伊勢公一●アリババグループ ライブコマースは必要不可欠だ

 アリババグループでは、越境ECプラットフォーム「天猫国際(Tモールグローバル)」に出店する企業向けの支援を強化している。新型コロナウイルスの感染拡大で訪日中国人が激減する中で、日本企業にとって越境ECはこれまで以上に重要な販売チャネルとなった。同社では天猫国際への出店モデルのほか、TOF(TmallOverseasFulfillment、中国向け海外直送サービス)とTDI(TmallDirectImport、代理販売モデル)という2つの販売チャネルを用意。特に、TOFは越境ECへの参入を考える企業からの問い合わせが多いようだ。中国消費者の越境ECへの意欲が高まる中、日本企業がとるべき効果的な販促とは。

スポンサードリンク

日常的なユーザーとの双方向コミュニケーションが重要

日本は「ファーストチョイス」

─コロナ禍で中国のネット販売市場はどう変わったのでしょうか。

 全体的にネット販売が伸びました。ただ、中国はもともとデジタル化が進んでいたわけで、それが鮮明になるとともに、デジタル化やEC化をさらに加速することになりました。商材でいえば、健康を意識した商品や、“巣ごもり”に対応した商品が伸びました。越境ECに関していえば、コロナ禍以前の中国は海外旅行へのニーズが非常に高かったわけですが、それができなくなってしまった。そのため「越境ECで海外の商品を購入する」消費者が増えました。

─21年の中国における越境ECの動向をどう見ていますか。

 「海外旅行に行けない」ことの代替は内需に置き換えられるでしょう。その一つの選択肢として越境ECがあります。現時点での売れ筋やトレンドについては、昨年後半から変わっていません。

─コロナ禍を受けて、日本企業に対してどんな支援策を展開したのでしょうか。

 アリババグループとしては、天猫に出店している全てのマーチャントに対して、昨年上半期の出店料を免除しました。間接的な支援としては、サプライチェーンを強化しています。昨年9月末には、当社の物流関連企業「菜鳥網絡(ツァイニャオネットワーク)」が日本市場に参入しました。BtoCの倉庫は東京と大阪に、BtoBの倉庫は横浜と神戸に構えています。

─中国ではコロナ禍でライブコマースの利用が大きく拡大しています。

 巣ごもりを余儀なくされたことで、消費者がスマートフォンに触れる時間が増えたことが後押ししています。マーチャントにとっては「ライブコマースにどう取り組むか」は大きな課題であり、どんなライバー(配信者)と組めるかが重要になっています。当社ではライブコマースのプラットフォームとして「タオバオライブ」を設けています。当社がKOL(インフルエンサー)をブッキングして展開する形もあれば、ライバーがプラットフォーム外も含めて独自のライブをするという形もあります。当社としてもできる限りこうした機会を増やしたいと思っており、昨年は柔軟にライブコマースができる環境を整えることができました。

─企業にとって、ライブコマースの重要度が増しているわけですね。

 ライバーをキャスティングして、ライブコマースで知名度を上げていくブランドもあれば、自分たちでコツコツとライブコマースに取り組むブランドもあります。自社の店舗からライブコマースを手がける割合は、全体の6割程度まで増えているのです。ライブコマースという、マーケティングコミュニケーションの手法の普及率が高まったことから、企業にとって必要不可欠な取り組みとなっています。日常的にユーザーと双方向コミュニケーションを取らないといけないわけです。ベビー用の医療機器ブランド「ベビースマイル」を展開する、シースターの山藤清隆社長にお話を伺ったのですが、トップクラスのKOLから「ぜひ御社のベビー用歯ブラシを紹介されてほしい」と声がかかったそうです。こういう逆パターンもあります。KOLは商品に関する知識があり、「かゆいところに手が届く」ような、すぐれた商品を消費者に紹介するのが、存在価値の一つです。消費者の好みが多様化する中で、世界中のさまざまな商品に目を向けているわけです。ライバー側も、メジャーな商品を紹介して、それにクーポンを付与するだけでは生き残るのが難しくなってきています。「自分にしか見つけられない良い商品」を紹介することが、KOLにとってもチャンスとなっています。

販売代行モデルへの問い合わせが増えている

KOL効果は一過性でない

─トップクラスのKOLに頼む場合のコストは、売り上げに見合うものなのでしょうか。

 価格や在庫量にも左右されるので、一概には言えないですね。ただ、皆さん継続してライバーを活用しているわけですから、料金的には見合ったものだと思います。トップのKOLに依頼した場合、効果はその場で商品が売れるというだけの一過性のものではありません。自社商品へのリンクを通じて、店舗ページに訪問してもらえるわけです。そこでフォロワーになってもらえれば、新製品情報やキャンペーン情報を届けることができるようになります。コンバージョン率を高めていくためには欠かせない取り組みですから、消費者と長期的にコミュニケーションを取るための投資と考えるべきでしょう。

─自社でライブコマースを行うというのは、社員が配信するわけですか。

 昨年のダブルイレブンでいえば、自治体や企業のトップが自ら消費者に語りかけるというスタイルもかなりみられました。その流れで、ブランドが自分たちの言葉でしゃべるという取り組みも継続しています。経営者や商品開発担当者がモノづくりの当事者として消費者とダイレクトにコミュニケーションを取ることは、自社の信頼性やロイヤリティーを上げることにつながります。また、カテゴリーによっては「正しい情報発信」へのこだわりが強いブランドもあります。例えばOTC医薬品がそれにあたります。最近は第一三共ヘルスケアのようにOTC医薬品ブランドの出店が増えていますが、自社で責任を持って販売するという考え方に立ち、ライブコマースを自社で行い、旗艦店も卸に任せるのではなく、自社を窓口として展開しています。

─タオバオライブを通じた20年の流通も伸びているのですか。

 タオバオライブを通じた20年の年間流通総額は4000億元(約6兆4800億円)を超えました。成長率でいえば、4~6月の流通総額は前年同期の2倍以上となっています。配信プラットフォームと購買プラットフォームが統一されており、出店者・消費者お互いにとって使いやすいのが強みです。

─コロナ禍を受け、日本企業の越境ECへの意欲はどう変化しましたか。

 意欲は加速していると感じます。19年には訪日外国人旅行者が3000万人を突破し、特に中国からの観光客は1000万人を超えるのではないかと言われていたわけです。20年も1~2月は順調に観光客が来訪していたわけですが、3月以降はコロナ禍でほぼゼロとなりました。日本企業はそれに変わる販売チャネルを模索しているわけで、当社のサービスであればTOFの利用が広がっています。これまでは旗艦店スタイルしか打ち出していなかったものが、販売チャネルを増やしたことで、利用企業が広がっているわけです。

─日本企業が越境ECを利用する場合の販売チャネルはいくつあるのですか。

 3パターンです。天猫国際に店舗を開く旗艦店スタイルがあり、さらにはTOFとTDIがあります。TDIについては、ある程度販売量が見込める商品を当社が大量に購入し、販売するというモデルとなります。旗艦店から一歩進んだ形の取り組みです。逆にTOFは「旗艦店を出すのはハードルが高い」という企業に向けたチャネルで、テストマーケティングとして使っていただければと考えています。コロナ禍による越境ECへの意欲増を受け、当社としても20年下期からはTOFにフォーカスを当てています。TOFへの問い合わせも増えていますね。

─TOFを利用する日本企業は中小が多いのですか。

 かなり幅広いですね。大手企業がメイン以外のブランドのテストに使うケースもありますし、立ち上げたばかりの美容機器メーカーが試すこともあります。特に、色やサイズが豊富でSKUが多い商材の場合、膨大な在庫を中国に送るのはリスクが高い。そういう面では、国内で在庫管理ができるTOFは、SKUが多い商材がマッチしています。直送ですから軽くて小さく、20~30代女性に向けた商品が向いているので、そういったブランドに出店してもらい、当社としても消費者とのマッチング精度を上げていきたいと思っています。

─消費者の需要を伝えるなど、コンサルティング的なことは行っているのですか。

 それが一番難しいですね。日本と中国はライフスタイルが違うので、やってみないと分からない部分が大きいからです。幅広く商材を集めて消費者に買ってもらうのが一番重要だと思います。そのために参入障壁を下げることが大事です。例えば、味の素が天猫国際に出店した際、想定外に売れたのが「塩」でした。塩分を50%カットした「やさしお」という商品なのですが、日本では血圧を気にする高齢者を主なターゲットとしています。ところが、中国ではベビー向けに購入する消費者が多かった。メーカーも当社もこうした受け入れられ方は全く想定していなかったわけです。

─中国の消費をけん引する、95年以降に生まれた「Z世代」の特徴とは。

日本のZ世代も似たところがあると思いますが、経済的豊かさを前提に「自分らしさ」を追い求めたり、あるいは日本のアニメのようなサブカルチャーも生活の中に浸透したりしています。独自性を出すために、人と違ったものや「マス」ではないものへの感度は高いのではないでしょうか。もちろん、世代でひと括りにしていいのか、という問題はあります。ただ、Z世代はタオバオでは最もウエイトの大きい層ですから、この世代のニーズを汲み取ってアプローチするのは大事です。


伊勢公一(いせ・こういち)氏

Tモールグローバル日本マーケット新規事業開発担当。消費者向け、業務用向けカタログ通販企業のバイヤーを経て、外資系ECプラットフォームの食品飲料事業部の立ち上げに参画。その後、日本国内EC運営企業を経て、2017年12月にアリババグループに入社。アリババ傘下のTモールジャパンでは、越境ECプラットフォーム「Tモールグローバル」を活用した日本企業の中国進出支援や戦略パートナー企業とのアライアンス強化に努める。

◇ 取材後メモ

 日本国内において、新型コロナウイルス感染症が拡大し始めてからおよそ1年が経過しました。コロナ禍の出口が見えない中、当然のことながら訪日観光客には当分期待できない状況が続きます。政府の後押しのもと、インバウンドが年々拡大していくと考えていた企業の期待は霧散しました。販売チャネルの拡充は急務であり、特に中国向け越境ECへの取り組みは、メーカーや小売り企業にとっては必須と言えるでしょう。また、中国はライブコマース先進国でもあります。日本においても、コロナ禍を受けてようやくライブコマースが浸透し始めた感があります。天猫国際での取り組みは、国内の販促にも敷衍できる部分はあるはず。「災い転じて……」となるかどうかは、これからの取り組みにかかっています。

NO IMAGE

国内唯一の月刊専門誌 月刊ネット販売

「月刊ネット販売」は、インターネットを介した通信販売、いわゆる「ネット販売」を行うすべての事業者に向けた「インターネット時代のダイレクトマーケター」に贈る国内唯一の月刊専門誌です。ネット販売業界・市場の健全発展推進を編集ポリシーとし、ネット販売市場の最新ニュース、ネット販売実施企業の最新動向、キーマンへのインタビュー、ネット販売ビジネスの成功事例などを詳しくお伝え致します。

CTR IMG