「9090(ナインティナインティ)」や「HTH(エイチティーエイチ)」などのファッションブランドを手がけるyutori(ユトリ)は、2018年4月の創業から5年8カ月というアパレル企業最短の上場で注目を集めた勢いのある会社だ。ECチャネルが売り上げの過半を占めるが、足もとでは実店舗の出店にも積極的だ。24年8月には元AKB48の小嶋陽菜さんがCCOを務めるheartrelationを子会社化したほか、25年3月には「TGC」に初参加するなど話題に事欠かない。若者に支持されているyutoriの片石貴展社長が語る事業戦略とは。
若い子だけが知っている熱量あるコミュニティーを見つける
コンペでブランド立ち上げ
─ゾゾのグループ会社だった時期もありましたが、今のゾゾとの関係性は。
以前はゾゾが当社株式の51%を持っていて親会社だったのですが、当社の上場後は20%程度になっていて、大株主という位置づけです。取締役会にはゾゾCOOの廣瀬さんが参加してくれています。社長の澤田さんも含めゾゾの役員は良い意味で近所のおじちゃんみたいな感じ。ゾゾ傘下のときから自主的な意思決定を尊重してくれました。すごくフラットな関係で接してもらい、やりやすい環境を作ってもらえてゾゾには感謝ですね。
─マルチブランド経営を志向しています。
僕が起業した24歳のときから、明らかにSNSからファッションブランドが出来上がっているという感覚がありました。消費者の好みが分散し、それぞれの好みに情報が最適化されていくので、1ブランドで100億円の売り上げを作るのは難しいと感じました。そこで、1社で100ブランドを展開するにはどうしたら良いかを逆算し、会社の理念などを作りました。その読み通りに、世の中が進んでいるという感覚が強いですね。
─売上高は24年3月期の43億円強に対し、25年3月期はheartrelationの子会社化などもあって上方修正し、約83億円で着地しました。このスピード感も想定済みですか。
さすがに想像してなかったですね。起業したときは年商1億円、2億円で大金持ちというイメージでした。ただ、その成長スピードに怖さは感じていなくて、ラッキーだし、良い立ち位置で大きな挑戦ができて感謝だなと思っています。
─ブランドの立ち上げ方は。
いろいろなパターンがあって、スタッフみんなでコンペをして投票形式で決めるのが、ブランドの立ち上げ方としては分かりやすいです。プデュ企画と言って、韓国のオーディション番組を参考にしていて、僕もみんなと同じ1票しかなく、最後までどのブランドが優勝するか分かりません。スタイリストの熊谷さんと組んだブランド「GDC(ジーディーシー)」など、つながりのある外部の人と一緒に立ち上げるケースも最近はいくつか出てきています。
─70ブランドの展開を掲げています。
ある程度、順調に増やしていて、25年3月末時点で38ブランドを展開しています。25年中に何ブランドとかは意識していなくて、数の目標が重荷になると部分最適になって歪な形になってしまうので大局観で判断しています。
─立ち上げたブランドは担当者に任せる形ですか。
そうですね。ブランドのプロデューサー、クリエイティブディレクターに権限を委譲しています。ブランド立ち上げ後の工程は型みたいなものがあって、プロデューサーが状況を見ながら柔軟にアレンジしています。トップダウンではなく、権限委譲して取り組まないと各ブランドの機動的な意思決定ができなくなってしまいます。
─片石さんも1票しかないと、「これはどうかな」というブランドが選ばれることもあるのでは。
みんなが「このブランドは当たる」と思う感覚と、僕の感覚はそんなにズレていません。とくにプロデューサー陣とか幹部と意思決定が大きくズレることはあまりないです。
─ブランドを開発するときに心がけていることは。
大人が見つけていない、若い子だけが知っている熱量のあるコミュニティーを見つけることと、そのコミュニティーのオピニオンリーダーやコミュニティーのヒエラルキーの中で上に立っている子、あるいは立てる子が作ること。あとは、そのコミュニティーに企業としてちゃんと投資をしながらコミュニティーを増幅させることが大事だと思います。
─最近熱いコミュニティーは。
それこそ「GDC」は3月8日に立ち上げたばかりで初速は良いです。30~40代向けに新しく立ち上がっているブランドはそんなに多くないと思います。その年代の人がいまイケてると思うものが意外に少なくて、「GDC」はある程度、大きい投資をして店作りから始めましたが、ちょいオジ向けの熱量が意外に高く、しっかり反響がありました。
採用にMBTI診断も
─採用の時点でその辺りは意識しているのですか。
いえ、手もとにあるカードをどううまく切っていくかという発想なので、戦略ありきでカードを集めるということはしないです。当社の理念や価値観にフィットするメンバーが集まって、「さあ、何をしようか」となる方が、ブランドを広げるという意味では大きいと思います。
─採用面では、MBTI診断である特定のタイプの人材を採用しています。
MBTIは自分に対する認識が明確化されるものです。もちろん、それだけで人のすべてを理解できるとは思っていませんが、若い子にとって親しみやすいですよね。あとはセンセーショナルなので、採用方法として拡散されやすいと思いました。ブランドを広げていく人材はたくさんいますが、うまく管理していくことも大事です。当社に少ない管理が得意なタイプを募集するときに、「管理者」とするよりも、「TJ属性」とした方が広がります。
─片石さんの社長としての役割で一番大事なことは何ですか。
予言をすることですね。未来がどうなりそうかを予測することと、1年に1回くらいは良いシュートを決めること。10倍成長につながるような何かを作ることを創業期からすごく意識しています。例えば、24年であればheartrelationの買収、23年であれば株式上場、その前であればA.Z.Rの買収や、ゾゾとのディールですし、会社を10倍大きくする意思決定は短期的にはリスクを伴うので、捉えている時間軸が一番長く、かつリスクをとれるのが社長とか副社長になります。
いまのメンバーは優秀なので、僕がいなくても2倍、3倍くらいには成長させられますが、より長い時間軸の中で大きなインパクトのある意思決定をしていくことが大事だと思います。
─ブランドをM&Aするときの選定基準などは。
今のフェーズでは、同じ価値観や志があるか、分かり合えることが大きいかを重視しています。まったく異なるものを改造して新しい形に仕立てるというよりは、追い風を吹かせてより成長を加速させてあげるという支援の仕方で成功してきました。
─ブランドを次の成長フェーズに引き上げるとか、撤退するといった判断はYリーグ制度で判断しています。
そうですね。「Yリーグ」という独自の仕組みの中で意思決定が割と自動的に行われるようにしています。撤退の基準が一番重くて、ブランド立ち上げから一定の期間で一定規模に成長しなかったブランドは撤退するという掟があります。その基準はあやふやにしてはダメで、誰かが悪者にならなければいけない瞬間がきてしまうと自分たちのスタンスと矛盾するので、そこは気を付けています。
TGCで自社ステージ
─3月1日に開催された「第40回マイナビ東京ガールズコレクション2025SPRING/SUMMER」に参加しました。
ティーン向けのファッションイベントとして新しい文脈を作ってきたWTOKYOの村上社長から熱意のある声がけを頂きました。僕は物事を決めるのに、そういうこともすごく大事にしています。利害関係がある中で最終的な判断にはバイブスが大事だったりします。TGCではyutoriステージを作ってくれて、とくに「9090girl(ナインティナインティガール)」はクリエイティブも良く、TGCの来場者層ともハマってすごく反響があったし、やって良かったです。
─TGCでの一番の成果は。
自分たちがこれまで投資をしてこなかったところでも、新しい大きな広がりを作ることができました。社内的には、ランウェイはデザイナーやディレクターなら誰しもが夢見る舞台なので、ああいう社会性のあるイベントでチャンスをもらえて、競争に勝ち抜いたブランドだけが出られるとなれば、みんなのモチベーションにもつながるので、組織のモメンタムという意味でもやって良かったです。
─オフラインの活用は増えそうですか。
たぶんそうなります。各ブランドのプロデューサーが判断してフェスを主催したり、フェスに出たりとかもあると思います。オフライン回帰の流れがピークなので、当社はこの2年間に実店舗を40店舗出店しているのもそうですし、オフラインはすごく大事だと思っています。
─SNSの役割は。
SNSは簡易的な情報なので、ブランドのどの部分に光を当てれば魅力的に見えるかを考えながら発信しています。ユーザーがブランドの魅力を「理解できちゃった」と思った瞬間にその魅力は失われるものだと思うので、ブランドの奥行きとか思想など瞬間的に伝わりづらいものをオフラインで作ることが大事だと思います。
─SNS運用でも注目されています。
SNSを運用してバズるコンテンツを作ることができたら次は商品を作り、その次にブランドを作るという段階があるので、若い子はとくに本社のSNS運用からスタートしてステップアップできるかどうかという感じです。各ブランドが運営しているインスタグラムのフォロワー数は25年3月末で約278万でした。heartrelationなどのM&Aもあって、この1年間で100万以上増えました。勝手に拡散されるような見た目がキャッチーな商品を作ったり、そのアイテムをどのようにコーディネートし、投稿した子が魅力的に映って「いいね」が付くかというところまでをセットにしてインスタのコンテンツは作っています。
自分たちが持っている文脈に投資する方が勝つ確率が高い
─10倍成長に向けた次のターゲットは。
コスメは24年立ち上げて軌道に乗ったので、コスメや他業態もそうですし、あとは、3月に台北市に新規開業した複合施設に「9090」の常設店舗をオープンしてかなりうまくいっているので、アジア戦略がカギになりそうです。自社のブランドをアジアで販売するのもそうですし、2月からは韓国で人気のブランド「マリテフランソワジルボー」の日本公式オンラインストアの運用を始めたり、韓国ブランド「グローブ」の日本での販売特約店契約を取得したりと、海外ブランドを持ち込むケースもあります。
─ストリート系以外でブランド開発するジャンルの候補は。
全部ですね。ゆとり世代くらいまでのターゲットに対して、文化としてやらないというジャンルはなくて、勝てるかどうかが大事です。自分たちが持っている文脈に投資をする方が勝つ確率が高いだけで、最終的には全部のカテゴリーを獲りたいです。
─急成長している中で課題感は。
引き続き30%成長を維持していくと5年後に300億円くらいの売り上げになるので、そこに向けてくさびを打っていくことが大事です。市場環境も変化するので、経営陣がしっかり観察しながら臨機応変に動けるようにしておくという緊張感は常にありますね。
片石貴展(かたいし・たかのり)氏
1993年生まれ。2018年にInstagramのアカウント「古着女子」を立ち上げ、初期投資0円の“インスタ起業”としてyutoriを創業。「9090」や「HTH」「PAMM」など複数のファッションブランドを運営。2020年7月、ZOZOグループへハーフジョインし、2023年12月アパレル業界最年少で東証グロース市場へ上場。Forbes30UNDER30JAPAN2020受賞。
◇ 取材後メモ
アパレル業界最年少で東証グロース市場への上場を果たしたyutoriの片石社長。上場前は親会社だったゾゾとの関係は良好のようで、年の離れたゾゾの役員については「良い意味で近所のおじちゃんみたいな感じ」と言います。yutoriでは、コンペ形式のブランド立ち上げ手法や、自社ブランドを成長段階に合わせて管理する「Yリーグ」制度、MBTI診断でタイプを絞った採用など独自の取り組みも多く、話題に事欠きません。足もとではM&Aにも積極的です。まだEC売り上げが過半を占めていますが、実店舗やイベント開催などオフライン展開も加速していく同社の次の成長フェーズにも注目が集まりそうです。