本誌姉妹紙・通販新聞は2024年7月、主要通販・EC実施企業ら約600社を対象にアンケート調査を実施し、今後の市場の予想と消費動向、各社が抱える課題、物流2024年問題への対応の状況について聞いた。市場拡大を予想する見方が半数を超えたものの、物価高による先行き不安が消費意欲の低下を招くなどの見方もあった。そうした市場の変化を受けて今後、事業成長のための肝となる「新規客獲得」の難易度がさらに上がりそうだ。アンケート結果について主要各社から寄せられたコメントとともに見ていく。
1-〈通販・EC市場予想〉「拡大する」が5割以上、前年同期調査から15ポイントアップ
アンケートが「2024年下期の通販市場についてどのように予測していますか」と聞き、当てはまる項目にチェックを付けてもらった。
「拡大する」と回答したのは53%で、前年同期の調査から15ポイントアップした。今後の通販市場は「拡大する」とした企業のコメントを見ていく。
「企業によって伸ばす企業と低迷する企業がより顕著になると予想。OMO施策やDX関連、インフラ投資の差によって顕著になる」(アダストリア)、「ECモールを中心に引き続き通販市場は伸長。広告はネット中心、OMO・DXなど各社デジタルの取り組みを強化していくトレンドは一層強まることが予想され、通販市場は一層活性化するとみている」(ファンケル)などの回答があった。このほか、「Xでのバズりなどが再燃するなど、何らかのムーブメントが起こりやすくなっている。新しいものを求め、消費行動も含めて外への働きかけが積極的になる時代ととらえている」(バロックジャパンリミテッド)なども見られた。
また、物価高に伴う消費行動の変化を指摘する声もあった。「家計負担増加の影響で、通販を利用して少しでも安価な商品を探すといった消費行動になるのでは。今夏の暑さの影響で外出を控えて通販で買い物をする消費者が増える可能性もある」(アプロス)、「市場価格のインフレにより商品購入価格が精査される。そうなると価格比較しやすいECへ流れる」(山善)などがあった。
参入企業の増加も市場拡大につながりそう。「新規参入が多い」(世田谷自然食品)、「大手企業が成長市場へエントリーし、拡大する市場を育てるプレイヤーが増えていることを実感」(ナッシュ)などがあった。
このほか「EC・通販の利用が定着化している」(アスクル)、「コロナ禍で通販市場が拡大した結果、ユーザー自体がその生活様式に慣れた」(イングリウッド)、「コロナ禍を通してEC利用の抵抗感が一気になくなり、日本にEC市場規模は拡大が継続。頭打ちの段階にない」(田中貴金属ジュエリー)があった。
物価高の影響への懸念がより拡大
一方で「横ばい」と回答したのは41%で、前年同期の調査から10ポイントマイナスだった。各社のコメントをみると、物価高の影響への懸念が広がっている。「現状大きな変動を予想させる要因はない」(インペリアル・エンタープライズ)、「滑り出しは順調だが消費マインドを引き下げているのが懸念」(ロッピングライフ)、「コロナ禍の当時と比べて伸長は鈍化すると思われる」(ニッピコラーゲン化粧品)、「コロナによる巣ごもり需要が終焉し、物価高騰が個人消費を抑制する。通販各社はコスパや希少性、アイデア性をうたった独自商品の開発や、タイムセールや広告宣伝を積極的に打つ。業界全体の顧客に対するアプローチの質は上がっている」(全日空商事)などがあった。
一方で、市場環境の変化を指摘し、「薬機法などの厳格化が進むことも予想されるため、需要が抑えられる」(第一三共ヘルスケアダイレクト)、「消費者の心理的要因(機能性表示食品やサプリへの信頼性)が払拭しきれない可能性がある」(八幡物産)、「リアルとの融合、OMOマーケティングがさらに重要になる」(HEAVENJapan)などの声があった。
縮小するとの予想は6%で、前年同期の調査から5ポイントのマイナスだった。「物価の継続上昇による消費の停滞。物流業界の社会的要請に応える形での送料発生、送料値上げによる消費の躊躇、購入回数の減少、リアル店舗での消費シフトなど」(再春館製薬所)と多角的な指摘もみられた。また、「不景気、インフレに近い物価上昇」(オージーフーズ)などといった声があった。
2-〈消費動向〉先行き不安で「横ばい」最多、「下向き」合わせて約8割占める
アンケートでは「現在の消費の動向をどう捉えていますか」と聞き、最も当てはまる項目を選んでもらった。最も多い回答は「横ばい」で44%、前年同期の調査から3ポイントアップした。
主なコメントは「物価高による消費者の節約志向は高い」(アスクル)、「自社の調査で、食品の値上げが『家計に影響している』や『よりお得に食品を購入したいと思うようになった』とする回答は昨年調査に続いて多数を占め、節約志向は継続している」(クラダシ)、「先行きの不安感による消費マインドの冷え込みが懸念される」(ロッピングライフ)などがあった。
また、「円安や物価高の影響はあるものの、一方で株高や企業の業績好調も相まって全体的に横ばい」(インペリアル・エンタープライズ)、「旅行やレジャーの消費意欲が高まっており、関連した便利グッズの需要の高まりがみられる。買い物の目的や動機がコロナ前、コロナ禍、コロナ後で変化しているが、消費ポテンシャル自体は上がっているとも下がっているとも言えない」(全日空商事)、「コロナ禍を経て経済活動が正常化。一方で物価上昇や中国経済の停滞などによる消費者の生活防衛意識の高まりもあり不透明」(ハーバー研究所)などがあった。
賃金に対するコメントもあった。「賃上げ、定額減税、子育て世帯への支援拡充はありつつもこれまでの物価の値上がり、電気料金の値上がりで実質賃金増につながっているとは言い難い。さらに今後の値上がりへの懸念などから大枠での国内消費動向は横ばいとみる。ただし商品・サービスの内容やお客様層によって上向き、下向き、横ばいは異なる」(ファンケル)、「消費動向の上下は景気や賃金に連動するが、これは変化していない認識。宅配市場の消費行動が増えており、リアル店舗での消費動向は変化している」(ナッシュ)、「円安、物価高、賃上げ企業の少なさ、先行き不安は常に敏感になっている。安易には消費者は動かないが、一定のバズリや熱量には投資するという意味で横ばいかと考える」(バロックジャパンリミテッド)などがあった。
物価高懸念で「下向き」拡大
「下向き」と回答したのは41%で、17ポイントプラスとなった。物価高の影響を懸念する声が目立った。「物価の高騰により節約志向が高まっている」(第一三共ヘルスケアダイレクト)、「家計を守ろうとする心理が強く働く」(アプロス)、「食料品をはじめ日常生活関連の値上げが続き実質賃金も低下している」(ヒラキ)、「物価高による生活防衛意識の高まりにより、1人当たりの購入単価が低下している」(日本生活協同組合連合会)などとする声があった。
消費者の商品選択への影響もありそう。「情報やものがあふれ、実質値上げも増えていることから消費者はより吟味してから購入するのでは」(HEAVENJapan)、「機能性表示食品に対する不信感がふくらむ」(あじかん)、「機能性表示食品やサプリ摂取への不安により消費動向が下がっている」(八幡物産)などがあった。また、「上向き」と回答したのは15%。前年同期の調査から14ポイントマイナスとなっており半減した。
主なコメントは「多種多様な商品展開がみられる」(てまひま堂)、「賃金の上昇」(テレビショッピング研究所などがあった。また、節約志向の高まりを指摘しつつ「当社の顧客層の購買意欲に翳りはない。将来への不安からくる貯蓄や投資への関心が貴金属製品の購入につながる傾向があり、貴金属市場における消費動向は消費が継続するとみている」(田中貴金属ジュエリー)との声があった。
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