宮崎義則●ベルヴィ代表取締役 ギフトの世界でトップ企業へ

 ギフト通販「ソムリエ@ギフト」を展開するベルヴィの業績が好調だ。出店する「楽天市場」のギフトジャンルのトップ店舗として、近年は売り上げが急拡大。2020年5月期の売上高は前期比27.3%増の40億5000万円だったが、今期は50億円に達する見込みだ。2020年12月18日には、楽天が開催した経営者向けセミナーにおいて、同社の宮崎義則社長が「継続して成果を出すための売上・投資・リソース配分による“バランス経営”の極意」と題し講演を行った。「継続してネット販売を伸ばすには、投資と利益回収の施策のバランス、ソースアロケーションのバランス、業績と社員満足への施策のバランスの3点が重要だ」と説く宮崎社長。楽天市場のジャンルトップに登りつめた戦略と、今後の目標は。

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「少しの勝ち」を積み重ねて「圧倒的な勝ち」につなげる

後発からジャンルトップに

─ギフトジャンルでは後発となりますが、楽天市場においてはトップ企業となりました。

 売れる会社が前面に出てくるのがネット販売の世界の難しいところだと思っています。売れる会社が前に出るからまた売れるし、売れるからさらにランキングの上にいく、ということです。後発の会社がそれをどう乗り越えていくかが大変なわけですが、それを何とかして果たさないと前には出られないわけです。

─2005年のネット販売への参入当初はギフトではなく、食品から始めたとのことですが。

 当時は農協などの組合員向けにギフトを販売していたのですが、農協によっては肉や米、野菜など知名度のある食品がたくさんあるわけです。それらをインターネットで販売したら売れるんじゃないかと思ったのですが、全く売れなかった。ネットでは生産者が直に販売するケースが多いので、それに太刀打ちできませんでした。その頃は「ギフトがネットで売れるのか」ということに疑問を持っていて、専門性がない「ギフト屋」の中途半端な立ち位置に悩んでいました。ですから「ギフトより食品の方が売れるのではないか」と思ったのですが全く駄目。これ以上赤字を出すなら撤退しなければいけないという状況まで追い込まれて、「やめるなら本業のギフトで勝負したい」と考えました。そうしたらそこそこ売れるようになりましたね。

─最初の数年は苦労したわけですね。

 そこから後発なりの戦い方を徹底的に分析しました。まず、ギフトジャンルの競合より少し安い価格設定としたほか、ページのクオリティーを追求するために、アドビの講習で勉強をしてページを作成しました。少しでも利益が出たら広告に投資し、アクセス数を稼ぐというやり方です。競合相手を少しリードすることを続けて、圧倒的な勝ちにつなげるわけです。ただ、売れる商品を売り、また仕入れて売るだけでは利益はなかなか取れません。300グラムの明太子と400グラムの明太子が同じ値段だった場合、必ずしも皆が後者を買うわけではありませんよね。「300グラムの方がおいしい」という価値をいかにして伝えるか。ただ、型番商品はその辺の難しさがあると思います。ですから、サービスでの差別化も重要になってきます。

─まず「競合より安く」という戦略を徹底したとのことですが、楽天市場での最安値を意識したのですか。

 モール内で最安を目指したわけではありません。あくまで「一番売っている店より少し安く」です。安くても売れない店はあるわけで、アクセス数も非常に重要な要素です。ですから、一番強い店を意識することが大事だと思います。「当社だけのスパイス」を効かせることが必要です。父が言っていたのは「魚屋よりもすし屋をやれ」ということ。仕入れた魚をそのまま売るだけではなかなか儲からないが、それを加工することで初めて利益が出るということですね。

─ただ、一番売っている店は当然売り上げ規模も大きいわけで、対抗する側としては、仕入れでスケールメリットを出せないうちは苦しい部分もありますよね。

 ある程度辛抱しなければいけない部分もあるでしょうが、仕入れは経営者の手腕が試されるところです。例えば「数年後に売り上げをここまで伸ばすから協力してくれないか」と交渉し、向こうがそれを受け入れてくれるかどうか。「こうやって売るつもりだ」ということをきちんと伝えれば、メーカーが納得してくれることもあると思います。「売る」という夢の見せ方と、それに賛同してくれる仲間を見つけることが大切です。

─仕入れルートの開拓はどのように進めたのですか。

 父の代からギフト商材を扱っていたので、メーカーとも一通り取り引きがありました。ただ「インターネットで売るのは駄目」という商材も多く、そこを「何とか協力してくれないか」とお願いしてきました。「数年後に売り上げをここまで伸ばす」という話はメーカーだけではなく、スタッフにもずっとしてきました。いろいろな人と夢を共有したことで、皆がついてきてくれたのではないかと思います。

─2007年4月に月商100万円を突破、10年12月には月商1000万円を超え、11年10月には月商3000万円超と売り上げが加速度的に伸びていきました。現在は仕入れ商品だけではなく、オリジナル商品を強化しているとのことですが、狙いは。

 カタログギフトを売っていく上で、何とか他社と差別化できないかと工夫してきました。月商1億円を超えた13年頃から、箱だけオリジナルにするというところから始まり、オリジナルの今治フェイスタオルの取り扱いを始めたのが約4年前となります。その頃からカタログギフトの中身も変化がはじまりました。

─オリジナル商品は利益率の面では有利です。

 もちろんそうです。ただ、一定の売上規模がないと取り組むのが難しい。当社が扱うメインのカタログギフトは14コースありますが、これを全てオリジナルでまかなうとなると、カタログ制作費など相当な投資が必要です。ですから、年商では10億円はないと手を出しにくいですね。

─オリジナル商品の開発は当初から見据えていたのですか。

 最初からありました。現在「THEGIFTPREMIUM」などのブランドでオリジナル商材を展開していますが、「THEGIFTPREMIUM」では商標登録ができません。ですから、何かしらのブランドを別に立ち上げて、商品を展開していきたいと思っています。それはわれわれが実際に食べてみておいしいと感じ、贈って間違いないと思えるもので、ギフトの売れ筋商品ジャンルをオリジナルで展開したいと思っています。

付加価値を高める

─講演では「単に売れる商品を売るというだけでは商人として駄目。バランスを考えないといけない」と説いていました。

 「儲かる商品を売らないといけない」というのは、最終的には「ブランドにならないといけない」ということとイコールだと思っています。ブランド物のカバンが割引しないと売れないということはないわけで「これを売っていれば間違いない」という商品を作り出すということは、結局はブランドを作るということです。もちろん、それには商品のモノも良くなければいけないわけですね。

─そのためにどんな取り組みを進めているのですか。

 楽天市場のグルメジャンルの人気店舗とコラボレーションを展開しています。和歌山の「ふみこ農園」とコラボしたジュースやフルーツコンポートは非常に売れています。ギフトは入り口が少し違うため、当社とコラボすることに意義を見出していただいているようです。他にも「ヒオリエ」のタオルや「小島屋」のナッツ、「タマチャンショップ」の雑穀ざんまいセットなども扱っています。当社でギフトを買うとなったときに、すでに有名なブランドだけではなく、「ネットで選ばれているものなら安心」という形を作りたいんですよね。楽天市場は店舗間の仲間意識が強く、他店と出会える場も多いです。ですから、1年に一度行われる「ショップ・オブ・ザ・イヤー」にはすごく価値があると思います。山を登ったら違う景色が見えてくるだけではなく、そういう人たちと出会えていろいろな話が聞けるので、勉強にもなりますから。

売り上げと社員満足のバランスは永遠の課題

─双方にとってメリットは大きい。

 仮想モール内だけではなく、外部でも販売していきたいですね。もう少し先の展開としては、楽天市場の有名店舗が扱う商品ばかりを集めたカタログギフトも作ってみたいと思っています。プレゼントされた消費者がそのカタログから商品を選び、「おいしかったからまたそのお店で買ってみよう」となる人が増えるのではないかと期待しています。どこにでもある商品を売るのではなく、うちの店にしかない商品を売っていきたい。ネットは「売れている店を真似して安く売る」というのが当たり前になっていますが、そういったゴールのない戦いを続けているとむなしくなってくるので、もっと世界が広がっていくような商いの形に戻そうというのが、今やっていることですね。

─宮崎さんご自身も最初は競合を目標としてスタートしたわけですが、今は他店から目標とされる立場となりました。

 もちろん、他店から価格で仕掛けられることは日常茶飯事です。商いは真似されるものですが、誰かが真似できるようなものはノウハウでもなんでもない。目標とされる側はそういう戦い方をしないといけないんだろうと思っています。

─インスタグラムにも力を入れています。

 今までインスタで売る方法がイメージできていなかったのですが、最近はいろいろな人から話を聞いて「モノが売れる」ことを実感するようになりました。インスタからの流入以外に経路がほとんどないのにすごく売れているという話も聞いているので、今からインスタでの宣伝に力を入れたいと思っています。

─講演では「売り上げと社員満足への施策のバランスが重要」「業績向上が社員の幸せに直結しないといけない」と話していましたね。

 20年ほど前から社員満足度の向上に取り組んでいます。私は父が経営している会社に入ったわけですが、最初は自分が成功するために金儲けを考えました。でも、そういうマインドだとなかなかうまく行かないことに気づきました。売れないのを社員のせいにして社員が辞めていく。そんなことがずっと続いている会社って最悪ですよね。いろいろと勉強もして、最後に行き着いたのが「社員満足度の向上」です。ネット販売で売り上げが増えて利益が出ても広告出稿が必要になったり、いろいろと経費はかさみます。そうなると会社は大きくなっても仕事が増えるだけで、給料はなかなか増えない。ネットの世界は一夜にして数倍の売り上げになることがあり、そうすると業務時間が増えて離職率が上がってしまうわけです。ここのバランスをどう取るかは永遠の課題ですが、少しずつ良くはなってきていると思います。2021年は創業40周年なので、社員と社員の家族全員を連れて、2泊3日で東京ディズニーリゾートへの旅行をする予定です。もちろんお金で還元するのも大事ですが、自分のお金ではできない経験を、会社側が経験してもらう機会として提供することで、スタッフをハッピーにできればと思います。

─ギフトはコロナ禍の影響を大きく受ける分野ですが、今期も売り上げが大きく伸びる見込みです。

 結婚式などが自粛ムードにあったため、上期は法人需要や結婚式の引き出物など、大口の取り引きが無くなった影響を受けました。ただ、新規顧客が増えたのでトントンでした。下期は好調で、特にワンデーギフトが伸びています。これ
までは百貨店でギフトを買っていたような人がネットで買うようになったのではないでしょうか。

─今後の目標は。

 年10億円ずつ売り上げを伸ばしていくイメージです。ギフトという商いを選んでいる以上、この分野でトップになりたいと思っています。それは今までは百貨店だったかもしれませんが、「百貨店ではなく『ソムリエ@ギフト』で買うのが正解」と思ってもらえるように、もっともっと付加価値を高めていかなければいけません。まだまだチャレンジャーだと思っています。


宮崎義則(みやざき・よしのり)氏

1994年兵庫県立姫路西高等学校卒業、アメリカに語学留学。1997年ギフト業界に就職。丁稚奉公を経験。1998年父が経営するベルヴィに入社。2007年同社代表取締役に就任。

◇ 取材後メモ

 ギフトのように型番商品が多いジャンルは、どうしても価格競争になりがちです。そのため「売り上げは増えても利益が取れない」という悩みを抱える店舗は多いのではないでしょうか。ベルヴィはオリジナル商品を強化することに活路を見出しました。楽天市場の人気店舗とのコラボレーションは、横のつながりが強い楽天市場ならではの取り組みだと思います。ネットでギフトを買うことが当たり前になってきたとはいえ、まだまだ実店舗が強いのも事実です。売れる商材を開発し、どのようにブランド価値を高めていくのか。ネットの世界でジャンルトップになった同社ですが、宮崎社長のチャレンジは始まったばかりです。

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