音楽配信で店販苦戦、生き残りでEC強化へ

【2011年3月号】ネット活用した収益モデル確立し生き残りへ

 CDが売れない時代と言われて久しい。日本レコード協会の調べによると、2010年の音楽CD生産金額は前年比10%減の2200億円で、12年連続の減少だった。2000年と比較すると半分以下まで落ち込んでいるという惨状だ。

 しかし、消費者は音楽を聴かなくなったわけではない。CDの販売減を埋める形で大きく伸びているのが「着うたフル」に代表される有料の音楽配信だ。音楽のメーン商材がパッケージからデータへと移行しつつある中で、CD専門店は苦戦を強いられている。象徴的なのが昨年8月のHMV渋谷(写真①)の閉店だ。かつての“渋谷系ミュージック”の聖地ともいえる店舗で、HMVにとっても旗艦店だったが、市場の縮小には抗しきれず閉店を余儀なくされた。

 ミリオンセラーが連発していた90年代のCD全盛時代、売り上げを拡大していったタワーレコードHMVジャパン新星堂といった大手専門店だが、このうち新星堂は5期連続の最終赤字で債務超過に陥った。また、HMVジャパンも店舗は苦戦が続いており、ローソン傘下で再建を目指している。

 CD専門店にとっては、映画などのDVDも大きな収入源だが、こちらも近年は売り上げが大きく減っている。パッケージメディアの衰退が止まらない中で、既存店売り上げの減少に悩む専門店が力を入れているのがネット販売だ。

 ネット強化勧める専門店

 CD専門店に関するある調査によると、実店舗の売り上げは前年比20%減で推移しているのに対し、ネット販売はほぼ50%増で伸びているという。元来CDやDVDはネットと相性の良いジャンルだが、アマゾンジャパン楽天ブックスといった最大手の売り上げ増に合わせて高い成長率を保っているようだ。

 CDに限らず、店舗を持つ専門店にとって、ネット販売は需要を食い合う可能性があるだけに、注力しづらい部分があった。しかし、売り上げが減少し店舗閉鎖が相次ぐ現状を考えると、利用者が年々増えているネットを強化していくのは当然の流れだろう。

 かつては業界最大手だった新星堂では、1997年からネット販売に取り組んではいるものの、いまだに売上高は12億円程度にとどまっている。しかし、今後はネットを強化する方針を打ち出しており、3年以内に30億円にまで引き上げる。

 同様に業績が低迷するHMVジャパンでは、すでにネット販売が柱となっており、全社売上高の約半分を占める。昨年12月にはローソンの傘下に入っており、両社の協業による相乗効果でさらにネット販売売り上げを高めていく方針だ。

 一方、近年店舗数を増やすなど、他の大手2社に比べると業績は堅調とみられるタワーレコードでも、2010年2月期の売上高は約6%減の573億円になるなど、減収傾向にある。昨年3月にセブン&アイ・ホールディングスが同社の株式を取得し、ネット分野での連携を進めていく方針を明らかにしている。さらには、店舗にある商品の取り置き・予約をネットからできるようにするなど、店舗とネットの連携も進めているようだ。

 ネットでのシェア争い激化へ

 ただ、現在のCD・DVDのネット販売市場は、圧倒的な利便性や映像商品の安値販売という武器のあるアマゾンや、仮想モールで貯めたポイントを利用できる楽天ブックスという大手が高い売り上げシェアを誇る。商品による差別化は難しいジャンルだけに、専門店が存在感を高めていくのは並大抵のことではない。

 専門店の武器となるのは顧客へのアナログのレコメンドだ。店舗の場合、来店した消費者が、音楽に詳しい店員がおすすめするCDのポップ広告を見て購入する、というケースは少なくない。専門店によって得意ジャンルが異なるだけに、ネットでも専門性を活かしたマーケティング手法を確立できれば売り上げを伸ばしていくことは可能だろう。また、音楽メーカーとの長年の取り引きから生まれる、独自の商品特典なども魅力の一つとなる。

 圧倒的な売り上げのアマゾンに対抗するのは難しいが、専門店にとってネットを活用した新たな収益モデルの確立が、生き残りのカギとなるのは間違いない。CD・DVDのネット販売での需要が伸びていくのは間違いないだけに、シェア争いはますます激化しそうだ。

 5年後に売上高500億円へ

 CD販売低迷の象徴的ニュースとして、渋谷店の閉鎖が大きく報じられたHMVジャパン。ただ、実店舗運営では苦戦が続いているものの、ネット販売では同業他社を引き離して好調に規模を拡大し、今や同社を支える事業の柱となっているようだ。

 同社は1999年に通販サイト「HMV ONLINE」(写真②)を開設し、業界でいち早くネット販売に着手した。通販サイトの立ち上げ当初、本社とは別の場所にEC部隊を配置。本社とは独立した環境で運営を行うことで、自社内の“横槍”を交わす狙いからだ。

 有店舗企業がネット販売に着手する際に、一つの大きな課題となるのが内部の体制。つまり、本業である店舗運営とバッティングして需要を食い合うのではないかという懸念が自社内にあれば、ネット販売へのシフトは遅れてしまう。まず会社としての“意思決定”がなければネット販売展開は難しい。

 同社EC事業本部の内山潤氏は「当時、店頭のCD販売はミリオンセラーを多く出した非常に好調な時期。そのタイミングでネット販売を始める必要はなかったが、“次の一手”としてEコマースに会社のリソースを投じたのは英断でした」と述べる。将来的な成長を見越してリアルとネットという両軸を運営する体制を作れたことが現在の土台となっている。

 こうして同業他社に先駆けてネット販売に着手し先行者利益により会員を獲得。現在、会員数は500万人に達する。

 同社は全体の売上高で前期(2010年4月期)が約310億円。そのうちEC事業の売り上げは全体の50%程度で、本誌の推定では170億円程度と思われ、今期も増収となるもようだ。構成比で見ると、CDとDVDが全体の8~9割で、残りを書籍やゲーム、雑貨などが占める。ネット販売の拡大を遂げるなか、同社では、アマゾンや楽天ブックスといったネット専業企業の通販サイトを今後の“ライバル”に据えている。

 同社のネット販売の特徴としては、立ち上げ当初から続く自前の物流が挙げられる。都内に構えている専用倉庫では通販サイトで扱う商品の保管機能だけでなく、店舗で売れなかったものを別の店舗に回すという“在庫のリサイクル”としても活用。店頭に在庫がない商品でも、倉庫にあればそれを店に回すという具合に在庫の最適化を図っている。

 また、店舗に設置している端末を使ってその店にない商品を取り寄せるという仕組みを備えており、在庫の連携により店頭での販売機会ロスの低減につなげている。さらに配送面ではリードタイム短縮に注力しており、年内に即日配送に着手する予定だ。

 同社は2010年12月に、ローソンに買収され完全子会社となった。今のところ互いに様々な展開を模索中のようだが、将来的には品ぞろえを充実させ、商材を販売するチャネルを増やしていこうというのが両社の基本的な考え方という。今後の展開としては、HMVジャパンのCDやDVDをローソンの店頭や多機能決済端末「Loppi(ロッピー)」を通じて扱っていくことなどが推測される。

 また、HMVジャパンが持つ500万人の会員とローソンが参加する「Ponta(ポンタ)」の会員約2700万人を連携させることが可能となるため、今後は会員の相互送客も積極化させる方針だ。

 このように順調にEC事業を運営するHMVジャパンだが、今後の展開として内山氏は「商材のラインアップを変えたいです」と話す。「今のままの状態で立ち止まっているのではなく、ローソンと一緒になって次の施策を打っていかないといけない」(内山氏)とする。HMVジャパンは現在、320万タイトルの品ぞろえを誇るが、CD、DVD、書籍といったエンターテインメント関連商品を軸としつつも、他の商品の投入にも意欲を見せる。

 「商材は絶対に拡充すべきですね。もちろんエンタメにこだわってお客様の期待を裏切らない範囲になりますが、チャンスがあれば何でも取り扱いたい」と内山氏。同社ではEC事業として、5年後に400~500億円程度の売り上げを視野に入れている。

 ネット販売活用し経営再建へ

 経営再建を図る新星堂では、3月から始まる来期(12年2月期)の取り組みポイントの一つにウェブの強化を掲げており、全体で1億円の投資を行いシステム面の見直しを図っていく。同社が通販サイト(写真③)を開設したのは1997年とかなり早い。ところが、店舗運営が主軸であるため「食い合い」を懸念してネットへの注力が遅れた。ただ、今後も既存店売り上げが減少していくのは避けられず、ネット販売に本腰を入れることで業績回復につなげる考えだ。計画では、3年以内にネット販売の売上高で30億円を目指しており、将来的には50億円も視野に入れている。

 まずは今年の8月末~9月をメドに8年ぶりとなる通販サイトを全面刷新する。対応が遅れていたシステム面を改善する予定で、検索機能やサイトの見せ方といった基本的な使い勝手を向上させるほか、スマートフォンへの対応やフェイスブックなどのSNSとの連動も視野に入れる。

 貧弱なサーバーも弱点となっていた。人気商品の発売を告知すると、アクセスが集中してサイトにつながらなくなることもたびたびだったという。「アイデアが良くてもハードウエアがついてこない」(野々口敏之Web戦略室室長)状況だったが、システム面の改良で機会ロスを減らしていく。

 とはいえ、こうした取り組みは「他サイトなら普通にやっていること」(同)。売り上げを伸ばすにはさらなる工夫が必要だ。同社の前期(2010年2月期)売上高は前年比13.3%減の352億6900万円と2ケタ減だが、ネット販売は同20.6%増の12億4300万円と2ケタの増収だった。しかし、今期(11年2月期)は、全社売上高が引き続き減収になるのと同時に、ネット販売でも前年割れとなる見込みだ。不調の理由は「売れ筋であるK-POP(韓国のポップス)でヒット商品が出なかったこと」(野々口室長)にある。

 まずは中心商材となっているジャニーズやK-POP以外でも、AKB48などのアイドル系商品の取り扱いを強化。事業の“柱”を増やすことでヒット商品の有無に左右されにくい体質に改善する。

 システム面の強化やアイテムの拡充に加え、コンテンツの充実も今後のカギだ。特典やイベントなど細かなコンテンツを深堀りしてサイトに掲載する。売れ筋であるジャニーズやK-POP、ビジュアル系などのファンに的を絞り“濃い”情報を提供することで、固定客を増やしていくわけだ。アマゾンなどの巨大サイトに比べ、物流や価格面で勝負するのは難しいが、同社ならではの強みを発揮して対抗していく考えだ。

 ただ、CDやDVDのパッケージ販売は今後も減少していくのは確実の情勢。ネットへの注力が出遅れているだけに、他社と同じ取り組みをしていたのではジリ貧だ。同社では「音楽生活提案のリーディングカンパニー」を目標として掲げており、今後は本、楽器、楽譜、関連グッズという具合に、CD・DVD以外の音楽関連商材も積極的に投入していく意向。加えて、中心顧客層である30~40歳代の女性層をにらんで、サイト内で化粧品の販売なども検討しているようだ。

 さらに、全国に展開する実店舗との連携も強化していく方針で、ポイントの連動や通販サイトで購入した商品の店舗受け取りに対応していくことなどを計画している。

 「価格以外」で他社と差別化

 大手専門店とは一線を画し、コアな音楽ユーザー向けの戦略を展開しているのがディスクユニオンだ。同社では専門性の高い品揃えや独自のノベルティなど、「価格以外」の部分で競合する他社との差別化を推進。また、近年では中古品の取り扱いも開始しているなどリアル店舗と同様のサービスも展開。常にある程度の需要が見込める「マニア向け」の戦略を貫くことで、独特のポジションを確立している。

 通販サイト「ディスクユニオン・オンラインショップ」(写真④)では、音楽ジャンルごとにそれぞれ通販ページを設置。例えばロックなら「ROCK WEB SHOP」、パンクなら「PUNKマーケット」などといった形で、特集やツイッターでの集客などもそれぞれのページごとに行っている。

 全ジャンルを合算した通販サイトの商品数は、新品で約8万アイテムを用意。サイトへの集客はページ数が多いためSEOが強いが、前述したツイッターやFacebook、mixiなどのソーシャルメディアでも展開し、若いユーザーを誘導。また、アーティストの公式HPにリンクを貼っている場合も多々あり、そこからの流入も多いという。

 同サイトの最大の特徴は、リアル店舗同様、「マニア」層に向けた商品ラインアップとそれに伴うサービスの提供だ。「バイヤーがチョイスしたマニアックな商品をマニアックなお客に」(ディスクユニオン・竹内朝彦通販センターリーダー)というコンセプトのもと、プラス付加価値として、著名なアーティストや紙ジャケットの複数買いなどの際には、自社で制作した箱などのオリジナルグッズを付属。また、「こだわりの強いユーザー」が多いため、価値の高い紙ジャケット版を発送する際などは包装を特別慎重に行うことも。「リアル店舗からの流れ」(同)だといい、顧客満足向上に一役買っているようだ。

 もうひとつの特徴として、約1年前から中古品の販売に着手した。これもリアル店舗では昔から行っている名物の取り組みだ。在庫はリアル店舗で扱っている一部の商品プラス、ネット専用に確保したもので、現在は約2~3万アイテムを揃えている。

 新品も中古も、それぞれに送料を支払わずにまとめて買えるのが、例えばアマゾンなどの競合に優っているポイントで、送料は5000円以上の購入で無料となる。「同じ社内で行っている強み」(同)だ。中古品の売り上げは、今は通販全体の10%程度。「伸び幅はすごい」(同)とし、いずれは売り上げの半分程度まで比率を拡大したい考えだ。

 今後は商品に到達するまでのクリック数を減らすなど、ユーザビリティの改善に注力する。「独自カラー」を前面に出し、他社との差別化を図っていきたい構えだ。

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