中嶋賢治●ジュン取締役執行役員

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チャット接客で優位性を発揮へ

 ジュンは、自社ECの顧客体験をリアル店舗に近づける取り組みを推進中だ。一環としてチャット接客を強化しており、チャット利用者の満足度は高いという。また、商品欠品時にリアル店舗から直接、購入者に配送する“マイクロフルフィルメントシステム”の本格運用に乗り出すなど、OMO戦略も加速している。EC事業統括情報システム室ロジスティクス部の中嶋賢治取締役執行役員が語る自社ECの強化策やOMO戦略の現状とは。

店頭顧客がコロナ禍でECの利便性に気づいた

プロパー販売を強化

─アパレル各社のEC売り上げはコロナ1年目に急伸した反動もあって、今期は成長曲線が緩やかです。

 それは当社も同じで、EC売上高は2021年9月期の前年比25%増に対して22年9月期は3%増でした。ただ、売り方を変えたことで営業利益は前年から22%伸びました。前々期はコロナ1年目の在庫問題があり、少なからず割引クーポンの配布やタイムセールなども含めて在庫を整理せざるを得ない状況でしたが、前期はリアル店舗と同様にECもプロパー販売にこだわったことで利益面は改善しました。

─EC施策も変化しています。

 オフ率で販売する施策は控え、商品訴求の部分を強化しました。ECチャネルは自社ECと「ゾゾタウン」「楽天ファッション」で大半を占めていますが、外部モールについてもクーポン施策はかなり絞りました。EC化率は前年比微減の34%で、自社ECの構成比は40%程度でした。

─20年9月にコスメやライフスタイル商材を扱う「ライフアンドビューティーバイジュンオンライン」を新設しました。

 コロナ禍でお客様の消費行動の変化を見越してスタートした業態です。「ファッション=アパレル」ではありません。当社ではお客様のニーズを注視しながら、コスメやスポーツ、インテリア雑貨、飲食などをいかにファッション領域ととらえて事業展開するかを大事にしています。力を注いでいますし、ECもすごく伸びています。

─同サイトが伸びている背景については。

 ライフスタイルの高度化に伴って、モノの購入の仕方がアパレル偏重型ではなくなったのだと思います。服は新品とユーズドとを組み合わせたりしながら、工夫して着回しを楽しむようになっています。一方で、自宅で過ごすときの香りやインテリアなどをリッチにすることで、心地の良い生活を送りたいというニーズが高まっていると感じます。

─フレグランスなどはECチャネルと馴染むのでしょうか。

 ECに馴染むのか少し心配でしたが、香水やお香などもしっかり売れています。ルームフレグランスなどは頻繁に買うものではないと思っていましたが、意外に購入率は高いです。

─アパレルとそれ以外の商品を買い回りしているのでしょうか。

 「ライフアンドビューティー」は目的買いが多いですね。欲しい商品がどこにあるのかを調べてから訪問するお客様が多い印象です。当社で扱うアイテムはどこにでもあるような商材ではなく、比較的販路が絞られていますので、ECモールと比べられることも少ないです。利益面への貢献度はこれからですが、成長の芽として期待できる領域です。

期待以上の顧客体験を提供

─コロナ禍でEC利用が定着してきました。

 今までリアル店舗しか体験されてなかったお客様がECの利便性などに気づいて、リアルとECのどちらで買ってもいいと感じているのではないでしょうか。

─2年間でECに慣れていない顧客が訪れても不安を感じないようにサービスや機能面を磨いてきました。

 とくにチャットサービスを導入してから、「この写真では分からない」とか、「このキャプションでは伝わらない」といったご意見が毎日上がってきますので、その日のうちにサイトに反映させるという取り組みが定着していますし、そのスピード感を大事にしています。

─チャットもコロナ禍の早いタイミングで導入しました。

 最初に導入したシステムから「チャネルトーク」に変え、LINE連携することで、LINE公式アカウントに届くリアルタイムのお問い合わせも「チャネルトーク」で管理できるようになりました。旧チャットシステムのときはボットをまったく使わずに人だけで運用していましたが、今はCS系のお問い合わせはボットが対応し、商品に対するお問い合わせはスタッフが回答しています。チャットチームには元販売員など15人が在籍していますが、チャットを介した問い合わせが増えていて、少し増やす必要も出てきました。

─問い合わせ内容については。

 それはリアル店舗と同じです。サイズ感や全身のバランスの問題などが多く、「私の身長だとどちらのサイズがいいか」とか、「この色のボトムに合わせるならどちらのトップスがいいか」といったお問い合わせがきます。そうしたお悩みに対し、チャットではテキストだけでなく画像を付けて回答しています。イメージしやすいように通販サイトの商品画像を切り抜いてコラージュするなど、お客様ごとにパーソナライズしています。お客様も「そこまでしてくれるの」とびっくりされることが多く、ほかのアパレル企業と比べても優位性の高いチャットサービスになっていると思います。

─チャット接客の満足度が85%と非常に高いですね。

 お客様のお悩みを解消することについては、かなり高い水準にあると思いますが、これからやりたいのは、お客様が期待されている以上の提案をすることです。リアル店舗のように、お客様の好みの傾向などを十分に分かった上で、販売スタッフの感性を反映させた提案をしていきたいです。それができれば、リアルであろうがECであろうが、顧客体験の差はなくなっていくと思います。

─販売経験の豊富なスタッフがチャット担当をしている強みが生きてきます。

 その通りで、結局、顧客満足を得るにはシステムよりも「人」が大事です。当社が一番やらなければいけないのは、「人」のレベルを落とさないことで、商品情報の吸収など日々のトレーニングを積み重ねることです。リアル店舗のスタッフであればひとつのブランドに精通していればいいのですが、チャットスタッフは自社ECで扱うすべてのブランドが対象となるので、吸収すべき情報量はかなり多くなります。問い合わせ件数が増える中で、チャット接客の質と量を両立していけば、他社ブランドや外部ECモールに対する差別化要素になるのではないで
しょうか。

店舗からの直接配送を強化

─商品欠品時に実店舗から購入者の自宅に直接配送するマイクロフルフィルメントシステムの本格運用を始めました。

 自社ECの「ジャドールジュンオンライン」では、お客様の希望する商品がない場合、チャットスタッフに相談すると、在庫のある実店舗で商品を確保し、お客様の自宅に直接配送する
「ラクトリ」サービスを21年10月から展開していて、この仕組みをリアル店舗での欠品時にも広げました。お客様が来店された店舗に在庫がなくても、倉庫や別の店舗に在庫があれば、そこからダイレクトに届けます。従来はリアル店舗の在庫をいったん倉庫に送ってから出荷していましたが、送料も時間もかかりますので、より早く、より安く届けるためには店舗出荷の運用が不可欠でした。

─国内アパレルではほとんど例がありません。

 ハードルのひとつが配送会社さんの問題で、通常はひとつの拠点から距離数換算で運賃を支払う契約ですので、マイクロフルフィルメントシステムを運用するには、全店舗で運賃契約を結ばなければいけません。当社は今回、日本郵便さんと契約して店舗ごとではなく、距離数だけの料金体系としてもらったことで、システムの運用を始めることができました。

─ほかのハードルについては。

 もうひとつは個人情報保護の問題です。お客様の住所を聞いて手書きで送り状を書くわけにはいきませんが、個人情報が残らないように送り状を印刷するシステムが、当社が導入した「ショッピファイ」のアプリに実装されていることが大きいですね。

─販売スタッフの業務も増えています。

 店舗スタッフになるべく負荷をかけないことが大事です。業務が複雑になったり、時間がかかったりして本来の接客業務に支障をきたしてはいけません。そのため、当社では「楽天ファッションオムニチャネルプラットフォーム(RFOP)」のアプリも入れました。店舗スタッフには「LINEワークス」に受注商品の通知が届くので取り置きする商品がすぐに分かります。出荷完了のボタンを押せば本部にも通知が届きます。これまでは、そうした工程をメールや電話で行っていました。店舗間の商品移動や問い合わせの時間をなくさないと店舗スタッフの業務負荷が増えてしまいます。

─年間どれくらいの店間移動が発生しているのでしょうか。

 当社では、客注として店舗からほかの店舗に動かしている商品が年間22万点あり、約2億5000万円の経費を使っていました。

─店舗出荷の対象店舗数は。

 当社は全国に約380店舗を構えていますが、まずは200店舗でマイクロフルフルフィルメントシステムの運用を進めます。

─自社ECに店舗試着予約の機能も実装する計画です。

「RFOP」を導入しましたので、近々スタートする予定です。実は3年前からトータルロジスティクスコントロールの仕組みを、ゆくゆくは導入したいと考えていました。倉庫に在庫を集め過ぎるとリアル店舗の在庫は薄くなってしまいますので、店舗に在庫をしっかり持ちながらも機会ロスを減らすには店舗出荷しかないだろうと思い、さまざまなテストを行ってきました。

顧客満足を得るにはシステムより人が大事

─楽天のシステムを選んだ理由は何でしょうか。

 自社でそうした仕組みをすべて開発するには時間とコストがかかることもあって、何かの機会に楽天さんに相談させてもらい、より業界のインフラとして活用できるように共同で開発してきた経緯があります。

─店舗試着予約はECで決済をしてもらった上で、希望の店舗に取り置く形ですね。

  当社では、決済されていない商品は動かさないというポリシーです。お客様には事前に決済してもらいますが、売り上げは試着予約を受けた店舗に計上します。

─業─OMO戦略の基盤が整いました。

 システムを導入してもまだ3割で、残り7割のオペレーションが伴わないといけません。接客の中でスムーズに案内できるようにするのはもちろん、店舗出荷では商品を正確に、良い状態で届けられるようにするには商品のステータス管理も加わってきます。エラーを出さずにオペレーションが回るまでのチューニングには労力と時間がかかります。

─今後の課題は。

 これからの世の中を考えたときに、ムダな販促費や不要な値引きをせず、定価で売り切ることにチャレンジしないといけません。従来型のセールを見込んだモノづくりはダメです。今期は約9割を定価で販売する設定でしか商品を作っていません。在庫量は減りますが、それでも売り上げを下げないためには、機会ロスを削減することが大事で、どこかに在庫があれば販売できる仕組みを整えておくことがリアル店舗にとって武器になります。機会ロスを防ぎ、より少ない在庫でプロパー販売比率を高めていくことが、これからのファッションビジネスには不
可欠な要素だと思います。


中嶋賢治(なかじま・けんじ)氏

2006年ジュングループ入社、2020年より現職。情報システム、ロジスティクス、ECを管掌。ジュン全体のDXを推進し、店舗とECの在庫を一元化、お客様のニーズがある限りどこからでも届けられる仕組みを実現している。EC内にWCS(WebCustomerService)を組織し、リアルとECで近しい顧客体験を届けることを全社で推進している。また、ものづくりにも精通しており、MD改革、サプライチェーン全体のDXにも取り組んでいる。



◇ 取材後メモ

コロナ禍でEC売上高を大きく伸ばしたアパレル企業は多いですが、リアル店舗とECの境目をなくすOMOの取り組みで、ジュンは一歩先の世界を見ようとしています。商品欠品時に実店舗から購入者の自宅に直接配送する仕組みは、国内アパレルではほとんど例がありませんが、これは、EC事業だけでなく、ロジスティクスを含めて会社の全体最適化とDXを推進する役割を担っている中嶋氏だからこそ本気で取り組めたのだと感じます。店舗在庫を動かす仕組みには消極的な商業施設もありますが、機会ロス削減や環境負荷の面からも、変化が求められているアパレル業界のスタンダートになってほしい仕組みです。

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