法人向けオフィス用品通販最大手、アスクルと日本最大のポータルサイト、ヤフーがタッグを組んだ新たな通販サイト「LOHACO(ロハコ)」が始動した。日用雑貨を中心に、先行する大手サイトを向こうにまわし、「圧倒的なトップを狙う」と豪語する両社の新サイトの行方とは。アスクルの個人向け事業を管轄する吉岡晃BtoCカンパニーCOO(最高執行責任者)は言う。「アマゾンにも十分、勝てる」と。(聞き手は本誌・鹿野利幸)
忙しい30、40代女性の「くらしを軽くする」
まずはスマホサイトから始動
――新たな通販サイト「ロハコ」が10月15日にオープンしましたが状況は。
「ロハコ」はまずスマートフォン版サイト(※タブレット版サイトとアンドロイド端末向けのアプリも同日から開始)限定でスタートさせました。PC版は11月下旬以降にオープン予定ですので、今は言わばβ版のような状況です。まだ正直、何とも言えないところです。ただ、手ごたえは感じています。集客という点ではポータルサイトでのリンクなどの協力頂いているヤフーの効果が非常に高いと感じていますね。オープン前の10月1日からヤフー内に「ロハコ」の紹介動画を付けたティザーサイトを作って、ヤフーの利用者に向けて事前登録キャンペーンを行なってきましたが、登録の状況もよく、そこでのコメント欄でも「ロハコ」への期待や応援のコメントが多かったです。今のところ、売れ筋は重くてかさばる水やトイレットペーパーなどになっています。また、初回のお試しということで限定販売しているトイレットペーパーや乾電池、野菜ジュースなど生活雑貨11点をセットで送料無料で販売している999円の「HAPPY BOX」が好調に売れています。こういった強い商品をどんどんと出していければと思っています。
――新サイトの仮称は「YASKUL(ヤスクル)」だった。非常に覚えやすくインパクトもあったと思いましたが(笑)、なぜ「ロハコ」という名称にしたのでしょうか。
アスクルは創業から「ハッピーオフィスネットワークサービス」を掲げてビジネスを行ってきました。個人向け通販でも「ハッピーをお届けしたい」という部分は踏襲したかったわけです。そういった想いをどう通販サイトのネーミングに落とし込むかと、色々と意見は出ましたが我々のサービスでたくさんの人々を幸せにしたいということから「Lots of Happy Communities」の頭文字をとって「LOHACO」と命名しました。「ヤスクル」はあくまで発表時に急に作ったコードネームですから。実のところ、「安売り」のような印象があったようで、社内でも取引先のサプライヤーからも、SNSなどを見ていると一般ユーザーからも、評判はよくなかったです(笑)。
配送に“自信あり”
――「ロハコ」の特徴を教えてください。
コンセプトは『くらしを軽くする』です。メーンターゲットである働きながら家事もこなす忙しい30、40代の女性を応援したいというのが基本方針です。サイトの特徴ですが、テーマは“シンプル”。無駄なものは徹底的にそぎ落として、お客様にはいかに余計なことをせず、ここをタップしたらすぐに買い物ができる、というようなシンプルさを徹底してスマートフォンで購入するための利便性にフォーカスして設計しました。時間や場所を選ばず、手元の操作で簡単に買い物を楽しめるスマホの利便性に可能性を感じており、我々はスマホでの利便性を尖らせることで「くらしを軽くすること」を実現したいと考えています。ですのでスマホの狭い画面からも商品を選べるように工夫しました。また、これはアプリの機能となりますが、例えば商品検索でも商品ラベルやバーコードなど商品の特徴的な部分を撮影することで、「ロハコ」内の商品を簡単に検索できる機能や、検索結果から欲しい商品にメモしておける「買い物メモ機能」などを搭載しています。あとはデリバリーも強みであり、特徴になります。
――デリバリーの強みとは。
デリバリーには自信を持っており、これからも磨いていこうと思っています。「ロハコ」では東京23区内は午前10時までの受注分については当日の午後6~9時までに配送。北海道や東北地域などを除く他の地域は午後6時までの受注分は翌日配送します。当日および翌日配送は当社のオフィス用品の法人向けBtoB通販ではすでに実施していることですが、BtoC通販においては、「当日に届く」「翌日に届く」と約束しているところはないはずです。しかも当日、翌日配送は1回の購入額が1900円以上であれば、特別料金などは徴収しません。アマゾンでも「お急ぎ便」という即配サービスをやっていますが、無料で利用するには3900円の年会費を支払わねばなりません。現状、当日配送エリアは一部地域に限定されていますが、これから広げていきます。
――競合のアマゾンは1回の購入額に関わらず、原則、送料を無料として支持を受けているようです。
そこはお客様がどう判断するかですね。お客様にとっては送料は無料の方がよいことは当たり前の話です。実は我々も最後まで「ロハコ」としても購入金額に関わらず、送料無料とした方がいいのではないかと議論してきました。しかし、闇雲に送料だけにフォーカスしてそこにコストをかけるよりもよい商品をきちんと安く販売することにしようという結論に達しました。我々は他のサイトとは異なり、BtoB通販で培った大手メーカーとの関係性で、「ロハコ」においても、直接取引できるという状況にあります。こうした優位点を活かしてよい商品を魅力のある価格で、品切れなどを起こすことなく、迅速にお届けするといった小売りとして基本的な部分を徹底的に磨いていこうと。そうなれば皆様の日常生活の買い物を担うことができ、1回の注文も1900円を超え、結果として送料も無料となるはずですから。送料を無条件でゼロにすることは簡単ですが、本当にすべきことは値付けと品選びをきちんとして、早く届けること。そこがまず優先だろうと考えました。
アスマルはどうなる?
――「ロハコ」がスタートしましたが、その「アスマル」はどうなるのでしょうか。
PC版サイトが始まり、「ロハコ」がグランドオープンする11月下旬以降、「ロハコ」に統合させ、閉鎖する予定です。「アスマル」のお客様には「ロハコ」の利用案内をすでにメルマガなどを通じて行なっています。「アスマル」は閉鎖しますが、「アスマル」のメンバーは、現在「ロハコ」のチームに参加しており、彼らが培った商品の魅力的な見せ方などソフト面のコンテンツの力は「ロハコ」でも取り入れていきたいです。
アマゾンにもGMSにも負けない良いポジションにいる
初年度で年商180億円へ
――「年商180億円で黒字化を達成」というのが初年度(2013年5月期)の目標と聞いています。
180億円というのは非常に高い目標です。日用雑貨ECを行なう通販事業者たちは10年以上かけて、その規模になったわけで、それを半年でやろうということですから。ただ、無理というのではなく、そこに行くために何をしなければならないのかというスタンスで臨んでいきたいと思っています。黒字化ももちろん簡単ではありません。ただ、我々はBtoB通販では1回の購入額が1000円以上で送料無料という形でやらせて頂いていて、その中で3%以上の利益率を出しています。BtoCでもこれと同じインフラを使えるため、利益を出せるベースはすでにあるわけです。また、アスクルはBtoBではすでに日用雑貨だけで400億円以上の売り上げを出しています。BtoCでもそれだけのバイイングパワーを持って、中間マージンを抜かれることなく、メーカーから直接仕入れることができるわけです。さらにBtoBでは多くのエージェント(販売代理店)による販売網で商売を行っているが、BtoCは直販で経費も抑えることができます。黒字化は可能だと思っています。
――目標達成には何が必要ですか。
適切な価格設定と品ぞろえの充実でしょう。価格については、我々はBtoBで培った文具やコピー用には圧倒的な価格訴求力はあるが、日用雑貨となるとGMSやドラッグストアがセールをし始めると、負けてしまうことも正直あります。そこはきちんと今後、戦っていかなければならない部分だと思います。品ぞろえはまずは日用雑貨のよりいっそうの充実を図りたいです。その後は、個人向けでは化粧品や健康食品、アパレルなどのニーズもあります。実際にこれらの商材を販売して欲しいという要望をお客様から受けています。そこはお客様のニーズに合わせて柔軟に考えていきたいですね。物流拠点の拡張にあわせて、取り扱う商品点数は増やしていきたいです。
――商材を広げていくとこれから実施予定のヤフーの仮想モールやネット競売の出店・出品者向けの物流代行事業で、クライアントと競合状態になる?
商品のジャンルはヤフーの出店・出品者と一部、重なってしまってもいいと思っています。化粧品であれば、例えば我々は「オーガニック」にフォーカスするとか、ストアさんとはうまく棲み分けるなどして、フルフィルメントを請け負うのとあわせて、全体で価値を出していけるようにしていければと思っています。
――ちなみに物流代行事業の開始時期は。
早ければ来春くらいをメドにと考えています。
5年後に年商2000億円超へ
――5年後に年商2000億円規模を目標としています。どのような戦略を描いているのでしょうか。
年商2000億円というのは簡単な話ではないが勝算はあります。これからはBもCもないボーダレスな時代になっていくと思っています。BtoBでは我々はリーダーでしたが、BtoCでは完全にチャレンジャーです。ですが、私はBtoCでどこかが飛びぬけているというのはまだないと思っています。ECという視点では現在、アマゾンが断トツでリードしていますが、「ロハコ」の主戦場となる「日用雑貨」に限って言えば、ある調査ではアマゾンの年間売り上げは300億円くらいと言われており、これが本当なら我々はBtoBで400億円以上、売っているわけですから、当社よりも売り上げは低いわけです。また、アマゾンは本やDVDなどの配送は効率的に回しているのでしょうが、恐らくそれ以外の、例えば日用雑貨などに関しては、とてもではないが、物流の採算性を考えると利益がとれる状況になっているとは思えません。先ほど申し上げましたが、我々はメーカーと直で繋がっていて、なおかつ利益が出せている構造の中で事業をやっています。品ぞろえはたしかに現時点では負けていますが、それも挽回できると思いますし、そもそもそんな商品数は必要ないかも知れません。アマゾンでは何千万という膨大なアイテムを取り扱っていますが、それらで恐らく5000億円程度の流通総額となっている。個人向け法人向けの違いはあるがアスクルではオフィス用品カタログに掲載している3万点で2000億円を年間で売り上げている。我々は厳選した商品を絶対に品切れをおこすことなく、きちんといつでも販売できる体制を築いてきました。商品も既存のものだけでなく、メーカーさんと一緒にPB商品などこれまでなかった商品を作れ、絶対的価値を生み出していけます。品揃えよりも、こここそが重要な気がしています。一方で、小売りの視点ではGMSやドラッグストアが競合となります。彼らとは品ぞろえの差はあまりないですが、バイイングパワーは向こうの方があります。しかし、彼らがネット上、つまりネットスーパーなどで採算がとれているかと言えばそうではないでしょう。彼らよりも我々の方がネット販売のベースのプラットホームで劣っているかというと、そこもそうとは思いません。ECは物流とサービスを含めたコンテンツの両輪であり、その両方で構造的に完全に負けていなければ、今からでも十分に勝てると考えています。我々は結構、よいポジションにいるのではないかと思っています。
取材後メモ
「買い物の仕方が変わってしまうような“新しい購買スタイル”をどう提案できるかが鍵」――。「LOHACO」の成功のポイントについて吉岡氏はこう話します。曰く、アマゾン登場前後で多くの人々の買い物の仕方が変わった。これはアマゾンが提案した購買方法が時代に合致した理にかなったものだったので「新しい購買文化」として定着し、アマゾンの成功につながっていると。であればこれからの少子高齢化で共働き世帯が増えていく中で、どういう購買スタイルが理にかなっているか。価格競争力や品揃えも重要だが、ここに成功のための“ヒント”がありそうだ、と。吉岡氏がどんな答えを導き出すか、気になります。