公取委、アマゾンに立ち入り検査――「カートボックス」表示名目に、安値要求か

 公正取引委員会は24年11月、独占禁止法違反の疑いで、アマゾンジャパンに立ち入り検査した。「おすすめ出品」と表示されるカートボックスの表示を名目に、「競争力のある価格」で商品の値下げを要求していたとみられる。アマゾンにとって、〝カート〟は最安値を実現する最大のツールになっている。カートの仕組み自体は維持されるだろうが、これを名目に不公正な競争を強いていたとすれば、事業運営に大きな影響を及ぼすことになる。

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「カート」は、アマゾンモデルの根幹

 「カートを取る」。アマゾンの通販サイトで、このことは重要な意味を持っている。

 販売価格が安いなど諸条件を満たすことで、出品事業者は、商品ページのトップに表示され、ほかの商品より目立つことで売上増が期待できる。表示されるのは、1事業者の商品のみ。複数の事業者が出品している場合、ほかの商品はリンクで示されることになる。利用ユーザーからしても、アクセスに手間がかかる。このため、カート表示は他社製品と大きく区別されることになり、出品事業者もカートをめぐり競争する。アマゾンが掲げる「世界中で最も豊富な品揃え」と「最安値」を実現するものだ。

 競合するECモールと差別化されたアマゾンの強みでもある。多くのECモールは、「A」という商品を扱う出品者が横並びに表示される一覧性をベースにした構成。カテゴリ検索を重視するが、商品のくちコミも各出品者のページに蓄積される。アマゾンは、「商品軸」のページ構成がベース。商品名検索に強みがあり、「A」という商品のくちコミは、その商品のページに集約される。象徴が「カートを取る」ことであり、事業モデルのベースになっている。

公正取引委員会(画像左)とアマゾンジャパンのジャスパー・チャン社長

自社物流利用の事業者を優遇の疑い

 アマゾンは、「マーケットプレイス」に出品する事業者に対し、カートに商品を表示するため他社の通販サイトより「競争力のある価格」になるよう値引きを要求したり、在庫管理や商品発送で自社の物流サービス「FBA(フルフィルメント・バイ・アマゾン)」を利用する事業者をカートボックスの表示で、有利に扱っていた疑いが持たれている。値下げ要求は、実質的にMFN(最恵国待遇条項)の効果を発揮していた。要求に応じない場合、カート表示から外すことを伝えることもあったという。

 公取委は、こうした行為は、独禁法が禁じる「優越的地位の乱用」、「拘束条件付き取引」にあたり、自助努力なく競争力を不当に高めていたとみている。

 違反被疑行為をめぐっては、19年、EUの欧州委員会が先行して調査に着手している。「FBA」を利用する出品者の商品に有利になるように検索結果を表示しているとして調査の開始を公表している。

商品ページのトップに表示される最安値商品と、それ以外の商品は大きく区別される。

 日本では16年、マーケットプレイス出店者との間で価格・品ぞろえに関するMFN条項を定め、出品者の事業活動を制限しているとして公取委が立ち入り検査した。アマゾンが同条項を撤廃する方針を示したことから審査を終了したが、今回の行為が実質的に同様の効果を生んでいたとすれば、厳しい措置がとられる可能性が高い。

 18年には、自社通販で商品の納入業者に不当な協力金を負担させていたとして、「優越的地位の乱用」の疑いで、再び立ち入り検査が行われている。在庫商品の割引補填を約束する在庫補償契約や、システム利用料の名目で協力金を求めていた。20年に公取委が確約契約を認定して終結したが、いずれも金銭提供を強いるものだ。出品者に自社のポイントの原資を要求し、取りやめたこともある。

海外規制当局も調査

 アマゾンの日本における売り上げは好調だ。直販事業やモールの手数料を含む前期売上高は、前年比6.5%増の3兆6500億円(日本円換算)。海外を含む総売上高は同12%増の約80兆円、営業利益も200%増で推移する。一方で、グローバル市場における日本のシェアは0.2ポイント減の4.5%と3年連続で低下している。安価な商品提供で存在感を増す中国系のTemu(テム)を含め、プラットフォーム間の競争は激化している。

 国内規制当局も監視を強化する。
 公取委が出品者等を対象に17年に行った実態調査では、アマゾンについて「優位な表示位置、検索結果を表示させるため、運営事業者のサービスを利用するなど対価の支払いが必要」という回答が約4割あった。違反被疑行為とされるFBA利用者優遇を示唆するものだ。20年には、出品者に「検索順位の決定に影響する事項」などの開示を義務づけるデジタルプラットフォーム透明化法が成立。巨大IT企業と協調的に課題解決を図る共同規制を前提にするが、実効性が担保されないことから、公取委は今回の立ち入り検査に踏み切ったとみられる。所管する経済産業省も24年11月、同法に基づき公取委にアマゾンへの対処を求める措置請求を行っている。

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