「カタログでも“服に触れます”」―。
お茶の水女子大学の椎尾一郎教授はAR(拡張現実)技術を使って、布地サンプルをスマートフォンなどのカメラで撮影すると布地の上に「衣料品のイメージ」が浮かび上がり、あたかも実際に当該商品に触っているかのような感覚になる仕組みを開発した。
実際に衣料品に使用した生地などを カ タ ロ グ や ダ イ レ ク ト メ ー ル(DM)に添付し、同技術で通常、通販では伝えられない“素材感”や“触り心地”などを顧客に訴求できれば、実購買率アップなどにもつながりそうだ。「すぐにでも実用化は可能」(椎尾教授)としており、通販カタログやダイレクトメールで衣料品を販売する通販実施企業の利用などを想定しているという。
布の上に商品イメージ
同仕組みは椎尾教授や研究室の学生らが米クアルコム社が提供する無料ARア プ リ 開 発 用 ラ イ ブ ラ リ「vuforia(ヴューフォリア)」を活用して開発した。あらかじめ専用ARアプリをダウンロードしたスマートフォンやタブレット端末のカメラで布地サンプルを撮影すると、端末画面にそれぞれの布地の上に衣料品などの商品画像を表示する仕組みだという。
利用者は画面上の商品画像を見ながら布地を触ることで、実際に商品が手元にあるような感じになる。スマホ上の商品画像にタッチすると商品の詳細が閲覧できたり、同じ素材を使った別の色や柄の商品画像に簡単に変えることもできる。
「これまでも布地のサンプルを衣料品カタログなどにつけたりすることはあったと思うが、スマートフォンやタブレットの画面上で商品画像を見ながら、手で実際の布地を触ることで、あたかも本当の商品が手元にあり、それを触っているような感覚になり、より本当の商品のイメージがつかみやすいのではないか」(椎尾教授)とする。
「一押し商品の拡販」に
実際の実用化には布地サンプルの添付などコスト面などがネックとなりそう。だが、布地の上に表示する商品画像は簡単に色や柄を変えることができるため、素材が同様、または類似したものの場合は“画像イメージ”を変えるだけで対応できるため、通販実施企業などはカタログなどに添付する生地のサンプルの数を抑えることもできる。
また、例えば、「一押しの商品」など特に拡販を強化したい商品だけに、またDMで使用するなど限定的な使い方なども想定されそうだ。
AR技術を使って、通販カタログをかざすと動画を閲覧できるようにしたり、カタログ上では見せきれない付加情報を見せるといった試みは千趣会やニッセン、オットージャパン、ジャパネットたかたなど大手通販事業者を中心に進みつつあるが、同仕組みはそうした活用方法とはことなり、ユニークなものと言えそうだ。
通販にとって、実際に顧客の「手元にない商品」の“質感”や“触り心地”をどう表現するかは永遠のテーマだと言えるが、この仕組みは1つの解決策とも言える。「“触り心地”が分かる通販」という新たな訴求で実購買率やカタログの閲読率、DMの開封率のアップに貢献することになるのだろうか。実用化が期待されそうだ