIで予測し、それをもとに下取り価格を設定しているという。

 古着は単品特定が難しいため、従来はブランドやカテゴリー、古着のコンディションなどの情報から値付けを行ってきた。それをZOZOグループの膨大なデータとAIを活用することで、より精度の高い販売価格を予測し、これまで以上に高い買い取り価格をユーザーに還元できるようになった。

 古着の値付けをAIが行っている割合としては、20年9月時点でゾゾユーズドで買い取りをしている古着の6割強に上る。「ゾゾタウン」や「ゾゾユーズド」で取り扱っていない商品に関しては、現状では高精度な価格予測が難しいため、AIによる値付けをしていないようだ。

 AIが値付けするときに重視しているデータはブランドやコンディションといった買い取り商品そのものの情報だけでなく、「ゾゾユーズド」での過去販売実績や、定価をはじめとする「ゾゾタウン」での一次流通(新品)の商品情報も機械学習モデルに変数として加えたことで、より高精度な販売価格予測が可能になった。一次流通データを買い取り商品と容易に紐づけ、中古商品の価格予測に生かすことができるという点が、ZOZOならではの値付けの強みとなっている。

 また、AIで高精度に販売価格を予測できるようになったことで、より高い買い取り価格をユーザーに提示でき、高く買い取ることでユーザーの満足感が高まり、新たな消費を喚起し、さらにファッションを楽しんでもらうことにつがるとする。加えて、高い価格で買い取ることで、結果的に旬な商品を「ゾゾユーズド」で販売できるようになるという。

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