ヤフー、仮想モールの出店料・手数料を無料化――「これまで間違っていた」と方針を大転換

「ヤフーショッピング」の無料化・自由化を発表し会場の出店者などから拍手を浴びたヤフーの孫正義会長(10月7日開催のモール出店者向けイベントでのプレゼンの様子)

ヤフーが仮想モール「ヤフーショッピング」で従来まで出店者から徴収していた初期・月額出店料および売上高手数料の無料化に踏み切った。併せて出店者による顧客へのメール販促および外部リンクも自由化した。ヤフーの孫正義会長は「これまでのヤフーは間違っていた」とし、出店者から出店料など“地代”を徴収し収益を稼ぐ従来のビジネスモデルを否定、無料化および自由化で出店者・商品を増やしモールを活性化、そこで発生する任意の広告で稼ぐという方針に大転換した。この“劇薬”で「2019年までに日本最大の“eコマースの場”を作る」(孫会長)とし、楽天など競合との真っ向勝負を挑む。ヤフーが放った一手は仮想モールの勢力図を変えるか。

1日で2.6万件の出店希望者
10月7日に都内で開催した出店者向けイベント「Yahoo!JAPANストアカンファレンス2013」での孫会長からの衝撃的な新戦略、つまり、これまでモール出店者から徴収していた出店料(初期2万1000円+月額2万5000円)と売上高手数料(月商に応じて売り上げの1.7 ~6%)の無料化(10月の請求分から)や外部リンクや販促メールの自由化が「eコマース革命」として発表されてから1日――。
ヤフーには新規出店を希望する事業者が約1万件、年内にも解禁する個人出店希望者が1.6万件と殺到した。現状の「ヤフーショッピング」の出店者約2万件を上回る合計2.6万件の新規出店希望者がわずか1日で集まったことになり、新戦略の反響がいかに凄まじいものだったことを示している。しかも、この新規出店の中にはユニクロやイオン、ローソンといった多くの顧客や高い知名度を有した大手有店舗小売業者も含まれており、“量も質も”伴ったものであるようだ。
今回のヤフーの新戦略は、仮想モールの趨勢を左右する有力モール出店者の行動にも影響を与えている。やはり、これまで「支払うことが当たり前」だった出店料・売上高手数料の無料化のインパクトは強く、「これまで最大手の楽天市場がメーンで、ヤフーは片手間だったが、今後はヤフーを強化していく必要がある」「これまで楽天のみの出店だったが、ヤフーへの新規出店を決めた」との声があがっており、競合モールの有力出店者が主戦場をヤフーに移す可能性もありそうだ。

年末までに改善・効果を出せるか
反響も大きく、既存出店者からの期待も強いヤフーの無料化。ただ、競合を抜き、日本最大の仮想モールになるには、無料化だけでは足りず、いくつかのステップが必要となりそうだ。1つはバックヤード部分の改善だろう。「ヤフーショッピング」のシステムは使いにくい、との声は多く、「無料化よりもここがどうなるのかの方が気になる」との声も少なくない。また、「無料化」は出店者にはメリットをもたらし、今後、出店者が儲けを原資に価格引き下げを行うなどで消費者も次第に集ってくることが予想されるが、現時点では消費者にとって「ヤフーショッピング」はこれまでと大きな変化はなく、「ヤフーで買おう」と思うまでにはタイムラグが発生しそうだ。
ある有力出店者は「システム改善は年末商戦が始める11 ~ 12月までが当面のメド。それまでに少なくとも楽天並みに機能が整い、かつ商流も伸びて来ないと、出店者の『ヤフーで売るぞ』というムードが冷え込むのでは」と話す。
ヤフーではエンジニアを5倍とし、登録可能商品数や画像容量、販促メールの容量の拡充や検索の精度改善などを急ぐ。また、集客に関しても「ヤフー知恵袋」や「ヤフー検索」などヤフーのメディアからの送客を強化する考え。これらの施策で出店者が納得のいくシステム改善と目に見える商流アップを、ある程度、短期間のうちに結果を出せるか。日本最大の仮想モールに向けて、まずはその1歩が注目されそうだ。

ヤフーの宮坂者社長・小澤ショッピングカンパニー長に聞く「ヤフーショッピング」無料化の背景と狙い

「競合からシェアを獲ろうなどセコイことは考えていない」

新戦略を打ち出したヤフー。その背景や狙いなどについて同社の宮坂学社長(写真㊨)、モール事業を統括する小澤隆生ショッピングカンパニー長(写真㊥)に聞いた。(10月7日開催の記者説明会での本誌記者を含む報道陣との一問一答から一部を抜粋・要約)

──孫会長は「これまでヤフーは間違っていた」と言ったが具体的には。

宮坂:先行しているより優れた企業(=楽天)の真似をしていた。競合と当社のサービスを〇×で比較して、一生懸命に追いつこうとしていた。このこと自体が実は根本的な間違いだった気がする。後ろから追いつこうとしている会社が、一番の会社の真似をしても絶対に本家本元に勝てるわけがない。また、我々の強み、ビジネスモデルは無料で誰もが参加できる仕組みと整え、膨大な参加者が集まった結果、その中から広告を出稿される方が出てきて収益を得るもの。今まで信じてやってきたその事業モデル、我々の強みをeコマースでもやるべきだったということだ。

──無料にしてどこで儲けるのか。

宮坂:広告を中心にやっていく。これはヤフージャパンが創業からやっているモデルだ。これと同様に出店は無料とし、その中でより露出したい場合には、「ヤフーショッピング」に広告を出稿頂き、その対価を頂くことになる。

──「ヤフーショッピング」は7月に出店プランを変更したばかりだ。「無料化」は
いつから決まっていたのか。

小澤:新出店プランを作っていた時は、それでいこうと真剣に思っていたが、その後、孫(会長)とも話をする中で「もっとドラスティックにやった方がいいのでは」となり、話し合った結果、そうなった。

宮坂:(無料化は)何度かアイデアベースでは話に出たことはあったが、初めて具体的に可能性として検討したのは去年の冬くらいだ。ただ、どう算盤をはじいても瞬間的な減収が非常に大きいので、やや躊躇していた。しかし、eコマース市場は我々としても諦めるのは早すぎると今夏に皆でまた議論し、一旦しゃがんででも大きくジャンプしようと思い切って無料化に踏み切った。

──無料化に伴う減収はどの程度になるか。また、無料化の期間は。

宮坂:四半期で2桁億円(25 ~ 30億円)程度の減収になると思う。ただ、年度の業績予想は今のところ変更するつもりはない。eコマース部分は減収となるが、我々はほかにも事業をやっており、会社全体としてカバーする。(仮想モール事業の今後の収益は)広告を中心とした新しいビジネスモデルのため、そんなに簡単にはいかないと思う。じっくり腰を据えて取り組んでいきたい。

小澤:(無料化の期間は)現況、期限を切っていない。

──減収分を広告でカバーするとなるとサイトに広告が増え利便性が低下する?

小澤:検索サービスではオーガニック検索の結果画面の中央と横に広告が掲載されており、広告と検索サービスは同一の画面上で成立し得ると考えている。恐らくヤフーはそのノウハウを日本で最も持っている会社だろう。モールでも利用者から「広告ばっかりじゃないか」と思われないようしっかり両立させる。

──無料化で「ヤフーショッピング」の出店者はどう変わると思うか。

小澤:現状、売って頂いている店舗はより売って頂けることになると思う。また、これまで出店されなかったところも新規出店頂けることになると思う。さらに、農産物などの一次産業のものやイベントの期間中だけ関連グッズを販売したり。モールの出店期間は1年契約が基本だったため、これまでは対応できなかったが、要望はたくさんあった。そうした出店が増えるとこれまでと全然違う世界ができてくるのでは。

──年内をメドにヤフーショッピングで個人の出店を可能にするが、個人の出店審査はどうするのか。

小澤:個人出店の審査は現況(法人向け)と同じではなく、膨大な数の審査をしなく
てはならなくなるため、日本で一番、出品審査をこなしている「ヤフオク!」に倣っ
たような審査基準になると思う。併せて出店後のパトロール体制の強化を行い、健
全な売場の醸成を図っていく。

──出店料の無料化ということだが、これまで出店者から徴収していた「Tポイント」の原資負担などもなくすのか。

小澤:「Tポイント」は(無料化後も)継続して商品販売時に購入者に付与するので出店者には「Tポイント」の原資は負担頂く。また、アフィリエイトの成果報酬の原資、手数料も従来通り負担頂く。クレジットカードの決済手数料に関しても、従来の3.6%から3.24%に値下げして提供することにしたが、手数料は頂戴する。

──店舗あたりのデータ容量はどうなる。

小澤:どんどん改善して出品できる商品数、商品画像の画素数、送れるメールの容量、送信数もすべて増やす。

──無料化しても店舗が使用できるデータ容量は増やすということか。

小澤:そうだ。無料と言いながら、どこかでお金が掛かるとの懸念があるかと思うが、今回は「ノーガード」だ。徹底的に売り手にとって良いものを作ろうと。「せこいことやらずにどんとやれ」と孫の指示もある。今回は裏がないと思って頂いて結構だ。

──現状、検索の精度など機能面に課題があると思うがどうするのか。

小澤:料金無料化は3つある施策の1つであり、1つは集客、もう1つは機能改善だ。機能改善については7月からエンジニアを5倍に増やしており、しっかりとやっていく。これまでヤフーは機能改善にリソースをまったく割いてこなかった。検索はもちろん、販促ツール、スマデバ対応など今まで足りなかった機能をどんどん足していく。

──競合との差別化は。

宮坂:出店・出品に関する制限を取り払い、誰もが無料で自由に出店できるようになることが売り手からすると大きな違いになる。ただ、我々は「eコマースの規模を日本でもっと大きくしたい」と考えている。(今回の無料化および自由化で)業界を活性化させてeコマースの認知度をもっと高めたい。競合と全面的に対抗するためにやったわけではない。どこかと対抗するということ自体がこれまでのヤフーの間違いだったわけで、あくまで我々の強みを生かすために原点回帰してやっていきたい。

──競合も無料化など同じやり方をしてくることも考えられる。

小澤:eコマース全体のマーケットが広がるわけで、望ましいことだ。

──それでも勝算はあると。

小澤:ヤフーは顧客やメディアを大量に持っている会社だ。また、検索サービスを持っている。これは非常に重要なアセットだ。今までのヤフーはそのアセットを十二分に活用できていなかった。私も外から見ていて、「何でしないのかな」と思っていた。今回はこれを十二分に活用するという決断をした。例えば「ヤフー知恵袋」という月間20億PVくらいあるサービスとの連携だ。「知恵袋」には大量の商品・サービスに
関する質問が入ってくる。これと「ヤフーショッピング」を結びつける。また、「ヤフー検索」と「ヤフーショッピング」をヤフーにしかできない形で組み合わせるなどだ。このようにヤフーのメディアからの導線をしっかり作っていく。これはメディアとお客様を多く持つヤフーでしかできないことだ。無料化で出店数・出品量が増えたが、「モノが多いだけで売れない」とならぬよう、しっかり日本で一番、お客様が来店頂ける
売り場を作るため、ヤフーで総力を挙げてお客様を必ず引っ張ってくる。

──小澤さんはかつて楽天に在籍しており、古巣との対決となるが、意気込みは。

小澤:宮坂が申し上げた通り、(新方針は)どこかとの対決ではなく、日本におけるeコマースをより拡大するためにはヤフーとして何ができるのかを考えたものだ。かつてヤフーBBが街頭でモデムを無料で配り、インターネット環境を広げた際にヤフーであれアマゾンであれ楽天であれ、インターネットに関わるすべての会社がその恩恵を被ったように、今回の我々の戦略で必ず(EC市場の)パイが広がり、その結果、eコマースに関わるすべての会社がより成長していくだろうと信じている。今までは恐らく出てこなかったであろう信じがたい数の出品者、出店者が出てくると思う。彼らはこれをきっかけに「もっと売りたい」と更なる売り場を求めると思う。競合からシェアを獲ろう、などセコイことは全く考えていない。楽天さんは今でも大変、愛していますし一緒に成功したいと思っている。ただ、楽天から私がどう思われているかは…コメントできません。

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