消費者庁、表示の「外部委託」に管理指針を策定ーーアフィリエイト広告規制の行方

  消費者庁は今年6月、景品表示法第26条に規定する「事業者が講ずべき表示の管理上の措置」に基づく表示の管理指針を改正した。アフィリエイト広告をはじめ、広告表示に外部の取引事業者が関わる際の留意事項、対応の具体例を新たに追記している。義務ではなくあくまで指針ではあるもののとくに注目されるのは、アフィリエイト広告を運用する場合「広告」であることを消費者が容易に認識できるよう、広告主に求めていることだ。

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見送られた「何人規制」

 管理指針は2014年、食品のメニュー産地偽装事件を受けた法改正の中で策定された。ただ、内容は社内における表示関連の情報の確認・共有や管理責任者の配置が中心で、外部に作成を委託した場合の管理は想定していなかった。

 管理指針の改定は、21年6月から今年2月にかけて行われていた「アフィリエイト広告等に関する検討会」の報告書を受けたものだ。広告主だけでなく、作成に第三者であるアフィリエイターやASP(アフィリエイト・サービス・プロバイダ)、広告代理店が関わるアフィリエイト広告は、その構造が複雑だ。これを逆手にとり、これまで消費者庁から広告の表示違反の可能性を指摘されても「アフィリエイターが勝手にやったこと」と言い逃れをする事業者が一部に存在していた。景表法が規制する対象が「商品供給者=販売者(広告主)」であることも、悪質なアフィリエイト広告の氾濫を生んでいた。

 ただ、検討会では、規制対象を従来の「商品供給者」から、同様に誇大広告規制の規定がある薬機法などのように「何人規制」にすることは見送られている。景表法は制定から60年。大改正は、16年の課徴金制度導入にとどまる。規制対象の範囲に踏み込むことは、法律の目的を根本から見直すものであり、事業者に与える委縮効果も大きい。このため、業界によるアフィリエイト広告の自主規制の先の将来的なステップと捉える委員も少なくなかったためだ。

 こうした中、「何人規制」に代わり、広告主の責任を強化することで表示の適正化を図る方策として示されたのが、景表法第26条に基づき策定された「事業者が講ずべき景品類の提供及び表示の管理上の措置についての指針」(14年策定、以下、管理指針)だ。また、管理指針改定と合わせて、消費者庁では、ECの広告表示に関する留意事項をまとめた「インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項」(11年策定)も改定している。

 これまでもアフィリエイトプログラムを活用した広告について、「優良誤認」「有利誤認」がある場合は、景表法上の問題になると示していたが、「広告主がその表示内容の決定に関与している場合」「表示内容の決定を委ねている場合」は、「広告主が行った表示とされる」と、広告主の責任を明記した。

 一方、広告主とアフィリエイターの間で表示に関する情報のやり取りが一切行われていないなど、アフィリエイトプログラムを利用した広告主による広告と認められない実態があるものは、「表示内容の決定に関与した」とされることはないとの考えも示した。従来からアフィリエイターは、景表法が規制する商品・サービスの供給者ではなく、景表法上の規制対象とはならないと明記している。

アフィリエイト広告など「外部委託」の広告の内容確認等を事業者に要請

 管理指針の改定では、これまでの指針で求められていた「景表法の考え方の周知・啓発」「法令遵守の方針等の明確化」「表示等に関する情報の確認」「表示等に関する情報の共有」「表示等管理担当者の配置」「根拠情報を事後的に確認するための措置」について、外部委託により関係者間の共有が困難になることを踏まえた対応を求めている。

 具体的な対応例として示すのは、例えば、「景表法の考え方の周知・啓発」では、広告主とASP、アフィリエイターで共有する委託契約書などで、法令遵守の方針や不当表示を行わない旨、アフィリエイターが違反行為を行った場合に成果報酬の支払い停止や契約解除の措置をとるなどの対応例を示す。

「表示等に関する情報の確認」では、コンサルティングや広告代理店にプロモーションを委ねる場合、これら事業者がアフィリエイターの不当表示を助長する指示を行っていないか確認したり、アフィリエイターの表示内容を事前確認するなどの対応例を示す。すべての表示の事前確認が困難な場合は、表示後でも可能な限り早い段階で確認することや、報酬額の高いアフィリエイターを重点的に確認したり、ASPに確認を委託するなどの対応例を示す。

 「表示等管理担当者の配置」では、委託先と広告の指示・確認権限を有していることの確認、関係者間で権限や所掌を確認することなどを示す。

 「根拠情報を事後的に確認するための措置」は、表示や根拠資料の保管を例示する。保管が困難な場合は、アフィリエイターに保管を求めたり、ASPに保管を委託することなどを示す。また、これに代わり定期的な表示確認を行うなどの対応例も示す。

 このほか、不当表示が明らかになった場合」の対応として、消費者から情報収集するための窓口の設置、迅速に削除・修正できる体制の構築、未然防止の観点から日常的に相談窓口を設置することなどを示す。

「広告である旨の明示」に望ましい対応例を示す

 中でもとくに注目されるのが、「広告である旨の明示」についてだ。指針では、これを推奨し、望ましい具体例もイラスト等で示している。

「広告であることの明示」に関する望ましい「広告」等の表示位置の例1。
「広告であることの明示」に関する望ましい「広告」等の表示位置の例2。
「広告であることの明示」に関する望ましい「広告」等の表示位置の例3。

 「広告である旨の明示」は、「広告と理解できる文言の使用」「表示箇所」「大きさ」「色」から判断されることになり、例えば、表示箇所は、消費者の視線の動きを踏まえ、視野に入る最初の画面内でほかの表示に埋もれないようなものが望ましいなどとしている。アフィリエイトサイト上部に示すことが望ましいとする一方で、画面をスクロールした後の画面下や「♯(ハッシュタグ」の一つとして「広告」等の文言を表示することは望ましくないなどと例示している

 文字の大きさについても、サイトに使用している平均的な文字の大きさと「少なくとも同程度」、表示の色は、背景等に使用する色と「明確に区別できる色」が望ましいとしている。

 ただ、具体例が示されておらず、判断に迷うとみられるのが、「広告と理解できる文言の使用」だ。指針では「広告」などの文言とともに事業者名を表示することを例示しているが、伊藤前長官は、管理指針について説明した記者会見の中で、「広告と書くことが望ましいが、必ずしも『広告』と書かなくてもいい」とも説明しているからだ。

 これについて、業界にはくちコミを用いたマーケティング活動(WOMマーケティング)を行う事業者らで構成するについてWOMマーケティング協議会が策定した業界自主基準が一つの参考になる。協議会は、SNS投稿において、金銭や物品、サービスの提供が行われている場合に、広告主と発信者の関係性を明示する、いわゆる「便益タグ」を表示することを求めている。具体例として「♯プロモーション」「♯スポンサード」「♯アンバサダー」「♯協賛」「♯タイアップ」「♯PR」などが示されている。

 ただ、これはあくまでも業界の自主基準。景表法の取締りにおいて、消費者庁は言葉が示す意味を厳密に特定した上で表示の妥当性を判断しているとされるが、広辞苑によると、「タイアップ」は「協同して仕事をすること。提携」、「協賛」は「(計画等に)賛成して、その実行に協力すること」など、広告としての意味合いがやや柔らかくなる印象がある。「PR」や、自主基準にはない「ad」「AD」といった文言も、複数の意味合いを持つ表現であり、適切といえるかは判断が難しい。消費者庁は文言と併せて表示箇所や色から総合的に判断していくとみられる。


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