楽天が、仮想モール「楽天市場」でルール違反を繰り返す店舗への対策を強化する。ルール違反を犯した際に点数を付与し、累積点数によって罰則を課す制度や、店舗レビューで低い評価をしたユーザーに不満点を聞き取り、原因が店舗にあると判断した場合のペナルティーを設ける。店舗には6月2日に一斉に通知、両制度とも9月1日から開始する。“不適切”店舗の排除で同モールのさらなる質向上につなげる狙いだ。
ユーザーへの聞き取り強化
三木谷浩史社長は、2016年の楽天市場のテーマについて、年初の講演で「クオリティー」とした。今年1月からは、ショップレビューで低い評価(5段階評価で3未満)をしたユーザーに対し、投稿から短時間でカスタマーサービスが電話をかけて、不満点を聞き取るサービスを始めた。ユーザーの声を受け、改善を進めることでショップレビューの平均点数が向上しており、新規ユーザー獲得や継続利用につながっているという。
こうした施策を実施する中で、「ほとんどの店舗はきちんと運営しているが、数%の店舗が問題のある行為を繰り返していることが分かった」(河野奈保上級執行役員)。そこで、より出店店舗のクオリティーを高めるための施策を始める。
まず、低レビューユーザーへの聞き取り施策について、一歩踏み込んだものとする。ショップレビューに投稿された、店舗起因とみられるユーザーからの意見について、より詳細な状況・事実確認を行う。
1月から始めた聞き取りサービスだが、河野上級執行役員は「電話を受けて最初は驚く人もいるが、多くの人は低評価の理由をきちんと答えてくれるし、プラスの反応がほとんど」と話す。電話やメールなどでユーザーから低評価の理由を聞き取り、これを受けて楽天のECコンサルタントが店舗に連絡、改善活動を行うというサイクルだ。「当該ユーザーが、電話を受けた後も楽天市場を継続して利用しているというデータも出ている」(同)。
店舗からすると「低い評価をするユーザーの中にはクレーマーが多いのではないか」という点が懸念となるが、河野上級執行役員は「それは誤解だ」と否定する。同社によれば、ショップレビューで入れた点数別に同モールの年間購入金額を比較すると、「1」を入れたユーザーが最も高く、以下「5」「4」「2」「3」の順という。つまり、低評価レビュアーはヘビーユーザーが多く、常に「1」を入れているわけではない。「いつも買っている別店舗のサービスレベルとは品質が違う」「前も同じ店舗で買っているが、品質が下がった」などが低評価の理由として考えられるわけだ。
ショップレビューの改善活動を進める中で、見えてきたのが「問題のある行為を繰り返すのはごく一部の店舗である」ということ。ユーザーから聞き取った不満点を詳細に調査することで、店舗起因であるか、またはユーザーに問題があるか、さらには配送会社などのパートナー企業、そして楽天に問題があるケースと、レビューを分類していく。
店舗に問題があるケースをまとめたのが表①となる。メールの誤送信や個人情報流出、連絡不通、発送遅延、誤配送、商品欠損・破損が代表的なもの。調査の際には店舗側にも理由を聞く。例えば商品破損であれば、配送会社側に問題があると確認できれば店舗起因とはならない。店舗起因のクレームが月に6件以上発生した場合、6件目からは1件あたり700円を調査費用の一部として店舗から徴収する。それ以外はすべて楽天負担だ。「お金を取るとが目的ではないし、店舗起因かどうかの適用は柔軟に対応する。問題が起きた際に店舗が改善姿勢を示すことが何より重要」(同)。
違反基準を明確化
もう一つの施策は、違反点数制度の導入だ。これまで、店舗が各種規約やガイドライン違反を犯した場合、モール内検索順位のダウンや、一時出店停止、場合によっては退店措置を楽天が下していた。しかし、あくまで個別対応のため、「どんなルール違反をしたらどんな処分が下るのか」という基準は店舗に明かされていなかった。
今回の違反点数制度導入により、店舗にも分かる客観的な基準が設けられることになる。与えられる点数は右ページにある表②のとおり。例えば「レイバン風」「シャネル風」など、ブランド品と誤認されるような商品表示をした場合は「ガイドライン違反」として20点が与えられる。また「同じキーワードを無意味に連続してつなげることで検索結果の上位に表示させる」「時事ワードを隠し文字でページに埋め込むことでSEO対策とする」といった「検索スパム」は35点となる。
点数が表③に定められた違反レベルに達した段階で、楽天が店舗に制裁を実施。次の違反レベルに達すると追加措置を講じる。点数は1年間累積され、毎年1月1日にリセットされる。例えば、検索スパムが認められれば、各種表示制限1週間と違約金10万円。「やらせレビュー」は80点のため、ランキングや広告掲載制限、メールマガジン利用停止が4週間、一時出店停止2週間、違約金140万円となる。
河野上級執行役員は「無意味なワードが1文字ソースに残ってしまった場合など、悪意がないことが分かれば点数は付与されないし、柔軟に対応する」と話す。あくまで「“不適切”店舗排除」が目的のため、悪意のないミスであることが分かれば罰則の対象とはしない。なお、徴収した違約金は、ユーザー対応などにあてる方針だ。
河野上級執行役員は今回の施策について、「ユーザー保護施策の一環であるとともに、きちんと運営しているほとんどの店舗を守るためのものだ」と語る。ルール違反を繰り返す店舗へのペナルティーを明確にすることで、違反行為への抑止が期待される。例えば検索スパムがなくなれば、ルールを守ってきた店舗への流入増があるはず。“不適切”店舗の排除や運営改善を進めることで、モール全体の質向上と流通総額増につなげる狙いだ。
これに対し、店舗からはさまざまな声が上がっている。店舗Aは「決済に関する罰則が厳しい。例えば、顧客から『本店の銀行口座と同じ銀行の口座を持っているからそちらに振り込めないか』という依頼に応じると『当社が提供する楽天銀行口座以外の口座を振込先にした』として一発で80点。他にも知らないと厳しい罰則を受けるケースが多々ある」と話す。
また「検索文字列」の場合、SEOとスパムの線引きが難しいだけに、厳格に適用すると違反点数を付与される店舗は多い可能性も。それだけに楽天がどういった運用をするかが気になる店舗は多いようだ。
15年に禁止された「レビュー投稿を条件とした特典付与」(35点の違反点数)のように、新たに罰則が設けられたものもある。「レビューで値引き」は、禁止後も続けている店舗はかなりあるとみられるだけに、9月以降は対応が必要。表示制限などのペナルティーはもちろん、違約金は特に小規模店舗にとっては痛手となるからだ。
一方で「今まで問題かどうかが良く分かっていなかったことも、具体的に違反事例として明確になったので、スタッフへの周知がしやすくなった」(店舗B)と歓迎する声もある。これに対し、楽天は「9月の実施までに、店舗からの様々な意見を聞きながら、継続的に説明する。ユーザーの声だけでなく店舗の声もしっかり聞くことで、より安心・安全で楽しいショッピング環境を提供できるよう、努力を続けていく」(PR推進部)とする。あまりに厳格なルール適用は店舗運営を萎縮させる恐れもあるだけに、柔軟な制度運用が求められそうだ。