国内の労働市場で慢性的な人手不足が見られる中、企業の将来を担う優秀な人材の獲得合戦が年々過熱している。最近では大手企業を中心に、新卒の初任給を大幅に引き上げる動きも活発となった。入社後の早期離職を防ぐための取り組みも本格化しており、EC業界としても人手を確保するために多くの投資や工夫が必要となっている。ネット販売を実施する各社が取り組む人材育成・福利厚生施策や、2025年4月入社の新卒採用の状況などについて、本誌姉妹紙の「通販新聞」が2~3月に実施したアンケート結果などをもとにその内容をまとめた。
独自の育成制度や福利厚生で成長環境と働きやすさを確保
座学と現場体験を交えた研修
まず、この4月に入社を迎える新卒社員に対して、どのような研修制度や育成施策を行っているかを聞いた。
主な回答ではゴルフダイジェスト・オンラインが「2カ月間(ビジネスマナー、事業理解、Excel研修、プレゼンなど)」、ジュピターショップチャンネルは「4月より約2カ月間(ビジネスマナー、会社理解のためのプログラムなどの)入社時研修、同年度内にフォローアップ研修(タイムマネジメント、レジリエンスなど)を実施。2年目は、フォローアップ研修(キャリアデザインなど)を実施」、タンスのゲンは「1年間。4月はほぼ毎日の社会人マナーなどの研修。5月以降はマーケティングの基礎知識や4月の研修の復習」、スクロールは「新入社員研修(入社後2週間)、OJT制度、メンター制度、オンライン研修」、QVCジャパンは「全体で行うビジネスマナー研修など一般的なトレーニングのほか、配属部門ごとに分かれて行う研修がある」、ベルーナは「導入研修(入社後1週間)、その後は異なる実務研修(半年程度目安※例年異なる)」、アスクルは「入社から配属までの約1カ月間、基本的なビジネスマナー研修や自社の事業内容、組織構造や業務内容を座学で学び、お客様や物流の現場を学ぶ実地研修を実施。技術職においては専門的な研修を実施」とした。
また、ZOZOは「ビジネス部門では、年度によって異なるが、2024年度は約1カ月の入社後研修期間を実施。研修の主な内容は、会社理解を深める研修。社会人としての基本マナー、スタンス研修。社内で使用するビジネスツールについての研修。プレゼンテーション研修など。また、2024年度も、前年同様に事業の根幹となる部門(EC事業、カスタマーサポート、物流管理)にて、ECビジネスの基礎や仕組みを各部門の社員から直接学ぶという目的のもと、約1年をかけて短期ジョブローテーションを行っている。開発部門については、年度によって異なるが、2024年度は約1カ月の入社後研修期間を実施した。これまでに実施した研修の主な内容の例は、会社理解を深める研修。専門知識を深める研修(主にエンジニア)。社会人としての基本マナー、スタンス研修。
外部講師を招聘しての講演。プレゼンテーション研修。開発実習」、DINOSCORPORATIONは「入社後1~2カ月間はビジネスマナー研修、仕事の進め方、企業理解のための座学、コンプライアンス研修、MicrosoftOffice研修ほか」、ライズクリエイションは「研修期間が6カ月(延長・短縮有)。研修制度が基本はOJT、月に1度座学での研修有。人事のビジネスマナーなどの研修開催」、イルミルドは「最初の約2週間は、各チームから順に業務説明を聞く時間を設けたり、製造工場の見学へ行くなど、社内体制や、商品の製造~販売~CSまでの一連の流れなどを理解してもらう。その後は所属チームにて、先輩社員が1名つきながら、マニュアルに沿って業務を遂行してもらう」、
パレンテは「当社事業の詳細説明。グループワークを通して商品や事業の知識をインプットし、課題発表としてアウトプットしてもらう」としている。座学と現場体験の組み合わせとなる場合がほとんどで、数カ月間をかけて行うケースが多かった。
既卒者員には階層別で面談機会を
次に、新卒社員だけでなく既存社員も含めて、優秀な人材に育て上げるための特徴的な研修や独自の社内制度などについて紹介していく。
主な回答ではDINOSCORPORATIONが「職種別・階層別研修、異業種交流研修、資格取得支援制度、キャリアコンサルティング制度ほか」、ライズクリエイションは「月に1度座学での研修は新卒・中途採用も含め新人は参加。3カ月に1度の評価面談(役員と)、月に1度の月次MTG(部署の上長と)で頻繁にすり合わせを行っており、成長できる環境を整えている」、イルミルドは「積極的に裁量を渡すことを重視している。(入社初月から担当ブランドを持たせるなど)」、ゴルフダイジェスト・オンラインは「目標管理制度は個人のやりたいこと(Will)と自身の強み(Can)を前提に、マネージャーとの対話を通じてどのような価値(Value)を提供するか目標設定し、その実現度合いで評価する。社内インターンシップ制度は、他部門・他職種を体験することで視座の向上、視野・専門性・ネットワークを拡大し、個人の成長と組織活性化を図る制度。終了後は元部署でのパフォーマンスアップや、視座の向上および今後のキャリア形成に活かす」、ジュピターショップチャンネルは「職能等級変更時に階層別研修、一定の対象者で実施するテーマ別研修、次世代リーダー養成のための選抜型研修を実施。(選抜型研修は、社内研修の他に異業種交流研修も実施)。また、職種特有なスキルが必要となる場合は、会社が全額費用補助し、対象社員が受講。それ以外にも自己啓発や資格取得時の費用補助も実施」、タンスのゲンは「階層別研修を会議体として実施することで、自分たちが結論を出していき、それをアウトプットしてく研修制度」とした。
そして、パレンテは「階層別研修は、各階層に求められる役割を認識させる研修、各階層に求められるスキルを養う研修。そのほか、資格取得支援制度」、スクロールは「D2C検定(旧通販検定)の取得、職種別研修、階層別研修」、QVCジャパンは「メンター制度、マネージャー育成プログラム、1on1、社内公募制度などを取り入れている」、ベルーナは「若手研修(1年目・2年目・3年目)、ブラザー社員研修、節目研修(5年目、10年目)、社長塾」、アスクルは「学びの支援制度、データサイエンス教室」、ZOZOは「1on1ミーティングは、上長と部下が定期的に1対1でミーティングを実施し、上長が部下の直面している課題の解決や目標達成への支援を行っている。マネジメント・ワークショップは、新任管理職を対象に、対話をもって経験学習サイクルを回して、マネジメントの基本原則を学ぶ機会を提供。(月1回程度、毎回1.5時間程度、半年間で開催)。LYアカデミアはLYグループの企業内大学。グループのトップリーダーが集まるクラスや、グループ会社の社員であれば誰でも参加できるプログラムなどが実施されている」、ゾフは「定期的な社内公募や社内インターンによる人材開発を実施している」とした。就業年数の節目や役職などの階層に応じた内容で実施しているところが多く、役員陣などとの1対1のミーティング機会を設けているところが目立った。
社員の悩みに寄り添い、離職を防止
また、新卒採用者の早期離職を防ぐ仕組みや、そうした場合の対策などについても質問した。主な回答として、ファンケルは「先輩社員とのつながり醸成(入社式で先輩社員が新卒社員にメイクを施す。5月に入社1~5年目社員の交流会を実施)。メンター制度(配属後1年間、担当の先輩社員が毎月面談を実施)。採用担当とのキャリア面談実施(内定後~配属まで3回個別面談を実施、初期配属の納得性を高める)」、スクロールは「OJT制度、メンター制度」、DINOSCORPORATIONは「ジョブローテーション制度による適応性向上と事業理解促進、および入社後3年以内の商品企画部署配属によるチャレンジの推進。定期的な個別面談によるフォロー」、ゴルフダイジェスト・オンラインは「チューター制度、社内コミュニケーション施策、定期的な上司との1on1、キャリア自律支援」、ベルーナは「一部メンバーへの初期配属確約での採用(語学力のある人材等)」、パレンテは「給与ベースアップ。入社3年目まで実施する定期面談」、QVCジャパンは「部門別採用は継続して続けていく予定。入社当初から自分の関心のある分野が明確な人にとって、入社当初からその分野の研修を受けることができるため定着率アップにつながっていると思う」、タンスのゲンは「評価面談を毎月実施することで、制度として面談する機会を増やし、いち早くSOSなどに気付ける制度作り」、日本生活協同組合連合会は「初期配属は可能な限り希望職種に配属。フォローアップ研修の実施。1on1などでのフォロー強化」。また、ライズクリエイションは「面接時に会社の理解を深めてもらえるような選考。(会社説明会+希望部署での面談でフローは伸びるが理解は深くなる仕組み)。希望部署での採用。入社後の人事との面談」、イルミルドは「直属上長による月次の1on1で問題の早期発見&解決」、ジュピターショップチャンネルは「新人研修の期間をしっかりと設けることや、各部署に配属された後もOJTトレーナー制度にて成長を支援。また個別にフォローアップ面談を行うことで、コミュニケーションをしっかりと取っている」、ZOZOは「新卒採用者の早期離職は少ない状況。本人の希望や適性などを考慮した配属部署の検討や、内定時から社内環境に素早く馴染めるよう配慮したオンボーディングなどにより、入社後のギャップが少なく抑えられ、その結果早期離職を抑えられているのではないかと考えている」といった回答が得られた。
定期的な面談を通じて、上司が部下の置かれている状況や悩みを把握するための仕組みが中心となっており、中には希望の職種・部署で受け入れることで、ミスマッチを防ぐことも取り入れられている。
在宅や時短、各種休暇制度も充実
そして、既存社員も含めて各企業では働き方環境の整備も進んでいる。定番の内容から、自社のサービスを組み合わせた独自の社内制度などを紹介していく。
主な回答では、ベルーナが「『育児短時間勤務制度』は、小学校6年生までの時短勤務制度。退社時間を15時、16時、17時までと選択することが出来る。『ガンバレーション(表彰・インセンティブ制度)』は、社員のモチベーション向上を図り、頑張った社員を審査し、表彰していく部門活性化のための取り組み。表彰された社員には、報奨金の授与などが行われる。『社内販売・割引』は、自社商品を特別価格で購入(平常時20%割引き)。自社が展開する宿泊施設をお得に利用できる(10~30%割引き)」、パレンテは「小学生在学中短勤務、育児介護中抜け制度、リモートワーク者対象のネット回線手当、ジャンプアップ制度(本人の努力により急激にスキルが成長し、労働市場とのギャップが大きくなった場合に通常の昇給にプラスして行われる昇給制度)」、ジュピターショップチャンネルは「在宅勤務制度、時差出勤制度、副業制度、ハッピーホリデー(記念日特別休暇)、社員割引購入制度、社内イベントなどの事務局公募(表彰制度事務局、地域イベントへの出展時の企画・運営事務局、周年事業のイベントなど)」、QVCジャパンは「フルフレックス制度、在宅勤務制度、社員割、社内公募制度、ボランティア休暇など社員が利用できる様々な福利厚生が整っている」、ZOZOは「フレックスタイム制度は、『自分で考え自分で決める』という主体性を大切にし、楽しく働くことの実現を目的として実施。一般的なフレックスタイム制度とは異なり、コアタイムやその有無を部署ごとで決められるのが、ZOZOの特徴。『FRIENDSHIPDAY』は、ZOZOにはEFM(EmployeeFriendshipManagement)という考えがあり、『従業員同士が親友のような関係になる』ことを目標にしている。その中で『絆を深めるきっかけ作り』というテーマのもと、社員同士が部署を越えて交流する機会として生まれた。過去にはプレゼント交換、ボウリング大会、ブログリレーなど様々な取り組みを行った。部活動支援制度は、スポーツや趣味が共通するスタッフたちのコミュニティを公式に支援するために、それぞれのコミュニティを部活動として部活動費用を会社支給。3人一組から新設でき、現在はサッカー、野球、陶芸、映画など、様々な部がある。従業員割引制度は、『ZOZOTOWN』での買い物の際の従業員割引制度。割引率は非公開だが、制度を使ってサービスを積極的に利用し、その気づきをサービスに活かしている。『家族時短』は、自事とプライベートをバランスよく充実させるため、育児や介護はもちろん、ペットや同居人などスタッフが『家族』と認識する人や動物のサポートが必要な場合は、1日最大2時間の時短利用が可能。時短は30分単位から利用できる。※弊社では仕事(仕える事)ではなく自事(自然な事)として表現・表記している」とした。
また、DINOSCORPORATIONは「フレックス、時差勤務、時短勤務、週休3日制、副業、テレワーク、サテライトオフィス、モバイルワーク、ワーケーション、ブレジャー」、ゴルフダイジェスト・オンラインは「フレックス勤務制(コアタイムなし)、時短勤務、GDOゴルフショップ割引、表彰制度。有給休暇・特別休暇(慶弔休暇・看護育児休暇・ゴルフ休暇など)」、イルミルドは「他社で定年退職したシニア人材の雇用」、ライズクリエイションは「社販を従業員価格で販売。引越し手当付与。賞与の仕組みを改正など」といった回答が見られた。
テレワークや休暇の種類などで柔軟性のある勤務体系を取り入れているところが多く、また、自社のサービス・商材ならではのイベントや社内割引制度なども散見。職場での働きやすさにつなげるための独自の工夫が見て取れた。