通販を球団の新たな収益源に【高木弘二横浜ベイスターズ営業部長】

3年連続の90敗を喫し、今年も最下位(8月10日現在)に沈む横浜ベイスターズ。昨年は身売り騒動が勃発したのは記憶に新しいところだろう。親会社のTBSグループにとって重荷となっているのが、年間20億円といわれる赤字の穴埋めだ。これを打開すべく、ベイスターズがネット販売を活用した新たな収益源の確立に乗り出した。6月に開設したポータルサイト内に仮想モールを用意。バッグのキタムラなど、横浜・元町商店街のショップが参加している。モールをどのように収益源としていくのか。高木弘二営業部長に聞いた。(聞き手は本誌・川西智之)

 

 

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地元に役立つ存在でなければ

親身になって応援してもらえない

 

横浜の地域情報を発信 

――6月に横浜の地域情報を発信するポータルサイト「BayTownTV」を開設しました。目的は。

 実は、当初開幕予定の3月にはオープンする計画だったのですが、震災の影響で延びていました。まだ完成はほど遠い段階のサイトですが、「ベイスターズが何をやりたいのか」ということをお客様に説明するには、実際にサイトを見ていただくのが一番早いわけです。

 サイトでは、横浜市や横浜観光コンベンション・ビューローから横浜市のイベントやグルメといった観光情報を紹介しています。役に立つ情報があっても、普通は自治体や団体のウェブサイトはあまり見ないですよね。ベイスターズが核になれば紹介しやすいわけです。

 また、ベイスターズは神奈川県にフランチャイズを置いて長いですから、県内のファンは多く、言うなれば囲い込みができているわけです。こうした人達にベイスターズの情報だけではなく、横浜の情報を紹介したり、お得な商品を販売したりすることもできます。

 もちろん、サイトで収益を上げていくのは重要なことですが、仮想モールに参加するお店を支援したいですね。伝統のある商品を扱っているお店や、独自の商品を扱っているお店に参加していただきたい。神奈川県や横浜市にはこんなにいいものがある、ということを全世界に発信し、ポータルサイトから買えるようにする。

 プロスポーツチームの運営する仮想モールですから、手数料や加盟料ありきという話ではありません。もちろん「モールに参加するなら広告を出して欲しい」と強制することもありません。こうしたネットワークが広がっていけばファンの増加にもつながるでしょう。

――サイトへの集客手段は。

 地道にコンテンツを増やしていくことに尽きると思います。元々ベイスターズの公式サイトは1日30万アクセスあるわけですし、慌てて広告を打つ必要はないでしょう。公式サイトやチケット販売、選手のブログ、ツイッター、フェイスブックなどの入り口をBayTownTVに一本化することで、さまざまな人たちがポータルサイトを閲覧するわけです。こうした人たちに仮想モールを利用してもらったり、あるいはツイッターをフォローしてもらったりすることで、情報が情報を生む形になりますよね。真面目に取り組んでさえいけば必ず輪は広がっていくと思います。

 オリジナル商品も販売

 ――仮想モール「BAYSHOPストリート」には地元横浜の元町商店街のお店が参加しています。

 商店街が球団とタイアップするというのは珍しいケースだと思います。もちろん、商店街が地元の球団を応援することはあるでしょうが、商店街の商品を球団が売る、つまり球団が商店街を応援するわけですからね。お店にはテストマーケティングの場としてなど、積極的に活用していただきたいと思っています。

 地元の球団である以上は、まちおこしに協力する必要があります。地域にとって役立つ存在でなければ、本当に親身になって応援してもらえる球団とはいえないのではないでしょうか。

――タイアップの企画などは行うのですか。

 ベイスターズオリジナルの塩あめを商店街などで販売しています。塩あめは熱中症予防に効果があるもので、1袋3個で50円です。

――販売手数料は。

 商店街の協同組合である、元町SS会がバイヤーとなっており、店舗からは売上金額のうち手数料7%を徴収。このうち、2%をSS会が得る形となります。

――「ベイスターズ公式チームスーツ」や「ベイスターズ公式ネクタイ」といったコラボ商品も販売しています。

 サイトを開設してから販売を開始したオリジナル商品です。実は、選手が移動中などに着用するものなのですが、サイト上ではそれを伝えられていない。まだまだ見せ方が下手なんです。例えば、商品発表会の動画を使うなど、打ち出し方はいろいろあるはずです。

――「BAYSHOPストリート」でしか買えない商品もあるのですか。

 いくつかあります。買い物をすることで得られるポイントを、チケットや選手のサインなどと交換できる仕組みも取り入れています。

――元町商店街以外とのタイアップは考えていますか。

 たとえばいろいろな商店街を紹介するのも面白いかもしれません。例えば商店街でイベントをやる場合、自分たちだけで情報を広く発信するのは難しいですよね。

親会社頼みの運営には限界

球団は赤字にならない努力を

3年以内に20億円目指す

 ――ファンとしては、プレーの動画や試合中のベンチの様子など、野球に関する動画も見たいのでは。

 試合の動画に関しては放送権の問題がありますからね。もちろん球団が持っているので使うことはできるのですが、見せ方は考えなければいけないと思っています。もう少し商品化する必要があるでしょう。

 これまで放送権はテレビ局にお金に変えてもらっていたわけですが、試合中にテレビを見られない人は当然たくさんいます。また、自分の好きな選手の打席だけをダイジェストで試合後に振り返りたい人もいるでしょう。コンテンツを充実させ、ポータルサイトに集積させることで集客につなげる。そのついでに「買い物もするか」となれば理想的ですよね。もちろん、その逆パターンもあるでしょう。

――コンテンツはまだまだ足りていない、と。

 まったくの未完成です。例えて言えば、ラインアップにまだ一軍選手が出てきていない段階です。さまざまなデジタル技術の進化に対応できるようなサイトを今作っておく必要があります。技術の進化と共に発展させていく。長い目で見る必要はあるでしょう。

――サイトはエルテックスが構築したものですが、現在のシステムはこうした進化にも対応できるものということですか。

 そうですね。

――仮想モールも含めて、ポータルサイトでの収入はどの程度を考えているのですか。

 3年以内に20億円にしたいと考えています。

――収入の中心は仮想モールですか。

 そうなります。

――ただ、モールには11店舗しか参加しておらず、取り扱う商品もまだまだ少ない。目標を達成するには拡大が必要では。

 神奈川県内のみならず、日本中から商品を集めたいですね。例えばパ・リーグの交流戦でホークスと試合をするならば、福岡とのコラボ商品を販売する、といったケースも考えられます。同様のことは札幌や仙台などでもできるわけです。

――他球団とも連携するわけですか。

 もちろんそれも必要ですが、地域との連携が必要でしょう。プロスポーツというものは単に試合をすればいいというものではありません。地域同士が交流してこそ真の交流戦といえるのではないでしょうか。

 プロスポーツチームの持つ潜在的な力や経済効果は大変なものがあると思っています。メジャーリーグにしてもヨーロッパなどのプロサッカーチームにしても、地域ぐるみであれだけ盛り上がるわけです。もちろん勝つことも大切ですが、地域にプロスポーツチームがあることが重要です。

 ネット学習塾も展開

 ――プロ野球界では以前から“地域密着”というフレーズは良く聞かれますが、地域と一体化して通販などへの事業に取り組む、という姿勢は他にはあまり見られないように思います。

 それは企業名を外した「横浜ベイスターズ」というチーム名が象徴的だと思います。ですから、地元の企業にも受け入れてもらいやすいのではないでしょうか。

 これまでのプロ野球は「球団や選手は野球をしっかりやればいい。金は親会社がちゃんと稼ぐから」という、ある意味大らかな部分があったわけです。しかし、現在はオーナーに頼った球団運営に限界がきています。球団がビジネスツールをきちんと持ち、赤字にならない努力をしないといけません。

――ベイスターズの赤字はどの程度ですか。

 年間で約20億円です。

――それをサイトでの収入で埋められるようにしたい、と。

 サイトは情報を紹介するポータルサイトなので、どれだけ広がりが出てくるかがカギでしょうね。

――収益源という点では、新たな取り組みとしてネット学習塾「YBSShowin」も展開しています。

 ネット学習塾のショウインと提携して学習教材を提供しています。将来的には外国人選手による英会話教材の提供や、食育も進めたいと思っています。球団は丈夫な身体を作るためのノウハウを持っているわけです。ちょっとした体の動かし方にしても、プロスポーツ選手ならでは、というものがあるわけですから。いいものはどんどん紹介していきます。

――サイトの集客力をさらに高めるための取り組みは。

 例えば無料ゲームを入り口にするというのも面白いでしょう。コンテンツを増やし、さまざまな形で集ってきたユーザーを会員化していければ理想的ですね。もちろんモールで販売する商品の魅力も重要です。また、オリジナル商品開発やコラボレーションを進めることで、これまであまり縁のなかったユーザーを取り込むこともできるでしょう。

――会員数の目標はありますか。

 ベイスターズ会員組織は、」公式ファンクラブの「B☆SPIRIT」、横浜スタジアムで良く観戦する他球団ファンが対象の「Y☆SPIRIT」、入会金・年会費無料の「一般会員」の3種類があります。現在は合計2万人弱ですが、3年後には10万人にしたいと思っています。サイト利用者は野球以外の部分も大きく伸びますから、球団公式サイトと合計で月に100万人になると予想しています。

 

取材後メモ

 これまでセ・リーグの球団は、放送権料を主な収益源としてきましたが、近年は巨人戦の地上波テレビ放送が激減しています。ベイスターズの身売り騒動や、2004年のプロ野球再編問題をみても分かるように、一部の人気球団を除くと苦しい経営を強いられている球団がほとんど。このままでは早晩立ちゆかなくなる球団が他にも出てくる可能性が高いといえます。

「親会社におんぶにだっこ」という状況を打破すべく動き出したベイスターズ。近年の低迷から囁かれる「本拠地移転」の声を吹き飛ばすには、もちろん白星が第一ですが、地域にとってなくてはならない存在であることをもう一度示す必要があります。ベイスターズの取り組みは成功するのか。猶予はあまりありませんが、他球団にとっても注視すべきものでしょう。野球界に一石を投じられるだけの結果を期待したいところです。

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