三井不動産は、運営する商業施設「ららぽーと」の6店舗で展開している体験型ショールーミングストア「ららぽーとクローゼット(ららクロ)」が利用者から好評だ。似合う服が分からない“おしゃれ迷子”の人に向けて、パーソナルスタイリングやカラー診断、3D骨格診断などの診断コンテンツを用意している。同社の越智将平オムニチャネル推進グループエンジニアリングマネージャーが語る「ららクロ」の現状と今後の展望とは。
試着予約から体験予約に切り替えて利用者が増えた
体験型にシフトチェンジ
─ららぽーとで体験型ショールーミングストアを展開する理由は。
当社では、ららぽーとと連携した通販サイト「MitsuiShoppingPark&mall」(アンドモール)」を2017年11月に開設してECビジネスに参入しました。お客様から「ECは便利だけど購入する前に試したい」という声が多かったので、「アンドモール」としてリアルに体験できる場を用意したのがきっかけです。商業施設の特徴としても、ららぽーとは小さい子どもを連れたママさんが多く、広い施設内で目的のお店をすべて回って試着するのは大変なことです。
「複数ブランドの服をまとめて試着できる場所が欲しい」という声もあって、ショールーミングストアとしてはかなり贅沢で広いスペースを用意し、家族連れでさまざまなブランドの服を一度に試着できたり、くつろげたりする場を設けました。
─試着予約して来店する形でしょうか。
そこはまさに、「ららクロ」のサービスを途中でシフトチェンジした話につながります。オープン当初は事前に商品を取り置きした上で来店してもらうサービスを展開していました。ターゲットであるママさんたちに便利だと思って始めたのですが、蓋を開けてみると、あまり利用されませんでした。お客様の声を地道に拾い集めた結果、そもそもどのショップのどういう商品が自分に合うのか分からないという「おしゃれ迷子」の方が多く、事前に商品を決めて取り置きするニーズ自体少ないことが分かりました。商品の事前予約は、普段から百貨店などを利用しているファッション感度の高いユーザー向けのサービスで、ららぽーとには合わないと判断して、カラー診断やスタイリング相談、3D骨格診断などのコンテンツを体験できるお店に大きくシフトチェンジしました。事前に商品を選ぶのではなく、診断を予約して来店してもらい、「あなたに似合う服をお探しします」という体験型サービスに振り切りました。
─「ららクロ」のサービスを切り替えた時期はいつでしょう。
「ららクロ」をオープンしたのが21年3月で、体験予約に切り替えたのが22年4月になります。ありがたいことに、そこからものすごく利用者が増えました。
─施設内を歩いている人には通常のショップにも見えると思いますが、サービス内容はしっかり伝わっているのでしょうか。
そこは今でも課題ですが、店舗のスタッフがサービス内容を説明し、体験予約をおすすめしています。体験予約自体はインスタグラム経由が多いですね。予約制ではありますが、空いていれば当日の対応もできます。空いていない場合は、店舗入り口にある「プラスミラー」という予約不要でAIカメラを使ったフェイス・パーソナルカラー診断やファッションタイプ診断など複数の診断機能を搭載したディスプレイを利用できるので試してもらい、後日、最新のボディースキャナーを活用した3D骨格診断や、カラー診断士によるパーソナルカラー診断、プロによるスタイリング提案などの予約につなげています。その場で商品を買えないので“ショールーミングストア”になりますが、コンテンツを体験してもらい、似合う商品を探すことを重視しているので、他社が展開しているショールーミングストアとはだいぶ中身が違うと思います。
─「ららクロ」で人気のコンテンツは何ですか。
やはり予約なしで、無料で利用できる店頭の「プラスミラー」のコンテンツが一番利用されていて、例えばららぽーとTOKYO‒BAY店の「ららクロ」では月に約2500件、「ららクロ」を展開する6店舗合計では1万件を超えています。23年3月に設置して以降ずっと利用されています。
─骨格診断なども試したい人が多いのでは。
骨格診断のコンテンツもオープン時から設置していますが、当初はあまり使われなかったです。専用のボディースキャナーで計測した後に自分の体型が3Dでスマホ上に表示できるようになってから一気に利用者が増えました。計測して数値が分かるだけではあまり意味がなく、自分の骨格が何のタイプに属していて、さらにタイプ別に似合う服をスタッフが教えてくれるところまでがセットになっているので、利用してみたいと思う人が増えたのだと感じています。
─コンテンツの体験を含めて滞在時間が長くなりそうですが、スタッフのスキルも通常の売る店舗とは異なるのでしょうか。
「ららクロ」のスタッフ業務は外部に委託しています。スキルについては体験コンテンツの説明などはあるものの、オムニチャネルやDXというよりは、一般的な小売りに近いと思います。22年から23年の改善期には利用者の声をたくさん集め、顧客像を明確にする作業に力を注ぎましたし、これは今でも継続しています。接客時間は一人当たり90分くらいかかりますが、カウンセリングも行うのでお客様一人ひとりの困りごとをしっかり聞くことができ、それに対応できるのは「ららクロ」の強みです。
診断データで提案力強化
─体験型コンテンツなどで取得したデータをどのように活用しているのでしょうか。
まさに今、データ活用に力を注いでいるところです。体験コンテンツの裏側にはデータを活用したオムニチャネル戦略があります。例えば、お客様が3D骨格診断を体験した後に、スタッフが三井ショッピングパークの会員IDを聞いて電子カルテのように診断結果を記録します。計測した骨格タイプのほか、診断結果を受けてスタッフが提案して試着してもらったコーディネートについても記録しています。こうしたデータを有効活用してメールマガジンやLINEで骨格別のおすすめコーデを提案します。
ビジネスとして、体験だけでなくコーディネートで使用したアイテムをECや実店舗で買ってもらうことは狙いの一つではありますが、店頭だからこそ取得できるお客様の濃い情報をデジタルに落とし込むことが非常に大事です。ららぽーと内を活性化させるだけでなく、運営する通販サイト「アンドモール」も含めたオムニチャネル戦略に貢献できます。
─「アンドモール」のメルマガなどで提案するのでしょうか。
その通りです。3Dボディースキャナーで骨格がXタイプと診断されたお客様には、「Xタイプにおすすめのコーディネート」といった形で「アンドモール」のスタイリング情報から引っ張ってきた「Xタイプの人に似合うパンツスタイル」などの提案を行い、それぞれの商品に「アンドモール」へのリンクを貼ってECで購入できます。現状、さまざまなテストを実施している段階ですが、1週間に1回くらいの頻度で配信し、お買い物の参考になるようにしています。
店頭では骨格診断後にタイプ別で似合うコーディネートを提案していますが、その場で購入を決めるお客様は多くありません。ただ、試着してもらったアイテムはいらないものではなく、興味を持った商品として記録し、後日リマインドのメルマガを送ることで、お客様にとっても便利だと思いますし、売り上げにもつながりやすいですね。
体験型コンテンツの裏側にオムニチャネル戦略がある
「ららクロ」店舗を拡充へ
─「ららクロ」に置いてあるアイテムはどのように選んでいるのでしょうか。
絶対的な基準ではありませんが、なるべく館内のショップにある商品から選んでいます。「ららクロ」では商品を販売していないので、お客様が各種体験を受けて自分に似合うアイテムが見つかり、その日に「買って帰りたい」となったときに、館内のショップであればそのまま誘導できます。
施設の運営者としてテナントのショップも非常に大切ですので、「ららクロ」を通じて売り上げを各ショップに届けられますし、普段はそのショップを利用していないお客様を見込み顧客として開拓できます。「おしゃれ迷子」の方が自分に合うショップを発見できれば、「ららクロ」ではなく、そのショップに通ってもらえればいいです。─館内にないショップのアイテムを置く場合もあるのでしょうか。例えば、お客様の声として、最寄りのららぽーと館内に高感度なアイテムを扱うブランドが欲しいという声が多い場合などは、館内のショップにこだわらず、「アンドモール」で取り扱いのあるショップの商品を置いたりしています。例えば、大阪のららぽーと堺には館内にセレクトショップが少ないので、ららぽーと堺の「ららクロ」にはセレクトショップの商品を充実させています。
また、「ららクロ」内で積極的にポップアップストアを開催することで、ショップにとってもテストマーケティングの場になります。例えば、ブーツブランドの「ハンター」などは「ららクロ」内のポップアップからスタートして好評だったので、今はほぼすべてのららぽーと館内に出店してもらっています。
─「ららクロ」の診断コンテンツは6店舗で同じサービスが受けられます。
どの施設の「ららクロ」でも診断コンテンツの内容は一緒ですが、店舗面積の問題でTOKYO-BAYだけはメンズの取り扱いがあります。「ららクロ」としては、もっと新しい体験を作っていくという使命があるので、どこかの店舗だけでテストする体験コンテンツは出てくるでしょうし、それが好評であれば「ららクロ」全店に標準装備するという流れになると思います。
─「ららクロ」の今後については。
出店については計画段階なので詳細は伝えられませんが、拡大していく方向で準備しています。「ららクロ」のサービス面では、フィジカルとデジタルの両面を強化しないといけません。店頭では例えば、メイクなどの領域にまで体験の幅を広げられればいいと思っています。
デジタルについては、オムニチャネル化の観点から1回で終わる関係性ではなく、診断データをもとにお客様がオンライン上でも自分に似合う商品を見つけられる環境を作っていくことが大事になります。例えば、現状のようにメルマガで提案するのではなく、三井ショッピングパークアプリや「アンドモール」にアクセスすると、骨格診断の結果に即した商品でトップページが構成されるようにできればいいですね。
澤越智将平(おち・しょうへい)氏
2021年三井不動産入社。商業施設事業のDX担当として、オムニチャネル関連のサービス開発に従事している。正式な肩書は商業施設・スポーツ・エンターテイメント本部商業施設運営一部オムニチャネル推進グループエンジニアリングマネージャー。
◇ 取材後メモ
国内では2020年に米ベータ社が「売らない店舗」として都内に2店舗を同時出店したのがショールーミ
ングストアの始まりとされています。コロナ禍を経てその役割も変化してきましたが、「ららぽーとクローゼット」のようにファッション関連の診断コンテンツを体験してもらい、その結果からスタッフが利用者に似合う服を提案してくれるサービスは他のショールーミングストアとは一線を画します。また、体験で得たデータをその後の商品提案につなげる取り組みも強化中です。また、これらをブランドが単体で行うのではなく、商業施設側が運営する通販サイトとも連携して実施している点がカギで、テナントにも利用者にも支持されるサービスとして、さらに進化した姿が見たいものです。