“三方よし”になるよう磨き上げる 武藤雄太● MagicalMove 代表取締役社長

ソフトバンクグループで新規事業を手掛けるSBイノベンチャー(SBI)は5月24日、ネット販売事業者向けに夜間・早朝の注文商品を顧客に配送するサービス「Scatch !(スキャッチ)」を展開する専門会社、MagicalMove(マジカルムーブ)を立ち上げた。特殊な時間帯ゆえに一般的な配送業者は対応していないものの、早朝および夜間の配送ニーズは一定程度ありそうで、同配送サービスをうまく活用できればEC事業者にとっても有用なものになりそうだ。同事業モデルを考案し、新会社の社長に就任した武藤雄太氏が描く同サービスの勝算や今後の展開とは──。

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通販商品の配送における「UBER」のような立ち位置

事業開始2年目に独立

――夜間・早朝配送サービス「Scatch!」自体は2年前からSBI内の新規事業として、展開していました。今回、このタイミングで分社・独立した狙いは何ですか。

独立自体は昨年から決まっていました。ソフトバンクが行う通信事業とは異なる領域ということもあり、このサービスを拡大させるには専門の事業会社として意思決定をクイックにしていかなければという判断からです。準備が整ったため、このタイミングで独立したということになります。

――現在、「通販における配送」の潮流に変化が出てきています。タイミングを考えるとこうした流れを汲んだ独立だとも思いましたがどうでしょうか。

単にタイミングがあっただけです。もしもタイミングで言えば本当はあと2~3カ月くらい早ければもっと目立てたかなとも思います(笑)。

深夜早朝に1時間幅指定で配送

――改めて展開するサービス「Scatch!」の特徴について教えてください。

「Scatch!」を導入頂いた通販サイトのお客様から指定された早朝および夜間の時間帯に購入商品を、我々が提携する配送事業者が配送する仕組みです。当社がトラックや配送員、倉庫を持って直接配送する形ではなく、我々はEC事業者と配送事業者の間に立って、通販事業者からの荷物配達の量や配送場所などを分析し、最適な配送会社に配送を依頼します。それらを最適にマッチングできるようサービスの企画開発とシステム開発を行っている。例えるなら、タクシーの配車サービス「UBER(ウーバー)」のような立ち位置になります。具体的には我々のサービスを導入している通販サイトから早朝・深夜帯で配送指定受注を受けると、提携する軽貨物事業者が通販事業者の倉庫に商品を取りに行って、最短で受注当日中に配送します。
導入先サイトのエンドユーザーは早朝帯は午前6時から9時まで、夜間は午後9時から午前12時までそれぞれ1時間の幅で配送時間を指定できます。別途、会員登録を行った利用者には配送計画が決定した段階で、利用者があらかじめ指定した1時間幅の商品配送予定時間の中から、さらに30分幅とした商品到着時刻の通知や配送直前に「もうすぐお届け」という確認をメールで通知したり、配送状況の確認、指定日時の変更、担当ドライバーへの連絡などにも対応します。
目安として対応できる荷物の重量は30kg以内です。利用料金は大手配送業者の料金設定とほぼ同様です。配送に対応しているエリアは現状、東京23区と大阪市内です。そのため現時点では東京23区に配送する場合、連する配送事業者が荷物を取りに行けすぐ配送できる東京・神奈川・千葉・埼玉に倉庫を持つ通販事業者、大阪市内への配送では大阪周辺に物流倉庫を構える通販事業者を対象にしています。

対象をBtoCからBtoBへ

――「スキャッチ」は2年前のサービス開始当初、専用倉庫に一端、ECサイトの商品を預かり、利用者宅にネット販売購入商品を深夜や早朝に配達、または「時間ぴったり便!」として指定時間にピンポイントに配送する一般消費者向けのサービスでした。ターゲットをEC事業者に変更したのはなぜでしょうか。

当初は「どのECサイトの商品も好きな時間に配送できる」という方が優先なのではないかと考えてBtoCサービスとしてやってきました。それはそれでニーズはありましたが、利用するにあたってお客様にはECサイトで購入した商品の配送先を我々の倉庫にして頂けなければならず、その倉庫の住所を買い物の際に打ちこんで頂かなければいけなかったことや、専用倉庫で1度、商品を預かってから、改て当社と連携する配送業者がお客様の下に荷物を運ぶことになるため、どうしてもお客様への荷物到着がどうしても遅くなってしまうという課題もありました。
これが通販事業者を対象に展開するBtoBのサービスであれば、1社1社と契約していかねば広がっていかない反面、当社の配送業者はECサイトの倉庫に直接、荷物を取りに行ってそのまま配送するわけで無駄がないですし、BtoC向けサービスで抱えていた課題はありません。ですので、まず向かうべき方向はBtoBであろうと考えて、昨夏ころから軸足をBtoBに転換することにしました。その際、BtoC向けサービスが存在しているとややこしくなるために既存のお客様には個別にアナウンスしつつ徐々にクローズしていったということです。

――法人向けサービスに特化するタイミングで「時間ぴったり便!」も休止したということですか。

そうです。「時間ぴったり便」については正直、本当にニーズがあるのか分かりませんでした。誤差5分以内で24時間、好きな時間を指定でき、荷物を受けとることができるというサービスは非常に便利であることは間違いないと思いますし、実際、利用者はいましたが、継続的な利用というよりは興味本位で使ってみるという方が多かったです。それよりも、ニーズの高い1時間幅の時間指定サービスに注力すべきだと考え、「時間ぴったり便!」は休止して、BtoB向けでも展開しないことにしました。今後、ニーズがあれば場合によっては復活させるかも知れませんが。

アスクルの「ロハコ」が導入

――現在、「Scatch!」を導入している通販企業の数はどの程度なのでしょうか。

昨年5月からアスクルが運営する通販サイト「LOHACO(ロハコ)」で東京や大阪に一部地域で実施している1時間刻みで配送時間を指定できる配送サービス「Happy On Time(ハッピー・オン・タイム)」で導入頂き、(アスクルの物流子会社のASKUL LOGISTが対応できない)午前6時~8時の早朝と午後10時~12時の夜間の配送を請け負っています。

――BtoB向けにサービス展開の舵を切ってから1年が経ったわけですが、なぜ導入企業がまだ1社にとどまっているのでしょうか。

通販事業者向けのサービスとして本格展開するにあたって、しっかりとサービスの品質や運営面を磨き込みたかったからです。そのため、無理に導入企業を増やすよりも、まずは1社に絞ってやってきました。「ロハコ」1社でも十分な物量があり、オペレーション面などをきちんと固めることができたと思います。今後は導入サイトを増やしていきたいと思っていす。

東京、大阪以外のエリアにも早朝・深夜配送サービス広げたい

朝や夜に働きたいニーズ

――「ロハコ」の物量も増えてきていると思うが体制的に導入企業を増やしても対応できるのでしょうか。

現状でも十分、余裕を持ってやれています。当社と連携して実際に荷物を運んでもらう運送事業者は現在ではだいたい10社くらいとなっていますが、導入して頂ける通販企業が増えてくれば、連携する運送事業者も増やせばよいわけで問題なく対応できます。

――夜間や早朝など特殊な時間帯でも荷物を運ぶ運送事業者は多くいるのでしょうか。特に最近は労働問題など世の中の目も厳しくなってきています。

世の中には様々な運送事業者がいます。また多くは個人事業主です。日中にメインに仕事をして昼過ぎまでに仕事を終える事業者もいれば、朝や夜間だけ仕事を行う事業者もいます。当社のサービスの特徴は夜間や早朝という比較的、時間の短い配送サービスなのでメインの仕事の空き時間を使って、もう少し売り上げを上げたいと思われる事業者や1つの働き方として、朝や夜だけ働きたいと思われる事業者にお願いしており、そうしたニーズも当然、あります。もちろん、我々が無理にお願いして働いて頂くということはありません。

配送品質の担保は?

――「Scatch!」は多くの配送事業者が関わるサービスだけに配送品質が気になるところですが、品質面はどう担保しているのでしょうか。

まず当然、提携を結ぶ段階でこれまでの実績や評判などもチェックします。その上でさらに配送は荷物を運ぶだけでなく、エンドユーザーからすればある種、「店舗に置き換えれば店員であり、接客である」という我々の考え方をご理解頂けるようしっかりとお話してからお願いするようにしています。
また、実際にエンドユーザーにも商品を受け取った後で、アンケートをお願いして、配送サービスに関する評価を頂いています。これらを連携する運送事業者にフィードバックするなどして品質を担保しています。

今後はエンドユーザーの評価を軸としたもう少し高度化した仕組みなどの構築も考えています。ここはしっかりやっていきたいと考えています。

AIで効率的なオペレーションを

――通販企業と配送事業者をマッチングして、早朝や夜間に配送サービスを行うこと自体は他社でもできるはずです。今後、競合が出てくる可能性もあると思いますが、その際の「Scatch!」の他社サービスとの差別化のポイントとは何だと思いますか。

システム部分やオペレーションの面になってくると思っています。当社はソフトバンクの社内のエンジニアと一緒に作った専用AIを使って、通販事業者からの配送依頼を迅速かつ的確に分析して最適な車両数や配送順序などを予想します。その上で連携する各配送事業者に配送を依頼していくわけですが、このあたりがポイントになると思います。
人的なオペレーションだけでなく、システムをしっかりと組んでAIの予想技術などを駆使しながらオペレーションしていかなければ管理コストはかさんでくるはずです。

また、現状、まだ早朝や夜間に特化して配送を行っているのは当社だけです。お陰様でナレッジがだんだん溜まってきています。その経験を活用してさらにオペレーションの高度化を進め、EC事業者も導入しやすく、また、エンドユーザーにとっても使いやすく、配送事業者も継続的に仕事をしたいと思って頂けるような“三方よし”のサービスになるようひたすら磨いていこうと思っています。

食品の配送も視野

――今後の方向性や計画について教えてください。

「ロハコ」のように業務委託を受け我々は黒子に徹して通販事業者のサービスを支える形でも通販事業者側が「“Scatch!”が夜間・早朝の配送を行います」というように、我々のサービスを使って頂いてもどちらの形でも対応できます。「Scatch!」を様々なジャンルのEC事業者に導入頂きたいと思っています。

また、現在、配送エリアは東京と大阪だけですが、今後はエリアをもっと広げていきたいと考えています。対応する荷物もニーズが高いと思われる食品にも対応したいと考えています。冷凍はなかなか難しいと思いますが、冷蔵の対応であれば可能だと思っています。当社サービスの場合、配送リードタイムが短いため、保冷しながら運ぶなどやりようはあるからです。EC事業者のニーズ次第で対応していこうと思っています。

業績に関しては特に大きな目標は立てていません。焦らずに徐々に伸ばしていきたいと思います。「Scatch!」のオペレーションとシステムをさらに磨き込んで高度化させて、品質の高い配送サービスをEC事業者に提供していきたいと思っています。

◇プロフィール

武藤雄太(むとう・ゆうた)氏 2007年、ソフトバンク入社。携帯電話事業のサービスやオペレーションのプロジェクトマネジメン
トを担当。2013年11月にソフトバンクグループの新規事業提案制度で「Scatch !」を提案し、2015年にサービスを開始。2017年5月に「Scatch ! 」のサービスを提供するMagicalMoveを設立し、同社代表取締役社長に就任。

取材後メモ

ソフトバンクの社内ベンチャー制度「ソフトバンクイノベンチャー」を活用し武藤さんが生み出した「Scatch !」。初めて世に出たのは2015年の夏でした。当時は一般消費者を対象とした通販商品の配送サービスでしたが、このモデルをベースにEC事業者向けのサービスへと改め、再スタートを切りました。現在、配送サービスを巡ってはこれまでの「行き過ぎたサービス」を問題視する風潮があるものの、ECにとって配送サービスは非常に重要であり、重視すべきものであることは間違いありません。一定の需要があるはずの早朝・夜間の配送対応、EC事業者にとって検討してみる価値はありそうです。

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