ヤフーショッピング、“日曜日”の販促を再開――有料会員優遇で「購入する動機」を創出

 LINEヤフーが運営する仮想モール「ヤフーショッピング」では、ポイント施策変更などの影響で、2023年上期の流通額が大きく落ち込んだ。ただ、下期からはキャンペーンを復活させたことなどもあり、復調の兆しがあるようだ。1月14日からは、有料会員「LYPプレミアム(旧ヤフープレミアム)」会員を対象に、毎週日曜日に購入額の4%分をポイント還元する取り組みを開始。再び販促費を投下する方向に舵を切った同モールの行方は。

日曜日のキャンペーンを始めた
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流通額減少は「想定内」

 「昨年、特に上期は経費を抑制したことで、流通額が前年同期を下回る状態が続き、出店者にはご迷惑をおかけすることになった。ただ、数十億円単位の大赤字を生むサービスの財務体質を改善することで、永続的な運営が可能な事業の土台を築くことができた」。LINEヤフー執行役員でコマースカンパニーショッピング統括本部長の畑中基氏は2023年のヤフーショッピングをこう総括する。

 ソフトバンクの携帯電話契約者向けに、10%還元キャンペーンを毎週日曜日に実施するなど、高還元率で客寄せをしていた同モールが方針を転換したのは22年10月。グループの決済サービスやクレジットカードを使用した場合の還元率を5%に引き上げるとともに、毎週日曜日の高還元施策を廃止。さらに23年2月からは、毎月5日、15日、25日に実施するセール「5のつく日キャンペーン」に関して、「PayPayポイント」の付与上限を5000ポイントから1000ポイントに減らした。

 その結果、出店者に開示している23年3月度における、同モール単体の月次流通額は、前年同月比で30%減という惨憺たる結果になった。他方、財務体質は全社的に改善しつつある。そのため、9月頃からコマース事業の広告宣伝費を増やしている。12月のセール「ビッグボーナス」などでは踏み込んだ投資もしはじめており、「手応えをつかみつつあるので、24年は出店者の期待に応えられる売り場にしていきたい」(畑中執行役員)。

 23年上期の流通額減少については「想定内だった」(同)というが、出店者からは「打つ手なしだ」など、厳し
い声が出ていたのも事実。そのため、上位の出店者を中心に、畑中執行役員が直接出向き、同モールの現状について説明する機会を設けたという。「不甲斐ない結果を謝罪するとともに、24年3月期の下期については、期待値を超えられるようにしたいという話をした」(同)。

 昨秋から販促費の投入を再開したLINEヤフー。ただ、「ばら撒き」ではなく、ある程度財務体質をコントロールしながら、強弱をつけた販促を行う方針だ。その結果、11月頃からは前年同月を上回る結果も出始めているという。

 24年は1月から新たなキャンペーンを始めた。1月14日から3月末までの毎週日曜日、LYPプレミアム(旧ヤフープレミアム)会員を優遇するもので、会員向けに付与されている2%に、「買う!買う!サンデー」4%と、会員のみ付与される4%(1注文あたり5000円以上の決済が条件で、付与上限は5000ポイント)を加え、10%還元するというもの。「LINE」のアカウントと連携させた上で「PayPay」や「PayPayカード」で決済した顧客へ毎日行っている5%分の還元を加えると、15%還元となる。

 22年10月までの日曜日に行われていた、ソフトバンク携帯電話契約者向けのキャンペーンに近いものだが、今回は、有料会員制度へ加入すれば還元を受けられるため、より参加しやすくなったといえる。

 「ヤフーとLINEが経営統合したことで、日本の消費者をほぼカバーする状況だ。これまではキャリアで縛っていたが、究極としては国民全員にLYPプレミアム会員になってもらいたい。そこにお得を提供していくのが新会社の大きな軸なので、コマースについても『会員になったら受けられるメリット』を打ち出し、ヤフーショッピングで買ってもらう。そして、消費者に満足してもらい、また買ってもらうという大きなサイクルをしっかりと作っていきたい」(畑中執行役員)。

LINEヤフーの畑中基執行役員

出店審査を厳格化

 ただ、リピート顧客を増やしていく上でネックとなりかねないのが「店舗の質」だ。2013年に実施した出店料無料化以降、出店者数が急拡大した同モールだが、同時に質の良くない店舗が増えたという事実もある。中でも目立つのは「自社では在庫を持たず、出店者がアマゾンなどで代理購入した商品を直接消費者に配送する“無在庫転売”を行う店舗」だ。

 畑中執行役員も「今年度に入ってからそうした店舗が目立ち始めた」と認めた上で「対策は講じており、休店・退店する店舗は増えており、一定の成果は出ていると思う。ただ、モグラ叩きになっている感じもあるので、より対策を強化することで、顧客にとって迷惑な店舗は撲滅していきたい」と語気を強める。

 こうした「無在庫転売」を行っていると思しき店舗には、同一とみられるユーザーが複数回にわたり好意的なレビューを寄せているケースも散見される。つまり「やらせレビュー」だ。「レビューの対策もセットで進めている。ただ、『明らかに同一人物が書いている』ようなレビューでも、その証拠を捉えるのはなかなか難しい面もある。また、デジタルプラットフォーマー規制法があるため、むやみに退店させることはできないので、丁寧な対応が求められる。ただ、パトロールは強化しているので、レビューが不自然な店舗には指導をしたり、最悪の場合は退店させたりしている」(畑中執行役員)。また、出店審査の厳格化も進めている。特に個人事業主に関しては、この半年で出店へのハードルがかなり高くなっているという。

 この1年のヤフーショッピングで、店舗の懸念材料となっているのが「優良配送」に対応した商品の検索優遇だ。同制度は、出店者が顧客に提示する商品の配送日を示す「お届け希望日」を、受注日プラス2日以内としている商品かつ当該出店者の出荷遅延率が一定水準未満である場合にのみ出店者が設定できる表示で、商品検索結果で上位表示されやすいような優遇措置を講じている。ただ、“無在庫転売”とみられる店舗が上位に表示されることもあるなど、「検索優遇により、消費者にとって非常に買いにくいモールになってしまった」(ある業界関係者)ことが、流通の低迷につながっているとの見方も出ていた。

 ただ、これに対して畑中執行役員は「優良配送の商品とそうでない商品で比較すると、優良配送の商品を買った顧客の継続率は後者より数倍高い。特に、新規顧客が優良配送の商品を買った場合、その後の定着率は非常に高いというデータが出ている。つまり、顧客からは(検索優遇に対する)一定の評価を得られているということ。この1、2年やってきたことは間違っていない」と断言する。すでに、総流通額のうち、約半分が優良配送に対応した商品の売り上げになっている。

 畑中執行役員は「(検索優遇が流通額の減少につながっているという意見もあるが)私自身は上手く行っていると思っている。何よりもリピート率を増やしているという数字が出ている」と自信を示す。一方で「優良配送と検索ロジックのバランスが難しいのは事実。店舗の意見も踏まえながらロジックは日々改善している」と話す。

 8月からは「5のつく日」の付与特典を、同モールでのみ利用できる「ヤフーショッピング商品券」に切り替えた。これに関しては「想定以上にリピート率が増えている。仮想モール外で使われいていたポイントがモール内で使われるようになっている」という。ただ、PayPay経済圏とのバランスも踏まえて「商品券にすごく効果があるからといって、いきなりいろいろな場面で発行することは今のところ考えていない」とする。

LINEユーザー取り込みへ

 復調の兆しが見えてきたヤフーショッピング。とはいえ、再度販促費を投入しはじめたことで離れていた顧客が戻ってきただけ、という見方もできる。2023年2月、Zホールディングス(現LINEヤフー)の川邊健太郎社長Co‒CEO(当時)が、「2020年代前半に国内物販Eコマース取扱高ナンバー1を目指す」という、これまで掲げてきた目標を撤回した。ただ、畑中執行役員は「コマース事業としては、日本で一番を目指すという方針は変わっていない」と強調する。

 これまでのように「ポイントばら撒き」だけでは一番にはなれない。楽天市場やアマゾンにはない、ヤフーショッピングの強みとは何か。畑中執行役員は「LINEユーザーにとって買いやすいモールにすることだろう。LINEアプリ内で、ヤフーショッピングの商品を簡単に購入できるようになるのがLINEユーザーにとっての最大のベネフィットだし、当社だからできることだ」と語る。

 これまで多くのLINEユーザーにとって、ヤフーショッピングは必ずしも身近な存在とはいえなかったが、同社はそこを「伸びしろ」と捉える。「ポイントばら撒き」だけではない、独自の強みを作れるかが、同モールの行く末を左右するだろう。

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