アマゾン、また「協力金」

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確約計画認定の裏で始まった 新たな要請に企業の不満蓄積

 公正取引委員会による確約計画認定の裏で、アマゾンがまた、商品の納入業者に「協力金」の負担を求め始めている。納入業者が過去に支払ってきた「協力金」を返金するとした確約計画は今年9月に認定されたばかり。返金手続きが終了していない中での新たな「協力金」要請に、アマゾンのプラットフォームを活用する企業の不満が蓄積している。

1400社に総額20億円を返金へ

 アマゾンは、確約計画で納入業者約1400社に対し、総額約20億円の返金を見込むとしている。

 事の発端は、2018年3月。アマゾンが自社で販売する商品の納入業者に対し、不当な「協力金」を負担させていたとして、公取委が独占禁止法(優越的地位の乱用)の疑いで立ち入り検査を行ったことだ。

 独禁法違反の疑いがあった行為は、納入業者に対する支払額の「減額」や協賛金等の名目で提供させていた「金銭提供」、「返品」に関わる5項目。アマゾンは、納入業者から仕入れた商品の仕入価格が引き下げられた場合、すでに在庫分の同商品の仕入価格の差額を支払うことを求める「在庫補償契約」を締結。契約を背景に、納入業者への支払額を減額していた。

 金銭提供では、仕入れ商品の販売で目標とする利益が得られないことを理由に負担金を提供させたり、システム投資に対する協賛金名目で毎月一定額の支払いを求めていた。また、納入業者とは、アマゾンの販売サイト内でマーケティングを行うための「共同マーケティングプログラム契約」を締結。納入業者が一定額を積み立てマーケティング費用にあてる内容だったが、一定期間経つと積立金がアマゾンに帰属する等の運用を一部で行っていた。いずれもあらかじめ負担額の算出根拠を明らかにしていなかった。

 返品では、過剰在庫と判断した商品について、あらかじめ納入業者の合意を得た条件等を定めず返品していた。確約計画では、これら行為を取り止め、この措置を今後3年間実施すること、納入業者への返金を行うことなどを約束した。また、納入業者との取引に関する独禁法遵守に向けた行動指針を作成し、従業員に周知すること、定期的に監査を行い、これを公取委に報告することを定めた。

 計画の認定を受け、公取委は、アマゾンに対する排除措置命令や課徴金納付命令を行わないとした。だが、その陰で、アマゾンはすでに新たな「協力金」の要請を始めていたのだ。

アマゾンは公正取引委員会による確約計画認定を通じて〝妥当な協力金〟のお墨付きを得たか(アマゾンの ジャスパー・チャン社長=写真左、と公正取引委員会)

システム投資等の「ベースコープ」は引き下げ

 確約計画の認定を受け、アマゾンは納入業者への説明を開始している。これまでシステム投資等の名目で求めていた「協力金」の問題は、納入業者の理解が得られていなかったこと。これについて、改めて説明し、〝合意〟を取りつけた上で事業展開していくためだ。

 ある事業者は、「BaseCOOP(ベースコープ)」と呼ぶ「協力金」について、通知文書と電話による説明を受けたという。

 「ベースコープ」は、アマゾンがウェブ上で集客のために行った広告運用や、顧客や納入業者の利便性向上に向けたシステム開発・改善の費用の一部の負担を求めるもの。取扱い商品カテゴリーでその負担額は異なるが、この事業者の場合、これまで取引金額の5%を請求されていたという。通知ではこの契約を9月30日で終了することを説明。一方、「取引金額の2%」に相当する新たな「ベースコープ」の契約を依頼している。

 今回、「優越的地位の乱用」の疑いが持たれたアマゾンの「協力金」は、1在庫補償契約(支払額の減額)、2販売目標未達の際の金銭補填、3共同マーケティングプログラム契約による負担金、4システム投資の協賛金、5過剰在庫の返品─の5つ。「ベースコープ」は3や4にあたるとみられる。

 公取委によると、現時点で見込まれる返金額約20億円のうち、「ベースコープ」は約6割を占める。ただ、システム投資や集客に向けた広告運用は、納入業者の売上増大にも寄与している部分があるため、全額の返金は求めず、アマゾンが示した一定の基準を超える部分に返金する。妥当な協力金が3%であるとすれば、5%支払っていた納入業者には「2%×3年分(確約計画で認定した対象期間)」が返金される形だ。

 この事業者のもとにアマゾンから返金の連絡はない。とはいえ、ベースコープは、2%に引き下げられており、「それなら納得できる」とする。「面食らった」のは、これに続く「協力金」の依頼だ。

納入価格の引き下げを名目として、新たな「協力金」を依頼か

納入価格引き下げ名目に新制度 を導入

 「『ベースコープ』とは別に、コスト改善、掛率改善のご協力をお願いします。今後の取引において、取引会社から仕入れる全ての商品について、仕入価格(納入価格)を、一定の率引き下げることに、ご協力いただきたいと考えております。引き下げ方法は、別途『CostAdjustmentRebate(CAR)』をお支払いいただくことも可能です」─。名称に〝リベート〟とあるように、アマゾンでは、「ベースコープ」の引き下げと並行して、納入価格の引き下げを名目とした新たな「協力金」の依頼だ。

 支払い方法は、納入価格の引き下げか、「CAR」の支払いの選択式。複数の商品カテゴリを扱うその事業者によると、カテゴリや事業者によって提示されている負担額は異なるという。前出の事業者の場合、ある商品カテゴリで求められたのは、「取引金額の7.5%」。ベースコープが減額されても差し引きで大幅な増額になる計算(=表)。「これじゃ上がっちゃうじゃんと。『ベースコープ』を引き下げるのは分かるが、結局、新しいものが加わっただけ」と不満を口にする。

 ただ、通知は納入業者の管理画面である「ベンダーセントラル」を通じて依頼されており、「承諾ボタン」を押すか押さないかで意思を示さざるを得ない。「拒否できるのか、拒否すると発注に影響するのか分からない。見えない圧力に悩む納入業者が多いと思う」と不安を口にする。

 同様の依頼を受けた別の事業者も「どの程度の料率の引き下げを求められているか書かれておらず選択のしようがない」、「現実的な問題として納入価格を一斉に下げると採算が合わない商品が出てくる。『CAR』を選択するほかない」と話す。

是正前より負担増で「結局同じ」

納入価格の引き下げを名目としているにもかかわらず、これに応じたところで今後の価格交渉が終わるわけではない。

 ある事業者の場合、納入価格に関する交渉は、アマゾンが提供する「ベンダーセントラル」と呼ばれる事業者向け管理画面を通じて行われる。キャンペーンや発注数などに応じて、価格引き下げの要請は日常的に行われ、応じないと「発注書が出せない」といった形で連絡がくる。これまでも週に数十案件ほど、納入価格の減額の要請を受けてきたという。今回、「CAR」への協賛か納入価格引き下げを求められており、アマゾンのバイヤーに「ここで価格引き下げに応じれば、今後の価格交渉はなくなるのか」と尋ねたという。だが、答えは、「それとは別物」。「そうであればなんのために『CAR』が要請されているのか分からない」とする。

 中には「CAR」について「現時点で把握していない」とする事業者もいる。この事業者は、今回、返金対象法人となっている。アマゾンと年間十数億円の取引があり、年数回、「割引補填」の要請を受けていた。当初、返金対象法人ではなかったが、「公取委から対象になるためアマゾンに伝えておく」と連絡を受けたという。

 ただ、「個人的に思うところはあるが、会社の判断として返金しなくていいと伝えた」とする。これまで家電カテゴリで2つのアカウントを持ち、それぞれ「ベースコープ」を1%支払っていた。今回、これを1本化して2%支払うことになったという。

 「CAR」の要求は、商品や取引事業者で異なり、いくつかのパターンがあるとみられる。ただ、確約計画では、負担額の算定根拠を明らかにせず、「協力金」を求める行為を取りやめること、今後、これと「同様の行為を行わず、この措置を3年間実施すること」を約束している。名目を変えた「CAR」の要求は、「同様の行為」と言えないのか。アマゾンに返金や「CAR」要求の基準について尋ねたが、本誌掲載までに回答は得られなかった。

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