店舗スタッフのEC活用進む
2020年のアパレル業界はコロナの影響が直撃し、郊外路面店の多い企業を除いて軒並み苦戦した。各種統計などからアパレル業界全体で21~22%程度のマイナス成長になったと見られるが、緊急事態宣言に伴う実店舗の休業・時短営業の影響から、各社ともECチャネルを徹底的に強化した結果、大手アパレルでもEC化率が30%台に達した企業も出てきた。
外部ECモールへの出店強化に乗り出す企業もあったが、基本的には自社ECファーストで取り組むアパレルが多い印象で、コロナ禍における購買行動の変化もあって、実店舗のスタッフがこれまで以上にECチャネルに関与し、ウェブコンテンツの充実やオンライン接客などのサービスを始めるケースも目立っている。年間を通じてコロナの影響を受けた2月期および3月期決算のアパレル主要各社の前期実績と今期の取り組みを見ていく。
販売員3000人が着こなし投稿
アダストリアの2021年2月期における自社ECと外部モール経由を含むEC売上高は前年比23.4%増の538億円に拡大した。国内全社売上高に占めるEC化率は同10.1ポイント増の30.6%で、このうち自社ECが15.9%、外部モールは14.7%となった。
前期は、19年夏に自社通販サイト「ドットエスティ」がシステムトラブルで休止した反動があるものの、コロナの影響から外出を控えた人のEC利用が増加したほか、期を通じて自社EC強化の取り組みが奏功した。
自社ECでは、ショップスタッフがインスタグラムのライブ配信を通じて商品の紹介や着用感を発信するオンライン接客を積極化したほか、インスタ動画を集約した新コンテンツ「ドットエスティチャンネル」を自社EC内に開設した。
また、店頭販売員がスタイリングを投稿するコンテンツ「スタッフボード」の参加スタッフ数を増員。期初の700人弱から前期末には3000人以上となり、当該コンテンツ経由の売上高が自社ECの約半分に達したという。
今期も引き続きECチャネルの成長を目指す方針で、「ドットエスティ」の認知度拡大に向けたテレビCMやウェブ広告といった宣伝費を強化するほか、5月には自社ECと実店舗を融合したOMO型の新しいコンセプト店舗「ドットエスティストア」をららぽーとTOKYO-BAY(千葉県船橋市)とミッテン府中(東京都府中市)に出店する計画だ。
同ストアは営業部門とECチームが連携を強めて運営。ブランド横断で「ドットエスティ」のランキング上位アイテムや、人気スタイリングで売り場を編集する。また、自社ECで来店予約・試着予約をすると、利用者の購入履歴をもとにパーソナライズされた提案を受けられるようにするという。また、遅れていたオムニチャネルサービスについても、ECの旧システムをバージョンアップして対応。今上期中に一部サービスをスタートする。
ОMOストアを運営開始
オンワードホールディングスの2021年2月期における国内EC売上高は前年比26%増の約416億円だった。国内の売上高構成比はECが33%に急拡大。百貨店(29%)やショッピングセンターその他(38%)と並ぶ主力販路となった。
前期はコロナ禍で消費者のデジタルシフトが進む中、自社通販サイト「オンワード・クローゼット」の集客拡大を目的とした広告宣伝の強化やEC専用商品の開発などECチャネルの充実に努めた。
一方、外部ECモールについても、新規顧客とのタッチポイントとして活用する方針で、8月下旬には約1年半ぶりに「ゾゾタウン」に再出店した。
主力のオンワード樫山とECを展開する国内事業会社を合わせた自社EC売上高は前年比31.1%増の357億2600万円、外部ECモール経由は同3.2%増の42億3800万円だった。
今期のEC売上高はグループ全体で前年比20%増の500億円を目標とする。
同社は2月にECのシステムをリプレイスして自社ECと店頭の在庫一元化を実現。自社ECから実店舗の在庫を引き当てたり、店頭でEC在庫を引き当てられるようになったことで、機会ロスの低減につなげる。
また、同社は4月8日付で中長期経営ビジョン「オンワード・ビジョン2030」を発表。アパレル領域の売上高については今期の計画値1497億円に対し、最終年の31年2月期は2000億円を目指すが、このうちEC売上高は今期計画から倍増となる1000億円を、EC化率50%を掲げる。
目標の実現に向けて注力するのが、リアル店舗とECのメリットを融合し、自社ECの名称を関したOMOストア「オンワード・クローゼットストア」の開設となる。当該ストアは21年4月中にイオンモール羽生(埼玉県羽生市)とmozoワンダーシティ(名古屋市)、ららぽーとTOKYO-BAYに3店舗をオープン。通販サイトで扱う商品をブランドの垣根を越えて取り寄せ・試着・購入ができる「クリック&トライ」や、オンラインでも実店舗でもスタイリストを指名して接客を受けることができる「パーソナルスタイリング」など複数の新サービスを提供する。
OMOストアの推進は顧客目線に立った販売改革の重要な一手と位置付けており、まずは3店舗の利用状況などを見極めた上で今後の出店計画を判断していく方針だ。
コーデ主役のサイトに刷新
大手アパレルを傘下に持つTSIホールディングスの2021年2月期におけるグループの国内EC売上高は前年比12.0%増の406億8100万円で、EC化率は同9.0ポイント増の30.3%に拡大した。
前期はコロナによる実店舗の休業もあった中、自社ECの集客強化施策のほか、店頭在庫をECへ集約したり、オンライン接客を拡充することなどでEC売上高およびECの構成比が上昇した。また、20年8月に買収したD2Cブランド「エトレトウキョウ」も初年度から黒字化を達成して業績に貢献した。
国内EC売上高のうち、自社ECの売上高は前年比56.2%増の178億7200万円に拡大。自社EC化率は同12.4ポイント増の43.9%となった。
今期については、ファッションとフラワー、アートをコンセプトにした新たなキュレーションECメディア「ヒューエルミュージアム」を立ち上げたほか、D2C事業の拡大に向けて新ブランド「メクル」を秋冬シーズンからスタートする。
また、デジタルと販売スタッフの力を融合させた取り組みとして、グループのファッション通販サイト「ミックスドットトウキョウ」を戦略的に改修し、販売員のコーデ投稿に特化したECモールとして3月下旬にリニューアルオープンしたほか、主力ブランドの「ナノ・ユニバース」では、自社ECでお気に入りのスタッフを指名して店頭での接客を予約したり、試着予約できるサービスを始めた。
同社では、実店舗改革と同時に低収益店舗はECへの販路シフトを強化。EC売り上げの伸長を加味して撤退を判断するほか、「ECが伸びないブランドは終了する可能性もある」(下地毅社長)としている。
来春に自社ECを大幅刷新
ユナイテッドアローズ(UA)の21年3月期における自社ECと他社モール経由を含むEC売上高は前年比11.7%増の326億3000万円となり、EC化率は同9.4ポイント増の32.0%だった。
当該期はECチャネルへの在庫集約や販促強化に努めたことでEC売上高を伸ばした。とくに自社ECについては、SNSを活用したライブ配信やオンライン接客などの取り組みを強化。消費者の購買行動の変化に対応した結果、自社ECは前年に約2カ月半の稼働停止期間があるが、前年比63.4%増と好調だった。
足元では、販売員が店舗に勤務しながらインスタライブやLINE接客に参加する取り組みを強化中だ。とくに人気ブランドの「ユナイテッドアローズグリーンレーベルリラクシングGLR)」ではLINE接客やインスタライブ、店舗ブログ、スタッフスタイリングコンテンツなどさまざまなオンライン販促を実施。ユーザーは気になった商品をLINE接客で確認後に店舗で試着、購入するといったオンラインとオフラインの垣根を感じずに買い物が可能で、同社ではこうした取り組みを加速することでセット率や客単価向上、定価販売率の改善につなげる。
OMO戦略のハード面では、22年春をメドに自社インフラを活用して自社ECを大幅刷新する計画で、21年1月までにサービス全体の検証と導入テストを完了。開発導入に向けた業務やシステムの整備を行っていく。
MD面では、新しい時代に即したブランド開発を強化。今秋冬シーズンにEC・カジュアル主体の新規ブランドを「GLR」などの中間価格帯で始動する予定だ。
EC売上の8割がセール販売
三陽商会の21年2月期におけるEC売上高は81億7000万円となった。前期は14カ月の変則決算だが、前年の3~2月実績との比較では16.3%増と好調で、EC化率はコロナ禍の実店舗売り上げの減少も影響して22.5%に上昇した。
当該期のECチャネルは、外出自粛中の巣ごもり需要の増加に加え、ECへの在庫集約やプロモーション強化などの施策が奏功して自社EC、外部ECモール経由ともに伸ばした。