通販企業や大手仮想モールが宅配便の再配達削減に向け動きを見せ始めている。宅配便の2割が再配達となっている状況や、ヤマト運輸の運賃値上げ問題に端を発した配送サービスの見直しから、通販企業など荷主サイドの配送業務改善で、再配達削減や顧客視点に立った受取手段の取り組みが求められるようになってきた。これまでのスピード配送を競うネット販売企業の流れに変化をもたらす可能性も出てきそうだ。
指定場所配達や郵便局受取を
楽天と日本郵便が宅配便の再配達削減に向けタッグを組む。楽天市場出店者が発送した荷物を郵便局窓口で受け取れるようにするほか、顧客が指定した玄関前などに宅配便を置くサービスなどを年内にも実施する。楽天では依然として不在再配達が多いとし、顧客が不在を気にせずに購入できる環境づくりを進めていく。
両社は2015年4月に日本郵便の宅配ロッカー「はこぽす」での受け取りの実験を共同で行ったのを皮切りに、楽天の宅配ロッカー「楽天BOX」、コンビニ店頭での受け取りで協業してきた経緯がある。今回はこれまでの連携を一層強化し、不在再配達の削減と受け取りの効率化に乗り出すことにした。
実施していくのは、拠点受取の拡充、指定場所配達、配達通知サービスの充実、ポイント付与による受け取り効率化の4つ。拠点受取は現在行っている両社の宅配ロッカーとローソン、ファミリーマート、ミニストップの店頭での受け取りに加え、日本郵便が昨年4月から開始した郵便局窓口での受け取りサービスを追加する予定。2万5000店舗のコンビニ受け取りに、郵便局2万局が加わり、合計4万5000 拠点で楽天市場の商品の受け取りが可能になる。
一方、指定場所配達は、顧客が注文時に「自宅玄関前」や「ガレージ」など指定した箇所に配達物を置き配達を完了するサービス。顧客からのニーズもあるサービスとしている。またマンションなどの顧客宅への配送時にインターフォンで呼び出すことをせず、直接宅配ボックスなどへ届けることなども同サービスの一環として検討していく。
ただ指定場所配達は、紛失などの問題もあることから慎重に検討を進めるという。日本郵便は定期的に商品を届ける他の通販企業向けで同様のサービスの実績があるとしている。楽天との協業で実施するとなると、仮想モール出店者向けでは初めての取り組みになる。
通知サービスの拡充はメールや楽天のスマホアプリのプッシュ通知など多様なものを活用して効率よく商品を顧客が受け取れるようにすることを検討していく。日本郵便が出店者から荷物を引き受けた時点、受け付け郵便局を通過した時点、配達局に到着した時点、同局から配達に向かう時点など通知を頻繁に行い、顧客が在宅時に受け取れるようにする。顧客宅への「配達30分前」というような通知を可能にすることも視野に入れており、待ち時間を解消できる通知サービスを目指していく。
ポイント付与は再配達を回避する取り組み。楽天は4月14 ~ 17 日、「受け取り場所を選んで配達1回で受け取るとポイント3倍」キャンペーンをすでに実施。対象ショップ(約1万7000 店)での期間中の購入で、自宅への1回目の配達、宅配ロッカー(楽天BOX、はこぽす)、コンビニのいずれかで受け取ると、通常の3倍の楽天スーパーポイントを付与した。このほか、日本郵便が4月25日に開始したはこぽすやコンビニで受け取った場合にポイントを付与す「COOL CHOISE できるだけ1回で受け取りませんかキャンペーン」に楽天も参加している。楽天は独自のポイント付与キャンペーンを断続的に取り組む予定だ。
「再配達がEC物流の喫緊の課題」
楽天ECカンパニーSCMイノベーション課の佐藤敏春ヴァイスシニアマネージャーは4月5日の発表の場で「消費者ニーズが多様化する中でネット販売が伸びているが、不在再配達がEC物流の喫緊の課題」とした。日本郵便は現状、荷物全体の3%に満たない拠点受取の利用のすそ野が広がることを期待。拠点受取をはじめとした今後の楽天との連携で「依然として多い自宅宛ての荷物の不在再配達を削減する」(世羅元啓郵便・物流営業部EC戦略室担当部長)。
今回の連携強化では、2社が共同で楽天市場出店者へ営業活動も行っていく。日本郵便の「ゆうパック」を利用してない出店者へ新たな取り組みによる顧客サービス向上や返送率の低下、さらに再配達削減によるコスト低減により可能にする特別運賃を提示し利用を促す。
自社配送での小刻時間指定対応で
アスクルでは宅配の再配達削減などに向けた施策をすでに展開し、「不在持ち戻り率」が約3%となるなど成果をあげている。同社では運営する日用品通販サイト「LOHACO(ロハコ)」で昨夏から一部地域で自社配送による小刻み時間帯指定配送サービス「ハッピー・オン・タイム」を本格的に開始した。顧客が商品購入時に午前6時~深夜12時まで1時間単位で配送時間を指定でき、かつ配送日の前日(当日配送の場合は当日昼)までに30分単位で配送時刻を専用アプリのプッシュ通知で顧客に知らせ、また、配送10分前にも再度通知するもの。
昨年5月から都内4区と大阪1区で配送指定時間を2時間枠としてテストを始め、8月末からは指定時間を1時間単位でも可能にし、かつ未対応だった午前6~8時や午後10~12時の早朝・深夜帯の時間指定にも対応しつつ、対象地域を都内5区、大阪3区と拡大して本格スタートを切った。なお、利用料は1時間枠の時間指定時には税込350円を徴収するが1回の購入総額が税込3000円以上の場合は無料。2時間枠指定の場合は購入額に関わらず、無料としている。
すでに商品配送時不在持ち帰り率(不在率)は一般的な不在率20%(国交省調べ)に対し、約3%と成果を出している。
荷物待ちの時間の軽減のほか、廃棄に困る梱包材の代わりにエコバッグで配送する施策なども行なっていることで、顧客からの評判が高く、荷物数が順調に増えていることに加えて、昨年11月から主力事業の法人向けオフィス用品通販の荷物との混載による配送を始めたこともあり、1個あたりの配送コストの削減が進んでいることから、同社では対象エリアの拡大を徐々に進めていく考え。
2月に発生した埼玉の物流センターの火災で同サービスは一時休止する事態となったが、現在では同サービスに関しては通常通りに戻っており、対象エリアに関しても3月29日には渋谷区、同31日には品川区とエリア拡大を進めている。5月までに都内では新宿・目黒・大田の3区に、大阪市内では西・中央・淀川・東淀川の4区も対象とし、年内には東京23区および大阪24 区の全域まで広げていく計画だ。