デジカは、“ボーダレス化”をキーワードに決済事業やゲーム事業、EC 支援・越境 EC 支援事業などを手掛けている。決済事業 の「Komoju(コモジュ)」はカナダの通販サイト構築サービス「Shopify(ショピファイ)」の日本進出を後押する役割を果たした もので、それはコモジュが日本独自と言えるコンビニ払いの重要性を見抜いて組み立てていたものだからだ。グローバルな知見と ともに各国の特殊性などにも敏感に対応できるローカライゼーション力を武器に、コモジュをベースにしたフィナンシャルクラウ ドサービスの提供を目指していくほか、EC 支援や越境 EC 支援を展開していく。 (聞き手は本誌記者・菅原照雄)
外資へ日本における コンビニ払いの重要性を示す
外資の日本参入で決済事業
─ 日本でビジネスを行うようになった 経緯をお聞かせください。
私はカナダ出身で、現地の銀行に5年間ほど勤めていました。その後、カナダのソフトウエア会社に移り、その企業が日本で販売しようとしたことから日本でのビジネスに関わることになりました。その時に分かったのが、海外の良いものというのが前提ですが、折角の良い製品・サービスであっても販売する際にリソース不足や仕組みがないために思ったように販売できないことがある、ということ。その結果として日本のお客様方が良いものがあるのにそれを知らず、ひとつランクが下のものを手にしてしまうことになります。それは、日本市場に参入する海外メーカーにとっても、日本のお客様にとっても不幸なことです。日本において欲せられている製品であれば、つまり海外の製品が日本でマーケットニーズがあるのであれば、販売の仕組みを作ることでもっと展開はしやすくなると考えました。海外のメーカーでも日本に進出できるようになりますね。そして逆に日本企業が海外へ進出しようとした時にも同じように日本の製品のマーケットニーズがあれば、現地の方々が購入しやすい仕組みを作っておけば展開しやすくなります。
─ デジカを創業したのはいつですか。
2005年です。ソフトウエア販売の会社を辞め、デジカを立ち上げました。当初はデザイン事業や翻訳といったいろいろなサービスの提供を行っていましたが、一旦サービスから商品販売にシフトし、サービスという自身の時間を売るということでなく、商品を売ることに変えました。そこが初めの1歩となりました。物販なので様々な販売チャネル、つまり流通を通すというのもひとつのやり方ですが、私どもがやりたかったのはお客様へ直接売れるような仕組みを作ることでした。そこで自分たちでECシステムを作りましたが、システムには決済も必要になります。既存のたくさんの決済を組み合わせるのか、それとも作り直すのかという2つの選択肢がありましたが、新たに作り直すことに決定し、それが現在の決済事業の核となっている「Komoju(コモジュ)」の誕生です。ですからコモジュの最初のユーザーは我々自身です。コモジュは“購入モジュール”が名前の由来で、そのモジュールさえ入れれば誰もが簡単に決済手段を導入することができることを目指しています。
─新たに作り直したのであれば大変な作業だったのではないでしょうか。
そうですが、作り直すということで価値が高まります。誰でもこの購入モジュールにつなげられるようにと考えていました。ビジョンとしては決済のクラウドサービスとして展開できるようにすることを考えていました。コンビニ支払いでも、クレジットカードでも、また韓国向けやヨーロッパ向けの決済であっても、つなぎさえすればあらゆるニーズに対応できるフィナンシャルクラウドサービス。これがコモジュのコンセプトです。
─コモジュは、これまでの決済サービスとは全く異なるものと考えてよいのでしょうか。
そうですね。簡単な例ですが、Gmail(Gメール)というクラウドサービスがあります。昔はメールサーバを立ち上げたり、設定したり、メールが使えるようになるまで一苦労でした。最近のGメールですと、Hangoutsというビデオカンファレンスの機能まで利用できます。これらはGoogleアカウントさえあればすべて利用できる一つのクラウドサービスです。私たちが目指すフィナンシャルクラウドサービスは、その中に「日本円決済」、「韓国ウォン決済」、「ユーロ決済」などをそれぞれ作っていきます。そして「日本円決済」のジャンルには何があるかと言うと、「PayPay」を入れるかどうか、「LINEペイ」はどうするか、というようなことを考えクラウドサービスとして提供していくことを目指しています。
─ 日本、韓国、欧州のそれぞれで違った決済を提供できるクラウドということですね。
そうすることで、例えば日本の事業者でも自分たちの商品を韓国や欧洲にも売ることができます。決済に関して心配することがなくなります。心配しなくてはいけないことがたくさんありますから、まずはファイナンシーの部分はすべて私たちが提供するクラウドサービスで解決できるようになるのではないでしょうか。
フィナンシャルクラウド サービスの展開目指す
─既にあるプラットフォーム系のサービスと似たようなところもあるようですが。
既存のものは、どちらかと言うとそのサイトに来てもらって購入いただくというもので、リセラー型のものです。デジカが目指すのは個々の事業者がそれぞれの売り方があって自社で販売するというところでサポートできます。
ショピファイの日本参入を 後押し
─ショピファイがコモジュを導入するようになった経緯は。
彼らが日本へ参入する2年前からアプローチしていましたが、当時はアジアをフォーカスしていませんでした。ですから、彼らが日本での事業を検討し始めたと知った時は、“待っていました!”とすぐに連絡してミーティングを行いました。ショピファイに対し、日本でマーチャント(小売事業者)が消費者に安心して購入してもらうために必要だと私たちが説明したのは、「コンビニ決済を必ず入れる」ということでした。そうすれば消費者は安心できますし、また「コンビニ支払いがあります」ということでマーチャントにも説明しやすくなるということを伝えました。
─コンビニ支払いが不可欠であるということは日本に来られて認識されたのですか。
そうですね。ユニークな決済手段ですね。コンビニで現金払いを行うというのは安心感があります。マーチャント、そしてエンドユーザーの双方にとって安心な決済と言えます。エンドユーザーにとってコンビニ支払いはマーチャントが信頼できるという一種の証のようなものともなります。コンビニ支払い自体の利用を増やそうということよりも、「あったら安心」とエンドユーザーが感じてくれるという効果が重要と考えています。それによって販売実績をあげるということを前提にしてコンビニ支払いを提供しています。
Steam もコモジュ導入
─コモジュを導入したところは他にどのようなところがあります。
多くの導入事例がありますが、米国のPCゲームのオンラインストアのプラットフォーム「Steam(スチーム)」があります。質の高い海外製ゲームは当時から日本でも人気があったのですが、いざ日本のエンドユーザーが購入するとなると、クレジットカードを待っていない若年層や持っていても海外サイトでカードを使うことを不安に思う方にとっては、ハードルは低くありませんでした。そこでコモジュを導入してもらうことで、お客様には日本語での決済サポートという安心に加え、コンビニ払いや日本独自の電子マネーでも決済できる利便性も提供することができました。世界最大級のゲームオンライン事業だけにインパクトも大きく、日本でも成功することになりました。スチームの日本での事業は14年夏にスタートしたのですが、翌年15年の1年間の成長率は世界でトップになりました。日本での買手が増えると、同時に日本のゲーム制作者も増えるし、また大手のゲーム企業もプラットフォームを利用するようになって日本でも海外でも販売するようになっています。またスチームの韓国進出に際しては、韓国には「文化商品券」(日本の「図書カード」に類似したもの)というプリペイドカードがあり、学生などはこのカードの贈呈を受けて文房具などの購入に充てるケースが多いので、そのカードでスチームを利用できるようにしました。それでスチームは韓国市場でも成果を上げることになりました。
─外資の支援をメイン事業にしているのですか。
外資の日本進出をサポートするだけではなく、日本から海外へというケースでも支援できますので、日本仕様のものをターゲットの国々に合うように変更して越境ECの支援なども行っています。韓国ほか、台湾、マレーシア、シンガポール、インドネシア、タイといった東南アジア、そして欧州へ進出する日本の企業に足掛かりを提供できるような事業を強化していきます。
モモセ・ジャック・レオン氏
1972年生まれ、カナダ出身。カナダのヴィクトリア大学にて経済学とコンピューターサイエンスを学ぶ。21歳の時に大学を休学し単身来日、日本での生活を経験した。カナダへ帰国後は大学に通いながらウェストジェット航空に勤務し、大学卒業後にモントリオール銀行に入行。投資アドバイザーとして支店長を務めた後、ITソフトウエア会社へ転身。アジア太平洋担当として、日本の大手メーカーと多くの製品を手掛けた。2005年、「世界中の人々が魅力的な商品やサービスを国境を越えて選択することができる、ボーダレスな市場のインフラを構築すること」をミッションにデジカを創業する。
◇取材後メモ
ジャック社長は「日本はマーケットも大きいし、ものづくりに関しても優秀ですし、もっとポテンシャルがあるのではないかと思います。日本は大好きですし、日本に貢献できるようにとずっとやってきています」と話す。現時点の自社の到達度について「3~4%の段階」と語り、多国籍の優秀なエンジニアに恵まれていることが同社の潜在力であり、また日本のマーケットにも精通していることで、さらなる事業拡大を進めていく可能性に自負を見せている。