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「ネットは対面に劣る」の司法判断に疑問 医薬品ネット販売規制訴訟で原告敗訴

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規制は合憲、原告側の訴え全て棄却

原告であるケンコーコムとウェルネットの主な主張は、省令でネット販売で扱える医薬品を規制するのは、憲法で保障する職業選択の自由を侵害し、省令制定までの過程にも違法性があるというもの。風邪薬等など2類以上の医薬品ネット販売を継続する権利の確認、省令に盛り込まれる当該規定の無効確認および取り消しを求めていた。
 これに対して東京地裁は、まず、省令による医薬品ネット販売の規制は、法の委任範囲を超えるとする原告側の主張に対して東京地裁は、医薬品の販売手法等を定める36条の5、情報提供の方法等を定める36条の6の委任の範囲内とし、一定の販売手法ができなくなることも法の委任に基づく規制に含まれると指摘。
違憲性についても、医薬品ネット販売の規制には、健康被害の防止という公共の福祉に合致するとし、職業の選択の自由そのものに制約を課すものではなく、ネット販売という営業活動の様態のひとつを規制するものであり、合憲との判断を下している。
 原告側の省令の無効確認および取り消しの訴え自体も、過去の最高裁判決を引用し、規制が特定の者だけに運用され行政処分と同視されるという、例外的な抗告訴訟対象に該当しないとして、不適法との判断を下している。

“対面なら安全”、国の詭弁を鵜呑み

さらに、今回の判決で問題なのは、医薬品購入者に対する情報提供の部分でネット販売が対面販売よりも有意に劣るという見方を示したことだ。
判決文ではその理由を延々と述べているが、主なものを拾い上げると、対面販売では購入者の顔色などを見ながら薬剤師等の有資格者が的確な対応ができるが、ネットでは購入者の状況を判断することができない。購入者からの自己申告を基本とするネット販売では、購入者から能動的に情報を引き出すことができず、自己申告の真偽の確認も難しい。対面では名札で薬剤師等の有資格者が対応していることが分かるが、ネットではそれができないなど。さらに、チェックボックスを使った禁忌事項の確認など、ネット販売事業者側の安全確保策についても、対面販売との差異を克服できるとは言い難いと切り捨てている。
これらは、「新医薬品販売制度の円滑施行に関する検討会」で、厚生労働省や規制導入推進派の薬業団体等が主張してきたこと。言い換えれば国の主張をそのままトレースした内容なのだ。
だが、よくよく考えると、いずれもおかしな理屈であることが分かる。実際、対面販売でどこまで購入者の状況を見て対応をしているのかは不透明で、対面でなければ購入者の虚偽の申告を見破れないというものも疑問だ。有資格者か否かの確認についても、他人が名札を着用していても購入者には分からない。こうした点を考えれば、ネット販売が対面販売に劣ると明言はできまい。つまり今回の判決は、購入者と直接顔を合わせているかどうかという表面的な事象だけで判断したとしかいいようがないのだ。

判例を楯にネット規制拡大の恐れも

なぜ一審でここまでおかしな判決が出てしまったのか。結論から言えば、どうも原告と被告の論点が最後まで噛み合わなかったことにあるらしい。
原告側は一審で、検討過程や規制導入後の矛盾点を突くという戦略をとり、実質的に対面販売の形ではない配置薬の問題などについて国の見解を求めた。だが、「国の反論はなかった」(ケンコーコムの後藤社長)。また、原告側が別の論点を出しても、国からは全く異なる論点の反論が返ってくるという状況が続いたまま結審に至り、「行司役の裁判所も、訳がわからないまま思考停止に陥り、取り敢えず国の言う通りにしてしまったのだと思う」(同)というのが原告側の見方だ。
論点が噛み合わないまま、表面的な事象だけでネットからの情報提供が劣っているという判断が下された一審判決。ケンコーコムは既に東京高裁に控訴したが、この問題は医薬品だけに限らず、後々ネット販売全体に影響を及ぼすことにもなりかねない。ネットからの情報提供が対面に劣るという判決が確定すれば、それを楯に行政が省令一本でネットの様々な分野に規制を掛けてくることも考えられるからだ。この点については、ヤフーや楽天が中心となって立ち上げたeビジネス推進連合会でも危機感を持っており、世論作りなどの面からケンコーコム等の訴訟を支援していく意向を示している。
二審のポイントは、原告側が対面販売の現状などをもとに、医薬品ネット販売規制の矛盾点にどこまで迫れるかになりそうだが、ネット販売の今後を占う上でも重要な裁判と言えるだけに、関係事業者もその行方を注視する必要があろう。

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