偽造品の「相乗り出品」対応めぐり、アマゾンが敗訴――3500万円の損害賠償命じる

 「偽造品対策」でプラットフォーマーの管理責任を問う判決が下された。アマゾンに自社製品を一方的に削除されたとして、医療機器の製造・販売を行う2社がアマゾンジャパンに損害賠償を求めた訴訟は、今年4月、東京地裁がアマゾンに3500万円の損害賠償を命じた。アマゾンは判決を不服として控訴している。

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「アマゾンに偽造品排除の義務」

 原告は、医療機器の輸入、製造販売を行うトライアンドイー、同社製品の独占販売を行うエクセルプランの2社。エクセルプランは、アマゾンの通販サイト等を通じて販売していた。

 判決は、アマゾンには、同一商品の〝相乗り出品〟について、偽造品の排除など適正な販売機会を維持する責任があると判断した。アマゾンからは、本誌掲載までにコメントは得られなかった。トライ社の藤井敬博社長は、「裁判官の良識ある判断で、アマゾンの義務が認められた。不正な出品により不公正な競争を強いられた。裁判は、プラットフォーマーと出品者が公正なリスクを持つ契約条項、消費者が安全に商品購入できるプラットフォームを提供させる目的がある」と判決を評価した。

エクセル社のパルスオキシメーターと相乗り出品

相乗り出品で売り上げが急減

 トライ社とエクセル社は22年9月、約2億8000万円の損害賠償を求めて提訴していた。販売するパルスオキシメーターは、血中の酸素飽和度を測る医療機器。コロナ禍で需要が高まり、知られるようになった。

 パルスオキシメーターは、薬機法上、「特定保守管理医療機器」にあたり、取り扱いに専門知識、適正な管理が必要になる。製造販売は、品目別に認証を受け、都道府県知事等から販売業許可を取得する必要がある。

 2社によると、コロナ禍に需要が高まった時期と前後してアマゾンのサイトで販売許可を持たない違法な出品が増加し、同じ商品ページに10分の1の価格で〝相乗り出品〟されたことで、エクセル社は、月1億円超あった売り上げが、2カ月ほどで約60万円まで激減したという(21年)。パルスオキシメーターは、販売に許可が必要な商品であり、商品ページに掲載されていた商品が、認証を得たものかどうかは分からない。「同一でない商品は偽造品」ということになる。レビューも悪化した。

 2社の代表である藤井敬博氏は、21年9月から10月にかけて、アマゾンのテクニカルサポート窓口等に複数回に渡る申告を行い、相乗り出品に対する対応を求めた。だが、アマゾンは特段の対応を行わずに違法な相乗り出品を放置したという。加えて、正規の出品者であるエクセル社の製品を含め出品停止等の措置も行われたという。エクセル社が商品ページで消費者向けの警告文を掲載し、相乗り出品の注意喚起を行ったところ、規約違反として商品ページも削除された。

エクセル社はアマゾンの商品ページで、消費者向けに注意喚起したが、 出品停止された

「相乗り出品」アマゾンの特徴

 商品を軸に複数の出品者が集約される「相乗り出品」は、アマゾンの通販サイトの特徴の一つでもある。出品された商品が同一であることを基準に、複数の出品者による出品が、商品ページに紐づけられる方式だ。これにより、出品者は、出品の手間を軽減でき、出品者間の価格競争を促すことで、消費者もメリットを享受できることになる。

 一方、紐づけられる商品は、すべて同一であることが前提になる。異なる商品が掲載されたり、偽造品が掲載された場合、正規の出品はこれら商品と価格競争を強いられ、偽造品購入による被害など弊害が生じるためだ。このため、2社は、こうしたサイト構成を採用するプラットフォーマーは、事前に違法な相乗り出品に対処する必要性が高いと指摘した。

「適正システムの構築怠っていた」

 2社は裁判で、アマゾンには、適正なシステムを構築する義務があり、そのために1相乗り出品の際、相乗り出品者の販売資格の有無や偽造品かどうかを確認し、違法な相乗り出品を排除する義務、2申告等により違法な相乗り出品を知り得た際は、相乗り出品者の販売資格の有無や偽造品かどうかを確認し、違法な相乗り出品を排除する義務、3原告が出品した商品を合理的理由なく出品停止・削除しない義務、4事実誤認に基づくレビューを適時・適切に削除する義務─があるとした。

 アマゾンは、適正なシステム構築の義務を負わず、原告が主張する4つの義務も追わないと反論。出品者の損害に対する損害賠償責任を負わないなどとする契約条項から免責されるとして。商品の排除義務も適切に対処したとしていたとしていた。

 だが、判決では、アマゾンが適切な対応を怠っていたとして、免責条項は無効と判断され、損害賠償が命じられた。トライ社の藤井社長は、「ビジネスとして1円でも対価を得る以上、そこには支払う側に対して義務が生じると思う。アマゾンは昨年、偽造品対策のために世界で約12億ドルを拠出したと成果をアピールしているが、多くの収益を挙げながら、相乗り出品の同一性を確認できない理由に、行うリソースがない、ビジネスモデルが崩壊すると主張した。同一性が確認できないのであれば、相乗り出品を前提とするビジネスモデルが崩壊しているといえる」と受け止めを語った。

運営者のシステム構築義務は過去に裁判例

 プラットフォーマーの管理責任を問う訴訟は、すでに複数行われている。08年、名古屋地裁で判決が下された「ヤフーオークション詐欺訴訟事件」がある。ネットオークションの利用者であるが原告が、「ヤフーオークション」を利用して商品を落札。代金を支払ったにもかかわらず、商品の提供を受けられなかったという詐欺被害が発生したものだ。被害者が運営者であるヤフーに対し、詐欺被害を生じさせないネットオークションシステムを構築すべき注意義務を怠ったとして、損害賠償を求めた。

 請求は棄却されたものの、裁判所は、オークションサイトの運営者は、サービスを利用して商品を購入する利用者に対し、欠陥のないシステムを構築して、サービスを提供すべき義務を負っているという一般論を判示した。出品者に対する義務を判示したものではないが、プラットフォーマーに適正なシステム構築の義務があることに踏み込んでいる。

アマゾンに相次ぐ指摘、管理責任問われる

 アマゾンをめぐっては、プラットフォームの運営者としての管理責任等が問われる行政事案も複数ある。17年には、出品者に価格等の同等性、品揃えの同等性を定めた条件が独占禁止法違反(拘束条件付取引)の疑いがあるとして、公正取引委員会の調査を受け、その条件を削除した。19年には、ポイントサービスの利用規約の変更への対応をめぐり、ポイントの原資を出品者に負担させる内容であったことから、独禁法(優越的地位の乱用)の懸念が生じ、公取委の調査を受け、最終的に規約を変更している。20年には、商品の納入業者との取引に関する独禁法違反(優越的地位の乱用)の疑いが生じ、公取委に確約計画を申請するなど、問題事案が相次いでいる。

 最近も24年に出品者に対し、商品を目立つ位置に表示するために価格を引き下げさせたり、自社の物流サービスの使用を強いるなど、独禁法違反(優越的地位の乱用、拘束条件付取引)の疑いで、公取委が立ち入り検査を実施。現在も調査を継続している。プラットフォーマーとして圧倒的な地域を築く中、プラットフォームの適正な運営に向け、運営者の管理責任は今後も重くなりそうだ。

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