物流の2024年問題に挑むーー配送力の強化・効率化への一手

燃料高や人件費高騰などを受けて、物流コストが上昇を続けている。店舗を持たずに小売りを行うEC事業者にとって配送は必須であり、それゆえに物流コスト高騰は利益減に直結する深刻な問題だ。しかも2024年4月1日以降は働き方改革関連法によって自動車運転業務の年間時間外労働時間の上限が960時間に制限され、運送・物流業者の売上・利益の減少や配送員の減少に伴う荷主への大幅な運賃値上げが予想されるいわゆる「2024年問題」も控えており、EC事業者にとって物流・配送の効率化は喫緊の課題と言える。様々なやり方で配送の効率化に取り組むEC事業者の試みとは──。

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事例1:アマゾンジャパン
集合住宅のオートロック一時解除で再配達率削減

 アマゾンジャパンでは商品配送時にオートロックを解除して入館できる集合住宅の拡大を進めている。同社では2年前から集合住宅に入居する顧客に対し、不在時でも「置き配」を行えるよう配送員がオートロックを一時解除できる仕組みの導入を開始。すでに5000棟超が対応しているが、さらなる拡大のため、三井不動産のグループ会社と連携した。同社の管理集合住宅約2900棟にも順次、同仕組みを導入させていきたい考え。

 アマゾンジャパンは2021年3月から、集合住宅の入居者への商品配送時に配送員がオートロックを解除できる仕組み「KeyforBusiness(キー・フォー・ビジネス)」(=KfB)の運用をスタート。同社では顧客の利便性アップや再配達抑制による配送員の負担軽減などを目的に2020年3月から一部地域を除いて「置き配」を標準配送として配送を行っているが、オートロック付きのマンションでは顧客が不在の場合、配送員がマンション内に立ち入ることができず、玄関前などへの置き配ができずに、「お客様の買い物体験を損なうだけでなく配送ドライバーの(再配達のための)負荷が軽減できなかった」(アヴァニシュ・ナライン・シングロジスティクス事業本部本部長)ためだ。

アマゾンの配送員が専用の配送アプリを使って集合住宅に入居する顧客宛ての荷物を持っている時のみオートロックを解除、顧客不在時でも置き配ができる

 アマゾンジャパンは2021年3月から、集合住宅の入居者への商品配送時に配送員がオートロックを解除できる仕組み「KeyforBusiness(キー・フォー・ビジネス)」(=KfB)の運用をスタート。同社では顧客の利便性アップや再配達抑制による配送員の負担軽減などを目的に2020年3月から一部地域を除いて「置き配」を標準配送として配送を行っているが、オートロック付きのマンションでは顧客が不在の場合、配送員がマンション内に立ち入ることができず、玄関前などへの置き配ができずに、「お客様の買い物体験を損なうだけでなく配送ドライバーの(再配達のための)負荷が軽減できなかった」(アヴァニシュ・ナライン・シングロジスティクス事業本部本部長)ためだ。

 KfBの運用開始で集合住宅のオーナーや管理会社らがKfBの導入を希望した場合、アマゾン負担で集合玄関機に専用機器を設置。これによりアマゾンから配送の委託を受けた配送員が専用の配送アプリを使って当該集合住宅に入居する顧客宛ての荷物を持っている時のみオートロック機能を解除、顧客の不在時でも玄関前などに置き配ができるようになる。配送員がマンションに入館し、荷物の配達が終了した後はロック解除の期限が切れ、それ以降は同じ日でもマンションには入館できないと仕組みだ。なお、KfBを使ってオートロックを解除できるのはアマゾンの配送アプリを使って配送業務を担う契約配送業者「デリバリーサービスプロバイダー(DSP)」または「Ama-zonFlexドライバー」で、大手配送事業者らは対象外。

 現状では合計19都道府県で5000棟以上の集合住宅がKfBを導入しており、「KfBを導入した集合住宅の再配達率は導入前と比べて80%以上削減できた」(シング本部長)という。

 さらに導入する集合住宅数を拡大するため、2022年1月から賃貸住宅の管理業務などを行う三井不動産レジデンシャルリースと連携を開始。同社の都内の管理物件で試験的にKfBを導入したところ、入居者のセキュリティを担保しつつ利便性を高められたことから3月2日から本格的に導入を進めることにした。「オートロック付きマンションは自由に入館できず、(入居者が置き配で)荷物を受け取れないというのは慢性的な課題だった。今後、建物のセキュリティを担保しながら入館ができる配送会社やサービスを増やして入居者の利便性向上につなげたい」(三井不動産レジデンシャルリースの中村誠経営企画部長)。すでに都内を中心に10棟でKfBを導入しているが、今後は同社が管理する約2900棟(約7万8000戸)のうち、オーナーの許可がとれたオートロック付き集合住宅への導入を積極的に推進していく。

 アマゾンでは今後もKfBの導入集合住宅を拡大し、顧客の利便性アップや再配達軽減、配送効率向上を図り、物流コスト削減を推進する考えのようだ。

街の商店に配送委託も

 アマゾンジャパンはこのほか、多様な形での配送力の確保を進めている。一環として商品の配送を街の商店などに委託する取り組み「AmazonHubデリバリーパートナープログラム」を展開し始めている。

街の商店に配送を委託する「AmazonHubデリバリーパートナープログラム」(画像はアマゾンのサイトから)

 アマゾンと業務委託契約を結んだ地域の商店らパートナーが本業の空き時間などを活用して店舗・事務所から半径2km圏内の近隣地域に徒歩や自転車、バイク、車などを用いてアマゾンの商品の配送を行うものだ。2020年9月から実証実験としてスタートしており、アマゾンの担当者が配送量の多い地域の商店などに直接、営業して参加を促し、雑貨店や写真館、レストラン、新聞配達店、居酒屋、美容室、花屋、アパレルショップ、喫茶店、犬のブリーダーなど数百の中小事業者がすでにパートナーとして稼働している。2022年12月19日からの正式スタート後は直接営業によるパートナー確保は継続していくものの、「本業のすき間時間を活用して副収入を得られる」と訴求し、申込専用ページに誘導し、中小事業者の参加を促している。

 パートナーの条件は配送品を置ける店舗や事務所のある事業者全般で事業の登記情報や開業届、納税証明証のいずれかの証明書が必要。登録者は18歳以上という制限はあるものの本業での制限はないよう。パートナー登録後はアマゾンの担当者が一緒に配送方法などをレクチャー。「週に2回」など労働可能時間や「1日30個まで」など配送可能な荷物の数などを事前申告しておくと、基本的に徒歩で運べるものや自転車に載せられる程度のサイズに限定し重量が重いものやかさばるものを除外した上で、申告に対応した荷物がアマゾンの配送拠点「デリバリーステーション」から、DSPまたは「AmazonFlexドライバー」によってパートナーの店舗や事務所まで運んでくる流れ。

 パートナーは当該荷物を当日中に配送を行う。不在による持ち帰り荷物や体調不良などで配送できなくなった荷物はアマゾンに連絡するとDSPらが引き取りを行い、代わって配送を行う。なお、報酬は1個配送ごとに発生、週単位で支払いを行うという。報酬額は明らかにしていない。報酬単価は現状は一律のようだが、繁忙期は報酬を高める可能性もあるという。

 現状は東京、千葉、埼玉、神奈川、大阪、京都、兵庫、愛知、福岡の9都府県でのみの導入だが、将来的には47都道府県すべてで展開していく考え。

 同社では現状の配送委託先であるヤマト運輸や佐川急便、日本郵便ら大手配送事業者とDSP、AmazonFlexドライバーに加えて、新たな配送の担い手を確保することで既存の配送力を補完して増え続ける物量に対応するとともに、2024年問題に備える狙いもあるようだ。

[ この記事の続き… ]

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