松村亮●楽天グループ常務執行役員

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楽天市場を日本最大のリテールメディアに

 楽天グループの広告事業が好調だ。ここ数年、前年対比で15~20%という成長率で推移しており、2023年度の事業売上収益は2000億円の大台を視野に。キー局の広告収入に匹敵する規模となっている。小売りとメディアが結びついた「リテールメディア」が、世界的にも販促媒体として注目される中、楽天市場は巨大広告媒体としてクライアントの期待にどう応えていくのか。楽天グループにおける広告事業の未来を、松村亮常務執行役員コマース&マーケティングカンパニーシニアヴァイスプレジデントが語る。

楽天市場はテレビ局を含めても最も大きな媒体の一つになった

出稿増えるリテールメディア

─リテールメディアという言葉が注目されています

 日本ではオフラインが中心で、例えばコンビニエンスストアにディスプレー広告を流すのがリテールメディアというような話が多いと思いますが、海外ではECやデジタルも含めて、リテールメディアが語られることが多いという認識です。楽天はこれまでもリテールメディアに取り組んできたわけですが、そういったコンテクストの中でもう一度力を入れようと取り組んでいます。

─なぜリテールメディアが注目されているのですか

 インターネットの世界では検索連動型広告が主流で、10年ほど前からSNS広告が増えてきました。そして、コロナ禍の頃からリテールメディアが成長を見せはじめました。どういうことかというと、実際にデジタル上で物を売っている場所に広告を出すと、検索やSNSのように、少しコンバージョンから遠いところに出稿するよりも効果は大きいということが再認識されはじめたわけです。もちろん、国内においてもこうした傾向は出ており、例えば物販系ECプラットフォームの広告費は、19年~22年の年平均成長率で21.5%の伸びとなっており、このうち楽天市場のシェアは52%を占める計算です。ECそのものが伸びているからこそリテールメディアも伸びているわけで、中でも楽天市場の流通総額が大きく拡大している点が大きいですね。

─ナショナルブランドが楽天市場に出稿するメリットは。

 ECの場合、クライアントは「商品購入を検討する」「商品を購入する」段階のユーザーに対して広告を打ってきたわけですが、ナショナルブランドにもっと出稿をしてもらうとなると、「商品の流行を知る」「商品を知る」「商品情報を集める」段階のユーザーへの広告プロダクトの充実が重要なので、その部分に取り組んでいます。要するに、比較検討の段階のユーザーを対象に広告を出してもらうだけではなく、「新商品が出たときに知ってもらう」ことを目的に出稿してもらう、ということです

─楽天市場に対する評価も高まっています

 ナショナルブランドの人たちにも、楽天の国内月間アクティブユーザー数が4000万人を超えている点、「楽天ポイント」の累計発行数が3.6兆以上のポイント数である点、圧倒的な規模と高い精度の消費行動分析データを保有し、そのデータや人工知能(AI)を活用できるツールがある点を評価してもらっており、最近は「テレビCMに使っている広告費を楽天市場に移していきたい」という声も大きくなっています。楽天市場に投下される広告費用としても、営業部に割り振られた販促の予算だけではなくて、メーカーやブランドが持っているマーケティング予算を含めて出稿し、大きな効果を得るケースも出始めています。

「マーケ費投下」を大きなうねりに

─メーカーやブランドは、楽天市場にどのような形で出稿するのでしょうか。

 具体的なスキームとしては、まず楽天市場において、オルビスのように公式店を運営することで、ユーザーにアプローチすることができます。広告やデータ分析のツールを使い、効率的なプロモーションが可能です。こうした公式店を支援するために、有名化粧品ブランドの公式ショップを集約して掲載するページ「RakutenLuxuryBeau-ty」を開設しています。

─楽天市場に出店していないメーカーやブランドもあります。

 楽天市場に出店していない場合でも、「楽天ビック」や「楽天24」のような、当社が運営している店舗で販売する商品については、当社がメーカーやブランドから要望を受けてプロモーションをすることができます。セールやイベントに合わせた販促施策も実施しています。また、楽天市場においては、出店する各店舗がさまざまなブランドの商品を同時に販売しています。こうした店舗に対して、今までメーカーやブランドは各店舗に対して個別に営業をかけていたわけですが、「全部束ねてマーケティング的なプロモーションをしたい」という要望が以前からありました。これに対応するためのツールとして、2020年に「RMP-SalesExpansion(セールスエクスパンション)」を開発しました。これは、楽天市場内検索結果のファーストビューに表示される運用型広告です。

─メーカーやブランドに今まで以上に出稿してもらうために必要なことは。

 楽天市場はテレビ局など既存のメディアを含めても、最も大きな媒体の一つといって良い規模まで成長しました。ただ、メーカーやブランドにはまだ伝わり切っていない部分があると感じているので、もっとアピールしていきたいですね。ナショナルブランドは、これまでもECや楽天市場にも販促費は投入してきたと思いますが、「マーケ費」という予算までは投下していなかった。それがここ数年は出してくれるようになってきており、公式店を出すケースもあれば、当社が運営する店舗を活用するケースもあるし、自社商品を扱う楽天市場の店舗へ横断的に予算を投下するケースもあります。こうした動きをもっと大きなうねりにしていきたいと思っています。

目立つマーケと営業の分断

─日本におけるリテールメディアの活用実態をどう見ますか。

 「モノを売る」という部署と、ブランドのマーケティングを行っている部署がまだまだ分断されているように思います。本当は同じ枠組みの中でやっていけば、双方もっと効果が出るのに、なかなかそうなっていないケースが多い。従来は「パイプラインビジネス」というか、商品を企画して作り、それをテレビCMなどでユーザーに認知してもらう。そして、店舗では良い店を確保して、消費者が店舗に行ったときに商品を見つけて「CMで見たことあるな」と買ってもらえる、といった感じで流れていくビジネスモデルです。しかしデジタルの世界では、商品を制作したあとのプロセスを同時に進めることができるし、ターゲティングもIDを使えば細かく設定できる。マーケティングにかける時間やターゲティングの精度が変わったことで、メーカーやブランドも消費者に対してのアプローチやプロセスを作り直しているところでしょうが、現段階ではオフライン・オンラインのメディアそれぞれに対し、広告予算を最適に配分していこうというところで止まっているのではないかと思います。

─デジタルを活用しきれていないわけですね。

 もちろん、企業やブランドがマーケティングをする際の選択肢にデジタルが入っているのは間違いありません。ただ、従来のビジネスモデルをデコンストラクション、つまり枠組みを壊して再構築するというのが、デジタル活用の本質的意味合いだと思いますが、そこまではまだまだ至っていないのが実情です。

─海外でのリテールメディア活用はどうなっているですか。

 アメリカでも、ブランドマーケと営業の組織を一体化しているというブランドやメーカーは極めて限定的だとは思いますが、今述べたような意識を持つ企業は多いです。新商品をローンチしてプロモーションする際、デジタルで売ることを前提として、逆算的に「どうやって消費者に認知してもらい、ターゲティングを設定し、どれだけ買ってもらうか」というマーケティングや販促のプランを全体としてデザインしています。一方日本の場合、「たくさんの人に知ってもらうためにはまずテレビCMを打ち、ポップアップのイベントをやってデジタルにも広告を出して、全体でこれぐらい予算が必要だね」というような感じで進み、こうしたマーケティングが終わったあとに「どうやって買ってもらおうか」と営業を考え始めることが多く、マーケと営業の分断が目立っています。

─日本においても先進的な事例は出ていますか。

 やはり、フラッグシップとして動いているのは外資メーカー。その様子を見ながら、日本の大手メーカーも動き始めているという感じですね。

─楽天市場が物販系ECにおいて日本最大のリテールメディアとなっている理由は。

 ブランドからすると、自分の店を出して、そこで自分たちがブランディングできるというのが大きいようです。ページの作り込みや見せ方を自由に設計できるので、自分たちのやりたいブランディングの形で店を作り、そこを起点に楽天市場上でマーケティングできますからね。

メーカーやブランドがもっと予算を投下できるメディアへ

─楽天における広告事業の規模も拡大しています。

 2023年度の事業売上収益は2000億円に達する見込みです。2000億円という数字がどんな立ち位置かというと、大手テレビ局の広告関連売上収益に近づいてきています。この数字の多くは「楽天市場」から得ているものです。これまではモール出店する店舗に、楽天市場のさまざまな広告を買ってもらうというのが主な広告売り上げだったわけですが、ここ5年くらいはナショナルブランドの広告を増やすことに注力してきました。そのために「AccountInnovationOffice」という組織も立ち上げています。

─出店店舗の出稿額とナショナルブランドの出稿額、どちらの比率が高いでしょうか。

 楽天市場出店店舗の出す広告の方が割合としてはまだ多いですが、ナショナルブランドの出稿額の方が伸び率としては高くなっています。特に、新商品を出す際に楽天市場でプロモーションできるような広告の伸びが目立っています。

─メーカーやブランドは楽天市場が30~40代女性に強い点を評価しているのですか。

 比率でいえば30~40代女性がボリュームゾーンの一つで、そういった層を取り込みたいという要望は多いですね。ただ、絶対数でいえばそれ以外の層、もちろん若年層もたくさんユーザーとして抱えているので、さまざまな要望に応えられます。

─セールスエクスパンションの活用実態は。

 ローンチ後、1年~1年半くらいは、お試し期間ということで使ってもらっていましたが、効果もだいぶ認識してもらえてきたというのと、プロダクト的な改善もあり、ここ1年くらいはかなり伸びています。消費財メーカーや化粧品メーカー、一部家電メーカーが利用しています。

─今後の目標について。

 国内において、物販を行うメーカーが出稿するメディアとしては、一番大きな規模のメディアになるのが最大の目標です。これはテレビなど既存のメディアも含めて、ということ。ブランドやメーカーからは「効率は非常に良いが、もっとボリュームを出せるようにしてほしい」という声をもらっています。つまり、購買ファネル別のユーザーでいえば、コンバージョンに近い層に向けたプロダクトだけではなく、もっと消費者の数が多い「一般層」や「認知層」、つまり「アッパーファネル」に向けたプロダクトを充実させるのが次のチャレンジです。さまざまなメーカーやブランドが、より多くの予算を投下できる形にしていきたいですね


松村亮(まつむら・りょう)氏

慶應義塾大学卒、ロンドン大学修士。外資系IT企業のエンジニア、外資系戦略コンサルの東京、ロンドンオフィスを経て、2013年8月に楽天入社。社長室を経て、2017年に執行役員に着任。2022年4月に上級執行役員兼マーケットプレイス事業デピュティヴァイスプレジデントに就任。2023年4月から現職。



◇ 取材後メモ

昨年、開設から25周年を迎えた楽天市場。流通規模も3兆円を超えており、広告媒体としての価値もうなぎ登りになっています。ただ、松村常務は「リテールメディアとしての楽天市場の価値がまだまだ伝わり切っていない」と語ります。確かに、ECにおいては「見込み客に購入してもらう」ための広告は珍しくありませんが、「幅広いユーザーにブランドや商品の価値をアピールする」ための広告は、テレビCMに比べると少ないのが実情です。今後は楽天市場を代表とした「リテールメディア」の活用が日本においても進んでいくのでしょう。こうした中で、楽天市場は「販促の自由度」という点で、最大のライバルであるアマゾンには一日の長があります。今後、メーカーやブランドが、楽天市場でどんな仕掛けをしていくかが注目されます。

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