模索する仮想空間の使い方は?ーーメタバースのEC活用方法の今

  • 2023年2月25日
  • 2023年3月25日
  • 特集1

ユーザーがアバターを使って社会生活を送れるインターネット上の仮想世界・仮想空間、いわゆる「メタバース」。徐々に様々なサービスが登場し、利用者はゲームを楽しんだり、バーチャルオフィスとして活用するなどビジネス利用も目立つ。そして、ネット販売に活用しようとEC実施事業者らも様々な仕掛けを展開し、その効果的な活用方法を模索しているようだ。各社のメタバースにおけるECの活用方法についてみていく。

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事例1:大丸松坂屋百貨店
大型のVRイベントに参加グルメやアートなどを提案

 大丸松坂屋百貨店は、HIKKYが開催する大型のVRイベント「バーチャルマーケット」に参加することで、メタバース上での顧客接点のあり方などを模索している。直近では、2022年12月3日~18日、「バーチャルマーケット2022ウィンター」に仮想店舗「バーチャル大丸・松坂屋」を出展した。大丸松坂屋百貨店として5回目の出展で、年末年始の食卓を彩るグルメに加え、初のアート作品や寝具の販売にも挑戦した。アートは成長分野と位置付けてデジタルとの融合も試行しており、メタバースとアートの親和性を知見として得る目的があったという。

大丸松坂屋百貨店はグルメを中心に提案した

 メタバース空間ではユーザーが自由に店内をまわり、食品3Dモデルを手に取って商品の形状を確認したり、バーチャルカタログで詳細を見ることができたりするのに加え、各商品の「BUY」ボタンをクリックすると自社通販サイト「大丸松坂屋オンラインストア」の商品詳細ページに遷移して当該商品を購入することができる仕組み。食品フロアではグルメ約2900点を販売したほか、複数の3Dモデルも展開。仮想空間に慣れた“メタバース民”がバーチャル飲み会を行う際などに使ってもらう狙いだ。

 アートエリアでは、アーティスト野原邦彦氏の作品4点を展示。体験ボタンを押すとユーザーの身体が浮かび上がり、アート作品の世界に360度包み込まれながら、ゆっくり空間を上昇するなど、メタバースならではの演出で楽しむことができるようにした。

 寝具エリアでは、大丸東京店で展開するショールーミングストア「明日見世」で取り扱った寝具ブランド「ブレインスリープ」の商品を紹介した。同社によると、メタバース民が装着するヘッドセットは重たく、首などに負担がかかることから、枕やマットレス、サプリメントなどを提案したという。

 「バーチャル大丸・松坂屋」の店頭には商品知識が豊富な同社の本社ギフト企画運営担当の田中直毅氏がアバター姿でユーザーを出迎えたほか、メタバース接客の経験がある人を“アンバサダー”として15人採用し、商品の魅力を伝えてもらった。

 同社によると、メタバースイベントに出展を重ねる中、来場者とのコミュニケーションを欠いていたことを反省していたものの、社内に組織だったメタバースのタスクがないため、社内動員は難しかった。そこで、「自分たちでできないのであれば素直にできる人の力を借りようということで、アンバサダーを採用することになった」(田中氏)という。

 アンバサダーは装着するデバイスの面でも、空間内の事象についても見識が高く、また、同社の主力商材である食品にも興味を持っていたこともあり、来場者とのコミュニケーションは成功したと見ている。

 同社はこれまでのVRイベントを通じて、百貨店の主要顧客層とは異なる20~30代の男性を中心としたユーザーとの接点づくりに成功。一方で、「EC送客による実売だけを求めない」(田中氏)としており、「バーチャル大丸・松坂屋」への訪問者数や3Dモデルへのタッチ数もKPIとして重視する。

 5回目のイベントについては、食品以外にもコンテンツを増やしたことによる分散の影響もあり、食品の売り上げは想定を若干下回ったが、とくに来場者数やタッチ数は想定および前回実績を上回り、定量的には良好な結果が得られたようだ。

 また、コンテンツを増やしたことで、「バーチャル大丸・松坂屋」の寝具エリアに来場したことを、リアル店舗の大丸東京店の「明日見世」でスタッフに伝えるとノベルティをプレゼントするなど、リアル店舗との連携も限定的ではあるものの実現した。

 今後は、メタバース空間で得た知見の生かし方や人材育成などが課題としている。

事例2:三越伊勢丹「REVWORLDS」
「仮想伊勢丹」はデパ地下が牽引遷移率は通常の4倍

 三越伊勢丹が運営するVR活用のスマートフォン向けアプリ「REVWORLDS(レヴワールズ)」は、新宿東口の駅前や伊勢丹新宿店、東京ドームなどをCG化した仮想都市が舞台。空間内には様々なショップや施設が点在しており、利用者は気に入った商品があれば、商品タグ内のウェブボタンから各ショップのオンラインストアに遷移して実際の商品を購入することができる。

実際の店頭ポップアップストア同様に、キーアイコンであるリンゴで彩られた「エトロ」のバーチャル会場

 「仮想伊勢丹新宿店」では婦人服・紳士服やギフトアイテムなど、約330ブランド・計約750点の商品を展開(2023年1月16日時点)。ユーザーの関心度が高いカテゴリーは食品がトップで、デパ地下に並ぶスイーツ類やパン、総菜などが特に人気だという。このほか、「イセタンビューティ」の化粧品アイテムなども関心度が高く、現実のショッピングと同様に仮想空間内を散策する中で、「ついで買い」や「衝動買い」を誘発することにもつながっているようだ。

 社内起業制度で同事業を提案し、CGなどの制作にも携わる営業本部オンラインストアグループデジタル事業運営部レヴワールズの仲田朝彦マネージャーは、「ショッピング体験においてECサイトと決定的に違う点は、『高さ』の概念が使えること。2Dでは再現できなかった空間演出が3Dでは可能となるため、実店舗のように商品を什器に陳列して、より分かりやすく魅力を伝えることができる」としている。実際、「仮想伊勢丹新宿店」からの遷移率は一般的なECサイトの遷移率と比較して4倍ほど高いという。

 「一度アプリを落としてからブラウザを立ち上げると買い物体験が途切れてしまうので、アプリ内のウェブビューでそのまま決済ができ、サイト内に格納された動画も閲覧できるなど、シームレスな買い物体験となるよう設計している」(仲田氏)。また、その場では購入に至らなくとも、商品認知や購入検討などによる販促効果は大きいとしている。

 今後の課題として同社では、「今はまだ技術進歩の途中段階であり、例えば『バーチャル試着』などの購買体験を実現するためには、莫大なコストと時間を要する場合もある。さらなる技術革新も必要」としている。

共催イベントで集客

 集客面では、リアルとバーチャルを連動させた多彩なイベント開催が奏功し、相互送客などの好循環が生まれているという。直近では2月15日から実在の伊勢丹新宿店で開催するラグジュアリーブランド「エトロ」のポップアップストアと連動したバーチャルイベントを「仮想伊勢丹新宿店」にて期間限定で開催。雑貨やウェアなど17点を展示・販売した。

 また、昨年3月には東京都三鷹市立第三小学校と共同作成したバーチャルファッションショーを開催。子どもたちがデザインした「未来のファッション」のうち9体がアバターとなり、「仮想伊勢丹新宿店」前のランウェイに登場した。「デザイン画などを実在の伊勢丹新宿店で展示したところ、3世代で来店されるご家族も多かった。バーチャルファッションショーの最中にはデザインを担当した子どもと他のユーザーの間でコミュニケーションが活性化するなど、共催の可能性を大いに感じることができた」(仲田氏)という。

 なお、同社では2023年度中にはアバター用のファッションアイテムなどをデジタルデータとして販売開始する計画だとしている。

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