伊藤淳史●QVCジャパン代表取締役CEO

スポンサードリンク

「テレビ以外」での展開強化に本腰へ

 通販専門放送を行うQVCジャパンの業績が好調だ。コロナ禍による巣ごもり消費増による反動減などで通販各社が苦戦する中、前期(2022年12月)業績は増収増益となり、成長を続けている。今後も主戦場とするテレビでの通販展開を強化していく一方で、ECを含めた「テレビ以外」のチャネルでの展開を本格化し、新規顧客の獲得を進めていくという。3月末に同社の代表取締役CEO(最高経営責任者)に就任した伊藤淳史氏が描く今後のQVCジャパンの方向性とは──。

独自の目線でよい商品選び伝えるべきストーリー伝える

番組通じて嬉しさや喜び届け

─3月31日付でCEOに就任しました。かつて在籍(※2016年から2020年まで同社でCFO=最高財務責任者を担当)していたQVCジャパンにCEOとして復帰した理由は何だったのでしょうか。

 私がQVCから離れたのは2020年5月で、ちょうどコロナ禍が始まったタイミングでした。
新型コロナウイルス感染症の拡大防止のために行動が制限され、皆が家にいることを余儀なくされる中で、もちろん、衣食住を満たすことができてはいましたが、何か満たされないものを感じていました。人が人らしく生きていくためには日々の生活の中で感じる喜びや嬉しさといった感動が欠かせないのではないかと考えました。

 私はQVCを離れた後も番組を視聴していましたが、QVCの番組には嬉しさや喜びがありました。番組を通じてそうした感動を届けられるQVCのビジネスモデル、社会的な意義は素晴らしいと改めて思っていました。そのような中で昨夏ころに私がCFOとして在籍していた当時のファイナンスの観点だけでなく、ビジネスをしっかり理解した上で業務を進めてきた経験・知識やその印象などを踏まえてだと思いますが、(QVCジャパンのCEOの選考について)話があり、これはしっかりお受けしてQVCの素晴らしいビジネスひいては社会的な意義を確かなものにしていかなければという一心で復帰を決めました。

─QVCジャパンの強みをどう考えていますか。

 商品というものは世にごまんとありますが、その中で当社のバイヤーがしっかりと独自の目線でよいものを選び、1つ1つの商品にある作り手あるいは機能面などの伝えるべきストーリーをしっかり伝えることができるという商材と商材にまつわる物語を伝えることができる力に尽きると思っています。

当たり前のことを実直に重ねる

─直近の決算(2022年12月)は増収増益(売上高は前年比3.8%増の1329億3400万円、営業利益は同6.5%増の269億4700万円、経常利益は同5.6%増の270億8400万円、当期純利益は同6.0%増の189億1800万円)でした。コロナ禍での巣ごもり需要増による反動減で伸び悩む通販・EC事業者が多い中で業績が好調な理由とはなんでしょうか?

 コロナ禍の中では巣ごもり需要もあり、当社も業績を伸ばすことができましたが(コロナ収束後もコロナ禍の際の特需に)慢心することなく、愚直に商品を選りすぐんでその商品の良さをしっかりとお伝えしていくということをやり続けてきました。併せてお客様の声をお伺いしながら、イベント(特番やキャンペーン)を行うタイミングや内容を決め、その戦略・方針を社員皆がしっかりと理解した上で、実践することで時間あたりの生産性を高めてきたことが大きいと思います。当社の中ではよく『エクスキューション、エクスキューション』と言っていますが、よい戦略を立ててもエクスキューション(実践)できないとそれは絵に描いた餅になってしまいます。これらがしっかりと継続してできている。当たり前のことですが、当たり前のことを実直に重ねていくが毎年の成長を支えているのだと思います。

─QVCジャパンでは様々な商品を販売されていますが、最近の売れ筋の傾向はどうなっていますか。

 この2~3年で継続して成長しているジャンルでは例えば健康食品、サプリ、美容関連品などのヘルス関連商材などです。足元も順調でまだまだ伸びしろがあると思っています。当社としてもお客様が求められているカテゴリに対し、集中して展開を強化しており、こうした点も当社が成長し続けることができている1つの理由であろうと思います。。

─テレビショッピングのこれからの方向性は。

 短期的は引き続き、これまで通り、基本を徹底していきます。既存ブランドの中でも新しいラインアップをそろえつつ、新しいブランドを取り扱い、お客様に新しい優れた商品を紹介していきます。併せて番組内での訴求方法についても工夫していきたい。例えばお客様が特徴などをよくわかっていらっしゃる当社でおなじみの商品などについては、当該商品を紹介する番組がこれまで通りではお客様にとっては冗長な番組になってしまいますよね。そうではなく、「こういう使い方ができますよ」「こういうシーンで使うと重宝します」というような“発見の喜び”をお伝えできる番組作りを行うなど演出を考えたり、当社では4K放送を行なっていますが商品をより美しく、きれいに見せていくためのやり方なども工夫していきたいと思っています

─ちなみに2019年1月から24時間生放送をやめて、深夜早朝帯はその日に最も販売を強化する商品を紹介する「TSV」と呼ばれる番組などをリピート放送する形となっています。制作費や人件費の削減などにもつながっているかと思いますが、以前のように24時間生放送で毎時間、様々な商品を見たいという要望も顧客の中にはあるかと思います。現在の編成は今後も続けていく予定ですか。

 今のところはそう考えています。ただし、ずっとそうかというと必ずしもそうではないと思っています。現状ではTSVの商品を紹介する番組の露出を多くすることで、力を入れている当該商品の理解が促進されますし、確かに(製作費や人件費などが)効率的になったのも事実ですし、リピート放送する時間帯の受注量などを見てもプラスの効果のほうが高いです。しかし、お客様の生活スタイルは変わっていきます。それに伴って番組を視聴される時間も変わっていくでしょう。お客様の動向とその時の状況を判断してそこは考えていきたいと思っています。

お客様に商品をお届けするチャネルはテレビだけではない

社会の公器としての役割果たす

─QVCジャパンの今後の方針を教えてください。

 映像を通じて選りすぐった商品とその商品にまつわる物語をお伝えしていくという当社のビジネスモデルであり強みは今後も変わりません。ただし、当社が主戦場としているテレビが果たす役割は変化していくと考えております。若い世代ではテレビをあまり見ない、またはテレビを持ってすらいない人も少なくありません。テレビのメディア価値が急になくなることはないにせよ、現状よりは弱まっていくことになるでしょう。

 当社でもテレビ以外でもマルチチャネルで番組や商品をお届けすべく、例えばライブコマースやユーチューブライブ、また、「QVCテレビアプリ」(※2021年4月から開始したアプリ対応テレビなどでQVCの番組をテレビ画面上で通信回線を通じて配信したり、画面上のQRコード経由で通販サイトに誘導するサービス)などインターネットを介した様々な取り組みは行っていますが、まだ“テレビのサポート”という位置づけにとどまっています。Eコマースのポテンシャルを考えれば、より幅広いお客様層により幅広い商材を訴求できると思っております。いずれにせよEコマース単独で1つのビジネスとして収益を生んでいくには色々なチャレンジがもっと必要です。今のテレビのお客様をしっかり大事にしつつも、テレビ以外のお客様に対しても我々のビジネスをしっかりと展開して、現状の中心お客様層よりも若い年齢ゾーンの皆様にも喜んで頂くための商品の提案やEコマースにおけるサービスを強化して新しい層がQVCのファンになって頂けるようにしていきたいです。

 併せてこれまでもそうでしたが、より社会の公器としての役割をしっかりと果たしていきたいと思っています。当社は千葉県に本拠地を置いて通販番組を全国に放送して事業を通じて、消費者に様々な商品を届けていいます。商品の流通には様々な過程があるわけですが、一番の川下である当社が販売を軸とした様々な活動をがんばることで川上である物づくりを行う日本各地の様々な産業、製造事業者を盛り上げ、支えるための一助となり得ると考えています。

 小売業を通じた社会の公器としての役割を果たしていくために日本の目立ってはいないが優れた商品を見つけてしっかりと光を当てていくということはもちろん、SDGsの観点から地球環境や生活にやさしい日本の商品などもより積極的に販売していきたいと思っています。社会に貢献していく中で成長していくということを事業の柱に据えていきたいと考えています。

コンスタントに成長を

─年商は1300億円を超えましたが、どこまでスケールしていくと考えていますか。

 先ほど話したようにお客様に商品をお届けするためのチャネルはテレビだけではなく、Eコマースはもちろん、OTTで番組を配信するような仕組みも今後、どんどん創出されていくはず。テレビショッピングだけの市場で展開していくわけでないため、ここまでいけば満足というのではなく、コンスタントに成長し続けたいです。。


伊藤淳史(いとう・あつし)氏

1976年12月生まれ、千葉県出身。99年に明治大学政治経済学部経済学科卒業後、日本興業銀行に入社し営業や産業調査を経験。14年7月にジョンソン・エンド・ジョンソンメディカルカンパニー最高財務責任者に就任。16年9月から20年4月までQVCジャパンCFO兼QVCサテライト取締役。同年5月から22年12月までアデコのCFO兼取締役。また、アデコ在職期間中の21年9月に東京都立産業技術大学院大学創造技術専攻で修士号を取得した。2023年3月31日付でQVCジャパンの代表取締役CEOおよび取締役会会長に就任した。



◇ 取材後メモ

コロナ禍による巣ごもり消費増後の反動から業績が伸び悩む通販・EC事業者も少なくない中で、QVCジャパンが成長を続けている理由は長らく通販市場をけん引する通販専門チャンネルとしてこれまで着実に積み重ねて作り上げてきた「数ある商品の中からよいものを選りすぐれる力」と「1つ1つの商品にあるストーリーをしっかり伝えることができる力」という伊藤CEOが示したQVCの強み、つまり、小売りとしての高い基礎体力が差となっているのではないでしょうか。消費者のテレビ離れが顕著となっています。テレビを主戦場とするQVCにとっては由々しき事態と言えますが「映像を通じて選りすぐった商品とその商品にまつわる物語をお伝えしていくという当社のビジネスモデルであり強みは今後も変わりません」と伊藤CEO。「テレビ以外」のチャネルでも展開を今後さらに強化していくといいます。テレビ通販の雄が今後、どのようなECを志向していくのか、注目です。

NO IMAGE

国内唯一の月刊専門誌 月刊ネット販売

「月刊ネット販売」は、インターネットを介した通信販売、いわゆる「ネット販売」を行うすべての事業者に向けた「インターネット時代のダイレクトマーケター」に贈る国内唯一の月刊専門誌です。ネット販売業界・市場の健全発展推進を編集ポリシーとし、ネット販売市場の最新ニュース、ネット販売実施企業の最新動向、キーマンへのインタビュー、ネット販売ビジネスの成功事例などを詳しくお伝え致します。

CTR IMG