進むネット販売のAI活用ーー有力各社のAIの使い方や成果の現状は?

 AI(人工知能)のECへの活用が進んでいる。仮想モール各社はAIを活用して出店者への集客や業務の効率化などを支援する取り組みを本格化しており、すでに一定の成果をあげているようだ。楽天、LINEヤフー、ZOZOのAI活用の現状を見ていく。

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店舗運営支援ツールの出店者の活用進む

 楽天グループでは、1月31日に開催された、仮想モール「楽天市場」出店者向けのイベント「楽天新春カンファレンス2025」において、AIを活用した店舗オペレーション支援の成果などを公表した。同社の三木谷浩史社長は「人工知能なんて、まだまだ『マトリックス』の世界かと思っていたが、その現実がいよいよ近づいてきた。皆さんも(AIを)最大限活用しなければいけない」と出店店舗に呼びかけた。

楽天市場の大型セールの売り上げ最大化に活用する店舗も

 楽天市場におけるAI活用事例としては、ユーザーの意図を理解した上で、より関連性の高い結果を表示させる「セマンティック検索」を導入。これにより「検索結果ゼロ」になることが98.5%なくなり、流通総額引き上げ効果は最大で5.3%にのぼる。また、レコメンドに関しては、楽天市場アプリサイトにある、パーソナライズ化されたおすすめウィジェットでの購入が59%増えている。さらに、AIを使って、よりパーソナライズ化された広告を表示するようにしたことで、楽天市場トップページに掲載された広告からの売り上げは4%の引き上げ効果が出ている。

 三木谷社長は「『ブラシ』で検索した場合、普段は革製品を買う男性なら靴用ブラシを、普段は美容商品を買う女性ならヘアブラシを表示する。『ワンピース』でも、冬に着るものと夏に着るものは違うので、検索結果を変える。将来的には、沖縄に住む人と北海道に住む人が検索した場合の結果も分けていきたい」(同)と今後の展望を語る。

 また、店舗をサポートするECコンサルタント(ECC)の間でもAI活用が進んでいる。同社の社内調査では「RakutenAIを毎週利用している」ECCが74.1%、「独自のカスタムAIを作成している」ECCは25.4%で、合計すると90%を超える。主に市場調査と競合分析、資料の作成と編集、プログラミング補助などに活用しており、10.7%の作業時間が削減できているという。

 同社では24年3月、AIを活用した店舗運営支援ツール「RMSAIアシスタントβ版」を、出店者向け店舗運営システム「RMS」において提供を開始。すでに3万以上の店舗が利用しているという。

 「雑貨ショップドットコム」では、商品画像加工支援AIを活用。これまで1商品10分かかっていたものが1分に短縮されたことで、新規に登録できる商品が大幅に増加。流通拡大につながっている。

 店舗カルテAIを活用している「ワインショップソムリエ」では、報告資料の作成時間が1時間から10分へと減少。浮いた50分を他の業務に充当することができた。

 「樽の味」では、商品画像に対するフィードバックにAIを活用している。「最初に目に留まった商品はどれか」「最終的にどの商品をクリックしたか」など、AIとの対話を重ねることで広告画像の品質が大幅に改善。広告パフォーマンス(ROAS)が1.5倍向上した。

 「SmartLight」では、「楽天スーパーセール」の過去実績をAIで分析。注力すべき商品を選び、販促などのマーケティング業務強化を起こったことで、2024年9月と12月のスーパーセール期間中実績を比較した場合、流通総額は77%増、販売件数は76%増となった。

 楽天モバイルでは1月29日、法人顧客向け生成AIサービス「RakutenAIforBusiness」の提供を開始。ユーザーの質問に対し、AIがチャット形式で返答。言葉の理解とタスク処理能力が特徴で、文書化や翻訳だけではなく、アイデア出しや分析、リサーチも可能だ。三木谷社長は「通常の『ChatGPT』は、個人情報や企業秘密が外部に出してしまう可能性があるが、当社のサービスなら問題ない。そして、より事業に特化したものになっており、営業活動、事務・マーケティングの効率化に使ってもらいたい」と述べた。

AIで特集ページを即作成 通常より10倍以上の成果も

 LINEヤフーは2024年4月に立ち上げた運営する仮想モール「ヤフーショッピング」でのAIの利活用を推進する11人からなる専門部隊「AIタックル室」が中心となり、ショッピング事業の利便性向上や効率化に有効なAIを活用した新たな機能・サービスを「ヤフーショッピング」内に実装し始めている。

 例えば2024年11月から「ヤフーショッピング」で掲載を始めた趣味や習い事、スポーツなど新しいことを開始する際に必要となることや商品など確認でき、探しやすくするためのコンテンツ「入門セットナビ」。趣味や習い事に関する100種類のガイドページを掲載し、各ページでそれぞれのテーマに関する楽しみ方や便利アイテムといった基本情報とともに関連商品の提案を行うページで、各ガイドページをすべて生成AIが作成。記事のベースとなる情報は生成AIが整え、最終チェックや校正を目視で行うことで、これまでのように人の手で行うページ作成よりも工数が約7割削減できるようになった。

AIで作成した「ヤフーショッピング」内のワインの特集ページ。人よりも短時間で作成でき、タイミングを逃さずにタイムリーに訴求できる

 生成AIによるページ作成ノウハウを活かして米不足の時に店頭にはないが、出店者は在庫しており、「ネット上には米があります」とアピールする特集ページを作成する際などに「これまでであれば同様の特集ページを人の手で作成する場合は時間がかかり、ニーズを検知しても時間がかかるからと何もやらなかったり、タイムリーに訴求できなかったが生成AIで2時間程度で特集ページを作ることができ、その結果、多くのユーザーに閲覧され、関連商品の購入にもつながった。瞬間風速を捉えられたことで通常の特集ページより10倍以上の成果が出たものもあった」(コマースカンパニーショッピング統括本部プロダクション2部本部本部長兼AIタックル室室長の市丸数明氏)という。

 生成AIの活用は通常の特集ページの作成にも用いられ始めており、広告出稿先としての出店者への導線作りとしても機能しているようだ。「売上拡大のために広告を出したいと思っているストアさんは多いがリソース不足で広告を掲載する特集ページが足りていなかった。生成AIを使うことによってエンジニアでなく広告企画のスタッフが特集ページを作れるようになった」(市丸室長)とし、例えば1月から「ヤフーショッピング」で掲載を始めたワインの楽しき方や選び方などをまとめた特集ページ「初心者に贈るワイン特集ガイド」はこれまでページ作りを行ってこなかった広告担当者がテーマを設定して生成AIが作成した。

 「初心者向けワイン特集」と生成AIに指示することでページ作り自体は3分程度ででき、調整や内容確認を含めて2時間程度で作成できたという。同等のものを人の手で作成すると情報集めや調査など含めて1週間程度はかかるよう。今後、広告企画を含めた特集ページの多くは生成AIで作成したものに切り替えていく方針のようだ。

 このほかのAI活用としては「ヤフーショッピング」でユーザーレビューの内容をもとに生成AIが類似商品をレコメンドする機能を2024年11月から実装。例えばある服の購入を検討している際、当該商品について洗濯後に「縮みやすい」「色落ちする」などという内容でその商品自体の平均評価より低い評価のレビューがついていた場合、「縮まない」「色落ちしない」といった「縮み」「色落ち」という観点でよりポジティブな評価なレビューがついている類似商品を「気になる点が解消されている似た商品」として生成AIが商品詳細ページ上で提案するもの。従来、利用者は様々な観点で投稿されるレビューの中から気になる情報を探す必要があったが、同機能の実装で気になった商品に当該商品の平均より低いレビューがついていた場合、同じ観点でより高評価な類似商品を比較・検討できるようになるものだ。

 1月からは「ヤフーショッピング」とネット競売「ヤフーオークション」の出店者の問い合わせに、生成AIを活用したチャットボット「ストアクリエイターProAIチャット」が対応する取り組みも開始した。これまで商品の登録方法やエラー発生時の解決方法など出店者からの問い合わせに対して専用窓口であるヘルプデスクのオペレーターがチャットや電話などで対応してきたが、問い合わせ内容の約3割が
「ツールマニュアル」や「よくある質問」をまとめたページを参照することで解決できるものだが、日々増える多くの情報から出店者が必要な情報にたどり着くまでに時間がかかったり、見つけられなかったことが課題になっていたため、出店者向けの管理システム「ストアクリエイターPro」の新たな機能として、AIが「ツールマニュアル」などの情報をもとにチャットで回答する同機能を実装した。出店者は質問内容によっては同社に問い合わせずに素早く解決でき、運営面で利便性向上につながるほか、同社側でも出店者からの問い合わせ件数は約30%削減を見込んでおり、業務の効率化につながるとみている。なお、実装後、出店者からのフィードバックによると8割程度は概ね正しい回答ができているよう。今後、さらに精度を高めたり、回答可能な質問の範囲も広げていく考えという。

 また、出店者の管理画面上で販売商品の背景を生成AIを用いて簡単に変えることができる機能なども2024年末にテスト的に導入している。

 ちなみに「ヤフーショッピング」などコマース関連サービス以外でもAIを活用したサービス改善など進めており、例えば1月21日から、同社運営のポータルサイト上や提携するウェブサイトに表示するウェブ広告「Yahoo!広告ディスプレイ広告」で広告主向けに広告を作成するための画像生成AIの提供を開始している。これまで広告に使用する画像は1つの画像をそれぞれの広告に合わせて複数サイズ作成して入稿する必要があったため、広告主は画像を様々な比率で作成せねばならず手間や負担がかかっていたが提供を始めた画像生成AIの機能を導入した広告管理ツールで1つの画像を選択、拡張を実行すると生成AIが入稿画像をもとに比率を自動で複数サイズに拡張、提案するもの。なお、同期は使用回数制限があり、1アカウントにつき、1カ月で最大30回までとしている。

 今後も「ヤフーショッピング」ではAIを活用した新サービスの導入していく方針で「ユーザー、出店者が『ヤフーショッピング』が使いやすくなったと実感頂けるような生成AIを活用した新たな仕組みを25年度中には開始したい」(市丸室長)としている。

業務効率化や売上拡大に貢献 パーソナライズも進化

 ZOZO(ゾゾ)はAI・自動化技術を活用し、業務効率化に伴うコスト低減で成果が出始めているほか、パーソナライズ化や計測技術のサービス化で「ゾゾタウン」の売り上げ拡大につなげる。

 業務効率化に向けては、専任のチームが全部署の業務内容などをヒアリングし、AIで業務効率を改善できそうな数十のテーマを設定して課題解決のためのツールなどを開発している。例えば、「ゾゾタウン」に投稿されるアイテムレビューの内容に、ガイドライン違反がないかを生成AIを活用してパトロールするツールを開発。従来の目視でのチェック業務時間、チェック件数をそれぞれ7割弱削減したという。

 また、「ゾゾタウン」の出店ブランドの仕様で「その他カテゴリー」に分類されているアイテムを適正なカテゴリーに振り分ける業務でも、商品名と説明文をAIに読ませることで最適なカテゴリーに自動で振り分けるツールを開発。同業務にかかる時間を月間17.6時間削減した。ゾゾによると商品をカテゴリーで検索をするユーザーも多く、振り分け業務が売り上げに大きく影響するという。

 さらに、「ゾゾタウン」の掲載アイテム画像の中で、モデルが着用していてモデル身長と着用サイズが未入力の画像を検出する機能を開発した。担当者がモデル画像か否かを目視で確認した上で、未入力の画像についてはブランドに入力依頼をしていた業務の工数を年間約1500時間削減をできる見込みだ。

 加えて、カスタマーサポートセンターに届いた問い合わせ一覧のCSVデータをもとに、生成系AIが分類と集計を行い、問い合わせ内容の傾向分析を行うBIツールを開発。クイックな現状分析が実現し、業務改善に充てられる工数が増えた。

 売り上げ獲得に向けたパーソナライズ化については、「ゾゾタウン」のホーム画面で、来訪者が同じ30代女性であっても閲覧履歴や購入履歴などに即して表示するコンテンツの内容と順序を変更。例えばAさんには手頃な子供服を訴求する一方、Bさんにはトレンドアイテムを提案するなどしている。

 また、「ゾゾタウン」ではウェザーニュースの高精度な気象データと連携し、ユーザーの現在地の天気・気温に応じたアイテムをレコメンドする取り組みも始めた。ファッションアイテムは天候によって需要が異なる特性を活かし、コントロールしにくい天候不順にも対応していく。

 ホーム画面を見て「私に合ったサイトではない」と思われてしまうと定着率に影響するため、この数年、ゾゾではユーザー一人ひとりのパーソナライズ化に力を注ぎ、リテンション率が改善しているという。

 ファッションコーディネートアプリ「ウェア」では、2024年5月のリニューアルに合わせて「好みのジャンル傾向」が分かる診断コンテンツを開始。ジャンル診断の結果に応じたコーディネート画像などのコンテンツを表示する。さらに、クリックされた画像を学習してよりユーザー好みのコンテンツにチューニングする。

「ウェア」では好きなコーデ画像を選ぶとAIが好みのジャンルを診断してくれる

 ゾゾは計測技術のサービス化も進めており、最近では足の計測用マット「ゾゾマット」のキッズ向けを開発し、キッズシューズのレコメンドを始めた。従来の大人用の「ゾゾマット」とは異なり、子どもの足の成長曲線を加味して「このサイズのシューズは、今は少し大きいけど1年間履けます」といった提案をできるようにした。

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