坪井春樹●ゴルフダイジェスト・オンラインリテールビジネスユニットユニット長

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新サービスの磨き上げと認知拡大に注力

 近年はコロナ禍において、三密を回避できるレジャーとして大きな盛り上がりを見せたゴルフ業界。ゴルフダイジェスト・オンラインでもゴルフ市場の拡大と共に、関連商品のEC販売を大きく伸ばしていた。しかし、2022年に入ってからは感染対策の規制緩和が進み、人々の余暇の過ごし方も再び多様化を見せている。ゴルフ関連の市場環境が徐々にコロナ以前のように落ち着きを見せる中、同社ではECにおいて販売と買い取りを組み合わせた独自のビジネスモデルなどを構築。ネットを通じて気軽にゴルフを楽しめる世界を追求し続ける同社の挑戦に迫る。

下取り割引きやサブスク型の販売などが定着

ゴルフ用品販売が前年比で増加

─2022年12月期のゴルフ用品販売を振り返って。

 売り上げ(実店舗販売も含む)に関しては前年比104%の伸長でした。前年の2021年がコロナ禍で、世の中でゴルフブームとなり盛り上がっていました。ここで新規の顧客が非常に増えて好調だったのですが、それに比べると2022年は少し落ち着いた印象です。もともとの見立てでは10%程度の成長を目指してはやっていましたが、そこまではいかなかったです。ただ、成長することはできました。

 好調だったカテゴリーは中古のゴルフクラブです。環境としても新品商品の調達難がまだあって、コロナの影響で素材だったり人員の不足などで中々製品があがってこないことが続いていました。また、物価高で商品価格が高騰していた影響もあり、ゴルフ用品も価格が上がっています。そうした中でリユース商品が伸びているのではないでしょうか

─ゴルフクラブの販売が好調な理由とは。

 2022年6月に「下取り割サービス」を始めました。これはゴルフクラブを購入するのと同じタイミングで(顧客の)ゴルフクラブの買い取りを同時にできるもので、(買い取り額との)差額で決済する内容となっています。このサービスが支持されたことで、中古ゴルフクラブの買い取りも、新品ゴルフクラブの販売も伸びました。買い取りの在庫は今は非常に増えていて、それが売りにつながっています。また、残価設定型の「TRYSHOT(トライショット)というサブスクリプション型のサービスについてもコロナ禍で非常に伸長したサービスです。商品価格が上がっていることも大きいでしょう。リスクがなく新しいゴルフクラブを試せるので、それが支持されているのでは。

─購入単価の推移などは。

 新品ゴルフクラブの価格自体が上がっていますので、価格メリットで中古ゴルフクラブの購入が選ばれています。ただ、顧客の購入単価自体は上がっています。ドライバーやフェアウェイウッド、パター、アイアンなどゴルフクラブの種類が様々あるので一概には言えませんが、平均すると中古も新品も前年、前々年より1割程度は上がっているのではないでしょうか。。

─一方で不調だった商品カテゴリーとは。

 ゴルフ用アパレルについてはメンズ、レディースとも伸び悩みました。これは特定のブランドに偏りもなく全体的に見られた傾向です。2021年はゴルフを始められた方がたくさんいて、そこで購入が伸びたのですが、2022年はややこのパイが落ち着いたのではないでしょうか。あとは、これまでECで好調だったのが“キャリー品”と呼ばれる特価品・セール品でした。1年キャリー(持ち越し在庫)したようなアウトレット品をメーカーさんより供給されていたのですが、市況的にそれがかなり少なくなってきました。これによりお手頃な価格の商品が減ったことは影響しているでしょう。今はアパレルメーカーさんの多くがプロパー販売を強化していて、自社ECも使っています。あまりたくさんの商品を製造して消化するというよりも、売れるだけの適正な量を作ってうまく在庫管理するという方針になっているのではないでしょうか。

─下取り割サービスが伸びた理由については

 ゴルフ用品はもともと、リユース市場がしっかりあって、単価も高くリセールバリューがあるため、「買う」行為と「売る」行為について、自然と顧客側が行っていた背景があります。実店舗ではこうした中古ゴルフクラブの買い取りと新品ゴルフクラブの購入を同時に行うサービスが当たり前にできています。これがECではあまりなかったため、もしもやってみれば需要があるのではということになりました。

─ECでやる上でハードルとなっていた点とは。

 まず、商品の査定が必要となります。リアルではその場で商品の状態を見て、買い取り価格を提示できます。しかし、ECでは買い取りセンターに買い取り希望の商品が届いてからでないと担当者が査定できず、金額が提示できないということがあります。最初に買い取り金額を提示して、購入したい商品から差し引くという(同時決済などの)フロント部分が簡単ではないため、ECではあまり行われていなかったのでしょう。

─どのようにしてそのハードルをクリアしたのですか。

 ポイントとして、買い取り金額はある程度決め打ちして、この(型番の)商品はこの価格で買い取りますということを事前に顧客に伝えるようにしています。現物の状態などはあまり考慮せずにワンプライスを提示するというものです。さらに、ある程度高額な買い取り価格を設定しています。

─この買い取り手法にしたことで何かリスクなどは生じていませんか。

 買い取った商品の中には、実際に見てみると状態の悪いものも中には少しありますが、おしなべて考えていくとそこまで利益を悪化させるような状況は起きてはいません。

 また、もともとECで買い取りをする場合、最初に顧客に商品を入れてこちらに返送してもらうための専用の箱を送る必要がありました。しかし、このサービスでは購入してもらうことが前提になるため、まず、購入した商品を送り、その購入商品が入っていた箱にそのまま買い取り希望の商品を入れて返送してもらうということが可能になります。つまり、空箱を送るという工程が一つ無くなるため、この送料分のコストが削減されるのです。そうしたことから、ある程度高額な買い取り額を提示してもペイできる構造になっています。

─そのほか、注力した施策について教えて下さい。

 強化しているのはアプリです。ECにおいてスマホのブラウザからアプリへの送客もそうですが、アプリ自体のダウンロードポップなども強化していました。ダウンロードだけでなく、その後のコンバージョンにつながるようにポイントやクーポンなどアプリ限定のインセンティブも用意しました。やはり、ダウンロード後にそのまま買い物に使えるクーポン(10%割引程度)の反応が良かったです。

─すると2022年はアプリ会員数がかなり増えたのでしょうか。

 デバイス別の構成比で言いますと、もともと2021年はアプリが大体25%程度でしたが、2022年は30%を超えたので5ポイント以上は引き上げることができました。

 アプリはプッシュ通知が使えることから即時に色々なコミュニケーションを取りやすいのがメリットになるかと思います。これまではメルマガが中心で、今も多いのですが、徐々に減ってはきているので、今後はアプリにシフトしていくべきだと感じています。

─2022年は都内の秋葉原にショールーミング型店も開設されましたが、既存店も含めたリアルとの連携による集客施策についてはいかがでしょう。

 秋葉原の実店舗については、バイヤーがセレクトした商品を展示していて、あまり世の中に流通していない商品なども取り扱っています。ECへの送客や新しい顧客の開拓という点についてはまだまだこれからという状況です。また、中古販売の「ゴルフガレージ」については、在庫自体は連携しています。中古商品の場合、倉庫に置いているわけではなく、ゴルフガレージの実店舗にあるものをECで販売していて、リアルでもECでも購入できるという状態を作っています。先ほどの下取りサービスも伸びているため、ここでの在庫連携はかなり進んでいます。

物流での効率化が大きな課題に

─近年、上昇を続けている物流コストへの対応についてはいかがでしょうか。

 当社では3PLの倉庫を借りて、そちらに業務委託しています。我々の投資という訳ではないのですが、そちらで進んでいるものとしては自動梱包機のように商品の荷姿や大きさに合わせて箱を自動で適正なサイズに梱包できるものを導入されていたり、あとは自動倉庫、自動ピッキングなど新しい物流システムが導入されています。こうしたことが人件費高騰への対策になってくると思うので、今後、(物流現場の)スタッフ数が減っていく中でなるべく自動でオペレーションするための動きが進んでいるようです。

─2023年は宅配運賃の値上がりも話題となっています。

 まだ、直接的には言われていませんので、分からない部分もあります。おそらく、我々、事業者側のタリフが変わってくるのはもう少し先ではないかと見てもいますが、いずれは上がるのではないでしょうか。そこへの対策というものは具体的にはまだありませんが、我々ができることとしては同時購入の点数を上げたり、単価の高い商品にMDをシフトしていくなど、内側の取り組みで対応することになるかもしれません。

今後はサービス軸でのプロモーションを実施

─2023年12月期の立ち上がりの状況はいかがでしょうか。

 立ち上がりとして、大きくではありませんが前年を越えている状況です。ゴルフ市場としては1月はあまり良くなくて、ゴルフ用品販売市場全体を見ても前年比90~95%くらいで、結構苦戦していた印象です。2022年の12月もあまり良くなかったのでそうした市況なのでしょう。あとは大きなヒットとなるプロダクトも今は出ていない影響があるのかもしれません。

 今期は引き続き、サービス強化を考えていて、トライショットや下取り割など新しいサービスの磨き上げや認知拡大をしていきたいです。例えばトライショットは、今対象となっているのが新品のゴルフクラブですが、中古ゴルフクラブにも広げたりするなど、カテゴリーを横に増やしていくことも考えていきます。下取り割も今はゴルフクラブが対象ですが、キャリーバッグやアパレルが対象に入ってもいいと思うので、こちらもカテゴリーを広げることはやっていきたいです。

 また、プロモーションに関しては、これまであまりサービスを切り出して露出することをしていなかったのですが、2022年末頃からトライショットに関して試験的にテレビCMを作って配信することを始めました。たまたま広告のタイアップの関係で九州地方限定で行ったものです。まだ規模としては小さかったのですが、今後も「GDO」というよりかは「サービス」の軸でプロモーションを行っていき、新しい顧客に反応してもらえることを考えたいです。これまでもテレビCM自体は、ゴルフ場予約サービスのキャンペーンやアプリなどに関して、地方ではわりと行っていましたが、リテール部門のものとしてはこれが初めてだと思います。今後も、サービス軸で露出することは検討しています。

 また、(ウェブでは)今まで検索系のリスティング広告やアプリダウンロードの広告などが中心でしたが、利用者の検索の仕方も色々と変わってきており、SNSを使ったりしてグーグルで単純に商品を探さなくなっているような人もいるかと思います。かつ、競合も増えていて、メーカーさんも自社ECやモールに出店するケースも増えていますので、検索で張り合ってもコスト倒れするというか効率もあまり良くありません。そのため、新しい顧客の獲得チャネルとしてサービス切りで広告を打っていくことを試験的にやっていきます。

─2023年のEC市場展望について。

 EC化率を市況データとして見ることができるのですが、2022年は前年よりも少し下がりました。もしかすると2023年はまた少し下がるかもしれません。どうしても、実際に商品を見て買いたいという顧客はいるのかなと思います。そのためにトライショットや下取り割を作ってなるべくウェブで簡単に買い物ができるようにしているのです。そこは今後も引き続き強化しなくてはいけないところです。

 また、今期の当社の取り組みとして、1番はサービスの磨き上げですが、2番目に掲げているのは売り場改善です。ポイントとしては、特にカートに近い部分の商品詳細画面の改善は優先度高く行いたいです。ウェアカテゴリーも特に強化したいところで、2022年からモデル撮影を自社で始めましたが、商品のサイズ採寸やその表現、顧客へのレコメンドなどをどう行っていくかを考えており、これからの大きなテーマになるでしょう。


坪井春樹(つぼい・はるき)氏

カタログ通販会社で商品調達の経歴を経て、2012年にゴルフダイジェスト・オンライン入社、リテールビジネスユニットで商品部にて在庫管理、バイヤー職を担当。その後、企画部に異動し、販促マネージャー、企画部部長を歴任。2022年よりユニット長に就任。



◇ 取材後メモ

同社が生み出した「下取り割サービス」は、リユースが定着しているゴルフ業界ならではの発想で、中古品の買い取り強化と物流費の負担軽減を同時に果たせるまさに一石二鳥のアイデアです。ゴルフクラブやキャディバッグなど嵩張る商材が多く、物流面で何かと課題がつきものでしたが、こうした新サービスの創出は、その不便さが大きく解消されることが期待できます。ゴルフ市場はコロナ禍で若い客層を新たに取り込むことができました。2023年はウィズコロナとなり、人々の行動範囲や消費活動の選択肢が大きく広がることが予想されます。獲得した新規顧客の定着に向けて同社が繰り出す次の一手に注目です。

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