「定期購入」の規制強化へ ――契約内容の明示など表示ルール化検討

 消費者庁が通販の「定期購入」の規制を強化する。議論の場は、2月に発足した「特定商取引法及び預託法の制度の在り方に関する検討委員会」。消費者サイドの委員は、契約内容の表示ルールの明確化を求めている。

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19年度の相談、前年から倍増の4万件

 定期購入をめぐっては、これまで段階的に規制強化が進んできた。2019年、国民生活センターの「PIO‒NET」に寄せられた「定期購入」の消費生活相談は、約4万4000件。前年から倍増した。多くは健康食品や化粧品に関するもの。「お試し500円」などと広告しつつ、複数回の購入を条件にする〝定期縛り〟が増加。2回目以降の契約内容が消費者から認識しづらいといった問題がある。

 19年以降、通販の定期契約の表示をめぐる特商法の業務停止命令も増えている。

 19年末、消費者庁は、化粧品通販を行うTOLUTO(=トルト)、健康食品通販を行うアクアの2社に特商法に基づく業務停止命令を下した。いずれも消費者から定期購入契約であることが分かりにくい表示を行っていた。

 トルトは、定期契約の申込確認画面で2回目以降の商品代金の支払い代金を明示せず、顧客が定期契約であることを容易に認識できるように表示していなかった。また、申し込み確認画面で契約の「完了ボタン」より下に著しく小さい文字で契約条件を表示。条件は130行に渡っており、複数回スクロールしなければ内容を確認できない状態だった。

 また、アクアは、申し込み確認画面で「ご注文完了ページへ」と表示。ただ、実際はこのボタンを押すと申し込みが完了する形になっていた。次の確認画面があるかのように表示し、申し込み完了が容易に認識できるようにしていなかった。

 特商法は、通販において、商品の販売価格や対価の支払い時期等を表示することを義務づけている。また、省令で定期契約する場合の金額、契約期間などの販売条件を表示することを求める。画面上の操作から顧客が契約を容易に認識できるように表示していなかったり、申し込み内容を容易に確認・訂正できない行為を「顧客の意に反して通販の売買契約をさせる行為」として規制している。

 19年8月には、埼玉県が「いつでも解約」などと表示していた育毛剤通販のRAVIPAに景表法の有利誤認で措置命令も下している。特商法ではないが、容易に解約できるかのように表示していたにもかかわらず、実際は解約できる時間が限られ、電話もつながりにくいというものだった。

契約の取消権導入など求める

 こうした相談の増加を受け、検討委員会も複数の消費者サイドの委員が定期購入の規制強化を求めている。適格消費者団体の代表も務める池本誠司氏は、広告や申し込み確認画面における「2回目以降の契約条件表示」のルール明確化を要求。「いつでも解約」などと広告し、解約できないトラブルも問題視する。ウェブ上で解約手続きを確保する措置も求める。

 松岡萬里野氏(日本消費者協会理事長)は、申し込み最終確認画面における支払い総額の義務付け、不当表示に起因する契約の取消権導入を求める。吉村幸子氏(東京都生活文化局消費生活部)は、定期購入と容易に認識できない表示など「顧客の意に反する契約」の取消権、誇大広告に起因する契約の取消権を求める。

 消費者庁も「定期購入の相談が倍増している」(取引対策課)と、問題視している。

消費者委員会も意見書提出で後押し

 こうした中、規制強化は避けられそうもない状況だ。定期購入規制が遡上にあがった20年6月末の第4回会合では、委員長を務める河上正二委員(東京大学名誉教授)が、優先課題の第一に定期購入の規制を挙げた。消費者委員会も検討委員会に〝定期縛り〟の規制を求める意見書を提出。これを後押しする。

 意見書では、悪質な定期購入を「回数縛り型」、「違約金型」、「解約困難型」の3類型に整理する。「回数縛り型」は、お試し価格を誇張しつつ複数回の購入を条件にする。「違約金型」は、「解約自由」などとうたいながら、中途解約で解約料や違約金が発生する。「解約困難型」は、電話による解約手続きに限定しつつ、電話受付を事実上、拒否することで事業者が定めた解約期限内に手続きできなくする。これら類型が組み合わされている場合もある。こうした販売手法の是正に向け、消費者庁が17年の特商法改正に合わせて策定した「インターネット通販における『意に反して契約の申込みをさせようとする行為』に係るガイドライン」の見直しを要請。「申し込み最終確認画面」で契約内容を明瞭に判読できるよう表示のルール化を求める。

 例えば、「お試し価格」などと強調した表示と同等、もしくはこれより目立つ「色」や「フォント」、「フォントサイズ」で契約条件を示したり、スクロール等をせずに同一画面内で表示すること、距離を開けず近接して表示することについて、ルール化を求める。また、業界団体等と連携し、監視を高度化する体制の整備を求めている。

解約トラブルへの対応強化も

 会合では、消費者サイドの委員から「お試し価格」等の強調表示に対し、販売条件等の文字が小さいことから、「申し込み確認画面、広告で文字の大きさなど誤認を防止する表示の義務づけが必要」(池本誠司委員)といった意見が出た。初回価格等の表示と2回目以降の契約条件の一体的表示、「お試し」など誤認を招く表現の禁止を求める声もあった。誤認による契約締結に至った場合の契約の取消権の導入、刑事罰の検討を求める意見などもあった。

 解約をめぐるトラブルへの対応では、ネットで解約手続きが行える体制の整備を義務付けることを求める声もあった。

規制強化は避けられない構図

 検討委員会は、15人の委員のうち、11人が消費者サイド、日本通信販売協会(JADMA)など直接、規制に関わる業界団体出身の委員が2人、中立的立場と捉えることができる経済団体出身の委員が2人という状況。いわば業界側は「11対2」という構図で議論を強いられていることになる。

 会合で、JADMAの万場徹専務理事は、特商法がこれまで改正を重ね、企業に遵守を強いる条文数が増え続ける一方、相談件数の減少がみられないなど、これまでの規制の効果を疑問視。法改正による効果が検証されていないことを指摘し、合理的根拠に基づく政策の立案を求める。

  悪質商法の排除に向けては、「相談」という形でその端緒をいち早く察知する消費者相談の現場と事業者団体が連携して注意喚起するなど官民連携を図る「悪質業者早期掲載システム(仮称)」などの体制構築を提案する。

  現状、議論の結果が法改正として反映されるか、ガイドライン改正にとどまるかは不透明な状況だ。だが、相談件数の増加を背景にした消費者サイドの要請が強まる中、規制強化は避けられそうもない。

 このほか、検討委員会では、定期購入に続く優先課題として、デジタルプラットフォーマーに対する特商法上の措置も検討していく方針を示している。消費者サイドからは、悪質な出店者の排除に向け、苦情処理体制の構築などを求める声があがっている。ただ、大半の委員は、プラットフォーマーによる自主的な取り組みに理解を示しており、早急な規制強化策には慎重な姿勢を示している。

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